サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──2──

 グリシーヌという長い金髪の女性に、ケントは問いつめられていた。

 そこに助け船を出すように口を挟んだのは──

 

「やあやあ、ケントくん。まさかこんなところでお世話になっているとは、さすがにボクも推理できなかったよ」

 

 室内ということでくすんだ深緑色の帽子を脱いで片手に持ち、もう片方の手には杖を手にした人影。

 そして纏っているのは帽子と同色のインバネスコート。

 まるで推理小説から出てきた名探偵のような姿の小柄な人影だった。

 帽子を脱いでいるおかげで肩付近まで伸びたウェーブのかかった赤い髪が(あらわ)になっており、その目は彼女自身の鋭さを隠すかのように眠そうに垂れている。

 

「何者だ!! いや、部外者がどうやってここに入った!!」

「部外者とは心外ですね、グリシーヌ女史。最近ではあるけど、ボクも仲間に入ったというのに……グラン・マから知らされていないんですかね?」

 

 肩をすくめたその小柄な人影──男装でありながら、声は完全に少女のそれ──の言葉に、グリシーヌは苛立たしげに彼女をにらんだ。

 

「知らん! 少なくとも貴様のような名も名乗らぬ無礼者が仲間になったなど──」

「おや、これは失敬。ボクの名前はローレル=クレセント。見ての通りの美少女探偵さ! 以後お見知り置きを……」

 

 そう言ってビシッとポーズを決める探偵女子。

 しかしそんなその突然の行動に見ている面々は唖然とするしかなかった。

 ただ、その中で目つきの鋭い眼鏡の女性が不機嫌そうに「チッ」と舌打ちし、赤い修道女が「わあ! 美少女探偵さんなんて初めて見ました!」と目を輝かせているのが対照的であった。

 

「……あの、エリカさん……駅で会ってますよね? あの人に…………」

 

 その横では、ツインテールの髪のなずなという娘が、赤い修道女にジト目を向けている。

 その声にローラと名乗った彼女は、なずなの顔を改めて見つめた。

 

「おや、迂闊な大和撫子さんもお久しぶり。その様子ではあの後は無事にシャノワールに到着できたようで、なによりだ」

「……ええ、おかげさまで。でも、なんか言葉にトゲがあるように感じるけど、気のせいかしら?」

「ハッハッハ……もちろん気のせいだよ。もしくは自身の事実を受け止められない狭量さがそう思わせているのではないかね?」

 

 笑い合う二人だが、なずなの方は明らかに笑顔がひきつり、額には青筋が浮かんでいる。

 スリの被害にあったときに、鞄をねらった別動の泥棒から鞄を守ってくれたということがなければ、今すぐにでもキレて怒り出していただろう。

 一方、唖然としかけてペースを乱されたグリシーヌだったが、オホンと一度咳払いをしてから再び厳しい目で探偵を見つめる。

 

「その探偵が、なんの用でここにいる?」

「失礼……人探しをしていたのですよ。ウチの家のものが行方不明になっていましてね。それをたった今、ここで発見したという次第なのです」

 

 ビッと人差し指をたてて事情を説明する探偵少女。

 

「つまり、その男は……」

「ええ、ウチの家の関係者です。お騒がせしてしまったようで、本当に申し訳ありませんでした」

「……まさかそれで「ああ、見つかって良かったですね」とわたくし達が帰すとでも思っているのか!?」

 

 そう言って気色ばむグリシーヌ。

 目の前の素性も知らない探偵少女の慇懃無礼とも言える態度に、彼女はイライラを募らせていたのである。

 

「え? 帰してあげないんですか?」

 

 そんなグリシーヌを不思議そうに見つめるエリカ。

 その言葉にグリシーヌは思わず脱力しそうになるが、どうにかハッキリと首を横に振って拒絶した。

 

「帰せるわけがなかろう。蒸気獣達が発生したあのまっただ中で倒れていたのだぞ」

「でも……あの騒ぎに巻き込まれて、頭を打って記憶が飛んじゃっただけかもしれないよ?」

 

 怒りを露わにするグリシーヌに対し、コクリコと呼ばれていた少女は困惑気味に言う。

 

「しかし……」

 

 確かにコクリコの言うことにも説得力があった。

 実際、エリカのおかげで治ったが、全身に負っていた打ち身を考えると、その可能性が一番高いように、ケント自身も思える。

 ──とはいえ、エリカが文字通り全身の怪我を治してしまったので、頭を打ったのかを確かめる術もなくなってしまったのだが。

 だが、それでもグリシーヌは納得しない。

 そしてそんな彼女の様子に、目つきの鋭い眼鏡をかけた女性が苛立たしげにため息をつく。

 彼女はジロッとケントを睨みつけると声をかけてきた。

 

