サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
「待ってください!!」
格納庫に駆け込んだケントは、ずんぐりとした首のない人型の機械──霊子甲冑の前にメルとグラン・マの姿を見つけて叫び、そのままそこへと走った。
ケントの声に振り返るグラン・マとメル。
メルはいつものメイド服ではなく、彼女用らしい紺色の花組戦闘服を着ていた。
そして光武Fもまた、彼女のために染めたのか、合わせた紺色のカラーリングになっている。
「いったい何をしにきたんだい? 部外者が……」
グラン・マが冷たい目でケントを見つめる。
ケントはそれに負けず、グラン・マの下へと歩くと、彼女に言い放った。
「メルさんを乗せるなんて、無茶です! 武術の心得もないそうじゃないですか!!」
「それがどうかしたのかい?」
グラン・マは冷たい目のまま平然と言ってのけた。
「あの光武Fは防御重視に調整したからね、壁になればそれでいいのさ。銀行を砲撃から守る壁となれば、なずなが自由になる。花火やエリカを守れば蜂型撃破への突破口になる。耐えるだけでいい。戦うための心得なんて必要ないんだよ」
グラン・マが指した紺色の光武Fの前には、持って戦う装備なのだろう、盾が二つ用意されていた。
武器さえ持たず、盾を二つ持って完全に防御に徹する──という作戦のようだ。
「はい。それなら私にでもできます。他の人を守ることくらいは……」
「メルさん!!」
ケントは思わずメルに詰め寄っていた。
「いくら防御を重視したからって、あの砲撃に耐えられる保証なんてありません! 機体に衝撃があれば、体を怪我することだって──」
「あなたがせっかく守ったのに、ですか?」
メルの冷たい目がケントを見る。
それに彼は首を横に振った。
「違う! 違いますよ! なんであなたが犠牲になるような真似を……」
「巴里華撃団が負ければ、どれだけ多くの人が犠牲になるか、悲しむことになるか。あなたにはわからないんですか? そのためなら、私の命くらい──」
その言葉に、ケントの心に冷たいものが走った。
思い出したのは人の死──母親が亡くなったときのことが、瞬間的に頭をよぎった。
そのため──ケントは思わずメルの両肩を掴んでいた。
「ダメだ!!」
思わず叫ぶケント。
その声の大きさか、それとも人見知りなのに肩を掴まれたからか、メルが思わず顔をしかめる。
「命くらい、なんて言ったらダメです。ダメなんですよ!! 失われた命は戻ってこないんだから。命は宝物なんです! 他に代わるものがないくらいの──」
「その命が、大勢の命が失われようとしているんじゃないですか!!」
メルの言葉にハッとする。
そう──その大事な命が、今まさに危機にある。
(命よりも大事なものなんて……)
ケントはメルの両肩に手をおいたまま、うなだれる。
そして考える。
(恩人との約束ももちろん大事だ。もしかすれば、あの人の立場を悪くしてしまうことになりかねない。兄弟の仲を悪くすることにだって……)
ネガティブな考えが浮かぶ。
だが──今し方、自分がメルに言った言葉を思い出す「命は他に代わるものがない宝」だと。
そして、先ほどよぎった故人である母の面影──それが在りし日の思い出を呼び覚ました。
「強くなりなさい、ケント。体も、そして心も……」
「そしてその力を、誰かのために使いなさい。自分のために力を振るうことは、決して名誉を重んじることにならないのだから」
「あなたは恵まれた立場なのです。この家に生まれた……あの人と、私の──子なんですから」
そういって優しく微笑み、抱きしめてくれた母。
その言葉……誰かを守る人になるという約束。
守るべき人は──目の前にいる。
(戦う術を持たぬ人を、戦場に立たせるわけにはいかない。なら、やるべきことは……)
ケントは一気に顔を上げた。
そんな彼の行動に驚いたメルの顔が目の前にあった。
「メルさん! 聞いてください!!」
「は、はい……!?」
ケントの剣幕に押され、メルはきょとんとした顔で思わず素直に返事をしてしまう。
「僕のフルネームはケント=ドレイク。ドレイク家の……長男です」
「ドレイク……? …………え? 英国の、ドレイク家って、まさか…………」
メルの顔色が変わる。
彼女はフランスの名家の出身なので、貴族の名前を知っている。
ただ、それだって主立った国内の貴族に限定される。他国の貴族の名前を出されてピンとくるのは──余程の位の高い有名どころであった。
そしてケントの実家は英国の、その余程の位が高い有名どころの貴族だったのである。
そして思い出していた。
