サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
──1──
エッフェル塔での騒動よりも3ヶ月ほど前のこと──
人生というのは出会いと別れの連続である、とは誰の言葉であったか。
その出会いと別れの場こそ街であり、それが数多く交錯するのが都市である。
多くの人生が交わり、離れ──また別の人生とぶつかる。
それがエネルギー……活気を呼び、都市の活力となる。
そんな出会いと別れが集まる場所──まさに都市の心臓のような場所の一つが、交通の大動脈が集まるターミナル駅である。
「行っちゃいましたね……」
「ああ、行ってしまったな……」
「すごく寂しいけど、でも……」
「ま、アイツにはアイツの道があるってことだろ……」
「ええ、私達にもそれがあるように、ですね……」
去りゆく汽車を、5人の娘が見送っていた。
一人は赤い修道服の少女。いつもの底抜けな明るさは、さすがに今日はなりを潜めていた。
その隣の、緩やかに波打つ長い金髪をした青い服を娘はいつまでもその汽車から目を離そうとしない。
小柄で茶色い髪を頭の両脇でまとめた、アジア系の顔立ち少女は無理に笑顔を浮かべようとしたのか、苦笑気味のそれになってしまっている。
そして眼鏡をかけた白い髪の女は、人混みを気にして一度舌打ちをして、用事は終わったとばかりに踵を返そうとしていた。彼の姿をその胸の奥に焼き付けた以上、ここに長居する理由はない。
最後の一人、肩付近までの長さの黒髪の娘は、自分に生きる意味と希望を与えてくれた存在が去っていく喪失感に襲われながらも、再び会う希望を胸に遠ざかる汽車を毅然と眺めていた。
奇しくもその日──この巴里を守った英雄が、祖国へと旅立っていった。
大神一郎。巴里華撃団花組の隊長だったものであり──そしてまた、日本の帝国華撃団花組の隊長でもある。
期限付きの留学であった彼はその期間が終了して祖国へと帰ったのである。
そして彼がもたらしたものは、巴里の平和であり──巴里華撃団花組のメンバーであるエリカ、グリシーヌ、コクリコ、ロベリア、花火達が抱いた想いでもあった。
彼女達が送り出した彼を乗せた汽車は巴里を去り──とある列車とすれ違う。
その列車にはとある男性が乗っていた。
一瞬にも満たないようなごく短い時間だけ、場所的に接触した彼だったが──まるで伸びた糸に絡まるように、大神と縁を結んだ巴里華撃団と、彼の人生が絡んでいく。
そしてそれは、大神の代わりとしてやってくる女性をも巻き込んでいくことになるのだが──この時点では、誰も知る由もない。
もちろんそれが、大神と同じく西洋では特徴的である真っ黒い髪をした当事者本人であっても。
彼は目を閉じ、夢を見ていた。
それは過去に起こったことの回想で──
幼かった彼と、今は亡き母との大切な夢だった。
「──ッ」
夢から覚めたそのとき、彼はビクッと体を振るわせていた。
懐かしき思い出だったが、故人となった母を思えば、今では悲しくさえある思い出でもあった。
少年は成長してその背丈はすっかり伸びた。今なら間違いなく母を越しているし、体だけではなく、母の言いつけを守って心も強く成長した。
「だから……決して、逃げたわけじゃないんだよ、母さん」
母なら分かってくれる、その確信はあったがなんとなく言い訳じみた言葉が口から漏れていた。
車窓から見上げる空は青く、高い。
その色は──当たり前のことながら──間もなく到着する巴里も、この旅の始発点であった
「──ん?」
視線を車窓外から車内へ戻した彼は、ふと気が付く。
自分の足下に一枚の紙が落ちていた。
角がとれた長方形の、手のひらサイズの一枚の紙には、その表面に幾何学模様が描かれている。
「なんだろう……」
それが妙に気になった彼は拾い上げ、そのカードを見ると裏には絵柄がかかれていた。
上下対称で、どちらが上でも下でも関係ない絵柄。そこにはある程度図柄化された、武器を持った若者が描かれており、まるで──どころかそのものズバリ、トランプに描かれているような絵であった。
それを証明するように、カードの端にはクラブの模様が描かれている。
ただし──
「V?
クラブの横に書かれた文字は“V”の文字。
そのことから彼はこのカードがトランプの絵札ではないと判断した。なにかの宣伝用か、はたまた文字が変わったと披露する手品用か。何に使われるものかさっぱり分からなかった。
だが、何の気なしに拾ったそれを、ケントは鞄のポケットへと仕舞った。
駅に着いたら届けるなりなんなりすればいいし──そもそもこんな出来損ないのような絵札一枚を無くしたと、わざわざ騒ぐ者もいないだろう。
ただ、もしそれがトランプのような、多数のカードのセットの中の一つだとしたら、それ一つが無くなるだけで困ることになるだろう。
彼は降りるまでの間だけでも、探している者が現れたら渡してあげようと思い、その絵札を保護したのであった。
──そして結果的には、その絵札を探す者は現れず、ケントもすっかりその存在を忘れて、終点に停車した汽車を降りた。
【よもやま話】
実は夢のシーンもあったのですが、それを後ろの2話に飛ばしたせいでかなり短いシーンになってしまいました。
ここまで入れて序章でもよかったかもしれません。