サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──14──

 メルを探しに走ったケントは、蒸気獣の稼働する音が近くで聞こえたので、そちらへと走っていた。

 もしも蒸気獣がいれば様子をうかがい、メルが近くにいないか探し、彼女の安全を確かめよう、という考えであった。

 そしてそれは、見事に裏切られることとなった。

 

「──あれは!!」

 その光景に愕然とした。

 メルのすぐ近くにまで迫った蒸気獣ポーン。

 それに威圧されて身動きをとれなくなった彼女。

 そんな彼女に向かって、ポーンは手にした巨大な剣を振り上げ──

 ケントは危機を感じると共に、願った。

 その絶望的な状況から彼女をどうにかして助けたい、と。

 そして──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──気がつけば、ケントは見知らぬ場所に立っていた。

 

 見渡す限り青一色。

 晴れ渡った青い空と、広大な凪いだ水面はどちらも明るい水色で水平線と空の境界が定かでないほど。

 そして、見渡す限りはその水平線であり──水面以外になにもない空間であった。

 その水面の上に、ケントは立っていた。

 不思議なことに沈むことなく、足は水面よりも数センチ沈むくらいでしっかりと踏みしめることができている。

 

「こ、ここは……」

 

 突然に切り替わった光景。

 そしてその光景の異様さに、ケントは呆気にとられ──

 

「──貴公は、なにを望む?」

 

 目の前に、青く輝く西洋鎧をまとった者が突然現れていた。

 頭部を覆い隠すその兜で顔こそ見えないが、声から男性とわかる。

 

「いつのまに……」

 

 呆然としているケントに、その甲冑姿の者は再度問いを繰り返した。

 

「なぜ、彼女を助けたいと願う?」

「命を守ることに、理由なんて必要ですか!?」

 

 その答えは反射的に出ていた。

 なぜなら“弱者を助けなければならない”という考えは、ケントが生まれてから教えられてきたものであり、その身に染み着いたものであった。

 しかし──目の前の甲冑姿の騎士はそれに満足しなかった。

 

「ふむ。確かにその通りだが、面白味に欠ける答えだ。私はキミの本音が聞きたいのだよ」

「本音……?」

 

 彼女──メルを助けるのは、命の危機が迫る彼女を助けたいと願うのは至極当然のことで、当たり前なはずだ。

 無論、ケントの嘘偽りのない本音である。

 

「彼女を助けたいと強く願う、その根元はなんだ? 今の気持ちは義務だけで生まれるようなものではないはずだ」

 

 騎士の言葉でケントは考えを巡らせる。

 メルを助けたとと思うのは、彼女に恩を返したいからだ。彼女が囮になってくれたからこそ、グラン・マと自分は安全な場所まで逃げることができた。

 そしてその勇気に憧れた。

 自分もかく在りあいと願った。それこそ自分が思い描く騎士の姿だからだ。

 

(それだけじゃない……)

 

 そう思ったケントの頭の中に「メルを助けてあげて」というシーの声が響く。

 親友を気遣う彼女の心にうたれたからこそ、彼女を守るために探しに行ったのだ。

 そして──グラン・マの密かな願い。

 あの状況下で絶望的になったメルを、それでもどうにか助けたいと心の奥底で思っていたグラン・マの期待に応えたい。

 それらがケントの中で一つとなり──結論を導き出す。

 

「……居場所が、欲しいから」

 

 自分勝手な欲であることを恥じて遠慮がちにはなったが、それでもハッキリと言い放った。

 それを言い出してしまえば、あとは自然とついてくる。

 

「仲間と言える者達を守り、支え合う。誰かが必要とすればその求めに応じ、誰かが助けを求めれば馳せ参じて共に困難に立ち向かい、怒りも喜びも悲しみも楽しみも仲間と分かちあえる……そんな場所を得るために、今の居場所がそうなって欲しいと願うからこそ──」

 

 ケントは、その騎士にありったけの強さで思いの丈を述べた。

 

「──だからこそ、彼女を、助けたい!!」

 

 そのケントの心を込めた一言で──景色が一変する。

 浅くさえ感じられる水色の水面は底が見えない紺碧へと色を変え、何もなかった周囲には突如現れた森林によって覆われている。

 原生林の中の深き湖沼といった場面へと突然変貌していた。

 まるで建前という表層から、本音という心の奥底へと至ったのを表すようでもあった。

 それが起こったものの、相変わらず足が水面から沈むことはなく、ケントもなぜかその変化を受け入れていた。

 なぜなら──

 

「その心、認めよう。そして、我が力……存分に振るうがいい!」

 

 眼前に立つ青い鎧の騎士が言い放ち、圧倒的な力が自分へと流れ込んできたからである。

 

「くっ──」

 

