サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 光武Fのハッチが開くなり、ケントを襲ったのは女性の憤慨している大きな声だった。

 

「あんた、何を考えてるの!? あんな威力の一撃、完全にオーバーキルじゃない!! 確かに強敵を相手にしてそうなるのはわかるけど──あんたのしたことをよく見てみなさい!!」

 

 巴里華撃団花組の、黄色い戦闘服を着た彼女──白繍なずなは組んでいた腕を解いて、両腕で背後を示す。

 そこには破壊された三機の大型蒸気獣──その後ろには多くの建物が建っている。

 改めてそれに気づいたケントは青ざめ、彼女が怒っている理由を理解する。

 

「敵を倒すのも大事だけど、あたし達は街を守る存在なの。そのあたし達が自ら街を壊すようなことがあっては、絶対にならないのよ!! それを……」

 

 わなわなと肩を震わせるなずな。

 

「領域結界のおかげでどうにか破壊は免れたけど、それだってエリカさんとコクリコの協力がなければ、破られてたわよ!!」

「ご、ごめんなさい……」

「ゴメンで済んだら、巴里も帝都も華撃団はいならないのッ!! まったく、いきなり飛び出してきたかと思ったら、こんなとんでもないことを無鉄砲に──」

 

 機関銃のように彼女の口から非難の言葉が飛び出すが、ケントはうつむいてそれに耐えるしかない。

 言われる言葉が一つ一つ胸に刺さり、彼女の言う正論は反論の余地もない。

 この街に住む人々のことを考えたら、たとえ敵を倒そうとも建物や道路、街を破壊しては意味がないのだ。

 しゅんとしてうつむくケント。

 

「そりゃああたしも感謝してるけど、それとこれとは違う話で……って、ケントくん。あんた、ちゃんと聞いてるの!?」

 

 うつむき加減で表情が見えず、あまりに静かに聞いていたのでなずなが訝しがったのだ。

 怒って眉根を寄せる彼女に対し、ケントは顔を上げ──

 

「────ッッ!?」

 

 なずなを見上げるように見た彼は、心底驚いた顔をした後、慌ててそっぽを向いて大仰に視線を逸らした。

 

「んん? ちょっと、どういうことよ!?」

 

 それを反抗的態度ととらえたなずなは、詰問するように近づき、仁王立ち状態から睥睨する。

 

「言いたいことがあるなら、こっちを見て、ハッキリと言いなさいよ」

「い、言いたいことなんてありません!!」

「ウソよ! 顔を真っ赤にするほど怒りを我慢しているじゃないの」

「そ、それは……」

 

 ケント自身、顔を赤くしているという自覚はあった。

 火照ったように顔が熱を発しているのに気が付いていたからだ。

 だが、その理由は彼女が言うようなものではない。

 

「大方、敵を倒せたんだからいいじゃないか~とか、助けてもらったくせに文句言うのかよ、とかそんなところでしょ?」

「ち、違います! ぼ、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて……」

「やっぱり言いたいことがあるんじゃないの。言うのなら、しっかりこっちを見なさい! 男の子でしょ!?」

 

 つい、七人姉弟の中の直下の弟である護行(もりゆき)に接するように言ってしまうなずな。ケントと歳が近いので自然と出てしまったのだ。

 それにケントは恐る恐るといった様子でなずなを見る。それでも視線を合わせづらいのか、チラチラと視線を踊らせながら、様子を伺うようになずなを見る。

 

(ホント、こういう反応もまるで護行みたい……)

 

 違うのはなぜか妙に顔が赤いくらいだ。

 やがて彼は、その赤い顔のままなずなをハッキリと見て──とても言いにくそうに──言った。

 

「あの……なずなさん、はしたないです。近すぎます。その……僕の顔に近すぎて、ちょっと…………」

「は? え? ……なにが?」

 

 とても恥ずかしそうに、言いづらそうにいうケントの反応が予想外すぎて、なずなはピンとこずに問い返していた。

 だが、それはケントを余計に混乱させ、さらに顔を赤くさせる。

 

「えぇ!? な、なにがって、その……なずなさんの……」

「あたしの?」

 

 見下ろすなずなの視線に耐えきれなくなったケントが、思わず顔を背けつつ、そこを指さす。

 

「ん?」

 

 彼が指示したのは、花組戦闘服を身にまとったなずなの黒いぴっちりとした布につつまれた下半身であった。

 たしかに、ハッチに足をかけて仁王立ちしていたなずなの下半身は、一段下の操縦席にいる彼のすぐ目の前だった。

 見上げるようにする彼から見たら、“そこ”はまさに目の前だっただろう。

 

「~~~~~~ッッッッ!!!」

 

 それに気が付いたなずなは、顔を真っ赤にする。

 そんな状況で講釈をたれていたという自分の姿を想像して恥ずかしくなったのと、それと同時に──完全に相手の過失のみで責のないケントにとっては、まったく理不尽ながら──恥ずかしいところを見られたという怒りで。

 

「ケントくんッ!! あんたねぇッ!! あたしが真面目な話をしているのにッ、あんたは何を考えてッ! 見てるのよッ!! この非紳士ッ!! 変態ッ!!」

 

 その怒りのままに、恥ずかしさをごまかすように、なずなは上位にいるという位置を利用して、ゲシゲシと激しくケントを何度も何度も足蹴にし始めた。

 

「だ、だから言ったじゃないですか!! 言いたいことはないって……」

「黙って見続けるつもりだったからでしょ!! この、どスケベッ!!」

「なッ!? すぐに目をそらしたじゃないですか。それなのに見ろって言ったのはなずなさんで……」

「それじゃあまるであたしが見せようとしたみたいじゃないの!! あたしが言ったのは目を見ろってことよ!!」

 

