サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 グラン・マからの巴里華撃団入団依頼を断ったケント。

 無論、その場はその後、荒れるに荒れた。

 その中でもっとも苛烈に反応したのは、グリシーヌであった。

 

 彼女は怒りも露わに、ケントに対して「なぜ持った才能を生かさぬのだ!」「戦う力を持つのに戦わぬのは、臆病者ではないか!」と猛烈に非難した。

 それに対してケントは反論せず。「申し訳ありません」「私には、できません」を繰り返すだけ。

 仕舞いには「貴公はイギリス人だから、フランス人を守れぬとでも言うのか!!」と大激怒し始める始末。

 そんな緊迫した空気の中で──グリシーヌ以上に問いつめた者がいた。

 

 ──メルである

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「どうして答えないのですか?」

 

 最初はおとなしめで問いかけるような口調だった。

 直前のグリシーヌの苛烈な問い詰めもあって、それに隠れて仕舞いかねないような声量だった。

 

「──え?」

 

 事実、ケントも聞き逃しかけて、思わず問い返している。

 それが癇に障ったのか、メルは激高したように大きな声を張り上げる。

 

「グリシーヌさまが聞いているのに先ほどから、あなたはただできないと言うだけじゃないですか!!」

 

 突然に、厳しい口調で言い放った彼女に、周囲は──直前に怒っていたグリシーヌでさえも──ポカンと呆気にとられた。

 まさか彼女が怒るとは思わなかった、というのも大きい。

 

「なぜできないのかを、ちゃんと理由を説明しなければ、いけないと思います!」

「それは……」

 

 メルの言葉は正論だった。

 だからこそケントも受け止め、うろたえ……しかし、できない。

 皆の視線が痛かった。

 まるで「なぜ、理由を言わないのか」と詰問しているかのようにさえ見える。

 

「うぅ……」

 

 できることなら言ってしまいたかった。

 だが──それは許されない。居場所を作ってくれた人を裏切ることになるから。

 居場所を守るためには居場所を作ってくれた人を裏切らなくてはいけず、その人との約束を守ろうとすれば立場はなくなる。

 そのジレンマに葛藤し──

 

「……ついさっきまで意識を失っていた人を寄ってたかって槍玉にあげるのは感心できるようなことではないと、ボクは思いますが……どうですかね、グラン・マ」

 

 助け船を出したのは、ローラだった。

 彼女の言葉でグラン・マはため息をつく。

 

「ハァ……アンタの言うとおりだね、ローラ。医務室に連れて行っておやり。とりあえず今の話はケントの調子が治ってから改めてする、ということにしよう」

 

 グラン・マが見つめ、ケントの代わりにローラが頷く。

 それを確認してから彼女は他の皆──特にグリシーヌとメル──へと視線を移し、

 

「アンタ達も、それで構わないね?」

 

 そのように確認すれば、全員が頷かないわけにはいかなかった。

 そうやってグラン・マは、とりあえずグリシーヌとメルをどうにかなだめてその場を解散にし、有耶無耶になったのだが──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「まったく、困ったもんだね」

 

 グラン・マは余人を追い出した自分の執務室で憤然とため息をついた。

 そんな彼女の前には、巴里華撃団副司令である迫水が、落ち着いた様子で居る。

 

「新隊員が決まったと聞いて、私も喜んでいたんですがね。それが大神隊長に続く希有な男性隊員となれば、余計に……」

「すまないね、ムッシュ・迫水。ぬか喜びになってしまって」

「いえいえ。気にしないでください、グラン・マ。それにまだ、望みがなくなったわけではないのでしょう?」

「ま、一応ね……」

 

 ケントの態度は頑なだった。

 だが、それにはなにか理由があると彼女は踏んでいる。

 

「あの子……ケントが拒んでいるのは戦うのがイヤとか怖いとか、そういう理由じゃないと思うんだよねぇ」

「ええ、私もそう思います。蒸気獣ポーンを生身で倒せるほどの剣術を持っているのでしょう? 戦う力があるのは間違いなく、そしてその場でメル君を守っている……戦いを(いと)うわけではないと思いますがね」

 

 そのときの状況は、メルを含めた事情聴取や検証等を行って判明している。

 

