サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──16──

 その事件は、現れたポーンが極めて少数だったこともあり、大きな騒動にはならなかった。

 現場封鎖もスムーズに行われていたので蒸気獣が現れたということさえ隠され、公には爆発事故として処理されたほどだった。

 その一方で、事件がここシャノワール──というよりも巴里華撃団──に与えた影響はけっして小さなものではなかった。

 そして、騒動の翌日のこと──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「……ま、目下のところの懸念事項が解決したのは、喜ばしい限りだけどね」

 

 集まった巴里華撃団花組の面々を前に、グラン・マはため息混じりに言った。

 集められた側としては事情がわからず、思わず首を傾げたくなる。

 

「状況はわからぬが……襲撃されたと聞いたが無事か、グラン・マ?」

「ああ。ありがとうよ、グリシーヌ。おかげさまでアタシは無事さ。まぁ、車は一台潰されてしまったけどねぇ」

 

 グリシーヌに礼を言い、苦笑を浮かべるグラン・マ。

 

「グラン・マ、先ほどのお言葉はどういう意味でしょうか?」

「ああ、花火。すまないね。今まで皆に頼んでいた霊力の高い者を探す件だけど、あれはもうやらなくてよくなったのを言いたかったのさ。ちょっと考え事をしながらだったから愚痴混じりみたいになってしまったけど」

「む? ということは、まさか……」

「新しい人が見つかったんですか? グラン・マ!!」

 

 グリシーヌとエリカが顔色を変える。

 それにグラン・マは大きくうなずいた。

 

「まだ候補、段階だけど……アレをやったと考えたら、逃したくはない逸材だよ」

「アレ? ……アレってなに?」

 

 コクリコが首を傾げたが、他の面々も疑問は同じだった。

 それにグラン・マは再びため息をついて説明を始めた。

 

「公になってはいないけど、アタシらを襲ったのは蒸気獣ポーンでね。そのポーンを見事に、それも生身で倒した人がいたのさ」

「すごいですねぇ」

「バカな! 生身で、か!?」

「そんなこと、できる人いるんだ?」

「へぇ、やるじゃないか……いったいどんなヤツなんだ?」

「かなりの武術の達人ではないでしょうか……」

 

 といった風にエリカ、グリシーヌ、コクリコ、ロベリア、花火がもてはやす中、花組の新人なずなはと言えば不思議そうな顔で──

 

「……それって珍しいことなんですか?」

 

 思わずそう言ってしまった。

 直後に、訝しがるような視線が集まったことで、自分がやってしまったことを自覚する。

 ともあれ、言ってしまったことは覆らない。

 

「蒸気獣には霊力が込められた攻撃以外は効果が薄いのは常識だろ?」

 

 ロベリアが呆れたような口調で言う。

 

「もちろん、それは知ってますけど……ポーンと同じような脇侍を、帝都にやってきたばかりの真宮寺さくらさんが刀で真っ二つにしたのは有名な話なもので……」

「まぁ……」

 

 苦笑混じりのなずなの話に、それを聞いた花火が心底驚いた様子で声をあげる。

 

「あとは、姉さん達とか……」

「姉さん? なずなのお姉ちゃんって何してる人なの?」

「帝国華撃団の霊能部隊、夢組にいるはずさ。そうだろ?」

 

 コクリコの問いにはグラン・マが答え、それになずなもうなずく。

 もっとも、風組の高村 椿から聞いた話では現在の姉はそうではないらしいのだが、それを言ったところで話が面倒になるだけなので省くことにした。

 

「はい。その同僚の、夢組の戦闘が得意な上位三人は、一対一で降魔を倒してたくらいですし……」

「降魔相手に生身だと!? 以前にやってきた帝国華撃団花組からその強さを話には聞いたことがあったが……」

「たしか、最初の霊子甲冑が壊れちゃうくらいに強かったんだよね?」

 

 グリシーヌとコクリコが驚き、信じられないという顔をする。

 

「ええ。その次の霊子甲冑ができるまでの間に花組の皆さんが修行に行ってしまったので、霊力のある夢組が対応することになったらしくて……」

 

 帝国華撃団夢組の任務の中には「霊子甲冑を使用しない程度の小規模霊障への対応」というのもあって、単独やごく少数の脇侍くらいであばそれに該当する。

 それを適用し、花組不在期間に散発的な活動しかしなかった降魔と戦ったのだ。

 そしてそれは非公式な話になっている。

 なずなが在籍していた養成機関でもまったく話を聞いたことがない。知っているのはなずなの姉や親友が夢組に在籍していたから。さらにはその三人の中の一人に武術の指導を受けたからである。

 そんな扱いになっているのは、ひとえに夢組隊長が「花組が不在時にこちらへ負担かけていたって知ったら、負い目を感じるでしょ?」と隠したからと言われている。

 しかし姉に言わせると「こんな無謀なことをしたなんて記録が残ってたら、夢組に入ろうなんて人がいなくなるからよ」ということらしい。

 

「まぁ、帝国華撃団が設立する前の、降魔戦争の時には霊子甲冑なんてなかったからねぇ。生身で戦うのが当たり前だったそうじゃないか」

 

 グラン・マが帝国華撃団司令の米田達が戦った陸軍対降魔部隊の話をして、さらに5人の顔が驚愕に染まった。

 

「まったく、帝都っていうのは恐ろしい街だな。生身でヤツらに挑むなんて……バカだからか?」

「そうしなければならない事情があったのだろう」

 