 雨霰と降り注ぐ、なずなの理不尽な足を前に、ケントはなす術もなく頭に肩に、そして顔面に、なずなの履いたブーツを受けることとなった。

 なんとかそれを止めようとするケントだったが──高ぶったなずなの感情が落ち着くまではまだまだ時間がかかり、その間、彼女の踏みつけを甘んじて受けるしかなかった。

 その姿はまるで、癇癪を起こした姉に虐げられる弟のようであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「貴公、なぜそこまでボロボロなのだ?」

 

 どうにか瓦礫を乗り越えてやってきたグリシーヌは、なぜか髪も乱れ、その顔に何度も有形力をくらったようなケントの姿を訝しがるように見た。

 紺色の戦闘服には、肩や胸付近を中心に汚れ──どう見ても足跡のようにしか見えない──があり、なんでそんなことになったのか、戦闘を繰り広げた結果としか考えていないグリシーヌにとっては想像がつかなかった。

 

「戦いの、反省すべき点といいますか……その…………」

 

 ケントはしどろもどろに答えながら、チラッとなずなを盗み見る。

 彼女は未だに不機嫌そうに「ふん」と視線を合わせずにそっぽを向いた。それに合わせて左右でまとめた二つの髪の房が揺れる。

 そんな機嫌の悪いなずなの顔を見て、グリシーヌはそれ以上追求しなかった。

 

「ふむ。それはまぁ、これ以上この場では問わぬこととしよう。そして貴公のしたこと、そして力……見事なものであった」

 

 気を取り直したグリシーヌがケントを誉める。

 だが、一転して厳しい顔となる。

 

「しかし、確かになずなが怒っているように、彼女の張った結界がなければとんでもない被害が街に出ていたところだ。街を破壊するような者は巴里華撃団花組の隊員に迎え入れるわけにはいかないからな」

「はい……」

 

 思わずうつむくケント。

 グリシーヌの言葉は、ケントの胸に突き刺さった。

 入れるわけにはいかない。つまりは仲間にすることはできない、と。

 

「申し訳、ありませんでした……」

 

 ケントは頭を下げ、そしてその場を去ろうと背を向ける。

 だが──

 

「なにを帰ろうとしているのだ、貴公は。一度の失敗で見限るほど我らは狭量ではないぞ?」

「え──?」

 

 背を向けたケントだったが、グリシーヌに呼び止められて振り返る。

 そこには──

 

「なんたって、敵を倒したのはケントさんでしたもんね」

「はい。ものすごい一撃でした……」

「おかげでボクらもヘトヘトだったよ。なずなに巻き込まれて」

「ちょ、ちょっとコクリコ。まるであたしが悪いみたいに……悪いのはケントくんよ! ホントにもう……」

「おやおや、なずな……アンタ、顔を赤くして。守られたから惚れちまったのかい?」

 

 手をさしのべるグリシーヌの後ろには、赤、黒、ピンク、黄色、緑の巴里華撃団花組の戦闘服を着た彼女達がいた。からかうロベリアになずなは「そんなわけないッ!」とムキになって答えている。

 そして青い戦闘服を着たグリシーヌが、ケントを穏やかな笑みを浮かべて見ている。

 

「同じ愚を繰り返すような者ではないと、シャノワールでの働きぶりを見てそう思えたからな。なにより、民を守るという心構えはしっかりしているようだ。」

 

 そう言って彼女はスッと手を差し出した。

 

「貴公を巴里華撃団の一員と認めよう。これから、よろしく頼むぞ」

「……っ。はい! よろしくお願いします!!」

 

 かけられた優しい言葉に思わず涙腺が緩む。その相手が厳しい態度をとっていたグリシーヌだったからこそ、態度が変わったことに認められた──居場所を得たという気持ちが一層強くなったのだ。

 

「おめでとうございます。よかったですねぇ、ケントさん」

「一緒にがんばろうね、ケント」

「ま、こき使ってやるから覚悟するんだねぇ、新入り」

「よろしくお願いいたしますね、ケントさん」

「…………ふん! 反省しているみたいだから認めるけど、二度と同じことをしないようにね! もちろん、あのこともッ!!」

 

 皆が笑顔の中で、一名だけ憤慨している者もいたが、とりあえずは花組にも認められ、これで名実ともにケントは巴里華撃団花組という居場所を得たのだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 それに感激しているケントだったが、そんな彼にグリシーヌが告げる。

 

「さて、我ら華撃団には戦闘後の勝利を称えるセレモニーがあるのだ。それがまだ済んでいないからな」

「──え?」

 

 いったい何をっているのか分からず、不思議そうに彼女を見る。

 だが、彼女は大真面目な様子だった。

 

「先ほどエリカが言った通り、今回の最大の功労者は巨大蒸気獣を見事に倒した貴公だ。ゆえに──真ん中だな!」

「真ん中……?」

 

 ケントが訝しがる中、花組の面々は紺色の男性用戦闘服を着た彼を取り囲むように位置し──

 

 

「「「「「「勝利のポーズ……決め!!」」」」」」

 

 

 勝手が分からぬケントを放置して、巴里華撃団は恒例のポーズを決めていた。

 その彼の姿は、初めて巴里華撃団が勝利を収めた凱旋門での戦いの後のエリカとグリシーヌのようであった。

 




【よもやま話】
 ここまで書いてきて、やっとなずながどんな性格なのか、ようやく方向性がつかめてきたような気がします。
 前作のせりよりも、もっと直情的でさらには迂闊な感じ……ですかね。
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