サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 真っ二つに切り裂かれたポーンは、そのままガラクタとなり果てた。

 それをやってのけたケントは、剣を振り下ろした姿勢のままで、肩を上下に揺らしながら荒い呼吸を繰り返している。

 

「……ケント、さん?」

 

 その光景を後ろから見ていたメルが、さすがに呆気にとられた様子で声をかける。

 にわかには信じられないことだった。

 ポーンを生身で、それも一人で撃破するというのは生半可なことではない。

 帝都に現れた魔操機兵同様に霊力が込められていない攻撃では効果が激減する蒸気獣。

 それを倒した以上、今の一撃にはかなり強い霊力が込められていたということになる。

 

(霊子甲冑もなしに蒸気獣を倒すなんて……)

 

 その事実にメルが驚いていると──

 

「……おどろいたね」

 

 ケントのものでもメルのものでもない、どこか中性的な声が周囲に響いた。

 その声に慌てて周囲に視線を巡らせる。

 そうやってメルが見ている中で、元蒸気獣の金属製ガタクタの側に人影が現れていた。

 その人物は興味深そうに、切り裂かれた装甲を見つめている。

 

「まさか、こんなに見事に斬られるなんて思っていなかったよ」

 

 そう言いながら振り返ったその姿を見て、メルは思わず息をのんだ。

 左右真ん中で白黒に分けて染められた道化師の服。

 それと白黒を正反対の位置にした仮面には赤で不気味な模様が描かれていた。

 

「やるじゃあないか、キミ。いやいやまったく、本当に予想外だよ、こんなこと」

 

 道化師はケントの方に顔を向けてそう言う。

 一方、ケントはそれに答えられるほどの余裕は無い。

 肩で息をしながらも、それでもメルを守るかのように一歩進み出て、その背に庇った。

 

(さすがに、あの一撃は繰り出す側の負担も大きい……)

 

 その様子を見ながらメルは思った。

 確かに今はメルの方が元気だろう。

 だが彼女の手には武器はないし、武術の心得もない。ケントよりも前に出ることはできなかった。

 そしてなによりも、道化師がケントにそ興味を持ち、メルには無関心だった。

 無論、ケントの精一杯な状況に気が付いているのだろう。

 剣を構えているにも関わらず、無造作に近づいてその様子をのぞき込むように伺っていた。

 

「でもまぁ、精一杯みたいだね」

「くッ……」

 

 ズバリ指摘されて、ケントは思わず顔をしかめる。

 口振りからすれば、蒸気獣ポーンをけしかけた側であり、おそらくは敵だ。

 ケントは、その敵に弱みを隠すことさえできないのを歯がゆく思っていた。

 だが──道化師は思いがけない言葉を言った。

 

「そんなキミのがんばりに免じて……特別に見逃してあげよう」

「え……?」

 

 思わず声を漏らしたのはケントではなくメルだった。

 その声に反応して、道化師は一度その仮面の被った顔をメルをチラッに向け──再びケントに戻す。

 

「生身でポーンを倒すなんて生半可なことじゃないからね。消耗するのも無理はない。そして……その力を覚醒させたお祝いさ」

 

 道化師はおどけたような身振りで、手をさしのべる。

 

「……まぁ、キミに関してはこのままにしておいた方が面白そうだし」

 

 そう付け加えた時に道化師は、一瞬だけ、再びメルへと顔を向けていた。

 そしてまだ明るい空を見上げるように、顔を上空へと向けた。

 

「なにより、別件で動いていたから準備ができていない……運がいいのか悪いのか、というところだよ」

 

 つぶやくように道化師は小声で言うや──言葉通りに身を翻して、メルとケントに背を向けた。

 一見、無防備に見えるその背中だが、ケントはそこへ攻撃はできなかった。

 その気配から油断していないのが感じられたし、もしも攻撃すれば戦いになる。

 今のケントにとって、その道化師が奇襲一撃で倒したり、勝てる相手とは思えなかったからだ。

 

「では……また会おう」

 

 そう言って恭しく霊をした道化師は空間に溶けるように、その姿を消す。

 消えた直後は底からの不意打ちを警戒して周囲の様子をうかがっていたが、数秒経っても現れる気配はなく──

 

「ふぅ……」

 

 メルはため息を付いた。

 とりあえずの危機は去った。

 

「メルさん、大丈夫で──」

 

 そう思ったときに、目の前で立っていた人が振り返りざまに──安堵したのか、意識を失ってメルめがけて倒れてきた。

 

「え? なッ!? ケントさんッ!?」

 

 そのまま、しなだれかかるようにメルの方へと倒れてくるのを、どうにか受け止める。

 

「ちょっと、ケントさ……ん!! やっぱり、意外と重い…………」

 

 人は力が抜けると重くなる。

 その上、少年とは言っても10代半ば。身長もあるし、やはり重い。

 そして、脱力した彼の姿勢は、気が付けば顔をメルの胸に埋めるようになってしまっていた。

 

「なッ──!?」

 

 焦る。

 あやうく彼を突き飛ばしそうになるが、そこは直前に命を助けてもらったことを思い出して体にブレーキがかかった。

 

「ど、どうにか早く地面に寝かせないと……」

 

 ゆっくりと地面に倒して、それから寝かせればいいと思いつく。

 そうやってメルが顔を赤くしながら、悪戦苦闘していると──すぐ近くでため息が聞こえた。

 

「まったく……人が一生懸命探して東奔西走していたら、こんなところで女性に手を出してイチャイチャしているとは。助手失格だよ、ケントくん」

 

 探偵風衣装を着た娘が腰に手をあてて立ち。プンスカと怒っているところだった。

 

「あ、あの……ローラさん? 手伝っていただけると……」

「なに? あなたとケントくんがイチャつくのをボクに手伝えと?」

「そうじゃありません! そもそもイチャついてなんていません!!」

「ふむ……しかし端から見ればその体勢はどう見ても抱き合っているようにしか──」

「違います!! いいからこっちに来て手伝ってください」

「しかし、人の恋路をじゃますると馬に蹴られると、帝都で教えられたものでね」

 

 焦り、そして怒るメルを、まるで煽るかのような受け答えをするローラ。

 それは周囲を探索していた他の密偵がやってくるまで続き、姿勢はそのままであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんな三人、いやケントだけをジッと見つめる影があった。

 

「お強い方、ですね……」

 

 それにローラ気が付かなかったのは、ケントが他の人に抱きついているのを目の当たりにして、平常心を失っていたせいかもしれない。




【よもやま話】
 道化師登場。
 このときの道化師はポーンをけしかけはしましたが、別件の通りがかりでした。
 そのときに見つけたので襲い掛かったわけですが……それでやる気があまりなかったというのも去った原因です。
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