サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──幕間──

「アレックス……キミが生きているとは、まったく予想外だよ。てっきり機体と運命を共にしたかと思ったんだけど……」

 目の前の人影──まるで白黒(モノクロ)道化師(ピエロ)といった姿のそれに対し、男は静かに睨みつける。

「まるで、死ねと言わんばかりの話しぶりだな」

「そうは言っていないよ。でも、せっかく与えた力を、無駄にされてしまってはね……」

「まだ私の中にある力は、尽きていないように思うが?」

「そうだろうね。それに関しては今後もキミ達と共にあると思うよ。でも、ボクが用意したアレをあっさりと壊されたんじゃあ、こっちとしても困るんだよ」

 やれやれと言わんばかりに肩をすくめる道化師。

 そんな様子に、男は「やれやれと言いたいのはこちらの方だ」と心の中で思いつつ、取り出した煙草に火を付けた。

 それを口に含み、紫煙をふぅと吐き出す。

 そうやって心を落ち着けてから、男は切り出した。

「こちらは戦闘に関しては素人だぞ? 対して相手は歴戦の猛者。オマケに仲間もろくに役に立たなかった……」

「それはキミが使いきれていなかっただけさ」

 道化師に言われて、男は再び睨みつける。

 服とは左右逆に白黒半々に染められ、禍々しさを感じる異様な模様が描かれた仮面越しに、道化師と男は睨み合い──道化師はさらに続けた。

「他の2体は……かたや合流前にあっさり倒され、もう片方も容易く、ね……フォローのない支援機なんてもろいに決まってるじゃないか?」

「くどいようだが、オレは素人だぞ?」

「だから戦えない? ウソを言うもんじゃないよ。キミに宿った能力には戦うためのセンスもあったはずじゃないか。しかも人を使ことに関しては天才的だった人物のものだ」

 そう言ってに道化師は宙を渡り、浮いた状態でその眼前に、顔を付けんばかりに迫る。

 その行動に思わず男は身を引くが、まとわりつくように道化師は離れない。

「それに……特殊な能力(ちから)も、ただの持ち腐れだったじゃないか。てっきり敵の2、3人でも“奪い取る”かと思ったのに」

「クッ、それは……」

 男は言葉に詰まるが、相手は容赦しなかった。

「“屈服させ臣従させる”もしくは“奪い取る”がキミに与えられた力のはずだろう? なんでそれさえできないのかなぁ? それを行うためのアレ──じゃないか」

 道化師の面が余所を向く。

 それにつられて男が視線を追い──驚く。

「なッ!? あれは……」

 巨大蒸気獣である。

 熊を模した頭部には小さな王冠があり、首下は王侯貴族の肖像画に描かれる立派なカラーを模したエアインテークが、そしてそこから背中の蒸気吹き出す巨大な動力機関を覆うように大きな赤いマントが翻っている。

 巨大な腕部と、短くがっしりとして接地面積を増やした脚部による低重心化が、その腕を振ってもなお揺るがない安定性を生んでいた。

 その辺りのデザインは、男に与えられた巨大蒸気獣と同じである。

 しかし赤いマントに大きく描かれたマークは黒いクラブではなく、黒いスペード。そしてその大きな腕も、男が与えられた機体とは細部が異なっていた。

「ああ、勘違いしないでよ。あれは蒸気獣コンセルト・ピック……キミに与えたコンセルト・トレーフルとは違う個体だよ」

 修理して改修したわけでもないから、と道化師は説明する。

「なにしろ……派手に破壊されちゃったからね、キミのは」

 明らかに責めるその目に、男は屈辱という感情を抱く。

「悔しいかい? でもね、キミは負けたんだよ」

「バカな! まだオレは……」

 こうして生きている。

 生きている以上は負けではない。

 再び機を見て動き、反省を生かし、次に勝てばいいのだ。

 そう男は考えたが──

「ゲームに負けたからには、ペナルティが必要だよね?」

 道化師が仮面の奥でニヤリと笑った気がした。

 彼がバッと手を挙げると、一匹のコウモリがその背後から姿を現す。

「ひッ!?」

 男の口から情けない声が漏れる。

 思わず後ずさり、体制が崩れて尻餅をつく。背を向けて逃げることは、恐怖の余りに目が離せなくてできなかった。

 そのまま必死に、手足を使って後ずさるが──空を舞うコウモリから、そのような速度で逃げられるはずがない。

 コウモリは、一瞬で男の背後へ回り、そのまま首下にとまると──その牙を首に突き立てた。

「ぅあッ!!」

 傷口から熱いものが流れ出すのが分かった。

 同時にひどく、極端に力が抜けていく。

 首からあふれるものが止まることなく、むしろ溢れるのではなく、抜かれるような感覚に襲われながら──

 

 ──男は意識を失った。

 

「……やれやれ、やっと一つ片が付いた」

 道化師は倒れ伏した男を睥睨しながらため息を一つついた。

 男に裁きを下したコウモリは、やがてパタパタと翼をはためかせながら、道化師の方へと戻ってくる。

 それを見届け、道化師は再び背後の巨大蒸気獣を振り返った。

「やることだけは一杯あるんだよな。敗退者の制裁だけじゃなくて、次のゲームの準備もしないと。コレの乗り手も見つけないといけないし……まったく、人使いが荒いよ」

 そう言って道化師は肩をすくめる。

 そして、その場から消えるように去った。

 

 

 

 

 ………………その後、男の指がピクリと動いた。

 

 




 これにて1話は終了です。
 2話は3月1日から開始する予定ですので、しばらくお待ちください。
 そして再開後も、どうぞよろしくお願いいたします。
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