サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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「──さて、グラン・マもメル女史も、御協力感謝いたしますよ」

 

 格納庫にそんな声が響く。

 そう言ってやってくるなり、慇懃に頭を下げたのはくすんだ緑色の帽子とインバネスコート姿の少女──ローラ=クレセントだった。

 ちなみに、ケントはと言えば、グラン・マに入隊を許可されるや「さぁ、出撃だよ! 今すぐ着替えておいで!!」と格納庫から追い出され、今は花組戦闘服へと着替え中である。

 ちなみに男性用なので巴里華撃団花組の戦闘服ではなく、男性唯一の霊子甲冑適合者ともいえる大神一郎のものと同じタイプの色違い、ということになる。

 

「……あの、さすがにこのやり方は…………」

 

 そう言って複雑な顔をしたのはメル=レゾンだった。

 

「こんなの、まるで騙し討ちじゃないですか」

「ふむ。確かにそう言われればそうでしょうね。しかし……」

 

 ローラは思慮するように小首を傾げ、それからバッと手を横に振ってポーズを決めた。

 

「目的達成のために手段を選んでいる余裕はない、ということです!」

 

 そう言って「ふふん」と得意げに胸を反らす。

 

「今回の場合、彼が巴里華撃団に入ってくれれば、それで良し──ということなのです。そうですね? グラン・マ」

 

 ローラの問いに、苦笑混じりに頷くグラン・マ。

 

「ま、そういうことだね。でも、良心が痛むというアンタの気持ちも分かるよ、メル」

「ありがとうございます……」

 

 そう言ったメルはまだ複雑な表情だった。

 直前にいろいろあったせいか、彼女の頬は未だに赤い。

 それに気が付いたローラは深くため息を付いた。

 

「やれやれ、我が助手はいつから女たらし(ドン・ファン)になってしまったのやら……」

「な!? そ、そんなんじゃありません! 私は──」

「メル、言い訳はいいから、早く司令室に戻ってシーを手伝っておあげよ。今ごろあの子一人でてんやわんやになっているよ」

「そ、そうでした。急がないと。でも……違いますからね、ローラさん!」

 

 そう訴えてから、メルは慌てて格納庫から出ていく。

 その姿を見送りつつ──ローラがグラン・マに尋ねた。

 

「あの戦闘服のままでよかったのですか? いくらお芝居の衣装だと言っても……」

「おや、あれは本物と同じだよ? 材質も機能もね。そうでもしないとリアリティってものが無くなってしまうだろう?」

 

 そう言ってグラン・マは少し意地悪げに笑みを浮かべる。

 

「ま、着替え忘れるくらいに、動転しているのは間違いないみたいだね。大神隊長がいなくなってから心配していたんだけど……これで少しは男に免疫つけてくれれば、いいんだけどねぇ」

 

 彼女はそう言うと、やれやれと肩をすくめた。

 

 今回の件──急遽の手ではあったが、ローラの発案による、手の込んだ芝居だったのである。

 もちろん、花組が危機になっていることに嘘はない。

 そしてグラン・マも敵の連携に、今の大神を欠いた状態の花組で相手にするのは厳しいと判断していた。

 せめてあと一人いれば……奇しくも“その一人”が見つかった直後であり、よりにもよってその一人が入隊を拒んできたのだ。

 その彼を入隊させるための猿芝居──ローラがそう言って企画立案した作戦に、グラン・マが乗り、それにメルとシーがキャスティングされ……無事、見事に狙った獲物を釣り上げるのに成功したのだ。

 

「……ローラ、一つ訊いてもいいかい?」

「なんでしょう、グラン・マ?」

「もし、今のアンタの策でもケントが入隊したなかったら、どうするつもりだったんだい?」

「ああ、そのことですか……」

 

 怪訝そうなグラン・マに対し、ローラはあっけらかんと言い放つ。

 

「そのときは、実家にここにいるのをバラすと脅してでも、乗せるつもりでしたよ」

 

