サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 汽車を降り、そしてやっと立った巴里の地。

 ターミナル駅独特の喧噪──それがたとえ経由地であろうとも、目的の場所へついたという到着の安堵感と、これから旅立つという出発する高揚感という、相反するような感情が交錯する雰囲気は、他にあまりない感覚だった。

 

「発着があるという意味では港も同じだけど……やっぱり、空気は違う」

 

 汽車と船では速度が違うし、なにより便数がけた違いだ。

 その分、喧噪は大きいし、なによりも(あわ)ただしく感じられる。

 

「さて……」

 

 この巴里にやってきた彼は帽子を抑えながら周囲を見渡した。

 その下から見え隠れする真っ黒という髪はアジアではよく見る髪の色ではあっても、ここ欧州にあってはやや目立つ。

 縁のある帽子を被っているのはそれを隠す目的もあるのだ。

 

 そんな黒髪碧眼の彼の名は──ケント=ドレイク。

 

 イギリスの倫敦からフランスの巴里へと、親戚を頼って出てきたのだが──迎えにくるはずの、その親戚の姿が見あたらず、彼は戸惑っていた。

 

「えっと……」

 

 駅の中で待ち合わせた場所へと到着し、周囲を見渡すがそれらしき人はいない。

 土地勘が無いために、先方からの指定で言われるままに決まった場所である。

 そして待ち合わせ場所の定番らしく、ケントと同じように人を待っている様子の者や、そんな人たちへと手を振って寄っていく者が多くいるが、彼に手を振る者もジッと見ているような者もいない。

 時計を見れば、待ち合わせの時刻は近い。とても幸運なことに、汽車はほとんど遅れなく到着したからだ。

 

「……汽車が遅れると思ったのかな」

 

 この場にいない、つまりは待ち合わせに遅刻するのも、そういう理由ではないか、とケントが思わずつぶやくと──

 

「残念ながら、その推理は外れているよ。ケント」

 

 背後から聞いたことのある声が聞こえて、彼はホッと胸をなで下ろした。

 慣れない異国の地である。しかも待ち合わせた場所に人が来ていなかったのだから、不安になるのも当然だろう。

 

「そしてボクは一分たりとも遅刻はしていない。キミが早くこの場に着いただけなのだよ」

「ああ。ゴメンよ、ロー……」

 

 迎えにきた親戚がその声から予定通りの人だと確信して振り返ったケントだったが──その動きがぎこちない状態で固まっていた。

 

「んん? どうしたのかね? ここは久しぶりに再会した従妹の成長に感激して、熱烈なハグをして然るべきシーンだと思うのだが?」

 

 そういって相手は小首を傾げ、不思議そうにケントを見ている。

 顔立ちは以前会ったときとほぼ変わっていない。その闊達な雰囲気とは真逆に、目じりが下がり気味で、一見眠そうとか気だるそうに見えるてしまうような垂れ目だった。

 そこまでは普通だったのだが、その服装がそうではない。

 被った帽子は鹿撃帽。さらにはインバネスコートを身に纏い、手には紳士が持つような杖を持っている。

 どちらも色はくすんだ深緑色でコートはチェック柄になっているので、そこまで奇抜で目立つ格好でもないのだが……

 たしかに、それが壮年の男性ならば様になる。

 が、10代半ば──男性が着るその服を纏うのが、その小柄な体躯なためにそれよりもさらに下に見える──の()()の姿はやはり奇抜であり、周囲に対して浮いているような印象であった。

 事実、ケントはその姿に呆気にとられている。

 すると──

 

「ふむ……」

 

 相手は少しだけ思案して、納得したように頷いた。

 

「あまりのボクの美貌に、美しすぎて声も出ない──というヤツか」

「違うよッ!」

 

 即座に否定するケント。

 

「ローラ……キミはそんな姿で、どうして見惚れるという結論になるのかな!?」

「決まっているだろ? ボクはの容姿は愛らしく、故にどんな服だろうと着こなしてしまうからだよ」

「着こなすって……それ、アレだろ。推理小説の──」

「その通り! さすがはケント……ボクの助手が唯一務めることができる存在だね」

 

 ケントをビシッと指さす娘。

 帽子からはみ出すウェーブのかかった赤髪が印象的な彼女はの名はローレル=クレセント。

 ケントがローラと愛称で呼ぶ彼女は、彼の従妹であり、父親同士が兄弟である。

 姓が違うのは、彼女の父親がクレセント家に婿養子に出たから。そのクレセント家の令嬢こそ、目の前にいるローラなのである。

 

「主人公の服装を真似るだなんて……歳どころか性別さえも違うじゃないか」

「だから言っているだろう? ボクは何を着ても似合ってしまう、と……」

 

 そう言って彼女はその場でクルリと回って見せ、その服装をケントに見せつける。

 確かに彼女の言う通り、似合っている。

 違和感はない。

 だが──その男性用の服装を着ていても違和感がない最大の理由は──

 

 

「男の子にしか見えないから、じゃないか」

 

 

 その一言で、ビクッと一度震えて動きを止めるローラ。

 それからぎこちない動きで振り向く。

 

「聞き捨てならないねぇ、ケント。キミは一体ボクのどこを見てそんなことを言えるんだい? どこからどう見ても令嬢にしか見えないじゃないか? この美しい赤い髪や可憐な瞳、小柄で華奢な体躯。そして──」

「──いつまでも成長しない胸」

 

 

「………………」

 

 

 呆れた目でツッコんだケントの言葉に、完全に言葉を失って動きを止める。

 そして涙目になって詰め寄った。

 

「キミは! なんで! そう、デリカシーがないのかな!?」

 

 今までの余裕のある態度をかなぐり捨て、垂れ目を精いっぱい吊り上げて詰め寄り、ケントの服を掴んでいる。

 

「キミも英国貴族の端くれなら紳士を目指すべきじゃないのかい? 今の、他人の身体的特徴をあげつらうような言動は、紳士的とはかけ離れているんじゃないかな!!」

「そういう紳士的とか、そういうことから離れるために、ここに来たんだけど……」

「キミが貴族の地位を捨てようとしている事情は分かっている。しかしだね、だからこそ地位は捨てても心は貴族でいるべきじゃないかな? キミがそういう態度では、我がクレセント家としても、協力することはできなくなるよ!?」

「……そういう脅す行為こそ、紳士的とは言えないと思うけど…………」

 

 ケントの反論に、ムッとするローラ。

 

「まったく……これからキミには紳士とはなんたるか、を再教育しなければならないようだね」

「きっと教えても無駄になるよ」

 

 思わず苦笑するケント。

 だが、それに──ローラは首を横に振った。

 

「貴族は地位であり階級かもしれない。でも、紳士とは生き方であり生き様なのだよ。その生き様に地位も階級も関係はないのだからね」

 

 そう言って得意げに笑みを浮かべる。

 

「キミのお母様も、同じ考えだったと思うがね……」

 

 そう言って目を伏せたローラの言葉は、ケントの胸に刺さるのであった。

 




【よもやま話】
 ローラ登場……というか、前作の最後の自作予告で出てましたね。
 この後、シナリオ的に3ヶ月も開くことになるのですが……この3ヶ月の空白が生まれたのはサクラ大戦3OVAの後の話に急遽変更になったからだったりします。
 その間、ケントはクレセント家でいろいろ習ったり、手伝ったりしていたのだと思ってください。
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