サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
シャノワールへと戻ってきたケントは、指示に従って地下の作戦司令室へと向かった。
巴里華撃団のことを知っているとはいえ、正式隊員でもない自分がこんなところまで入っていいのだろうか、と思ったが──
「グラン・マから許可は出ています」
そう言われて通され、止められることなくやってくることができた。
そしてそこには──てんてこ舞いで非常に忙しそうにしているシーの姿があった。
「あの……シーさん?」
「あ、ケントくん。いいところに来てくれた!! ちょっと手伝って欲しいんだけど……」
半分涙目になったシーが藁にもすがるような気持ちで、見かけたケントを頼った。
しかし、作戦のオペレートなど担当したことあるはずがない。
というか、そもそも正式な華撃団の隊員でさえないのだ。そんなことをできるはずがない。
「そ、それはさすがに……そもそも、なんでシーさん一人なんですか? メルさんは?」
「メルは……」
シーは気まずそうに視線を逸らす。
室内をよく見れば、グラン・マの姿さえない。
「それに司令までいないじゃないですか。本当にシーさん一人……」
作戦行動中だというのにこの事態。さすがに異常である。
すると、言いよどんでいたシーが、重い口を開いた。
「それが、現在花組が苦戦中で、だからメルを霊子甲冑に乗せて出撃するから……だからメルはグラン・マと一緒に格納庫へ行ってるの」
「はぁッ!?」
さすがに耳を疑うケント。
「え? メルさんって霊子甲冑に乗れたんですか? だって、新隊員を探して、皆さんで機械持って探し回っていたじゃないですか。それに……」
自分に霊力や、霊子甲冑の適正があることが判明し、それで断って非難された。
メルが動かして戦うことができるなら、そもそも探す必要がなかったはずだ。
「えっと、うん……メルの霊力がだんだん強くなってきてて、どうにか動かせるくらいに強く……なってるって話だったかな、たしか……」
シーが顔を伏せながら説明する。
眉根を寄せてうつむくその表情はメルのことを憂いているようにも見えた。
「じゃあ、動かせるなら──」
「でもね、ケントくん。メルってば戦えないのよ」
「なんですって!?」
シーの説明に、ケントは驚く。
「だって、グリシーヌさまやロベリアみたいに戦うのが得意なわけじゃないし、花火さんみたいに武術をやり続けていた経験もないし、コクリコみたいな人並みはずれた運動神経とか、エリカみたいに強い霊力があるわけじゃないから。もちろんなずなちゃんみたいに専門の教育も受けてない……」
たとえ霊子甲冑を起動し、動かすことができたとしても、それだけでは無意味。
兵器である以上、敵と戦わなければならないのだ。
「それならどうしてメルさんを乗せるなんて……」
「あまり言いたくないけど、ケントくんのせいよぅ?」
シーが抗議するように睨む。
ケントがさすがにそれにたじろぐが、シーはさらに言う。
「今、巴里華撃団はピンチなの。思った以上に敵が強くて……」
「え?」
シーがチラッとモニターを見る。
釣られてケントがそちらを見ると──
「くッ、空からの攻撃とは卑怯な!!」
青いグリシーヌ機に、虫のような翅をもった四本腕の蒸気獣が上空から槍と
「卑怯? 優れた武器を用意するのは戦術の基本ではなくて?」
蟻型──いや蜂型蒸気獣から、女性の声が響きわたる。
「他人を罵るよりも、飛行性能による優れた機動性を持つこの蜂型蒸気獣ヴァルス・ピックを捉えられないノロマな自分を呪いなさいな!!」
「ほざくな!!」
回り込むように動いた蜂型蒸気獣が繰り出した槍を、グリシーヌの光武F2がかろうじて斧で弾く。
その素早い動きに完全に翻弄されていた。
まして空を飛べる以上、上空に逃げられては近接戦闘型であるグリシーヌやロベリアにはどうしようもなかった。
「──それなら!」
「私達の武器で──」
「倒しちゃいますよー!!」
コクリコ、花火、エリカの遠距離攻撃型の光武F2が狙いを蜂型蒸気獣ヴァルス・ピックに向けるが──
「させねえよ!!」
今度は、熊型蒸気獣コンセルト・ピックから放たれた砲撃が、その三機を襲う。
「く……」
どうにか避けたためにダメージはなかったが、その遠距離からの攻撃は三人にとって十分すぎる驚異であった。
「あれをどうにかして倒さないと、落ち着いて狙うことさえできません」
「なら、さきにアイツを叩くしかないってことだな!」
花火の声に、ロベリアが応じる。そしてまるで影に溶け込むように、その光武F2が姿を消していく。
「ボクも、そっちを叩くよ。エリカと花火はあの蜂を狙って」
「はい。エリカ、了解しました!」
