サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
フランス銀行前での戦闘は、戦闘が膠着状態になって長引いていたが、徐々に形勢は傾きつつあった。
有利なのは巴里華撃団──ではなく、敵の蒸気獣陣営である。
とにかく大型蒸気獣三体の連携に隙がないのだ。
そして気が付けば、5機の光武F2は横道に押し込まれているという事態に陥っていた。
出口である交差点には巨体を誇る馬型蒸気獣ファンフォー・ピックが立ちふさがり、行く手を阻んでいた。
「──まったく、邪魔なデカブツだな!!」
思わずロベリアが舌打ちする。
そこへ放物線を描いた砲撃──榴弾が後方の熊型蒸気獣コンセルト・ピックから打ち込まれ、爆風が全員を襲う。
「いけません。このままでは……」
「みんなやられちゃうよ、なんとかしないと」
花火、コクリコが深刻に打開策を考えるが、道を塞いでいる巨大蒸気獣を突破しない限り、華撃団には打つ手がなかった。
「落ち着け、皆……ん? そういえば蜂型の姿が見えないぞ!?」
グリシーヌが気が付いて思わず声を上げる。
「あそこです! なずなさんに向かっていますよ!!」
発見したエリカの声で、皆が視線を向けた。
蜂型蒸気獣ヴァルス・ピックは結界維持のために動けない、黄色い光武Fへと向かっていたのである。
一方、なずなは、自分が孤立していることに気が付いていた。
部隊の眼たる、優秀なレーダーを装備する彼女の機体は、その戦況を把握していたからだ。
気が付けば他の機体が砲撃や牽制攻撃を繰り返されて、通路に押し込まれている。
しかし戦況を見る目がまだ未熟な彼女は、その段になってようやく危機的状況に気が付いたのである。
「……かなりマズい状況じゃないの、これ!?」
押し込められた通路に蓋をしているのは巨体と高耐久を誇る馬型。
通路から見てその背後に当たる位置から、熊型が砲撃を繰り返している。
そして蜂型は──
「な──ッ!?」
その姿を探したなずなの目の前に、現れていた。
激しく翅を羽ばたかせ、空中に停止するようにホバリングし、なずな機の前方で佇んでいる。
「チェックメイト……といったところでしょうか」
「ふん、そんなの……まだわからないわよ!!」
蜂型蒸気獣ヴァルス・ピックに乗っているのであろう、相手の女の声になずなは噛みつかんばかりに反論する。
が、相手は冷ややかに応じた。
「この状況で? あなたの御味方はあの通路の奥。そして単独で取り残されたあなた一人では戦況は覆せない」
「そうかしら? あたしがあなたを倒せば、それで済む話だと思うけど」
なずなのその言葉通りに、霊力をみなぎらせ始める光武F。
だが──相手は冷静だった。
「浅はかね。それで私を倒すのもいいでしょう。けれど、その隙を私の仲間が見逃すと思って?」
「く……」
なずなが攻勢に回るということは、結界の消失を意味する。
そうなればすかさず相手の熊型が砲撃し、銀行の壁が破壊されてしまう。付近に潜み、待機しているポーンがそれを見逃すはずもなく、銀行の紙幣や硬貨、金塊に至るまで根こそぎ奪われてしまうだろう。
覆しようのない劣勢。だからこそ相手は、「
なずなもそれに気づき、相手を悔しげに睨みつける。
「……あなたは、銀行強盗なんかに手を染めて、恥ずかしくないの?」
「あら? 力ではかなわないから情に訴えかけるつもりですか? でも、無駄です」
ヴァルス・ピックはその槍をなずな機に突きつけ、宙に浮いたままスッと近寄る。
「私の目的は金などではありませんので。そんなもの、あの子が全部好きにすればいいと思っております」
「……金が目的じゃ、ない?」
相手の言葉に耳を疑い、なずなは驚いていた。
「その通りです。パリシィ怪人との戦いで、幾たびも危機に陥りながらそれを跳ね返し、あのオーク巨樹さえ鎮めた巴里華撃団。それを打ち負かすことができれば、私を認めざるを得ないでしょう。いかに軍のお偉方が愚鈍であったとしても……」
ヴァルス・ピックに乗っている女性は、そう言い放ち、構えさせた槍をスッと引く。
「私の輝かしい功績の
ヴァルスの蒸気機関が回転を上げ、強い妖力が吐き出される。
それは槍に込められ猛毒となり、それが込められて妖しく光を放った槍がなずな機へと伸び──
──ガンッ、と音をたて、固い盾に阻まれた。
「なッ──」
思わず声をあげる、ヴァルス・ピックの搭乗者。
槍は五角形の盾を叩いただけであった。
そしてそれを左手に掲げ、黄色い光武Fを庇ったのは──紺色に染められた光武F。
それを駆るのは──
「無事ですか? なずなさん!!」