 ロベリアのつぶやきに答えながら、グリシーヌは帝都の先達のおかげで自分たちが恵まれた環境で戦えているというのを感じていた。

 

「……それで、新隊員さんって、どんな人なんですか?」

「ああ、話が脱線してしまっていたねぇ」

 

 エリカの言葉で、グラン・マが気を取り直す。

 それから「入っておいで」と室外に向かって声をかけた。

 そうやって顔を出したのは──

 

「ハッハッハ!! それは、美少女探偵であるこのボク──」

 

「ローラ、そういうのいいから、キチンと連れておいで」

「…………はい

 

 冷め切った目でグラン・マがツッコみ、悲しそうな顔をして引っ込むローラ。

 そうして彼女が連れ添いながら歩いてきたのは──黒髪碧眼の少年、ケントだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「あの……皆さんどうして集まってるんですか?」

 

 その部屋に集まった皆からの視線が集中し、一種異様な空気になっているところへ入ったケントは、困惑気味に言った。

 メルを庇った戦いで気を失ったケントは、そのままシャノワールへと搬送され、そこで一晩中、意識を失ったままで──今朝、それもつい先ほどになってやっと意識を取り戻した。

 その後、その場にいたローラに連れられて、グラン・マの執務室まで来たのだが、そこに巴里華撃団花組の6人が集まっていたのである。

 その間、説明もなく連れてこられたので、状況がまったくつかめていなかった。

 そんな彼に向けて──

 

「ちょっと失礼するよ、ケント」

 

 自分を連れてきたローラが、どこからともなく機械を取り出して手に持ち、それを向けてくる。

 その直後──機械は激しく反応し、「ピー」と音を立てていた。

 

「「「「「「あ……」」」」」」

 

 奇しくも6人の声が重なった。

 その声で彼女達を振り返れば、皆一様に驚いている様子。

 そして興味深そうにローラが手にした機械を覗き込んでいた。

 

「ちゃんと反応してるね」

「はい。間違いなく……」

「しかし……よもや、こんな近くに居たなど気が付くはずもない」

「やれやれ、今まで見当外れのことをしていたってワケだ……」

「とにかくとにかく、見つかってよかったですね~」

 

 口々にホッとした様子で言うが、もちろんケントには訳が分からない。

 

「でもなんで気が付かなかったの? グラン・マの運転手なんでしょう、彼?」

 

 そう言ってなずなが首を傾げると、ローラが解説した。

 

「それこそキミの国の言葉で言うところの“灯台もと暗し”というものだよ。シャノワールの従業員は以前、すでに計測済みとのことだったからわざわざ改めて測りはしなかったのさ」

 

 以前、パリシィ事件のさなかで人材発掘をしたときに、シャノワールやそれぞれの各関係者の霊力は調査済みだった。

 そしていずれも霊子甲冑を動かせるほどの霊力を持った者はいなかったという結果があり、だからこそ外部を探してコクリコやロベリア、花火をスカウトしたのだ。

 

「そして、ケントがグラン・マの下で働いているのは、我が父の紹介でね。だからクレセント家で調査済みだろうと思いこんでいたらしく、彼の調査が行われなかった、という事情がある」

 

 そう言ってローラは「やれやれ」と肩をすくめる。

 かくして本人への検査は行われず、周囲での検査も無く、ケントは見過ごされたのである。

 そして当の本人は──

 

「あの……なんですか、これ? たしか、皆さんがこれを持って街中に出てたみたいですけど……」

 

 訳が分からず、周囲の盛り上がりに付いていけなくて困惑したままだった。

 

「霊力の測定、そして霊子水晶との相性も含めた、霊子甲冑適正の測定器だよ。そしてケント、キミはその測定器に反応があった──」

 

 ローラは手にした測定器を、近くにいたエリカへと向ける。

 案の定、機械は反応して先ほどと同じ音を出していた。

 それから今度は改めて、自分自身へと向けると──

 

「──御覧の通り、適正の無い者には反応しない。自慢ではないが、ボクの霊力はけっして弱くはない。だが……相性が悪くて動かすことができないのだよ」

 

 ただの霊力測定器ではない、とローラは説明した。

 それを受けて、グラン・マが口を開く。

 

「つまりケント、アンタは霊子甲冑を動かすことができる希有な才能を持っているのさ。男でありながらね」

 

 一般的に、世の中では男性よりも女性の方が強い霊力を持っていると言われている。

 無論、男性の中でも強い霊力を持つ者はいるのだが、今度は霊子甲冑の中枢の部品である霊子水晶との相性が、男性の場合は極端に悪くなるのだ。

 そのため、男性で霊子甲冑の適正を持つ者はかなり珍しい部類に入る。

 今まで、帝国と巴里という二つの華撃団があるにも関わらず、男性の霊子甲冑搭乗者が大神一郎ただ一人であるのがそれを裏付けていた。

 

「霊子甲冑とは、霊力によって稼働する人型蒸気のこと。その力で霊力でしか倒すことができない脅威を祓い、都市に住む人々を守るのが華撃団……アタシ達、巴里華撃団はアンタの入隊を歓迎するよ、ケント」

 

 そう言ってグラン・マは笑みを浮かべる。

 それに対してケントは説明された情報を自分の中で整理し、一度うつむいて思考してから顔を上げ──

 

「……申し訳ありません。その話、お断り致します」

 

 彼はうなだれるように頭を下げ、断った。

 




【よもやま話】
 やっと主人公加入──とおもいきや、そうはなりません。
 いい加減、長くなってきたのでさっさと入隊してほしいところですが。(ぁ
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