サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
シーのおかげで気まずくなった秘書室。
その空気の中、黙って書類仕事をしているメルはともかく、基本的にグラン・マ待ちのケントは、やることもなく本当に居づらかった。
かといって、すでにメルを手伝おうという申し出は、シーがくる前に断られている。
この状況でまた言い出せば絶対に断られるだろうし、そうなればこの空気はますます重くなる。
(それはさすがに……でも、この空気も…………)
どうしたものか、とケントが悩んでいると──その空気を吹き飛ばすように、この部屋にどやどやと数人が入ってきた。
入ってきたのはグリシーヌ、エリカ、それになずなだった。
彼女たちは持っていた機械をテーブルに置くと、疲れた様子でメルに尋ねる。
「メル、グラン・マはいるか?」
「はい。いらっしゃいますけど……」
メルの肯定にグリシーヌは複雑な表情を浮かべた。
「……居るのは報告するのには助かる。しかし、やはり結果は芳しくはなかったからな。報告するのは正直気が重い」
「でも、なずなさんをいろんなところに連れていって、巴里の良いところをいっぱい見てもらったのは、良かったじゃないですか」
「それは、まぁ、あたしも助かりましたけど……」
満面の笑みを浮かべるエリカに対し、頭の両脇で長い髪をまとめた娘──なずなが戸惑ったように言う。
そこへ──
「──やれやれ、そりゃあアタシも案内してもらいな、とは言ったけど……観光してこいと言ったつもりはないよ」
少し呆れたような様子を見せながら、奥の部屋からグラン・マが姿を現した。
イタズラを咎められた子供のように慌てるなずなに対し、「なにかいけないことをしましたか?」と言わんばかりに首を傾げるエリカ。
そしてグリシーヌは、ため息混じりにグラン・マに報告する。
「案の定、成果はない。やはり容易ではないぞ、グラン・マ」
そう言って露骨に難色を示すグリシーヌに、グラン・マも難しそうに眉をひそめた。
「予想はしていたけど、やっぱりそうかい……とはいえ、隊員の心当たりもないから、見つけるしかないんだけどねぇ」
「心当たり、か……本当にいないのか? 例えば帝国華撃団のシャトーブリアン家の令嬢のような、隠されて見落としているような者とか……」
帝国華撃団にスカウトされたアイリスは、彼女の家が総力を挙げて存在を隠そうとしていたくらいだ。
他にそういう家が無いとは限らないし、もしもあればそれは間違いなく強い力を持っているだろう。
しかし──
「そういうのを、柳の下にドジョウは何匹もいない、と言うそうですよ、グリシーヌ」
そう言いながら、部屋の中にやってきた花火が言う。
彼女は、探索について行かずに残っていたのだ。
そして同じくのこったコクリコも花火と一緒に部屋にやってきた。三人が戻ってきたのに気がついたのだろう。
「でも、せっかく霊子甲冑を増やそうとしているのに、乗れる人がいないと意味ないよ」
「そうですよね~。なずなさん、心当たりないんですか?」
「はい? あ、あたしですか? というか、なんであたし!? 巴里に来たばかりだし、こっちに知り合いなんて居ませんよ」
突然、エリカに話を振られて驚くなずな。
「いえ、わたし達の知り合いは以前、ほとんど調べちゃいましたし……それに、帝国華撃団でのツテとか有るんじゃないかと思いまして……」
「ツテって、こっちに知り合いなんて──あ!」
なずながふと思い出して声を挙げた。
それに素早く反応するグリシーヌ。
「いるのか? なずな」
「いえ、心当たりがなくはないけど、でもあの人はきっと無理……よね、巴里に来るのは……」
「何でもいい! それはどのような者なのだ!?」
グリシーヌにズイッと迫られ、なずなは戸惑いながら説明する。
「えっと、彼女はあたしというよりも、姉さんの元同僚……というか、恋敵というか……元敵?」
「なずな、さっぱりわけわからないよ~」
要領を得ない説明に、コクリコが苦笑する。
それでなずなは自分の言葉の取り留めのなさに気がついて、説明を始めた。
「うん、その人はカーシャさんっていう、
「なずな、それはひょっとして、トワイライト家の御息女かい?」
グラン・マの確認に、なずなは大きくうなずいた。
「はい。確か本名はアカシア=トワイライトって……」
「──ッ」
その名前に、今まで他人事のように聞いていたケントが肩をビクッと震わせた。
だが、それ以上に苛烈な反応を見せた者がいた。
グリシーヌである。
「な……トワイライトだと!? あの英国の商人貴族の力を借りるなど、言語道断だッ!!」