聞こえてきたのは男の声。絶体絶命の状況に、思わず顔を背けて固く眼を閉じていたなずなは、その声に目を開き──モニターに映し出された彼の姿を見る。
「……ケント、くん?」
黒髪にまだどこかあどけなさの残る顔立ち。
その顔は、見間違うはずもなく、なずなが巴里にやってきた初日に会った、彼女の危機を救ってくれた少年──ケント=ドレイクだった。
「その機体は……」
なずなが思わずつぶやく。
紺色に染められたボディには、目立つ黄金色のラインが縦に一筋走り、アクセントを与えている。
その腰には、直剣が納められた鞘があり、長めの柄の剣は片手でも両手でも扱えるようになっていた。
そして先ほど、ヴァルス・ピックの渾身の一撃を止めたのは、五角形の大きな盾。
模様こそ消してあるものの、グリシーヌが光武F2に乗り換える前まで使っていた盾を、さらに強化を施したものである。
そして機体そのものは、これといって特徴的なものが取り付けられたわけでもない、プレーンな状態。
無論、翼やブースター、袴のような外装といったものが付けられた光武F2ではなく、その前身である光武Fである。
とはいえ、なずなの光武Fがそうであるように、中身のスペックだけは引けを取らないようにされた強化型なのだ。
「──間に合ってよかった」
機体に盾を構えさせたケントが、ホッと息を吐きながら言う。
その姿はなずなにもモニター越しに見えているのだが、彼の服装も彼の普段のそれとは明らかに異なっていた。
グラン・マの下で働いているときは執事服姿であるが、今は軍服のようなそうでないような不思議な服だった。
(例えるのなら、巴里華撃団の戦闘服というよりも帝国華撃団花組の戦闘服に近いような……んん? アレってまさか!?)
よく見てみれば、帝国華撃団花組隊長にして唯一の花組男性隊員である大神一郎の戦闘服の色違いだったのだ。
大神が白なら、彼は紺色を基調としている。
さすがにそれにはなずなも唖然とする。
「ケントくん、あなた……花組に入るの、断ってなかった?」
「はい……でも吹っ切れました。自分の都合ばかり気にして……大事な人の命を危険にさらすところでしたから」
『──だ、大事な人ッ!?』
ケントがいった言葉に、驚いたような声が割り込み──なずなは訝しがる。
「今の声……ひょっとメルさん? どうしたんです?」
『い、いえ……なんでもありません。なんでもありませんから……』
落ち着かせるために自分に言い聞かせている様子のメル。
『とにかく、──ケントさんは先ほど、巴里華撃団の花組に正式に入隊されました。その光武Fは彼の機体ですので、安心してください』
メルの説明に、今し方助けられたなずなは「わかりました」と素直に頷いたのだが、それで納得しない者もいた。
「貴公、この前は散々ゴネたではないか! いったいどういう風の吹き回しだ?」
離れた場所で熊型蒸気獣の砲撃を受けながら馬型蒸気獣と、仲間と共に戦っているグリシーヌである。
「あの時は申し訳ありませんでした、グリシーヌさん」
ケントは通信越しに頭を下げた。
それを見てグリシーヌは「男が簡単に頭を下げるな!」と逆に怒る。
しかしケントはそれで怯まなかった。
「いいえ、あの時の自分が間違えていたと思うからこそ頭を下げています。そして私は──大切なものを守るために剣をとりました。その言葉に、嘘偽りはありません」
モニター越しに、ケントとグリシーヌの真剣な眼差しがぶつかり合う。
それをハラハラしながら見つめていたなずなだったが、それをよそに『た、大切な
「……あの、メルさん? ホントにどうしたんです? さっきから様子が変なようで……」
『そ、そんなことありません。私はいつも通りで──』
なずなの質問にメルが焦る。
そこへ──
「コンセルト、砲撃をずらしなさい!!」
「ん? ……なるほど、そういうことか!! わかった」
ヴァルス・ピックの操縦者から指示が飛び、それを受けたスリの少年が合点がいったとばかりに、乗っている機体の腕を上げ──砲撃を放つ。
「クソ、またか……いや、違う!?」
その砲撃に、ロベリアが焦った。
砲撃の着弾が逸れている。なぜならそれは、光武F2を狙ったものではなく──コンセルト・ピックが狙ったのは、5人が押し込まれている通りの脇の建物だった。
【よもやま話】
蒸気獣の中の人が、コンセルトに続いてヴァルス・ピックも登場です。
その姿の描写こそありませんが、設定的には女性の軍人──大帝国陸軍にはあやめさんやかえでさんがいるので、フランスにもいるという解釈です──になっています。
というように今までも含めて、パリシィ怪人とちがって動物をモチーフにした獣人風なわけでもない、普通の姿をした人が乗っております。