サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──序章──

 巴里のエッフェル塔の上部がひしゃげて崩れ落ちる様を、その男は使い魔を通した遠視で眺めていた。

 

「おぉ! 嘆かわしいッ!!」

 

 その人物は大仰に天を仰いだ。

 闇に閉ざされたその頭上には固く冷たい天井があるのみ。

 とはいえ時間的にはまだ日が昇る前の時刻であり、夜明けまでまだまだ時間があった。

 そして、その天井までの距離はかなりあり──広大な空間であることがわかる。

 その空間にポツンと一人だけいる人物は、語る相手もいないのに大げさな身振り手振りで感情を表現していた。

 

巴里(あの地)がッ! 我が愛するフランス(あの国)がッ! あんなものに蹂躙されてしまうとは!!」

 

 広大な空間には、まるで透明なスクリーンがあるかのように、虚空に映像が映し出されていた。

 夜明けが近づき、闇が明けようとしてる時間であり、“賢者の石”という触媒を使った錬金術によって塔と融合した男が、溶けかけた姿が映し出されていた。

 その目の前には、燕尾服を改造したような奇妙な赤い服──巴里華撃団花組の戦闘服──を身に纏った長い髪の女がいた。

 彼女の背後には、つい先ほどまで彼女が搭乗してこの事件を解決に導いた不格好な人型をした機械──巴里華撃団の霊子甲冑・光武F2のエリカ=フォンティーヌ機──が鎮座しており、翼を持ったその機体はまるで天罰を下した天使のようであった。

 それを、彼はグラスに注がれた赤い液体を巡らせるように揺らしながら、まるで余興のように眺めている。

 

「……命は永遠ではない。力は永遠……」

 

 溶けかけた男の言葉が聞こえる。

 それを聞いて彼は──フッと自虐的に笑みを浮かべた。

 

「永遠の命を求める、か……存外につまらぬものだぞ、そんなものは…………」

 

 そうしてグラスを傾け、液体を自らの喉に注ぐ。

 

「何より、得てしまえばつまらぬものよ。退屈で仕方がない。そのくせ……外界のことは気になって仕方がないのだからな」

 

 空になったグラスを傍らのテーブルに置きながら、彼は再び醜く溶けた男の姿を蔑むように見つめた。

 

「我が力をもってすれば可能なものを……哀れな者だ。乞われれば、まぁ、考えなくはなかった、というのに」

 

 憐憫の視線を向けていると、その形が崩れていく。

 その目の前で、赤い服の女が胸の前で手を組み祈りを捧げている。

 

「……巴里華撃団か」

 

 その背後にある不格好な人型機械もあわせて眺め、彼はその知識にある組織を挙げた。

 

「先のパリシィ共の争乱での活躍は見事。かの国に危機がくる時には、ジャンヌ=ダルクのような英雄が出てくるのは不思議ではない、が……」

 

 オーク巨樹による大規模霊障が起こったのは今から3ヶ月ほど前になる。

 急激に成長し、巴里の至る所にまるで根を張るように、伸ばされた巨大な根や幹によって大きなダメージを受けた。

 そのオーク巨樹を最後とするパリシィの怪人達が巻き脅した騒動から始まった巴里における大規模霊障は市内の多くの場所を破壊した。

 それを収めたのは、大規模霊障を事前に予知して組織されていた巴里華撃団である。

 そしてパリシィの魂が安寧をもたらされたためにオーク巨樹は消え去ったのである。

 しかし──巴里市内に未だ残る傷跡は大きい。

 

「……あのような雑木ごときに! 我が愛する巴里がッ! なんということだッ!!」

 

 思い出した彼が拳を握りしめ、その手がわなわなと震える。

 

「英雄ならば、今のエッフェル塔の件のような輩の跳梁など許すな!! あんなものさえ防げぬようではダメだ! こんなところで足踏みをしていては……これでは間に合わなくなる。間に合わなくなってしまう!」

 

 その前の虚空に浮かぶ巨大なスクリーンの映像が切り替わる。

 そこに映し出されていたのは……統一された軍服をまとった軍隊が整然と巴里市内に進入してくる様子だった。

 巨大な軍旗や腕章には同じマークが描かれ、そして行進する軍勢の中には、見慣れない車両のようなものも多数見受けられる。

 

「このままでは、巴里は……このおぞましい未来を迎える以外に無くなる」

 

 現在でも過去でもない姿を映したその映像を否定するかのように、大きく腕を横に振ると、スクリーンは消え去った。

 

「……自ら、動くしかない、か」

 

 その言葉通り、彼は椅子から立ち上がる。

 そしてゆっくりとした足取りで、部屋の中央へと歩みを進める。

 

「愚人が過去を、賢人が現在を、凶人が未来を語るというのなら、この国のために我輩は喜んで凶人となろう……」

 

 その直後、人物の足下には、禍々しい妖力を放つ魔法陣が展開されていた。

 その強大な力を示すかのように、圧倒的な規模の大きさと、複雑な模様が描かれたそれは──その人物の膨大な力によって励起され、濃密な妖力が空間に広がっていく。

 

「あのような未来へ至るくらいならば……そうさせないためにも…………」

 

 発動した術式は、とある(ゲート)を開く。

 とはいえ、ほんの少し開いたにすぎない。その膨大な妖力を持ってしても制御しながら開くのはそれが限界なのだ。

 

「この力にて……巴里の未来を救う。我が力を蔓延させてでも……」

 

 そこから漏れ出た12の力の塊。

 鬼火のようなそれは、門を開いて喚びだしたその人物の前に、さながら時計版の文字のように規則正しく配置され、並ぶ。

 そして──

 

「……とはいえ、ただ蹂躙するのでは……我が力を蔓延させるだけでは面白くはない。永久(とわ)に続く退屈にはもう飽きたのだ、我輩は」

 

 ニヤリと浮かべた笑みは、邪悪なものであった。

 

「この脈打たぬ心臓が震えるほどの、心躍るような遊戯──娯楽がなければ、な」

 

 直後、鬼火が一段と輝き──パッと光が弾ける。

 そのあとに残されていたのは絵札であった。

 それを生み出した者が満足そうに頷くと、12枚の絵札は放たれ、飛び去っていく。

 

「さぁ、行け……その魂に相応しき境遇と感情を抱く者達の(もと)へ!!」

 

 絵札を見送ったその者の叫びが、広大な空間に響きわたっていた。




【よもやま話】
 本作は前作前々作同様に以前書いたものがあったのですが、今回はこれの旧作ともいうべき『ルーアンの魔女』をリメイクというよりも完全に作り直しです。
 オリジナルキャラの設定くらいしか引き継いでません。

 で、とりあえずゲーム外だし、旧作作ったときは無かったし、時間軸的にも余裕無いからスルー予定だったOVAのサクラ3後のヤツ(ル・ヌーヴォー・巴里)をお試しで見たのですが……結局、参考どころかその直後の話になりました。
 ええ、面白かったからです。
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