突然、ドンと近くにあったテーブルを叩くほどだった。
それに思わず首をすくめるなずな。
「ご、ごめんなさい! 変なこと言い出して……やっぱりダメですよね…………」
「おやおや、気にすること無いよ、なずな。グリシーヌの機嫌が悪いのは、彼女の家が原因なんだから」
苦笑するグラン・マに、なずなが訳が分からず首を傾げる。
「ブルーメール家がフランスの海の貴族なら、トワイライト家もイギリスの海の貴族。いわゆる不倶戴天の敵なのさ」
そう言ってグラン・マがグリシーヌの突然の行動を説明する。
そして残念そうに付け加えた
「トワイライトのお嬢さんならアタシも多少は知ってるけど、今は忙しく動き回ってるよ。アタシも会ったことがあるけど……グリシーヌもこの調子だからねぇ。
グラン・マに言われて、なずなも思い出す。
彼女が帝国華撃団を退団し、故郷に帰ったのは目指す目的があったからだと聞いていたのだ。
「でも、他にってなると……欧州、ですよね…………」
帝国華撃団の欧州出身者となるとさっき家の名前が出たフランス出身のアイリス。
そして、なずなが他に知っているのは花組の先輩であるレニや織姫──
「そういえば、レニさんや織姫さん以外の元欧州星組の方とか、いないんですか?」
「星、組……ですか? なんです、それ?」
聞き慣れない単語に、エリカが首を傾げた。
他の一同もピンときていない様子だったが、さすがに司令のグラン・マだけは分かったようで、露骨に顔をしかめた。
「なずな、帝都はともかく
「そ、そうだったんですか? スミマセン…………」
口に手をあてて驚くなずな。
そして、事態が把握できていない者達を代表するように、グリシーヌがグラン・マに尋ねた。
「グラン・マ、その欧州星組というのは?」
「かつて……それこそ帝国華撃団よりも前に、ここ欧州で計画があった華撃団構想だよ。その霊子甲冑を武器に戦う部隊が星組で、霊子甲冑はドイツ製のアイゼンクライトが採用されていたんだけど……解散したのさ」
「……解散ですか? なにがあったのでしょうか?」
花火が疑問を投げるが、グラン・マは首を横に振った。
「アタシは詳しい内容は知らないよ。いや、今や知っている者はごく少数なはずさ。ともかく、そういった経緯で本格的に組織されて動く前に計画は立ち消えになっているんだよ」
「その星組のメンバーだったのが、帝国華撃団のレニさんと織姫さんなんです。ですから、他にメンバーがいたのなら、その人をスカウトしたらって思いまして……」
「おお、良い考えではないか! でかしたぞ、なずな。グラン・マ、さっそくその者を調査して勧誘を──」
喜ぶグリシーヌに対し、グラン・マは沈痛そうな面もちで首を横に振った。
「言ったろ? 星組に関しては、欧州では
欧州星組がどうして解散になったか、という原因さえも徹底的な情報規制によって定かではないほどだ。
「加入そのものは不可能じゃあないが、容易でもない。できれば避けたいことだし、できない事情もあってね……」
そう言ってグラン・マは疲れたような顔でため息をついた。
「当時の星組隊員は五人。だからあと三人居ることになる……アタシも探しはしたんだけどなかなか消息が分からないんだよ。一人は九条
そう言ってグラン・マはため息をつく。
欧州星組は資料が厳重に隠されているのでなかなか情報がつかめない。
その九条 昴という者に関しては国籍と名前こそわかったものの、性別さえ定かではないのである。
「残りはラチェット=アルタイルともう一人……その最後の一人に至っては名前も国籍もさっぱり分からないほどだから、追いようがない。お手上げってわけさ」
その言葉通り、思わず両手を挙げる。
「──あれ? でもそのラチェットっていう人は行方がわからないって言いませんでしたけど?」
それに気がついたエリカが尋ねると、グラン・マは苦笑した。
「妙なところで鋭いねぇ。彼女については消息がわかっているから、アタシも接触したんだけど……残念ながら、先約があってフられたのさ」
「……先約?」
首を傾げる皆に、グラン・マは少し呆れた様子で説明する。
「米国にいた彼女は、最近になってレニや織姫と同じように帝国華撃団に入隊したそうだよ」
「──え?」
その言葉を聞いて一番驚いたのは、帝国華撃団からやってきたなずなであった。
【よもやま話】
メンバー候補に挙がったアカシア=トワイライトは前作の『ゆめまぼろしのごとくなり2』に登場するヒロインの一人です。
彼女がどういう者なのか、詳しく知りたい方はそちらを(以下略)
ところで、グリシーヌ以外にその名前にもう一人反応している人がいましたけど、何故なんでしょうか。
ちなみに星組最後の一人は、本当に不明です。