サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 パカパカと、まるで蹄が地面を叩くような軽快な音が響く。

 ダク足になりながら、馬型蒸気獣は、その巨体とは裏腹に意外と軽いフットワークで歩みを進めていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 それが纏う雰囲気に圧倒され、息が荒くなるなずな。

 

(落ち着いて、なずな……あんなの、あのときの降魔兵器に比べれば…………)

 

 思い出したのは、初陣で戦った異形の敵だった。

 口しかない頭部に鉤爪と皮翼を持つ化け物、降魔。それを培養して制御機構を埋め込み兵器とした──降魔兵器となずなは戦った。

 

(あのときの降魔兵器は強かった。なにより数が多かった。それに対抗できたあたしは……弱くないッ!)

 

 自分に言い聞かせ、自分の光武Fはもちろん、降魔兵器よりも巨大な敵に立ち向かう勇気を奮い起こそうとした。

 馬そのものの顔は、まるで鼻や口から蒸気を噴いているように見える。

 

「……ッ」

 

 緊張から手のひらに汗をかき、改めて操縦桿を握り直す。

 すると、その隙を伺っていたかのように馬型蒸気獣が動く。

 威嚇するように前足を跳ね上げて(いなな)くと、その直後に馬型蒸気獣は突進してきた。

 

「なッ!?」

 

 その速度は、なずなが予想していたものよりも遙かに速い。

 直前に操縦桿を握り直したがためにとっさの反応ができず──

 

「危ないッ!!」

 

 付近にいたコクリコが即座に反応していた。

 彼女の光武F2が、反応の遅れたなずなの光武Fをどうにか蹴飛ばす。

 その行動のおかげで、どうにか馬型蒸気獣の突進の攻撃範囲から外れ──なずな機のすぐ横を、圧倒的な速度と質量が通過していった。

 背筋に冷たいものが流れる。

 そうしてなずなが見ている中、馬型蒸気獣は遙か先で急制動をかけ、止まるとそのまま再びこちらの方を向く。

 

「……あ、ありがとう。コクリコ」

「どういたしまして。でも……油断しちゃ駄目だよ。あんなのを食らったら、光武FだろうがF2だろうが関係なくやられちゃう」

「そう、よね……」

 

 コクリコの意見に、なずなも同感だった。

 かなりの速度と巨体ゆえの質量、それに纏う圧倒的な霊的な力が合わさった今の一撃が間近に通ったからこそわかる。

 

「みんなと合流しよう。ボクらだけじゃ相手にするのは厳しいよ」

 

 霊子支援型のなずな機と、中距離範囲砲撃型のコクリコ機で相手にするのはいささか厳しい。

 だが──なずなは首を横に振った。

 

「ううん、合流は無理よ」

「え? どうして?」

 

 眉をひそめるコクリコ。

 

「これが一体だけなら、合流して対処するべきだわ。でも、他に大型蒸気獣が二体いる状況で対戦するのは避けるべき……」

「うん。確かに向こうは三体になるけど、でも、こっちも六人になるんだから、それほど不利にならないんじゃない?」

 

 まして近接戦闘を得意とし、防御能力も高く仲間の壁にもなれるグリシーヌ機ならば、さっきの突進を受け止められるかもしれない。

 しかし、そんなコクリコの言葉になずなが再度、首を横に振った。

 

「他の二体を相手にしている隙にさっきの突進攻撃をされたら避けられない。致命的なダメージを喰らうことになるわ」

「それは確かにそうかも……」

 

 コクリコもなずなの意図が分かってうなずいた。

 

「でも、それじゃどうするの? ボクの機体じゃああの攻撃を迎え撃つこともできないし、足止めするにも限度があるよ」

「大丈夫……」

 

 なずなが大きく頷いて、コクリコを見る。

 

「あたしが、あれを止めるわ。そうしたら攻撃を……」

「そんな! 無茶だよ!!」

 

 そんななずなの言葉にコクリコは慌てた。

 

「確かにボクのよりもなずなの機体の方が頑丈かもしれないけど、それでもあんな威力の攻撃には耐えられないよ!」

 

 身軽さと機動性を長所とするコクリコ機は防御力を犠牲にしている。

 それに比べればなずな機は防御力を短所にはしていないが、近接特化型ではないので長所にもなっていない。

 

「無茶なんかじゃない! あたしの機体なら、あれを止められる! その能力(ちから)が、あるんだから!!」

 

 なずなが力強く反論する。

 それにコクリコが「それって一体どんな能力なの?」と訊こうとしたとき、馬型蒸気獣に動きがあった。

 再度、いななくように蒸気を吹き出しつつ、その前足を浮かせる。

 それが地面に付くや騎乗槍を構えて、再度の突進を仕掛けてきた。

 