「たしか、ドレイク家は男児がいるという話はあっても、社交界に出てこなくて見た者がいない、と聞いていますが……」
メルの言葉にケントは頷く。
「ええ、母が日本人で混血児の私は、親戚筋からあまりいい顔で見られていませんでしたから。それに──」
少し苦笑気味の表情になったケントだったが、すぐに真面目な顔へ戻した。
「子供のころに母を亡くし、父には英国人の後妻がいて、その方が生んだ弟もいますので」
「あ……それは…………」
メルの表情が気まずそうなものへと変化した。
そしてケントの説明で納得がいった。
彼はほぼ廃嫡も同然なのだ。だからこそ社交界に出てくることもない。弟が出てこないのはまだ年が幼いからだろう。
「僕は、英国から……逃げてきたんです。あの国には居場所がないと思いましたので。だから叔父──父の弟を頼ってこの街に」
自分がいれば、義母や義弟に気を使わせることになる。
義母が心優しく、ケントに気を使ってくれるような人だったからこそ、余計にそう思って英国から出たのである。
「もし華撃団に入って花組で、霊子甲冑で戦うようなことをすれば……目立つことになります。それでは今までのことは水の泡になってしまいかねません」
巴里華撃団花組が動くのは大規模な霊障対策であり、そうなれば欧州で話題にならないはずがない。
当然、英国にも情報が行く。そうすれば父や親戚の耳にはいることになるだろう。
「もし、ここにいることを父が知ったら、頼った叔父に迷惑がかかってしまう。そのせいで二人の仲に亀裂が入るなんてことにも……」
父と叔父の兄弟の仲は良好だった。
家督争いもなく、叔父は父を立て、そして他家へと婿養子に出て、本家を支えているほどだ。
その良好な関係を壊したくはなかった。
「だから、ここにいることを知られるわけにはいかなかったんです。だから──目立つわけにはいかず、華撃団に入るのを……」
「拒んだのですね……」
メルが言うと、ケントは無言で頷いた。
「事情はわかりました。でも、なぜ今、ここでその話を?」
メルが訝しがるのも無理はない。
巴里華撃団花組が危機に陥っている今、わざわざ話すような話ではないのは明らかだ。
するとケントは──顔を上げ、良い笑顔を浮かべて、メルを見た。
「こうして喋ってしまった以上、もう拒む理由がなくなりましたから──」
「えっ……」
戸惑うメル。思わず目を
そんなメルを見てケントは──彼女の両肩に、改めて手をポンと置いた。
そしてまっすぐに彼女の目を見つめ──
「だからもう、震えなくて大丈夫ですよ。メルさん」
そう言って、ケントは笑顔のまま、力強く頷く。
それでメルは──
「あ…………」
自分が震えていること、そしてそれにケントが気が付いているのを理解した。
メルは気が動転した。
まさか、自分が震えているなんて、思いもしなかったからだ。
「こ、これはそのッ! いえ、違うんです。そうではなくて……」
慌てたメルであったが、ケントはそれに笑みで答える。
「大丈夫です……後は、任せてください」
言うや、ケントは振り返った。
その横顔は笑みが消え、目には決意に満ちているのがわかり──メルはハッとする。そしてその強い意志を感じて、心臓が一度、大きく鼓動を打つ。
(…………ッ)
そんなメルに気づいた様子もなく、ケントはその場のもう一人へと視線を向けていた。
その視線の先には──グラン・マ。
「……なにか言いたいことがありそうだねぇ。ドレイク家の御子息」
「いえ、ドレイク家のケントではなく、霊子甲冑を動かせる一人の人間として、お願いしたいことがあります」
「ふぅん……聞いてあげるから、言ってごらんよ。その願いを」
値踏みするようなグラン・マに、ケントは頭を下げて、言い放った。
「私を、霊子甲冑に乗せてください……いえ、巴里華撃団の花組に加えてください!!」
そんな彼の言葉に、グラン・マは気をよくして不適な笑みを浮かべた。
「──わかったよ、ケント。アンタを歓迎するよ」
最高責任者たる彼女がそう答え──ケント=ドレイクは巴里華撃団花組の一員となった。
【よもやま話】
やっと加入する主人公。開始からここまで40話近くかかってるわけで……
前作や前々作を見てみたら、同じ話数だと第4話あたり。前半戦最後あたりの話じゃないですか。
……まぁ、今回は結構短く話を切ってるからあまり参考にはならないけど。
メルの花組戦闘服という珍しいものを見たケントは正直うらやましいと思います。
そのメルですが上流階級出身という設定があります。
今回の、身を挺して盾になり、市民を守る一助になろうという姿勢は彼女の『
でも、そんな彼女を霊子甲冑に乗せようなんて、オリジナル設定盛り込み過ぎじゃないの? という疑問と批判が──