サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 コンセルト・ピックの腕から砲撃が放たれる。

 その狙いは帝国華撃団の霊子甲冑──ではなく、彼女たちが布陣している脇の建物だった。

 むろん、なずなの結界の範囲外であり、建物は砲撃によって崩れ──

 

「しまった!! 道が……」

「ああ、崩れた建物に塞がれちゃった!!」

「完全に分断されてしまいました。このままでは……」

 

 先程の指示はそれが狙いだったのだ。

 砲撃によって崩れた建物の瓦礫で道路がふさがれ、通行ができなくなってしまったのだ。

 

「いかん! なずなとあの男だけでは……」

 

 道が塞がれたということは、馬型蒸気獣がこちらの足止めをしなくてよくなると言うことである。

 すなわち──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「くッ!!」

 

 紺色の光武Fめがけて駆け込んできたファンフォー・ピック。

 その勢いのままに叩きつけてきた切っ先のない剣を、ケントはその盾でどうにか受け止める。

 その巨体の真横から、すり抜けるように蜂型のヴァルス・ピックが宙を縫うように迫り──繰り出された槍を、ケントの光武Fは手にした剣で逸らす。

 そこへ──

 

「なにッ!? ──ッ!」

 

 弧を描くように放たれた、コンセルト・ピックの榴弾砲撃が上空から襲いかかる。

 そのときにはファンフォーもヴァルスも素早く距離をとっており、その爆風の範囲外へと退避していた。

 

「く、ぅ……」

 

 肉薄していた敵がいなくなって自由になった盾と剣を交差するように防御姿勢をとり、爆発をその盾でどうにかやり過ごす。

 だが、ダメージは大きい。

 

「ケント君ッ!!」

 

 ケントの背後にはなずな機がいる。

 とっさに退いて直撃こそ避けたケントだったが、身動きのとれないなずな機を考えれば、爆風を無視することができない。

 

「ロベリア! コクリコ!! お前達だけでもなんとか向こうに行けないのか!?」

「あのなぁ、グリシーヌ。アタシの機体は隠密行動が得意なだけでワープしてるわけじゃあないんだ。こんな瓦礫を飛び越えるなんて、不可能だぞ?」

「ボクのF2なら、時間をかければどうにか……」

 

 身軽なコクリコの機体なら、瓦礫の上を跳ねていくことができるかもしれない。

 だが、破片が散らばる瓦礫の足場は安定性に欠けるし、足場が崩れる危険性も高い。重い霊子甲冑で飛び跳ねるのは、余りにも危険だ。

 今すぐになずなの救援に迎えるF2はいなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「他の敵は足止めされて動けない、一気に決めましょう!!」

 

 ヴァルス・ピックからの指示で、ファンフォー、コンセルトの攻撃が苛烈さを増す。

 それらの攻撃を、ケントはダメージを負いながらも、盾や剣を駆使してどうにか最小限度に押さえ込む。

 

「ケントくん! 今、あたしが……」

「おや? 結界を疎かにしていいのかよ? この、ノロマ!!」

 

 コンセルト・ピックの搭乗者──スリの少年が嘲笑しながら砲撃をなずな機に加えた。

 

「二度とこんなことをしたらダメだと? 偉そうによく言えたもんだよなぁ!! ボーっと突っ立って、財布スられような鈍くさいテメェが悪いんだろうが! 大事なものなら、しっかり守れっての!!」

「──ッ! くッ!! ぅあッ!! ほ、砲撃が……」

 

 続けざまに打ち込まれる砲撃に翻弄されるなずな機。

 ファンフォーとヴァルスの攻撃は、ケント機をなずな機からも遠ざけ始めており、ケントもフォローができない。

 

「なずなさんッ! いけない。このままだと……」

 

 防御性能が高く、盾という防御手段まであるケントの機体は、たとえ大型蒸気獣二体がかりの攻撃でも、まだ耐えることはできるだろう。

 しかし、なずな機は防御力がそこまで重視されていない。霊力を使った結界も、今は銀行の建物へがメインで、自分の方へはそこまで力を回せない。

 

「先に敵を──倒さなければ!!」

 

 ケントは状況の打開を試みる。

 これまでの動きを見ると、指揮官は機体のデザインに王様を思わせる意匠が施されている熊型蒸気獣コンセルト──ではない。

 宙を飛び、高いところからの視点で戦場を全体的に見つめて判断することができ、その上に縦横無尽に飛び回って牽制できる──頭に半冠(ティアラ)の装飾を付けた蜂型蒸気獣こそ指揮官機だ。

 

(機体性能だけじゃない。指示が的確な上に柔軟な対応ができている。この操縦者も優秀な指揮官……)

 

 それによってこの三位一体の行動が統制され、力を発揮している。

 

(──かといって、現在の状況でヴァルス・ピックだけを倒しても、状況を覆すまでには至らない)

 

 戦闘の初期段階であれば、指揮官を失って統率がなくなれば他の二機を倒すのはまだ容易だっただろう。

 だが作戦が“詰め”の段階に至った今となっては手遅れだ。頭が機能しなくなっても作業を続ける腕によって遂行されてしまう。

 

