サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 ケント機の様子がおかしいのは、もっとも近くにいたなずなが気が付いていた。

 しかも彼女の機体は霊能力支援を目的とするものであり、センサーが他の機体よりも優れている。

 

「なに、この数値? 異常よ、こんなの……」

 

 センサーは、はじめは直前に狙いを付けられていたコンセルトからの攻撃を測定していた。

 その数字の高さから想定される威力に、なずな自身恐れおののいていたのだが、今のケント機が発する霊力は、それを軽く上回る。

 やがて、ケント機が手にしている剣が一度青く染まったと思った直後に、変化が訪れる。

 金色に輝く剣身。

 そこからはバチバチと放電に伴った音が響きわたっていた。

 

「この音……電撃? でも、前のケントくんが使った力は、雷じゃなかったはずなのに……」

 

 自分自身が雷の霊力の使い手であるからこそ、聞き間違えるはずがない。

 そしてグラン・マから聞いた話では、彼が使った霊力は、たしか水だったはずだ。

 

(先生と──巽副隊長と同じって記憶してたから、間違いない!)

 

 その違いに戸惑いながら──さらになお、膨れ上がる霊力に、なずなは戦慄を覚える。

 そして──直感が走った。

 彼女の脳裏に浮かんだのは、広大な範囲を袈裟斬りにされた巴里の街並みであった。

 斜め一直線の傷が、複数の建物を、巻き込んで刻まれている。

 

「──ッ! いけない!! このままだと大変なことになる!!」

 

 それは天啓ともいうべき予知であり、同時に霊力を関知しているからこその予想でも同じことを告げていた。

 

「街を守る華撃団が、街を傷つけるわけにはいかない!」

 

 それゆえ、なずなは動くしかなかった。

 展開している結界を、銀行の前に障壁として展開していたそれを、特定の範囲を包み込む結界領域の展開へと変化させる。

 それは帝国華撃団夢組が戦場形成のために使うものであり、複数人掛かりで領域を作り出し、戦場の拡大を防ぐもの。

 それを霊子甲冑を用いつつも単騎で行うがために、広大な範囲というわけにはいかなかったが──それでも自分とケント機、それに三体の巨大蒸気獣が入る広さは確保した。

 だが、問題はその出力。つまりは結界の強さだ。

 

「あんな霊力、あたし一人で防ぎきれるわけが──」

 

 そこへ瓦礫をどうにか飛び越えた光武F2が姿を現す。

 身軽さで跳び越えてきたたサーモンピンクのコクリコ機と、背中の白い翼で飛び越えてきた赤いエリカ機である。

 

「なずなさん! 大丈夫ですか!?」

「──って、どういう状況なのこれ!? あの光武Fにケントが乗ってるんだろうけど、なんか大変なことになってる!」

 

 状況を見て戸惑う二人。

 彼女たちになずなは──

 

「コクリコ! エリカさん!! 二人とも力を貸して!! このままだと──」

「え? 何? なにをするつもりなの? なずな」

「あの、状況がわからないのですが……」

「とにかく、二人とも霊力をあたしに向けて! あたしの結界を強化するために!!」

 

 なずなの必死の叫びに、二人は戸惑いながらもそれに応じる。

 

「よくわかりませんが、わかりました!!」

「エリカ、それってどっちなの? ……あ~、もう! とにかく、ボクもなずなのことを信じるよ。お願い!!」

 

 二人の光武F2がなずなの光武Fに向かって手をかざし、霊力を送る。

 同じ組織に所属し、短い時間ながらも同じ時間を過ごし、今もこうして共に戦う仲間であるその繋がりが、なずなへの霊力と同調させ、合わさった霊力を相乗的に強化する。

 

「これで! なんとか──ッ!!」

 

 なずなが全力で結界を強化した直後──結界の内側でものすごい轟音と烈光が炸裂し、なずな機が展開した結界を突き破らんと、ものすごい負荷がかかった。

 

「くううぅぅぅぅぅッッ!!」

「ちょ、なんで、ボクらまで……」

「苦しいです~!! ああ、主よ~~!!」

 

