サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
一方、なずなの検索を終えたケントは、シャノワールへと戻ってきた。
グラン・マからの探索指示だったが、見つかったのだし、あまり外を用もなくウロウロしていても仕方がないからだ。
そもそも本来の仕事は運転手。ケントがいないことでグラン・マの外出に弊害が出ては本末転倒である。
「もう見つかったのですか?」
ケントを見るや訝しがるように尋ねてきたのは、メイド服姿のグラン・マの秘書──メル=レゾンだった。
彼女はケントがグラン・マからなずなを探すように言われるのを直接見ていた。
「ええ、おかげさまで。意外と簡単に見つかりまして……」
「そうですか。なによりです」
ケントの答えにメルは手短にそう答えて、そのまま視線を手元の書類へと戻してしまった。
そんな素っ気ない反応に、つい苦笑を浮かべてしまう。
(さて……)
このままでは、また針の
(自分の居場所が欲しくてこの国に来たんだ。少なくとも、こんな空気の場所を自分の居場所にしたくはないからね……)
悩むなずなと話をして、ケントも考えを変えていた。
彼女が羨ましかったからだ。
聞けば、初めてケントと出会ったとき──あの泥棒を捕まえた日──こそ、この巴里という街に来た日だそうだ。
にも関わらず、彼女には自分の居場所がある。必要とされ、助けてくれる仲間がいる。
ケントはその三ヶ月も前にこの街に来たというのに、関わり合ったのは叔父のクレセント卿くらいだ。それ以外はその娘のローラや使用人も含めたクレセント家の人々である。
(ただ身内に囲まれているだけで、居場所だなんて言えるわけがない)
そんなときに、クレセント卿から紹介された職場が、ここである。
だからこそ、“ここ”を自分の居場所にしたいのだ。
(なずなさんに、負けていられませんからね)
ケントは意を決し──淡々と仕事をするメルを見ながら、シャノワールに帰ってきたときのことを思い出した。
「ケントくん、ケントくん、ちょっといいかな?」
シャノワールに戻って、売店の前を通りすぎようとしたケントはシー=カプリスに呼び止められていた。
「シーさん? なんでしょうか?」
「さっき、メルの手伝いを申し出てくれてありがとうね」
笑顔を浮かべたシーは、ケントに頭を下げた。
「いえ、お礼を言われるほどのことじゃありません。それに……断られてしまいましたし」
ケントが言うと、シーは我が意を得たりとばかりにズイッと詰め寄った。
「そう! そうなのよ、ケントくん!!」
「は、はい!?」
「さっき、ケントくんは引き下がっちゃったじゃない? メルに断られて……」
「え、ええ、それは、まぁ……」
気まずくなって思わず目をそらすケント。
それにシーはさらに詰め寄る。
「ダメよ、それじゃあ!!」
「なッ──!?」
興奮の余り、シーは自分がかなり詰め寄っていることに気がついていない様子だった。
(シーさん、近い。顔が近いですってば……)
間近に迫った彼女の顔に、ケントは思わず困惑し赤面する。
そんなケントの様子を気にすることもなく、シーは人差し指を立てて、ケントにさらに詰め寄る。
「いい? メルってば人見知りが激しいし、それになんでも自分で抱え込もうとしちゃうの。だから、さっきのケントくんみたいな言い方だと、大丈夫って断っちゃうんだから……」
「……そうなんですか?」
「そう! それに一度断られたからって、簡単に諦めちゃダメ!」
「そうは言いますけど……」
ケントはあのときのことを思い出す。
メルとの心の距離は遠く、避けられているというのに、一度断られたのに「いやいや手伝いますよ?」と言うのは、ちょっとハードルが高かった。
それがシーのような人懐っこく人付き合いの上手な人ならできるのだろうが、あいにくケントはそうではない。
その混血による欧米人離れした風貌──特に漆黒の髪を意識しすぎて今まで育った結果、他人の目を恐れるくらいにコミュ障にはなっていたのである。
会話することには支障はないが、人との距離の取り方を苦手に感じるほどには、人付き合いが不得手であった。
「じゃあ、メルの方から「お願いします」って言ってくるのを待ってるつもりだったの? そういうの、指示待ち人間って言われて社会じゃよく思われないんだからね?」
「はぁ……」
イマイチ、ピンとこない話ではあったが、さすがに社会でよく思われないというのはマズいと思った。
自分の居場所を探している、というのをなずなに話したばかりであるし、ここでの居場所を失いかねない。
さらに言えば、ここを紹介してくれた叔父の顔をつぶすことにもなりかねない。
「わ、わかりました。次からは、積極的にメルさんを手伝いたいと思います」
「次から~? ダメダメ! そんなんじゃ、変わらないじゃない。今からよ! い・ま・か・ら!!」
ケントの精一杯の返事に対し、不満げにプンスカと怒るシー。
再び詰め寄られて赤面する女性に不慣れなケントは、「わかりました。わかりましたから……」とシーをどうにかなだめて、自分の待機場所であり、メルのいる部屋へと向かうのだった。
【よもやま話】
そんなわけでシーのお節介パート2。
今回は、ケントが直前になずなが立ち直る姿を見ているので頑張る気になってます。