(止めるには攻撃の要になっている熊型を倒すしかない。でも、この場所からでは攻撃が届かない)

 

 砲撃型の熊型蒸気獣は当然距離をとって戦っている。

 ケントからも距離をとり、安全地帯にいるその機体に、剣は届かない。

 

「力があれば……もっと強い力が…………」

 

 ケントの口から思わずついてでる言葉。

 その霊力が高まる。

 だが、彼は理解している。覚醒した力──湖泉の聖剣は、生身でも蒸気獣ポーンを真っ二つするほど強く高い威力を誇るが、あくまで剣の強化でしかない。剣が届かない相手には無力だ。

 強い力──それを思うケントの脳裏に浮かんだのは、(あぎと)を大きく開いて迫り来る、金色の雷龍の姿だった。

 

(雷……あれならば、あそこまで届く──三つの敵を一気に斬り飛ばすことだって、不可能じゃない!)

 

 雷を元に連想していく。

 遠く離れたものをまとめて切り裂く、強力な剣。

 それが出てくる話──英雄譚を、ケントは知っている。

 

(あの城で読んだ本……退屈で窮屈でしかないと思っていた生活も、無駄にはならなかった)

 

 ケントの脳裏に浮かんだのは──とある英雄。

 そして同時に──手にした剣が強烈な光りを放ち、それで目の前にいる二体の敵が怯んだ隙をついて、盾を手放した。

 

「バカな!! この状況で盾を捨てるなんて完全な悪手よ、それは──」

「多対一とはいえ、卑怯と言うなよ? 元はお前たちの方がそうだったのだからな」

 

 剣を両手で持ったケントの光武Fを、追いつめられて破れかぶれになったと見なした二機が迫る。

 さらに、その背後にいた熊型がその巨大な腕二本を前につきだし──掌に砲口が露わになる。

 二つ並んだ砲口は、ケント機へピタリと狙いを合わせていた。

 

「二機まとめて吹っ飛ばしてやるよ。黄色いの、守ってくれる騎士サマ諸共あの世にいけるんだから、本望だろ?」

 

 砲身ともいうべきその二つの腕に、蒸気機関が生み出すおびただしい量の強力な妖力が充填されていき、ガッシリとした下半身が発射に備えて射撃体勢となる。

 その解析結果に、オペレートをしていたメルが青ざめた。

 

「──ッ! いけません。なずなさん、ケントさん、二人とも避けてください!! 光武F……いえ、F2であっても耐えられるような威力ではありません!!」

 

 だが──先程までの砲撃で、ダメージを受けたなずなは動くことができない。

 そしてケント機もまた、動く気配はなかった。

 

「ハッ、どうした? 逃げないのか? 逃げても構わないんだぜ。この街を守るのが使命の──巴里華撃団さんよぉ!!」

 

 嘲り笑うスリの少年。

 その彼に──ケントは言い放つ。

 

 

「大事なものなら、しっかり守れと言ったのは……あなたです!!」

 

 

 そして──ケント機の光武Fの背部にある霊力併用蒸気機関が回転数をあげる。

 そうして高まった霊力は、ケント機を包み込み──彼の精神は、一瞬だけ飛ばされていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 以前見た──鬱蒼と生い茂る森の中の、深い深い湖泉。

 その湖面に広がる波紋。

 中心に瞬間的に映る人影──それは、あの本に描かれた英雄の姿だった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 わずかな時間で消えるその映像。

 しかしそれは、明らかにケントの体に変化を与えていた。

 力が漲る。

 以前、アロンダイトを握ったときと同じような現象が起こっていた。

 そして無意識に口をついて出る言葉──

 

「我、フェルグス=マック=ロイが携えし山裂(やまざ)きの剣の一閃──」

 

 光武Fが握りしめた剣は、強烈な電撃を放っていた。

 あふれ出すそれは剣を金色に輝かせてい暴れようとする力を押さえるので精一杯だった。

 その力強き魔剣を──振りかざす。

 

「山をも斬り飛ばすッッ!! 硬き稲妻(カラドボルグ)ッ!!

 

 剣の間合いには遙かに遠く、その切っ先さえ三体の敵の一体にさえ届かぬ距離。

 だが、振りかざされた金色の剣は、その帯びた強烈な雷がさながら刀身のように放たれ、そしてそれが薙ぎ払われる。

 その電撃の奔流はケント機の前方にいた大型蒸気獣三体へと伸び──

 

 

「「「なッ!!」」」

 

 

 それらをまとめて薙ぎ斬る。

 それぞれの操縦席は金色の光りに飲み込まれていた。

 




【よもやま話】
 実は、ケントはここに来る前は幽閉に近いような生活を強いられていました。
 というのも彼の実家はかなり高位の貴族。弟が生まれて次期当主の目が無くなっても、東洋人との混血児とはいえその血をひいており、それを利用されてはかなわないので、「体面のために他の城で一人で暮らさせる」と父親を騙して親戚が城に閉じ込めてしまいました。
 城の中に関しては動き回れたようですが。城から出ることは許されなかったのです。
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