サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

23 / 49
──4──

 さて、ケント達がそんな話をしている頃──

 

 シャノワールの地下にある作戦司令室に、巴里華撃団花組の面々は集められていた。

 そこに司令であるグラン・マが現れ、一同を見渡して全員そろっているのを確認する。

 

「今日はいい知らせがある……」

 

 彼女はそう前置きをして、本題を告げた。

 

「実は花組の隊員をもう一名増やすことになってね」

「グラン・マ。それって、なずな以外にもう一人ってこと?」

「ああ、そうさ」

 

 コクリコの問いにグラン・マは笑みを浮かべて答えると、それを聞いた皆が喜んだ。

 問うたコクリコに、さらにはエリカは「どんな人が来るんだろう」と今からまだ見ぬ隊員を想像し、ロベリアにいたっては「これで多少は楽ができる」と密かにほくそ笑んでいた。

 しかし──

 

「それは……隊長の席を抹消して、ということか?」

 

 グリシーヌが不安げに尋ねたことで、その空気は一気に吹っ飛んだ。

 隊長というのはもちろん大神一郎のことである。彼は巴里を去ってしまったが、彼の機体であるブースターが搭載された白い光武F2は未だ健在であり、格納庫に残されていたのだ。

 無論、いつ彼が帰ってきても大丈夫なように稼働可能な状態を維持している。

 そんな大神というデリケートな話題を持ち出され、一同には緊張が走ったが、グラン・マはため息混じりに否定した。

 

「いいや、違う。そんなことをして良いニュース、なんて言えるわけがないだろう?」

 

 グラン・マが少し憮然とした様子で言ったので、グリシーヌは軽く頭を下げた。

 

「まぁ、それに関してはちょっと裏技を使ったからねぇ、心配しなくていいよ」

「それは……大神さんの居場所が残って良かったです」

 

 苦笑気味にごまかしたグラン・マの回答に、花火がとりあえずはほっとした様子になる。

 それはほかの者も同じ様子だった。

 

「でも、裏技っていうのはどういうことですか?」

 

 エリカが尋ねたので、グラン・マは改めて説明した。

 

「実のところを言えば、一人の増員っていうのはとっくの前から決まっていて、定員の増加は行われていたのさ」

「増員? でも……増えてないよね? イチローがいなくなって、なずながきたんだから数は変わってないし」

「正解だよ、コクリコ。その、なずなが増員分なのさ」

「ええ!? だって、なずなさんって大神さんのかわりじゃなかったんですか!?」

 

 エリカが驚くが、他の皆も同じ疑問を抱いていた。

 それは当の本人であるなずなもまたそうである。帝都からこちらへやってくるときにそう説明されていたのだから。

 

「たしかにその通り、ムッシュの代わりとしてなずなには来てもらったよ。でも……あれをとっておきたいという気持ちは、皆も同じじゃないのかい?」

 

 そう言ってグラン・マは格納庫の画像に映っている白い光武F2を見た。

 

「それは……その通りだ」

 

 グリシーヌが思わず声をあげ──そしてハッキリとうなずく。

 白色に青いラインのカラーリング。

 その腰部には機体サイズに見合った大きさの太刀が左右一振りずつ、合計二本。

 そして背部の蒸気併用霊子機関には、ロケットのようなブースターが左右に取り付けられている。

 光武F2・大神一郎機が力強く手にした二刀を振るうさまは心に強く焼き付いていた。

 ともにパリシィの怪人やオーク巨樹と戦った五人はもちろん、帝都で彼の光武・改や天武を見たことのあるなずなも、格納庫でそれを見かけたときに彼の機体であることは一目で分かっていた。

 

「ムッシュの機体を残すために、稼働している霊子甲冑1台分の枠を空けるしかなかったのさ。だから増員許可が出ても、なずなを入れた6人にして人数を増やすのをしていなかったんだけどねぇ」

 

 無論それにも事情がある。

 老獪なグラン・マはオーク巨樹との戦闘後に「大神機はオーク巨樹での戦闘で大破、破棄した」と報告している。実際に、無事に激戦を繰り広げた大神の機体は修理するよりも新たに建造した方が早いレベルだったからだ。

 それで1機を新しくしたのだが、それは大神が帰国する際にその武器と共に光武F2を帝都に送られてしまっている。

 現在、このシャノワールに残っているのは、そのとき大破扱いしたものを今まで空いていた一枠の予算を使って、密かに修繕したものだった。

 そんな事情を思い浮かべつつ、グラン・マは表情をかげらせた。

 彼女が考えを改めたのは、先の巨大蒸気獣との戦いである。あのときグラン・マは冷水をかけられるような衝撃を受けたのだ

 

「──大型蒸気獣が3体出現。そんな事態を目の当たりにしたら、感傷のために空席を作っている場合じゃないって思ったのさ」

 

 そして冷静にもなった。

 もしそれで巴里華撃団が負けるようなことがあれば、その事情を大神が知れば、間違いなく彼の心を痛めてしまうと思い至ったのである。

 部品を取る程度ならともかく、光武F2本体は完全な専用機であるので大神以外に扱うことはできないからだ。

 それはグラン・マにとっても巴里華撃団にとっても不本意だ。

 そしてそれが分かるからこそ、グリシーヌやロベリアは密かにうなずく。

 

「もちろん、ムッシュの機体を処分するわけじゃない」

 

 グラン・マが言うと、エリカやコクリコ、花火がほっとした様子になる。

 

「その乗り手のいない機体を予備機扱いにして、もう一機の霊子甲冑を運用し始めることにした──というわけさ」

 

