サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
巴里華撃団花組は出撃していた。
場所は巴里の中央、パリ1区。かの有名なルーヴル美術館……のやや北側。
歴史的建造物で名高いパレ・ロワイヤル……からも少しだけズレた東側である。
「なんで、こんなところに現れたんだろう?」
今回は、前回と異なり、比較的お互いの距離を短く配置されて集まっているポーンと戦闘をしながら、コクリコは首を傾げた。
「そうよね。ルーヴル美術館を狙うならまだわかるし、混乱と示威が目的なら人が集まる場所も近くにあるのに……」
コクリコの疑問になずなが同調する。
前回敵が出たのはパリ北駅。北方からの玄関口で十分に大きな駅で、人が集まる場所だし、また鉄道網の麻痺も狙えた。
(むしろ、前回はそれが狙いだと思うけど……)
そう思うからこそ、駅を狙ったにも納得がいったのだ。
そして人が集まる場所と言えばこの付近には
さらに近いパレ・ロワイヤルだって国の機関である憲法評議会がある。そこへの攻撃なら示威行為として十分だろう。
他にもパリ1区には美術館や庭園が複数あり、隣の8区だが、ルーヴル同様に以前にパリシィ怪人が現れたことがあるコンコルド広場も近い。目立つ目標とされそうな場所は多いのだ。
そんな中で、なぜここなのか。
敵の目的が分かればまた戦い方も変わる──と養成機関で教えられているのである。
「そんなの、決まってるだろ。アレだよアレ」
二人の疑問に答えたのは、意外にもロベリアだった。
彼女は妙にニヤニヤしながら、緑色の光武F2の中からアゴでその建物を指示する。
それは──フランス銀行本店。
今回の敵の出現場所は巴里の金融街だったのだ。
「あの中には、嫌ってほどの紙幣やら、金塊があるだろうからねぇ。前回の敵と比べれば、随分と分かりやすいじゃあないか」
「あ~、なるほどねぇ……」
「銀行……強盗と考えればベタね」
ロベリアの指摘に、コクリコとなずなは思わず苦笑していた。
そしてロベリアの言葉を肯定するように、ポーンは銀行へと向かっており、警察もそれを阻まんと車両を盾にして拳銃で抵抗している。
その建物がそうであるとわかれば、今回の敵の目的はあからさまであった。
「まったく、今回はバカ正直な敵だよ。エリカ、今回は多少狙いを外して銀行……いや金庫を撃っちまって構わないからな。もしそれで紙幣が飛び散れば、市民も大喜びだろうさ」
「はしゃぐな、ロベリア!! 貴様、もしも金をネコババなんて真似をしてみろ。窃盗で懲役を増やしてやるからな!」
警察のバリケードの前にまで進み出たグリシーヌが思わず声を荒げた。
そして芥子色という黄色と白に染められ、笠を被ったような光武F──なずな機へと指示を出す。
「なずな、敵の狙いが明らかである以上、死守だ。わかっているな?」
「はい。結界……展開!!」
なずな機が眼前に金砕棒を立て、そして障壁結界を張って銀行を守る。
「へぇ、これが結界なんですか? 確かに──ここに見えない壁ができていますね」
物珍しそうにエリカがその様子を見つめ、生じた結界を霊子甲冑の指でツンツンとつついている。
「お前まではしゃぐな、エリカ!! ちゃんと攻撃しろ!!」
「あ、はい。すみません」
青筋を立てて通信で怒鳴るグリシーヌ。
その表情に、花火は思わず苦笑する。
「グリシーヌ、落ち着いて……敵の数も減ってきてるから、大丈夫……」
「いえ、レーダーに反応です。巨大な妖力反応を感知!!」
「「「「「ッ!?」」」」」
小型霊子レーダーを搭載し、索敵能力が他よりも優れるなずな機からの報告。
それに皆が驚く。
「前方です! 数は三!!」
「まさか、またか!?」
グリシーヌがうめくように言った言葉に応えるように、妖力が爆発する。