「誰かを守ろうとする心を持つ、優しくて強い子だとアタシも思っているさ。だからこそ、話を受けてくれると期待していたのだけど……」

「事情があるのではないですか? 戦ったり人を守るのを拒んでいるのではなく、巴里華撃団に入ることができない事情が……」

 

「──その通りですよ、さすが“鉄壁の迫水”です」

 

 迫水の言葉に答えたのは、グラン・マではなかった。

 突然の声に、グラン・マと迫水が振り返ると、そこにはくすんだ緑の帽子とコート姿の少女が立っていた。

 

「ローラ……立ち聞きとは感心しないねぇ」

「これは大変失礼致しました、グラン・マ。しかし聞き耳を立てていたわけではなく、謝罪に来たところ聞こえてしまっただけですので……」

 

 恭しく頭を下げ、そこからねめ上げるようにして、その垂れた目でグラン・マを見つめるローラ。

 慇懃無礼ともとれる態度ではあったが、彼女のそういった言動を咎めていては話が進まない。

 

「で、その事情とやらを知っているのかい?」

「あくまで彼の心情の推理、ではありますが……」

 

 グラン・マの問いにうなずくローラ。

 

「とは言っても、極めて単純な話です」

 

 そう言いながら、ローラはしたり顔で歩きながらグラン・マと迫水へと近づく。

 

「家への恐れと気遣い、でしょう。彼の実家──ドレイク家への、ね」

「ドレイク家? というと、まさか彼は……」

 

 ローラが挙げた家名に、迫水が珍しく動揺を見せた。

 その確認に、グラン・マはうなずく。

 

「そうだよ、ムッシュ。おそらくアンタが想像している通りさ」

「それは……複雑な事情がありそうだね」

 

 迫水が納得するのを見て、ローラはさらに続けた。

 

「今のケントは目立つのをなによりも恐れています。しかし巴里華撃団で戦えば、否が応でも注目を集めてしまう……そう考えているのでしょう」

「ああ、そういうことかい」

 

 ローラの言葉に、グラン・マが分かったとばかりに頷いた。

 それを見て、我が意を得たりとローラが恭しく頭を下げる。

 

「はい。ロベリア嬢のことを考えれば、その危惧は杞憂と分かるはずなのですが、そこまで内部に詳しくはないですからね、彼は」

 

 “巴里の悪魔”と言われるほどに恐れられたロベリア。彼女が懲役を軽くするために巴里華撃団で戦っているということは無論、表に出せるような話ではない。

 もしもバレれば批判をくらいかねないが、今もその秘密は守られているのだ。

 

「巴里華撃団が秘密部隊であり、その情報保護は万全であると納得してもらえば、彼は協力してくれると言うのかね?」

「ええ、ミスター迫水。彼は本当に心根の優しい人ですから」

 

 そう言ったローラの目は、いつもの気配が消えて慈しむような。真剣な眼差しであった。

 

「ですから、一つ策があるのですが……」

 

 そこから一変させて、ローラがニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。

 まさにその時だった。

 

 そこへ──

 

「グラン・マ! 大変ですぅ!!」

 

 そう言いながら、シーが室内へ駆け込んできた。

 思わず顔をしかめるグラン・マ。

 

「シー、マナーがなってないよ! ノックも無しに。それに来客中だっていうのに……」

「も、申し訳ありません」

 

 慌てて勢いよく頭を下げるシー。

 それに対して迫水は落ち着いた様子でそれを制した。

 

「なに、私だから気にする必要はないよ。それよりもキミが慌ててやってくるくらいだから余程のことなのだろう。いったい何があったんだい?」

「あ、はい! 蒸気獣がまた出現しました!!」

「なんだって!?」

 

 シーの報告に、グラン・マは腰を浮かせんばかりに驚いた。

 

「今度は最初から巨大蒸気獣三体が出現しています」

「そんなところまで前回と同じかい。イヤになるねぇ、まったく……」

 

 巨大蒸気獣三体という状況に、グラン・マは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 そんな彼女だったが、シーが行ったさらなる報告で、その表情は困惑へと変わった。

 

「それが、その三体が今回も熊型、蟻型、馬型なんですぅ……」

 

 グラン・マと迫水が驚きの表情を浮かべる中で、ただ一人、ローラだけは先ほどのニヤリという笑みを浮かべたままだった。

 




【よもやま話】
 おや……なにやらローラが企んでいる様子ですね。
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