サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 ケントと別れ、一度、シャノワールへと戻ったなずな達は、再び新隊員候補を探すべく巴里の街へと繰り出していた。

 その出発前にコクリコが──

 

「ゴメン、今日はサーカスで外せない用事があって……」

 

 そう言って申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「それは仕方あるまい。こちらはしっかりと探してくるから、後顧の憂い無く、役目を果たしてくるがよい」

 

 彼女から悲しそうに謝られたら、グリシーヌや他の皆も送り出さざるをえない。

 すると、すかさずロベリアが──

 

「アタシもパスするよ。いやぁ、外せない用事があってねぇ」

 

 そう言ってわざとらしく笑みを浮かべたので、グリシーヌが止めた。

 

「待て。それは偽りであろう」

「あ? なんでそんなことが言い切れるのさ? アタシにだって外せない用事の一つや二つ、あるに決まっているだろう?」

「たとえあったとしても、ロクな用事ではあるまい! どんな悪巧みをすることやら……」

「そんなわけないだろ? バレるような悪事をやったら、刑期が増えるか、それこそまた牢獄行きになるじゃあないか。そんなこと、冗談じゃないさ」

「では、バレない悪事をたくらんでいるのであろう」

「悪事がバレなければ、それは悪事じゃないんじゃないのかねぇ」

「……ッ!! 語るに落ちたな!! やはり強引にでも連れていって監視せねば──」

 

 皮肉気に笑みを浮かべたロベリアに、グリシーヌがカッとなって声を荒げた。

 

「あの、そこまでみんなで行かなくても、いいんじゃないですか…ね?」

 

 キリがないと思ったなずながおずおずと言い出すと、急にロベリアが肩に手を回して、そのまま頭をロックする。

 

「いいこと言うじゃあないか、新人! では、そういうわけでアタシは抜けさせてもらうよ」

「待て、ロベリア!! 勝手な真似は──」

 

 グリシーヌがあわてて呼び止めるが、ロベリアはあっという間に姿を消していた。

 それに唖然としていたグリシーヌだったが、気を取り直し──そしてなずなを睨む。

 

「なずな、甘すぎるぞ。ロベリアにあんなことを言えば──」

「あっという間に逃げてしまうでしょうね」

 

 そう言って花火が苦笑を浮かべている。

 

「でも、なずなさんのおっしゃるとおり、わたし達4人いれば、大丈夫ですよ!」

 

 エリカがフォローして拳をぐっと握りしめ──

 

「みなさん、がんばりましょう! えい、えい、おー!!」

 

 一人拳を突き上げるのを、グリシーヌ、花火、そしてなずなの3人は黙ってみているしかなかった。

 そうして、4人は街に繰り出したのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そうやって、測定器を手に街に出てしばらくたったとき──初めて機械に反応があった。

 

「──え!?」

 

 思わず、音を出す機械を二度見してしまうなずな。

 

「おやおや……反応ですか? いったい誰でしょうか……」

 

 駆け寄ったエリカが興味深げに機械と道行く人を交互に見る。

 

「ええ、あの方……では、ないでしょうか?」

 

 そう言って花火がこっそり指したのは──道ばたに座り込んでいる、汚れた風体の少年だった。

 その姿を見て──

 

「ん? んん?」

 

 思わず眉をひそめるなずな。

 風体が汚らしいから眉をひそめたわけではなかった。

 その顔に、見覚えがあったのだ。

 

「あれ? あの人って、ひょっとして……」

「うん? なんだ、なずな。知り合いなのか?」

 

 そう尋ねたグリシーヌだったが、眉をひそめていた。

 さすがに身なりがよろしくないので、その表情が「こういった輩とのつきあいは感心しないな」と言外に語っていた。

 

「違います。でも知っているというか……ほら、エリカさん」

「なんでしょうか? わたしにも見覚えないですけど……ひょっとして炊き出しにきていた人でしょうか?」」

「それはあたしが逆に分からないってば。ほら、コクリコが追いかけて、ケントくんが捕まえてくれた、あの人じゃない?」

「ああ、確かに……あのときの泥棒さんですね!」

「──なにっ!?」

 