そしてそこには──前回とよく似た姿の大型蒸気獣が出現していた。
しかしその中の一体、蟻型蒸気獣だけは背中にかつて戦った蒸気獣オバドのような翅がある上に黄色と黒の縞模様という、蟻ではなく蜂型蒸気獣というべき姿になっていた。
「──邪魔をするな!! 巴里華撃団!」
熊型蒸気獣から若い男の声──むしろ声の高さから少年のような声──が響きわたった。
それにグリシーヌが応える。
「……貴様、目的は何だ!!」
「決まっているだろ。金さ! アンタのような金に困ったことがないようなヤツには、オレたち庶民のことなんて、わからないだろうけどな!!」
「なに!?」
困惑するグリシーヌ。
相手の言葉が、まるで乗っているのがグリシーヌと知っている──少なくとも貴族のような裕福な者だと知っているような口振りだった。
「なぜ……」
「不思議か? 教えてもらったのさ。お前達がどんなヤツらなのか」
そう言った声はどこかで聞いたことがある、とグリシーヌは感じていた。
その声が非難するように言い放つ。
「金の亡者にはこの街を守る使命を果たせないだと!? よくもそんなことが言えたもんだな!! あの、“巴里の悪魔”をメンバーに入れておいて」
「なッ──」
熊型蒸気獣は、巨大な腕で器用に緑の光武F2を指す。
その指摘にグリシーヌは言葉を失う。
「……グリシーヌ。お前、そんなこと言ったのか?」
一方、言われたロベリアは大きなため息をついた。
その鋭い目が、眼鏡越しに青い光武F2を睨んでいる。
「コソ泥の俺が駄目で、大悪党が相応しいってのは、いったいどんな組織だ? ええ!?」
「貴様、やはりあの時の少年か」
グリシーヌは完全に思い出していた。
先ほど、相手が言った言葉を言ったのは、なずなやエリカがスリをしたと言った子供に対してだ。
「お前らに巴里を守る資格があるのかよ!!」
「く……」
自分が言ったことのせいで、グリシーヌは返事に詰まっていた。
そこへ──
「ピーピーとうるさいガキだな。そんな風に小さいことをグチグチ言ってるから、セコいことしかできず、小悪党止まりで美味い話がこないんだろ?」
「ハッ、残念だったな。美味い話は今まさにやってきたんだよ。コイツを与えてもらったからな」
これ見よがしに熊型蒸気獣が胸を張った。
「それであの銀行を襲って金を奪う。この誰にも負けない圧倒的な力があれば、誰も太刀打ちできないんだからな。こんなに美味い話があるか?」
「残念だけど、その話も終わりさ。このアタシが……お前を倒してやるよ」
ロベリアが、自機の両手に装備された爪を見せびらかすように動かす。
「その通りだ……貴様も捕まえて、更正させてやるから覚悟するんだな!!」
ロベリア機の前を、両手斧を構えた青いグリシーヌの光武F2が遮るように現れ、そして熊型蒸気獣へと迫る。
「
小さな王冠を頭に乗せた熊型蒸気獣が黒いスペードのマークが描かれた背中のマントを翻し、その巨腕を光武F2へと向ける。
直後、その腕が火を噴いて砲撃が放たれる。
こうして──巴里華撃団と蒸気獣たちの戦いの火蓋は切って落とされた。
【よもやま話】
さぁ、ついに戦闘開始です。
フランス銀行付近が戦場ということで、地図見ていろいろ頑張って調べました。どこにあるのかとか、近くに何があるのか、とか。
その割には戦闘マップまで考えていなかったり……あしからず。
で、前回は本当に普通の機体でしかなかったので、なずな機も“霊子戦用”という特徴を出しました。
そして対するはなずなにとって因縁の相手──1話で出てきたあのスリです。
正直、当初の予定ではここまで絡む予定はなかったのですが、コンセルト・ピックに乗せるキャラを考えているときに「ああ、使える」と思ってここまで発展させました。