 これで本来の大神の代わりになずなという形になり、認められた増員分でもう一人追加という形ができたのである。

 しかし、その増員には大きな問題があった。

 それは──

 

「ただ、前と一緒で乗り手が見つかっていなくてねぇ……」

 

 ため息混じりにそう言ってグラン・マは深刻に悩んでいた。

 

「あ~、確かに前に隊員探しをしたことがありましたね」

 

 その姿に、エリカが当時を思い出して楽しそうに笑みを浮かべた。

 霊子甲冑を動かせるほどの強い霊力を持っている者はそうはいないし、おまけにパリシィ事件の最中に、すでに調査していた。

 

「はい、私たちの時ですね……」

 

 そう花火自身が言うように、彼女が加入するきっかけになったことだった。それ以外に、コクリコもロベリアも入隊したのはパリ中を探し回った結果である。

 一度前に行ったことがあるということは、その時に見落とした者や、その後に覚醒したような人、もしくはその後に巴里にやってきたような者を期待するしかない。

 

「しかし、あのときもなかなか見つからず、かなり苦労したのだぞ。今回もそんなに都合良く見つかるとは思えないが……」

 

 気難しげな表情でグリシーヌが言う。

 付け加えるなら、高い霊力だけではなく、戦闘を行うのだからその心得があるのが望ましいし、なによりも巴里華撃団員として秘密を共有できるような信頼できるものではならない。

 そう考えると、なかなか難しい条件なのだ。

 

「……そういえば、帝国華撃団の人たちってどうやってあんなに集まったの、なずな?」

「花組の先輩たちのこと? たしか、前の副司令が世界各地を回ってスカウトしてきたはずだけど……」

 

 コクリコに訊かれて、なずなは眉根を寄せて思い出す。

 アメリカや中国、それに欧州出身者まで帝国華撃団にはいる。

 それこそアイリスに至ってはフランスの貴族の家系である。それを思い出したグリシーヌは経緯はともかくとして「どうして、他国に手放してしまったのだ」と呟かずにはいられなかった。

 

「ほとんどあの人……あやめさんが集めたのよ。花組以外でも何人かはあの人に声をかけられているし」

 

 その集めた人は当時の副司令、藤枝あやめである。

 なずなの実家の神社にもやってきて、姉共々声をかけられ──姉は夢組、なずなは養成機関の乙女組へと入ったという経緯があった。

 

「よほど優秀な方だったのでしょうね。その副指令の方は……」

 

 花火がその考えにいたって、ポツリと感想を漏らした。

 彼女が集めた人材は、帝国華撃団となって帝都の危機を二度も救ったのだから、そう思うのも当然だった。

 

「まぁ、今のアタシらにはそんな全世界を回って探してくるなんて時間も金も無いんだろ? グラン・マ」

「ああ。そうだよ、ロベリア……だから、またコイツを持って巴里中を探し回ってきておくれ」

 

 そう言ってグラン・マが取り出したのは、前回の隊員探しで使ったのとほとんど同じ姿をした霊力計測器であった。

 

「これで霊力が測って基準値以上の数値が出た人をチェックするのは前と同じだよ」

「アタシはパスさせてもらうよ。どうしてもって言うなら、特別報酬(ボーナス)を出してもらわないとねぇ」

 

 そう言って、ニヤリと笑みを浮かべる彼女が言う特別報酬は金ではない。

 一生牢獄で過ごすような懲役を、巴里華撃団に協力する見返りとして外に出され、その働きの見返りとして懲役期間が短縮されるという仕組みなのだ。

 彼女はそれを求めたのだが──

 

「それには及ばないよ。アンタじゃなくてなずなに頼もうと思ってるから」

「あ、あたしですか!?」

 

 指名され、思わず立ち上がってしまう。

 その動きにあわせて、彼女のツインテールにした髪が波打った。

 

「ああ。アンタの“勘”に期待してのことさ。それにまだまだ巴里の街には不慣れだろう? ここにいる誰かと一緒に、街の案内がてら回ってきておくれ。もちろんボーナスは出ないけどね」

「は、はい! わかりました」

 

 なずなに対し、巴里という街に慣れて欲しいというグラン・マなりの気遣いであった。

 最後は冗談めかした彼女の言葉に、なずなは元気よく返事をして思わず敬礼までしてしまう。

 そんな姿に、グラン・マは苦笑するのであった。

 




【よもやま話】
 この大神の光武F2の扱いはかなり悩んで、かなり厄介でした。
 最初、大神のF2って帝都にお持ち帰りされているのをすっかり忘れて軽い気持ちで登場させたのですが……調べてみたらこの時期は帝都にある、と。
 それが判明したので無くすのも考えたのですが、それはそれで残された巴里側としては空白では寂しいし、「いつか戻って来た時のため」とこにF2がある方が自然に思えました。
 おまけにF2は巴里華撃団のものだし、それを帝都に簡単に持ち出したり譲渡したりは難しんじゃないかと……
 それらを考慮して、設定無視して巴里に残ってることとしようとしたのですが……
 大神のF2って、「活動写真」で出てきて戦っちゃってるんですよね。
 それはさすがに無視できないと思い──いろいろ考えた結果、ああいった設定をこね回す結果となりました。

 正直、F2が帝都にあったら、二式修理中で乗る機体がないので双武──という流れにも矛盾すると思うのも、活動写真での設定について納得しかねるところなんですけど。

 OVAも、大神が帝都到着前の時期なのに日本の大神から手紙が届いたり、ザフキエル事件の前なのに迫水が中身を知っている発言をするとか、いろいろと考えたらいけない矛盾が出てくるんですよねぇ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。