 エリカの発言に、グリシーヌが眉をひそめた。

 彼女も、なずなが初めて巴里に来た日のことを聞いていて、そういうことがあったのは聞いていた。

 

「さすがに盗人を働くものを華撃団に入れるわけにはいかんぞ!」

「でも、ロベリアさんは?」

 

 憤然と言い放ったグリシーヌに、なずなが思わずツッコんでしまった。

 新人である彼女は、ロベリア入隊のことをそこまで詳しく把握しているわけではないのだ。

 

「あれは例外中の例外だ!! いくらなんでもそんな例外を何人も認めるわけにはいかん!!」

「そ、それはそうですよね……」

 

 案の定、さらにグリシーヌが声をあげ、怒られた形になったなずなは思わず首をすくめる。

 しかし──

 

「でも、エリカさんが──」

「「え?」」

 

 花火の言葉にグリシーヌとなずなが振り向くと、彼女はそっと指を指している。

 そちらへ二人が視線を動かすと──すでに少年にエリカが声をかけていた。

 

「こんにちは! ちょっと、よろしいですか!?」

「な──ッ!? ちょ、ちょっと待て、エリカ!!」

 

 あわててグリシーヌが駆け寄るが、時すでに遅し。エリカと少年は話を始めていた。

 

「実は、わたし達、あなたをスカウトしたいと思いまして……」

「あ? いきなり何なの? いったい何が目的なわけ?」

 

 さすがに突然な話過ぎる上にわけがわからず警戒する少年。

 だが、もちろんそれで怯むエリカではない。

 

「目的はズバリ! この巴里の街を守ることです!!」

 

 ビシッと街並みを指さすエリカ。

 

「は? なにそれ? 意味が分からない」

「えっとですね……この街を守るのに特別な力が必要なんですが……なんと、あなたはその力を持っているみたいなんですよ」

「──へ?」

 

 エリカの説明は漠然としたものであったが、“特別な力がある”という話は、少年にとっては興味深い話であった。

 

「オレが、特別な力を?」

「そうです、そうなんです。その力を私たちに貸して欲しいかな~なんて思っちゃいまして……その力を、私たちと是非とも生かしましょう!!」

「はぁ…………」

 

 しかしやっぱり漠然とした話は訳が分からない。

 とはいえ無理もない話でもある。エリカが説明下手というのもあるが、なにしろ今の段階で、入隊できるかどうかも分からない人を相手に、全てを馬鹿正直に説明するわけにはいかないのだから。

 話せないことが余りに多すぎるという制限の中で、エリカなりにがんばった。

 がんばったのだが──やはり説明不足は否めない。

 少年は不機嫌そうに頭をガシガシと掻きながら──

 

「で? 金はいくらくれるの?」

 

 内容もそこそこに、金の話を始めた。

 それにはさすがに戸惑うエリカ。

 

「……え? 報酬、ですか?」

「当たり前だろ? 働かせようっていうんだから。で、いくら払ってくれるのさ?」

「そ、それはですね……」

 

 指を体の前で合わせつつ、どうにかごまかせないかと困るエリカ。

 確かに無償ではないが、かといって報酬額まで決める権限はもちろんエリカにはない。

 

「金次第では、手伝ってやっても──」

「もういい、やめろ。エリカ」

 

 そこで話を遮るように、スッとグリシーヌがエリカと少年の間に入った。

 突然の乱入者に少年は眉をひそめる。

 

「は? アンタ誰さ? 今、この人とオレがしゃべってんだろ?」

「その話について、もういいと言ったのだ。キサマはこの話とは無縁の者だ。時間をとらせてすまなかったな」

「なに? 後から来て、いきなり何なわけ?」

 

 話を遮られた少年は、剣呑な空気をまとう。

 なにしろ金を稼げそうな話なのだ。それを勝手に打ち切られるのは、飢えている者に一瞬だけ美味しそうな肉を見せて隠すようなものである。

 

「オレの力が必要なんだろ? なら──」

「金の亡者のような者がこの街を守る使命を果たすことはできぬだろう」

「なッ──」

 