「なずなッ!?」

 

 狙いは再びなずな機。

 それに対し──なずな機は手にしている金砕棒を機体の前に立て、それを精神集中の中核とする。

 

「任せてッ!! 障壁結界、展開!!」

 

 突っ込んでくる馬型蒸気獣と自分の前に、なずなは霊力で結界による障壁を作り出した。

 帝国華撃団夢組が、戦場形成のために展開させる結界の簡易版である。

 数人掛かりで展開される夢組のそれには強度は及ばない。事実、馬型蒸気獣の突進によって破壊され、突破されてしまう。

 だが、それは馬型蒸気獣の突進から、勢いを奪っていた。

 さらに二枚の障壁結界が馬型蒸気獣の前を阻み──突破こそされたが、速度が先程よりも明らかに落ちている。

 

「これならッ!!」

 

 眼前に迫った馬型蒸気獣の突進を、なずなは素早い横のステップで咄嗟に避ける。

 まるで闘牛で、猛牛の突進を避けるような動き。そして──

 

「これでも、くらえッ!!」

 

 そして牛に剣を突き立てるマタドールのように、手にした金砕棒を複雑に四本の脚が動く脚部へと、無造作に突っ込んだ。

 

「──ッ!!」

 

 馬型蒸気獣が驚愕したような動きを見せる。

 なずなの障壁結界で減速されたとはいえ、その速度はまだ速い。

 その速度を生み出す脚部に異物を突っ込まれて動きを阻害された結果、脚部の自由を奪われて、その勢いのまま吹っ飛ぶこととなった。

 派手にバランスを崩して転がる馬型蒸気獣。

 その勢いが災いし、自爆と言わんばかりに派手に転倒したその機体は、騎士の鎧のような装甲も一部が派手に吹っ飛び、胴体も割れたように開いていた。

 

「やったね、なずな!! ボクも──やるよッ!!」

 

 コクリコ機のホーンから、猫のマスコット型の霊力できた固まりが、まるでミサイルのように撃ち出され、動きを止めている馬型蒸気獣に襲いかかる。

 一方、馬型蒸気獣を転倒させた金砕棒はといえば、倒した勢いでそのまま上空へと舞い上がり、回転しながら落ちてきていた。

 それをなずな機はしっかりと受け止め、金砕棒はその手元へと戻った。

 

「あたしの全力も──いくわよ!!」

 

 正眼に構えた金砕棒がなずなの霊力を受けて雷を帯びる。

 

「響け! (かみ)()(いか)龍蛇()の咆哮──」

 

 彼女の霊力は姉と同じく雷の性質を持っている。

 その電撃を帯び蓄えて金色の光を放つ金砕棒を突き出すと同時に、霊力(それ)を放つ。

 

 

 「──()(でん)(いっ)(せん)ッ!!」

 

 

 放たれた電撃は黄金色の竜を形作ると、転倒した上にコクリコの攻撃でダメージを負っていた馬型蒸気獣へと襲いかかる。

 そして蒸気機関に深刻なダメージが与えられ、機関は制御を外れて暴走を起こす。

 なずなの駆る光武Fは、突き出された金砕棒を手元で回転させてから、ビッと姿勢を決める。

 その背後で、馬型蒸気獣は爆発を起こすのであった。

 




【よもやま話】
 なずなの必殺技が登場です。
 『()(でん)(いっ)(せん)』です。

 ……んん? 前作では師匠から受け継いで『青竜一閃』じゃなかったっけ? 

 そう。上位の『青竜百閃(せいりゅうひゃくせん)』が前提の『青竜一閃』だったはずなのですが……イメージカラー黄色なのに、“青竜”はないだろ、となり、見事に必殺技がボツになりました。
 前の薄紫はかろうじて青系統だったので、合わなくもなかったのですが、そもそも青白い雷の竜をイメージしての“青竜”だったのに、イメージカラーを変えたせいで黄色系の雷になってしまったので使えなくなったのです。(姉のせりは青イメージなので青白い雷ですけど)
 『黄龍(こうりゅう)一穿』も考えたのですが、そもそも『青竜百閃』=清流百選からのパロディですので、離れすぎて分けわからなくなるので却下。
 で、先生の技の『一穿』をとって変換して『祇電軼箭』になったのです。

 ──プリコネとかのモニカの必殺技のもとであろう“紫電一閃”が元ネタなのですが、これは四字熟語で、意味は「一瞬や極めて短い時間のこと。または、そのような少し時間で急激に変化すること」です。
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