「おい、アンタ! ここで目を覚ます前の記憶が、実際にとんでいるんだよな?」

「は、はい。そうです……」

 

 面倒くさそうに言った彼女の剣幕に、ケントは驚きながら答える。

 すると彼女は──

 

「──だ、そうだ。記憶がないヤツから何かを訊こうとしても無駄だろ」

 

 結論は出たとばかりに言う。彼女は早急にこの場を終わらせようとし始めたようだ。

 しかし無論、それにグリシーヌが納得するはずがない。

 

「いや、なにを言う。この男がウソをついていないという保証はないではないか!」

「ではグリシーヌ女史、このボクが彼の身元の証明と引き受けをしようではないか。それで納得はしてくれないだろうか?」

 

 見かねた探偵少女が言うが、グリシーヌは今度はその探偵少女にかみついた。

 

「貴様もその男も、不審であることには変わりないぞ! そういえばハッキリさせずにしてしまったが、そもそも貴様はなんなのだ!?」

 

 毅然と言い放ったグリシーヌの大きな声が響きわたる。

 そこへ──

 

「──アタシ達の仲間だよ、グリシーヌ」

 

 グリシーヌの言葉を遮った声。

 新たに現れたその人の声で、グリシーヌは冷水をかけられたように頭が冷え、他の面々も驚いてそちらを見る。

 現れたのは威厳のある女性だった。その傍らにはメイド服を着た女性二人が控えている。

 

「グラン・マ!? どういうことなのだ、それは?」

「そこのローレル=クレセント……ローラは巴里華撃団の一員ってことさ。アンタ達みたいに霊子甲冑で戦うのとは違うけどね」

「……一員?」

 

 疑わしげな目でグリシーヌが見ると、ローラと紹介された探偵少女が恭しく頭を下げる。

 

「優れた頭脳や運動神経、決して弱くない霊力、さらにはなによりも優れた洞察力と推理力……様々なものを天から与えられたボクですが……残念ながら霊子甲冑を動かす才能だけは与えられなかったもので」

 

 自分の才能をひけらかし、自己評価の高いローラの発言に、グリシーヌはこめかみをひくつかせる。

 彼女とグリシーヌはよほど相性が悪いらしい。

 

「巴里華撃団の密偵となるように、と我が父から命じられ、微力ながら力になることをグラン・マに約束したのですよ」

 

 そう言ってローラはグラン・マをチラッと見ると、グラン・マは首肯した。

 

「その通りさ。彼女の言うことに嘘はない。わかったかい、グリシーヌ?」

「父? クレセント……って、ひょっとして、まさか!?」

 

 グリシーヌが慌てて顔を上げ、グラン・マを見る。

 それで察したグラン・マが、グリシーヌが至った結論を正解だと言わんばかりにうなずいた。

 

「ああ、アンタの考えているとおりさ、グリシーヌ。この()は英国のクレセント家の息女だよ」

「バカな! それこそ英国の諜報機関には先日ちょっかいをかけられたばかりではないか!」

 

 グリシーヌの言葉で、グラン・マの傍らにいたメイド二人が思わず顔をしかめた。

 ケントは知る由もないが、この二人──メル=レゾンとシー=カプリス──は、グリシーヌの言う事件の際に、英国諜報機関に捕らえられて拷問まがいの目に遭っていたのだ。

 

「その迷惑の詫び……という建前で、優秀な諜報員をこちらによこしてくれたのさ」

「……優秀な諜報員だと?」

 

 探偵服姿の少女にジト目を向けるグリシーヌ。

 その余りに目立つ格好や立ち居振る舞いを見れば、疑念を抱くのは当然だろう。

 一方、ローラは気にした様子もなく、胸に手を当てて優雅に一礼した。

 

「ああ、優秀さ。なにしろ帝国華撃団の隠密部隊・月組に研修に行っていたくらいだからねぇ」

「え!? 月組に? あたし、見たこと無いけど……」

 

 グラン・マの説明でなずなが驚く。

 帝国華撃団からきた彼女だが、ローラという娘には見覚えがなかった。

 そんな疑問にローラは答える。

 

「もちろん隠密部隊での研修だから、目立たないようにしていたさ。もっとも、ボクの方はキミを見かけたことはあるのだけどね、なずな嬢」

 

 えへんと胸を張る彼女を、なずなは信じられないといった顔で見たのだが──

 

「それというのも、そこのロベリア嬢を捕まえるのに貢献したおかげでグラン・マの目に留まってね」

 

 直接的には日本人の迫水則通が捕まえたのだが、その御膳立てをしたのが当時は推理小説マニアの飛び級大学生という肩書しかなかったローラだった。

 クレセント家の者として目立つわけにはいかないと完全に功績には名を残さなかった彼女と、それをきっかけに知り合った迫水は興味を持ち、目をかけたのである。

 それが縁となり、直後に巴里へきた帝国華撃団月組の隊長から指導を受け──そこから研修へと発展し、そして現在に至る。

 