 そう悪し様に言われれば、少年とて黙ってはいられない。

 激高し、グリシーヌに食ってかかろうとするが──

 

「我々の役目は命がけだ。キサマは、自分の命をいくらで売ろうというのだ?」

「そ、それは……」

「それに、金で自分の命を売るような人間は金で裏切る。申し訳ないが、キサマを信用できん」

「──ッ!!」

 

 グリシーヌにピシャリと言われ、少年はなにも言えなかった。

 しかし、その肩がわなわなと震える。

 

「ウルせぇよ!! 自分の力で金を稼いでなにが悪いんだよ!! 力さえあれば、金を手に入れられる。それが悪いことなのかよ!!」

「──ッ、キサマ……」

 

 グリシーヌが少年を睨む。

 が──今度はさっきとは逆にエリカがスッと間に入った。

 

「そんなことありません。自分の力でお金を稼ぐというのは真っ当なことです」

 

 それが法律に触れない限り、という前提の上で、だが。

 

「その力で人を助けるのが、わたし達の使命なんです。それに共感できないのであれば──」

「ああ、ああ、こっちからお断りだ! 人を助ける? 使命? そんなもの知ったことか! こっちこそ助けてもらいたいくらいだからなッ!!」

 

 噛みつかんばかりの勢いで、エリカに言い返す。

 その剣幕に、思わず目を閉じたエリカだったが、再びそれを開いたときには、少年はすでに離れた場所へと走っていた。

 

「あ……」

 

 思わず手を伸ばしかけるが──

 

「エリカ……」

 

 グリシーヌがそれを止め、首を横に振る。

 

「我々は、商売をやるわけではないのだ。そしてボランティアをやるわけでもない。体を張り、命を懸け、この街を守るのが使命なのだ。その志が無い者は、巴里華撃団に入れるわけにはいかない」

「グリシーヌさん……」

 

 残念そうな顔をするエリカだったが、それは彼女も理解していた。

 ただ、根っからの性善説で生きているエリカは、話せば分かってもらえると思ったからこそ、その少年にも芽があると思ったのだが……

 

「……仕方ありませんよ。縁がなかったのですから、次の方を探しましょう」

「そうね。花火さんの言うとおりです。それに全然反応がないから壊れてるんじゃないかと疑いかけてましたけど、ちゃんと動いてるのが証明されましたから」

 

 やはり残念そうな花火の言葉になずなが同調する。

 その言葉にエリカが素直に、グリシーヌが苦笑混じりに笑みを浮かべた。

 

「ええ。そうですよね、なずなさん! 壊れていないのならいつか見つかるはずですもんね! がんばっていきましょう」

「うむ、その通りだな……と言いたいが、そんなに時間をかけるわけにもいかんのだぞ? それを忘れぬように」 

 

 グリシーヌの言葉に花火となずなが思わず笑う。

 そうして和やかになった空気の中、4人は再び巴里の街を歩き回ったのだが──その後、機械が反応することはなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──そして、

 

「クソ! なんなんだ、アイツら! 人をバカにして……」

 

 少年は悪態をつきながら、道を歩いていた。

 羊飼いの家を飛び出した彼だったが、路銀はつき、しかし仕事はない。

 彼は盗みをやったりして食いつないでいるような有様だった。

 そこに降ってわいたような、儲け話だったのだが──それは少年の手からスルリと抜けていった。

 たしかに胡散臭い話ではあったが、それでも藁にもすがる程に溺れているような少年にとっては一筋の光明でさえあったのに──

 

「クソがッ!!」

 

 路地裏に入った彼は、転がっていたバケツを蹴飛ばす。

 それがガランガランと大きな音をたてて転がり──

 

 

「やっと、見つけた」

 

 

 ──そのバケツが転がった先には、白黒(モノクロ)に染まった仮面と服を身につけた道化師がいた。

 




【よもやま話】
 スリの少年再登場。実は霊力があったのですが……残念ながら隊員にはなりません。

 ……だって、男だし。(ぇ

 無論そんなわけもなく、きちんとした理由があります。(霊力についても)
 それにしてもロベリアが大丈夫なのに、コイツを撥ねる理由を見つけるのは、なかなか大変でしたよ。
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