「お二人とも、お気をつけて……よろしく、お願いします」
エリカと花火の返事に後押しされ、コンセルトの居る方へと駆け出すコクリコ機。
未だ倒されずに残っていたポーンが行く手を阻むが、それを軽々と飛び越え──
「邪魔しないでよ! えい!!」
空中でアクロバティックに動いたコクリコ機が、手にした棒を振ると背部の機関と接続されたラッパ型のホーンから霊力の塊が放たれ──直撃したポーンを破壊する。
そうして、コンセルトに肉薄するコクリコへ砲撃が飛ぶ。
遠距離砲撃型で近接戦闘は苦手らしい。
「よっ、っと……そんなの当たらないよ!」
「──で、背後がお留守なんじゃないのかい? クマ野郎!!」
突如、コンセルト・ピックの背後に出現するロベリア機。
その爪が妖しく光りながらコンセルトの胴体へ突き立てんと伸び──
「させんよ!」
切っ先が平らになった、変わった形の剣がそれを弾き、防いで見せた。
奇襲を防がれ、ロベリアは舌打ちをしながら慌てて距離をとる。
「寄ってたかって一人を攻撃とは……あまりに卑怯な行いではないか!!」
コンセルトを庇うように、馬型蒸気獣の巨体が立ちはだかっていた。
その出現に、コクリコも近寄れず、ロベリアと共に距離をとる。
「ったく、三体ってのは本当に面倒だな」
「うん。さすがに……ね」
ロベリアの愚痴に珍しく頷くコクリコ。敵の強さをやっかいに感じている証である。
「貴様らのような卑劣な輩どもに、我が馬型蒸気獣ファンフォー・ピックが屈するものか!!」
切っ先が平らな剣と、盾を片手ずつに持ち、馬型蒸気獣は立ちはだかった。
「これは……」
ケントは驚いていた。
三体出現した大型蒸気獣、その連携がスペード型の意匠が施されたポーン──ポーン・ピックも含めてしっかりととれていて機能しているのが、素人のケントにさえわかった。
まず、なずな機は銀行への結界を維持するために動けない。もしも解除して前線まで出ようものなら熊型からの砲撃が銀行へと飛ぶ。銀行を破壊すればそこへと略奪へ向かうポーン・ピックさえも待機している用意周到さだ。
そのためなずな機は銀行近くで結界を維持し、あとは仲間の支援くらいしかできない。
敵の中でもっとも厄介なのは蜂型だった。空を飛び回る機動力に翻弄され、自在に空を飛ぶことができない近接型の光武F2は動きに付いていけないし、攻撃も届かない。
それを叩き落とせるのは遠距離型の花火、エリカ、コクリコ達だが、それに関しては熊型からの砲撃のせいで安定して狙うことが不可能であった。
その遠距離砲撃型の熊型や、蜂型を包囲して動きを止めようとすればやってくるのは、高い移動力を誇る馬型である。
戦場を縦横無尽に駆け回る馬型は、前回の馬上槍と違って盾と剣という防御重視の装備であり、他の二体の盾として十分に役目を果たしていた。
「敵が強いのに、さらに協力しているから大ピンチなんですよぅ。このままじゃ皆がやられて負けちゃうから、追加された光武Fも使おうって話になって……」
「それで、メルさんが!?」
ケントの問いに、メルが頷く。
「ええ。このままじゃメルが戦場に出ることになっちゃう。あたしもグラン・マのことを止めたんだけど、聞いてくれないのよ! 新隊員もいないんだから、やむを得ないって……」
「そんな……」
自分が断ったから、メルが引っ張り出された。
そのことにケントは衝撃を受ける。
(確かにシーさんの言うとおり、自分のせいだ……)
愕然としてうつむいたケントだったが、バッと顔を上げてシーを見つめる。
「シーさん、グラン・マとメルさんは格納庫でしたよね!?」
「う、うん。そうだけど……」
「わかりました。任せてください!!」
ケントはシーを見つめながらその手を握りしめ、それからきびすを返す。
思わずポーっとなりかけたシーだったが、ケントが駆け出したので我に返った。
「ちょ、ちょっとケントくん!?」
ケントは部屋の外へとまっしぐらに走っていた。
それを見送り……シーはため息をつく。
「やれやれ、ね。でも、この状況…………一体どうしろっていうのよぉ~」
巴里華撃団の危機を前に、メルもグラン・マも不在の状況でのオペレートという絶望的な状況に、シーは嘆かざるをえなかった。
【よもやま話】
前回の戦闘で、敵があっさり倒されたのは連携していなかったからです。
今回はその連携が機能しているので強敵になっています。
ちなみに、同じコンセルト、ヴァルス、ファンフォーもトレーフルからピックに変わって性能が変化しています。
コンセルトは近接戦闘型から遠距離砲撃型、ヴァルスは回復支援から近接戦闘型、ファンフォーは突撃仕様から護衛仕様にそれぞれ変わっています。
幕間で道化師が言ったように、そもそも別の個体ですし。