 その負荷に、霊力を同調させていたばかりに巻き込まれるコクリコとエリカ。

 しかし二人の霊力があったからこそ、どうにかその結界は破られることなく──どうにか耐え抜く。

 そしてその最後の一瞬に衝撃と閃光が起こり──大型蒸気獣はその動きを完全に止める。

 

「「「はあぁぁぁ~~~…………」」」

 

 なずな、コクリコ、エリカの三人が、ほぼ同時に霊子甲冑の中で、うなだれるように大きくため息をついた。

 どうにか呼吸を整え、顔を上げて見たモニターには、剣を両手に振ったまま固まったように止まっている紺色の光武F。

 それとその距離こそ違えど、たった一閃で切り裂かれたのがありありとわかるように、馬型蒸気獣フォンフォー・ピックと熊型蒸気獣コンセルト・ピックが一直線に両断されていた。

 そして近くの地面には、空中で真っ二つにされたのだろう、蜂型蒸気獣ヴァルス・ピックが墜落し、破片を地面にぶちまけている。

 

「えっと、なずなさん……今の、どういう状況だったんでしょうか?」

「ひょっとして、今の一撃を押さえ込んだの?」

「そういうこと。たった一振りでたやすく大型蒸気獣を真っ二つにするような力だもの。これが建物まで届いていたら……」

 

 それを想像し、なずなはぞっとする。

 建物は真横に一閃され、そのまま崩れ落ちていただろう。

 

「うん……それはボクも思うよ。かなり危なかったんだね」

 

 去った危機を思い知らされたコクリコもまた、深くうなずいた。

 

「そういう事情だったんですね。なんにしても……敵も倒せたようですし、よかった」

 

 エリカは守れたことがうれしかったのか、少し苦笑気味でがあったが笑顔を見せる。

 そして、なずなは──

 

「よくないッ!! こんな、街に被害を出しかねないようなこと──絶対に許せないんだから!!」

「え? あ! なずな!? ちょっと、何するつもり!?」

 

 コクリコが驚く中、なずなは光武Fのハッチを開くと、操縦席から飛び出し、そのまま紺色の光武Fへと走っていった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 霊子甲冑の中、搭乗者は両腕を奥に操縦桿のある筒を突っ込んでおり、基本的には腕を広げているような姿勢になる。

 それはともすれば、まるで(はりつけ)のような姿勢であり、今のうつむいているケントの姿はまさに十字架に磔にされた者のようであった。

 教会でモチーフとなり、彫刻等にもされるそれとは違うのは、今の彼が「ぜー、はー、ぜー、はー」と荒い呼吸を繰り返しており、肩で息をしながらどうにか呼吸を整えようと動いている点である。

 

「意識を、失うわけには、いかない……」

 

 感想が思わず口をついて出る。そうでもして自分に言い聞かせなければ意識が飛んでしまいそうだったからだ。

 前回、初めてこの霊力(ちから)を発動させたときは、その負担と反動で蒸気獣ポーンを倒しながらも、最終的にはメルの無事を確認する前に意識を失ってしまうという失態を犯してしまった。

 

「同じことを、繰り返す、わけには……」

 

 まして今は巨大蒸気獣三体を相手に戦闘している真っ最中だ。

 手応えはあった。

 だが、最低でもその成果を確認せずに意識を手放すわけにはいかない。

 ケントの放った一撃──硬き稲妻(カラドボルグ)の一閃は規格外の威力であり、それによって巻き起こった土埃や粉塵は完全に視界を遮っていた。

 動けるほどの余裕がないケントは、その場に留まりながらも五感をフルに使って敵に警戒をしていたが、ともかく危機が迫る感覚はなかった。

 やがて粉塵が薄らいでいき、そして近くに大きな影が見える。

 

「これは……」

 

 金属塊ともいうべき、鎧騎士のような姿。

 それでありながら半人半馬のシルエット。

 手には特徴的な切っ先が平らな片手剣と、受け止めようと抵抗したのか、半分に切り裂かれた盾。

 見間違うはずもない馬型蒸気獣ファンフォー・ピックである。

 その蒸気機関はすでに停止──背後にあるために正面のケントからは見えないが、爆発している──しており、まるで生きている馬が呼吸するように鼻や口から吐いていた蒸気は完全に止まっていた。

 

「────ッ!!」

 