 そう言って、彼女はその垂れた目でニヤリと笑みを浮かべるのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんなことをローラとグラン・マが話している間に、出撃の準備が着々と進んでいた。

 

「急げよ!! ウダウダしているやつは、セーヌ川に叩き込むからな!!」

 

 シャノワールメカニックチームの班長、ジャン=レオの檄が飛び、メカニック達は忙しそうに走り回っている。

 

「班長! この盾どうするんですか? 二つ装備させて……」

「それじゃあ武器持てないだろうが!! 当初の予定は変更!! 急いで剣を準備しろ!!」

「剣と言われても、いったいどの……」

「盾と一緒に持つんだから片手剣だ!」

「りょ、了解です!!」

 

 そんな指示が飛び交いつつ、一つの盾は予備に回されてどこかへ持って行かれ、代わりに鞘に入った片手剣が準備されている。

 それが持ち込まれたのは、出撃準備が整えられている霊子甲冑の真ん前であった。

 紺色に染められ、金色のラインが入ったその機体は、今からケント=ドレイクが乗り込む光武Fであった。

 ──ちなみにこの光武Fだが、あらかじめケント=ドレイクの測定した霊力に合わせて調整されている。

 メカニックチームにも、ローラが「なにが何でも乗せるから」と話を通し、準備させていたのだ。

 その光武Fの前で、ケントは向かい合うように立つ。

 この巴里で、そして帝都でも活躍した花組隊長・大神一郎。その戦闘服と同じデザインのものが用意されていた。

 ただし、色が違う。

 大神のは上着が白でインナーが青であるのに対し、ケントの上着は紺色で、インナーが白。黄色い装飾がついているのは同じであった。

 その戦闘服に身を包んだ彼は、腰に帯びた剣を抜き放ち──眼前に立てて目を閉じる。

 

(弱きを助け悪を挫く、正義の(つるぎ)となることを誓う!)

 

 剣に誓いを立て、目を開くと同時に剣を下ろす。

 それを鞘に収めると、ケントは霊子甲冑へと乗り込んだ。

 手を突っ込んで操縦桿を握る。

 

(まるで甲冑……霊子甲冑とはよく言ったものだ……)

 

 とはいえ、その操縦方法が複雑なものではないからこそ、乗り方を習っていないケントでも存分に動かせそうではあった。

 ハッチが閉じ、光武Fが起動してカメラが左右に走ったレールに沿って動く。

 

「武器は目の前のそいつだ。盾と剣。十分に使いこなせるって聞いてるからな。頼んだぜ!」

「わかりました!」

 

 ジャンの言葉に応え、ケント機は左手に盾を持ち、左腰に剣を帯びていた剣を抜き放つ。

 その剣を軽やかに降り回し──止めたところで、盾を(かか)げる。

 同時に背部の霊力併用蒸気機関が力強く蒸気を吹き出した。

 

 起動と動作に問題はなし。

 ケントの駆る光武Fはそれを確かめると、戦場へと向かった。




【よもやま話】
 というわけで、全部ローラが計画したお芝居でした。
 だからメルが霊子甲冑に乗れることへのシーの説明がいい加減な感じになっていました。
 メルが震えていたのも実は芝居への緊張だったから……だったりします。(ここまでくるとケントが可哀想に思えますけど)
 花組の危機になにやってんだ、という感じではありますが、ケントを説得して出撃させないとマズいとグラン・マも思っていたので話に乗ったのです。
 この場にいない副司令の迫水が、グラン・マに代わって指揮をとり、シーがオペレートを頑張っているのだと思います。

 ケントも格好つけてないでさっさと出撃しろ、と思うところですが……原作でも各キャラ初出撃の時にムービーあったので、そのイメージです。
 動作確認の決めポーズは、ゴウザウラーのザウラーマグマフィニッシュ後の勝ち名乗りポーズがモデル。拳一が「熱血最強、ゴウザウラー!!」と叫ぶアレです。
 あれ以上に盾を構えてかっこいいバンクは思いつきません。

 ちなみにその拳一の声が帝撃花組のマリアと一緒だったりするわけで……。
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