サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──3──

 ──さて、ケント=ドレイクが巴里にきてからグラン・マの下で働くようになるまでには、しばらく時間があった。

 

 その間、彼がどこでなにをしていたのかと言えば──お世話になっているクレセント家で教育を受けていたのだった。

 それは、これからこの国で生活する以上は必要となるフランス語の勉強だったり、クレセント卿が自らの運転手をしてもらおうと考えて車の運転を習得させようとしたり、はたまた敵国内に堂々と居を構えながらも行う諜報活動についてだったり、と多岐にわたった。

 フランス語についてはケントも英国にいるころから勉強していたのもあってすぐに上達した。

 運転も無事にできるようになったが、途中でクレセント卿の運転手という計画からイザベル=ライラック伯爵夫人のところで働かせることに変更になったために、より安全な運転ができるよう、いざというときはとばして逃げられるようにとさらに運転技術に磨きをかけることになったのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そしてイザベル=ライラック伯爵夫人の運転手として働くことになった彼は、テアトル・シャノワールで働く従業員たちに紹介されることとなった。

 そこで彼は、違和感を感じることとなる。

 なぜなら──彼のコンプレックスでもある漆黒の髪をからかうような人が、一人もいなかったからだ。

 

「──なぜって? それは……ここにはしばらく前に“黒髪の貴公子”がいたからさ」

 

 一番話しやすい同僚となった、ドミニクという男性従業員にケントが思い切って尋ねたところ、そんな答えが返ってきた。

 

「“黒髪の貴公子”?」

「ああ。アイツはスゴいヤツだったさ。どこからともなくやってきて、この巴里をサッと救ったらあっという間に去っちまった。しかも……あの花組の5人の心をがっちり捕まえて、な」

 

 そう言ってドミニクは遠い目をする。

 

「5人ですか? でも確か6人だったような……」

「ああ、なずな嬢ちゃんは別さ。あの()はアイツの代わりに帝都からやってきたからな」

 

 ケントの疑問に彼はスラスラと答える。

 

「だからケント君、キミが自分の髪を卑下する必要はないんですよ」

 

 話を聞いていたバーテンダーのジョルジュがさらに優しく声をかけてくれた。

 それには、自分のコンプレックスをさらっと見破られ、ケントは少なからずショックを受ける。

 するとドミニクもさらにそれに乗っかった。

 

「そうだぞ、ケント。むしろその髪だからこそ、みんな厳しく見てくるかもしれないな。ムッシュの面影を重ね合わせて……グリシーヌなんてそうじゃないか?」

「ありうる話ですね」

 

 ドミニクの話にジョルジュが頷いた。

 それを聞いてケントは困惑する。

 

「だとしたら、どうすればいいんでしょうか?」

「う~ん、あの人は厳しいからな。完璧主義者なところもあるし」

「彼女がムッシュ大神の面影を重ねてきたとしたら、かなり厳しいでしょうね」

 

 その“黒髪の貴公子”と呼ばれ賞賛される人と、同格のことを要求されるのだとしたら──それに応えることができなければ、重ねられている以上はケントを見る目は厳しくなる一方だろう。

 

「……おまけに思い出補正も入ってそうだしなぁ」

 

 と、ドミニクが付け加える。

 

「美化されてるってことですか?」

「そうそう。大神も人間だからな。そりゃあ人間くさいところも多々あったさ。女性陣がシャワー室に入っているのを通りがかると“体が勝手に……”と動くくらいには、ね」

 

 苦笑するドミニク。しかしケントは思わず顔を赤くしながら憤る。

 

「そ、それって覗きじゃないですか! そんなの……許されるわけありません。非紳士的です」

 

 そんなケントの反応に、年上二人は顔を見合わせてため息をつく。

 

「若いなぁ、ケント……」

「……賭事一般に言われることですが、バレなければイカサマじゃありません。それと同じですよ」

 

 ため息混じりにニヤリと笑みを浮かべたドミニクに対し、スマートに微笑を浮かべてバーテンダーとして様になっているジョルジュ。

 やはり十代半ばのケントとは、反応が違っていた。

 

「まぁ、話を聞いて想像して、顔を赤くするくらいには興味あるんだろ?」

「なッ!? なんてことを言うんですか? ドミニクさん!!」

 

 思わず慌てるケント。それを見て彼はますますニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「やっぱりな~。で、誰を想像したんだ、ケント? エリカか? グリシーヌか? ロベリアか? それとも同じ黒髪同士、花火とかなずなか?」

「……コクリコさんでも、キミの年齢ならこちらとしても、別に引きませんからね」

「ジョルジュさんまでッ!! 想像なんてしませんよ!! そんな卑怯な、非紳士的な──」

 

 口ごもりつつ、さすがに二人にはやし立てられれば反応して少しは考えてしまう。

 さすがにグリシーヌやロベリアを対象にするのは怖い。

 エリカはその言動が、コクリコは年齢的に、少しばかり色気がない。

 母が日本人だったせいもあるのか、花火やなずなに女性を感じるケントは、初めて出会って以来の縁もあって、思わずなずなを想像し──

 

「──じゃあ、グラン・マか?」

 

 ドミニクの一言で、その想像は地獄絵図と変わった。

 

「ドミニクさんッ!!」

「……うん、今のは悪かったと思ってる」

「……ですね。私も危うく想像しかけましたよ、ドミニク」

「スマン……」

 

 ケントだけでなく、ジョルジュからも抗議され、反省して謝罪するドミニク。

 そして彼は気を取り直すように話題を戻した。

 

「まぁ、グリシーヌ相手なら、最悪、できるだけ接点を持たないようにすればいいんじゃないか? 幸いなことにお前はグラン・マの運転手兼護衛だからな。グラン・マの執務室か車庫にでも控えていればいいんだから」

「なるほど。でも、それじゃあずっと避けるようなものじゃないですか? さすがにマズいような……」

「まぁ、一つの案だ。一番は見返してやることだが……彼女相手にそれは、かなり厳しいぞ」

 

 グリシーヌが自分にも他人にも厳しい人だというのは見ていれば分かる。

 そんな彼女が、現代の英雄ともいうべき恋い焦がれる人に、さらに理想像を纏わせたものと比較されるのだから、ケントとしてはたまったものではない。

 だが、さすがに同じシャノワールで働くものとして、いつまでも逃げ回るわけにはいかないのだ。

 

「少なくとも普通に見てもらえるくらいには……」

 

 考えにふけるケント。

 その前向きな姿に、ドミニクとジョルジュは好感を覚えるのだった。

 




【よもやま話】
 ドミニクとジョルジュはオリジナルじゃなくて原作キャラです。
 シャノワールで働く男性従業員で、立ち絵こそないものの「花屋のコレットさん」と同じようにセリフ枠にキャラ絵がきちんと出てくるキャラです。
 ジョルジュはバーテンダーなのですが、ドミニクに関しては何を担当していたか失念。
 さすがに20年近く経っているので、ネットで調べても情報出てこないんですよね。プレイ動画で確認しようかな。
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