「今の格好は月組隊長からの指導ですよ。なずな嬢なら分かるでしょう?」

「……ええ、残念なことに」

 

 ローラの話になずなは、沈痛そうにこめかみを押さえつつ、そう答えるしかなかった。

 帝国華撃団月組の隊長は普段の言動は、かなり変わっている。

 目立つような白いスーツはもちろん、神出鬼没に突飛なところに現れたり、言動もまた他者を困惑させるようなことも多く──そこまで考えて、なるほど、ローラはそれを実践しているのではないか、という考えに至る。

 

「御理解いただけたようでなにより。ボクはその教えを忠実に守っているにすぎない。隠密行動時以外に目立つという、ね」

 

 普段目立つからこそ、気配を消したときに分からなくなる──らしい。

 

「その話では、前から入れるつもりだったということではないか。それに建前とは……余計わからんぞ。一体どういうことなのだ、グラン・マ!?」

「今の英国が華撃団構想の中でどういう立場なのか、知っているかい? グリシーヌ」

 

 グラン・マに逆に問い返されたグリシーヌは少し考え込んで思いだし、素直に答える。

 

「ああ。英国は欧州防衛構想からも離れ、華撃団の計画から完全に離れている。だからこそ、英国の諜報機関が巴里華撃団の秘密を探ってきたのではないか」 

「そう。今の英国は反華撃団派が主導権を握っている。でも、華撃団派がいないわけじゃあない。そもそも……欧州最初の華撃団をこの巴里と倫敦(ロンドン)で争ったくらいだからね」

 

 その時のことを思い出して、グラン・マは遠い目をする。

 

「彼女の父は、英国では非主流派になっている親華撃団派なのさ。昔からね」

 

 その説明にローラは深くうなずいた。

 

「とはいえ、ウチも英国貴族の端くれでして……我が家が表立って、敵対関係とも言えるフランスの巴里華撃団に所属するのはさすがに(はばか)られていたところ、丁度よく反華撃団派がやらかしてくれた、というわけです。被害に遭われた御二方には非常に申し訳ないことですが“渡りに船”だったというわけで……」

 

 悪びれた様子もなく、ローラはメイド服の女性2名に頭を下げた。

 当然、その二人──メルもシーも、どう反応していいか困っている様子だった。

 それを横目で見つつ、グラン・マがさらに言う。

 

「そこの彼は、実は今日、アタシと会う予定だったのさ」

「グラン・マと、ですか? いったいどうして……」

 

 黙って聞いていたエリカが思わず彼女とケントの顔を交互に見てしまう。

 そしてケントはと言えば──それを知らなかったのか、驚いた顔をしていた。

 

「おや、ケント……今日は、キミの勤め先を紹介する、という約束をしていたはずだが?」

 

 そんなケントにローラがたまりかねて言った。

 

「勤め先? そういえば……うん、確かにそういう約束で……先に出かけたローラを追いかける形で外出した、ような…………」

 

 ケントはまだ記憶が曖昧ではあったが、徐々に思い出してきた。

 

「そう。で、キミの職場は……ズバリ、ここだよ」

「「「ここ?」」」

 

 奇しくも説明をしていたローラと、事情を知っているグラン・マ以外の声が見事に重なる。

 

「テアトル・シャノワール……というよりはグラン・マことイザベル=ライラック伯爵夫人の運転手兼護衛を担当してもらうことになる。そのための面接を、今日する予定だったのだけど……」

 

 困り顔で苦笑し、ローラはグラン・マを見た。

 

「まぁ、今からでも別に構いやしないだろう? さ、面接するからみんな、席を外しておくれ」

 

 グラン・マがそう言うと、その場にいた者達は慌てて医務室から出て行く。

 その中でグリシーヌが複雑な表情で、じっと睨んでいたのを見て、ケントは不安を隠しきれなかった。

 

 

 ──そして、ケントはグラン・マの面接の結果、予定通り彼女の運転手兼護衛として勤めることになるのであった。




【よもやま話】
 やっと主人公が巴里華撃団の周辺者になりました。
 そしてローラの素性も明らかに。
 巴里華撃団所属の密偵のエースだったのですが……ここで初めて明言されているのに早い段階で「密偵」と紹介されているものだと勘違いして、いろいろやらかしかけました。
 第1話終了時点の設定解説ではそれが顕著で完全に巴里華撃団の位置にいましたから。

 2話書いている途中でロベリア捕まえたのが迫水と知って微調整入れました。
 でもそのおかげで帝国華撃団での研修までの道が分かりやすくなったので結果オーライ。
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