 その大型蒸気獣の左脇やや後方の地面に現れた次の影を見て、ケントは緊張を走らせた。

 彼の方へと延ばした左腕が痙攣したように動いていたからだ

 しかし露わになったその、うつ伏せに倒れた大型蒸気獣が横たわっている姿を見て、警戒を弱める。

 倒れていたのは蜂型蒸気獣ヴァルス・ピック。

 かろうじて動いていたが、その蒸気機関である臀部の膨らみは消失しており、さながら腹部をもがれた昆虫のようであった。

 下半身に強烈な一撃を食らったらしく、脚部も根本付近から失っており、特徴的な空を飛ぶための翅も飛行時は目に見えないほどに高速に羽ばたいていたその動きを完全に止め、ダメージを受けた姿を露わにしている。

 槍を手にした右手を動かすことさえなく、やがて揺れ動いていた右手もその動きを止め、目も光を失う。

 

「フゥ…………」

 

 それを確認し、小さく、しかしゆっくり長く息を吐く。

 敵はまだもう一体いる。気を抜くのは早い。

 そしてその三体目は──ヴァルス・ピックとは反対側であるファンフォー・ピックの右後方、そしてさらに距離が離れた後方で攪座していた。

 熊型蒸気獣コンセルト・ピック。

 砲撃型のその古代蒸気獣は両腕を並べてまっすぐにこちらへ向けていた。

 どっしりと構えた姿はまるで大砲のようであったが、その銃身ともいうべき両腕と上半身を真っ二つに切り裂かれている。

 ファンフォー・ピックに刻まれた傷と見比べれば、それは一文字に切り裂かれたのがよくわかった。

 ケントからみると、完全に綺麗な一直線を描いてたからだ。

 コンセルト・ピックの背部にある蒸気機関はその上部を斬り飛ばされ、とっくに動きを止めており、本体はピクリとも動かず、まさに壊れた砲のようであった。

 それを確認し、ケントはようやく大きく息を吐き出す。

 

「はぁ……勝った。勝ちました、なんとか…………」

 

 指揮官機を失ったためか、残った数機の蒸気獣ポーンもまるで力を失ったかのように肩を落とし、かろうじて蒸気を吹き出しているが、脱力して立ち尽くしているように見える。

 どうにか呼吸が落ち着いてきたケントは、光武Fを動かそうとしたが──

 

「あれ? 動かない……いや、動きがとんでもなく、遅い……」

 

 動きは重く、無理に動かそうとすれば機体は不協和音を奏でようとする。

 原因は二つ。

 一つは、単純にケントが霊力を使いすぎて一時的に低下してしまっているため、霊力併用型蒸気機関が霊力不足で出力が著しく低下していること。

 そしてもう一つは、先程の規格外の一撃が光武Fの各部に想定以上の負荷がかかり、機体が悲鳴をあげているためだ。

 

「これ以上は、あまり無理に動かさない方がいいかもしれない」

 

 自動車整備程度の知識はあるが、それよりも精密な機械である霊子甲冑は完全に未知の機械。

 しかも戦闘は終了したようだ。

 無理をさせて壊すようなことはせず、専門家に任せた方がいい。

 ケントはそう判断して、操縦桿から手を離し、突っ込んでいた腕を抜く。

 そしてハッチを開放し、差し込む光りに思わず目を細め──

 

「────?」

 

 その開いたハッチに足をかけ、腕を組みながら仁王立ちになっているその人影を認め、それを不思議そうに見つめた。

 

「あの……」

 

 戸惑うケント。

 なぜならその人影──長い髪を左右に分けてまとめたツインテールの女性は、明らかに怒りを帯びた目で、ケントを睨んでいる。

 そして彼女は──

 

「勝った……じゃないわよ!!」

 

 開口一番、憤然と怒鳴りつけた。

 




【よもやま話】
 少し前でも触れましたが、やはり前回はなずな機の霊子戦型というのが役に立っていなかったので、今回はそれを推してみました。
 しかし、あれだけ強い結界展開できるなら、銀行と自分をまとめてその結界で守ればいいじゃないか、という無粋なツッコミはやめてくださいな。
 書き終わってから自分自身で思いましたから。(苦笑)
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