 その奔流に気圧されながらも、力は確かにケントへと注ぎ込まれている。

 それが終わり、負荷に耐えかねて片膝を付いたケントは、目の前の水面から装飾が付いた棒が出ているのに気が付いた。

 その棒の長さはそれほどでもなく、拳二つを縦に並べて余る程度──まるで剣の柄であった。

 ケントは思わずそれに手を伸ばして握りしめる。

 

「そして……抜きたまえ、少年よ!! 我が愛剣を!! 湖泉の精霊が鍛えし聖剣──」

 

 その言葉に従って、まるで深く深く水面下に刺さったような剣を上へと引き抜いていく。

 湖面に現れていく刀身は、清らかかつ圧倒的な水気(すいき)によって青く輝いている。

 

「騎士の中の騎士たる我の──清廉さの奥に強き思いを秘めた、我が存在の象徴でもいうべき剣──アロンダイトを!!」

 

 そしてそれを──ケントはついに抜き放ち、切っ先まで全ての姿が露わになった。

 その透き通るような美しさを目の当たりにして心奪われ──ケントの意識は遠のいていった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「────ッ!!」

 

 気が付けば、そのときから一瞬たりとも時間が進んでいなかった。

 ポーンが剣を振り上げ、その傍らでメルが恐怖で身を固くしている。

 

「助けないと──」

 

 ケントが一歩、足を踏み出すと──

 

「これは……」

 

 まるで水面に波紋が広がるように、なんらかの力が広がっていくのが分かった。

 そしてそれはまるでスローモーションのようにじんわりと広がっていき──その中で、ポーンの動きもひどく遅くなっているように感じられた。

 そのままつま先に力を入れて、地面を蹴る。

 驚くほどの速さで自分の体が前へと押し出された。

 

「なッ──!!」

 

 続いて逆の足で地面を蹴り──地面に波紋が生まれる。

 それを駆け足として繰り返し、まるで飛び立つ水鳥が地面を走るときのように連続で波紋が浮かび──ケントは常人離れした速度へと至り、ほぼ一瞬でメルへと至っていた。

 迫る剣から庇うように、まるで抱き抱えるように飛びついて剣の軌道から避けると──そのまま手を彼女の肩へと回し、反対の腕で彼女の膝裏を自然と抱えていた。

 そして……いつの間にか、スローモーションは解消され、ポーンが振り下ろした剣が地面を叩いていた。

 しかしすでにその時には、メルをお姫様抱っこで抱えたケントはそこから離れた場所で立っていた。

 固く目を閉じていたメルが、恐る恐る目を開き──それに気づいたケントと至近距離で目が合う。

 

「大丈夫ですか? メルさん」

「……ケント、さん?」

 

 感情表現が小さな彼女であってもわかる、驚いたようなその目は見開かれ──ケントの姿をあらためて確認すると、彼女の顔が急に赤くなった。

 

「な、なんですか、これ!? この状況、いったい何がどうなって……」

「お、落ち着いてください」

 

 メルが慌てたせいでバランスをとるのが難しくなり、焦るケント。

 

「大丈夫ですか? 怪我、してませんよね?」

 

 そう言って確かめてからメルの足を地面に付け、そして立たせる。

 戸惑いながらもそれに従順に従ったメルはケントを再度まじまじと見つめた。

 

「あの、これは……」

「えっと……」

 

 状況の説明を求められ、焦るケントだったが──そこへ、渾身の一撃を避けられ、対象が突然消えて戸惑い、それを探して見つけたポーンが迫る。

 それは憤激し、ガチャガチャと稼働音を響かせながらやってきていた。

 その迫力に、思わず身をすくませるメル。

 それにケントは──

 

「──心配いりません!」

 

 腰に帯びていた剣を抜き放つ。

 それも含めて体が自然と動いていた。

 剣を両手で把持し、そこへ──力を込めるイメージ。

 すると刀身が真っ青に光る。

 それは先ほどの不思議な空間でケントが抜き放った剣と同じようであり──

 

「湖泉の聖剣アロンダイトよッ!!」

 

 その名を叫びつつ、青い光を帯びたその剣をポーンへと叩きつけた。

 それは聖剣の名に恥じぬ見事な切れ味を見せつけ──

 

「────ッ!!」

 

 声の出せぬポーンは、断末魔の叫びをあげることもできずに縦一文字に真っ二つに切り裂かれていた。

 その剣の軌跡に沿うように、霊力の残滓がまるで水しぶきのように飛び散る。

 

 

 ──もし、ここに、あのとき見た者がいれば同じ印象を抱いたであろう。

 かつて帝都の桜舞う上野公園で一刀両断にされた怪蒸気・脇侍のようであると。

 




【よもやま話】
 ケント、覚醒の話。
 出てきた騎士は剣の名前がアロンダイトですから、その持ち主の有名なあの英雄です。
 その力を授かったのですが……なんで、とかは後々判明しますので。書いてる人が忘れなければ。
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