サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──幕間──

 フランス銀行付近での戦い終わった日のこと。

 その後始末もすっかり終わり、出撃していた霊子甲冑もすでに帰還してその整備が行なわれている状況であった。

 

 支配人室でグラン・マは自分の席へつくと、事態が一段落したことで気を取り直すように大きく一息ついた。

 その部屋にいるのは副司令の迫水典道である。

 

「さて……ムッシュ・迫水。なずなの機転でどうにか被害は出なかったけど、ケントのあの霊力(ちから)、どう思う?」

「強い力というのは頼もしい限りですがね。しかし、それが制御できていないのでは……」

 

 迫水が厳しい顔でそれに応じる。

 

「難しいねぇ。覚醒直後で不安定、ということであれば落ち着いていって制御していくと思うけど……」

 

 制御不能で手放すには、あまりにもったいない強さであり、人材だ。

 かといって、その制御不能を放置するわけにはいかない。欧州星組という失敗の前例──漏れ聞くところによれば、暴走が原因とも言われている──があるのだから。

 

「それにしても、アロンダイトにカラドボルグ……水と雷というまったく別種の力も使っているし、一体なんなんだい、あの能力は」

 

 グリシーヌであれば海や水、ロベリアであれば火というように、霊力には属性があるし、まったく別種の力を使うということは前例がない。

 一人がいろいろな属性の霊力を使っていたという記録もあるが、それは「相手の霊力を真似る」という鏡のような能力の持ち主だったというカラクリがあったりする。

 

「剣というよりは、その所持者を“演じていた”というのではないでしょうかね」

 

 そう言ったのは、グラン・マ自身の言葉ではなく、迫水の声でもない。

 いつの間にか支配人室に姿を現していた、自称美少女探偵の密偵・ローラ=クレセントだった。

 

「……どういうことだい?」

 

 ジロっとローラを見たグラン・マが問う。

 それに彼女は「これはボクの推理ですが……」と前置きをして話し始めた。

 

「彼はカラドボルグを使う際に名乗りを上げていました。「我、フェルグス=マック=ロイが携えし」……と」

「我ということは、確かに持っている剣ではなく所持者を模している、というように聞こえるね」

 

 ローラの説明を聞いて迫水が言う。

 それを彼女は首肯した。

 

「ええ。そして、アロンダイトの所有者は……ランスロット=デュ=ラック。メルさんを助けるときには常人離れした身体能力を発揮したという証言もありますが、その力を発揮したと考えれば、剣を抜くその前から力を発揮していたと考えれば説明が付きます」

 

 そこまで言ってローラはやれやれと肩をすくめた。

 

「……モテ男の英雄の力でメルさんを惚れさせるなんて、ケントもずいぶんと悪どいものです」

 

 皮肉気に言うローラに苦笑するグラン・マと迫水。

 彼女が嫉妬しているようにしか見えなかったからだ。

 

「さて、事情はわかったよ。伝説や伝記にでてくるような英雄を再現する力、とでもいうのかね。さながら英雄譚の主役を演じる『俳優(アクチュール)』じゃないか」

「二人の英雄を具現化したとなれば、三人目もあり得る、ということにもなるでしょう」

 

 グラン・マの感想に迫水が付け加える。

 彼の言うように、また別の英雄──さらに強い力を暴走させかねない危険を有している。

 

「ともかく、ケントのことは試しながら注意を払うしかないね。他に適任者もいない以上は、今更変えようもないし」

 

 そう言ってグラン・マはこの件を締めくくる。

 そして、今回のその言葉がきっかけとなり、ケントの能力を『俳優(アクチュール)』という呼称が付くことになる。

 

 

 そして──ローラが口を開く。

 

「ところでグラン・マ、この前はケントが承諾しなかった時にボクにお尋ねでしたが、ボクの方からも質問をよろしいでしょうか?」

「うん? いったい何事だい?」

 

 垂れ目であるローラの目が、一瞬だけ鋭くなったように見えた。

 

「では……同じ質問を返すようですが、グラン・マはもしもケントが承諾しなかったら、どうするおつもりだったのでしょうか?」

「……なにが言いたいんだい、ローラ?」

 

 さすがに不快そうな顔をするグラン・マ。

 だがその程度でローラの知的好奇心は止められない。

 

「あのときのメルさんの戦闘服は──」

「本物を用意した理由は、あの時言ったじゃないか」

 

 グラン・マが冷ややかな目で見る中、ローラは突っ込んだ話をする。

 

「それだけなら納得しましたよ。でも光武Fは両手に盾を装備させて出撃する準備を進めていたそうですね。ボクはそこまでは求めていませんでした。つまりは、もともとそのつもりだったということではありませんか? 武術等の心得がなくとも戦場で役に立てるように。それらを考えると、ひょっとしてメルさんは……」

 

 そう言ってグラン・マをじっと見つめる。

 言われたグラン・マはため息をつき、そして視線を逸らして答える。

 

「さぁね。あの時はアンタの口車に乗った。それでケントが新隊員になった。それ以上でもそれ以下でもない。あの盾は……アンタが書き上げた脚本(シナリオ)の舞台を装飾する、ただの大道具だよ」

 

 そう言って、グラン・マは遠い目をする。

 そして膝上にいる黒猫のナポレオンを撫でた。

 

Curiosity kills cats too.(好奇心は猫をも殺す)……ローラ、アンタの国の諺だろう?」

 

 さすがにそこまで言われれば、ローラは恭しく一礼して、それ以上は踏み込まず「御無礼を働きました」と真剣な面持ちで謝罪する。

 それを「フン」と受け流し、グラン・マはジロっとローラを見た。

 

「妙なことが気になるくらいに暇なんだろう? なら、これらの事件を起こしてる黒幕の捜査をお願いするよ。今回の騒動……まだ全容が全く見えてこないからねぇ」

「承知いたしました。ボクの頭脳にかけて……」

 

 それにローラは慇懃なまでに頭を深く下げた。

 

「ボクの推理ではまだまだ終わらないはずです。なぜならクラブ(トレーフル)スペード(ピック)ときたのですから、少なくともあと二組はいるでしょうからね」

「フッ……それくらいなら、名探偵じゃないアタシにも推理できるさ」

 

 見つめる窓の外の景色は、昼間とはいえ冬の暗いもの。

 まるで今の巴里のようだとグラン・マは思っていた。

 

 

 その思考を遮るように隣の秘書室からなにやら大きな声が聞こえてくる。

 それも二人分……よく聞けば、それが自分の秘書二人のものだとわかる。

 気がついたグラン・マは大きくため息をついた。

 

「まったく……自覚がないねぇ、二人とも。ちょっと注意してくるよ」

「では、ボクはこれで……」

 

 すかさずローラがそう言い残し、室内だというのに一陣の風を残してその場から消えるように去った。

 

「やれやれ、彼女も意外とヤキモチ焼きなのかねぇ。若いっていうのは本当に……」

「嫉妬も、度が過ぎなければ好ましいことだと思いますがね」

「おや、それは経験談かい?」

「さぁ、それはどうでしょうか……」

 

 グラン・マの言葉に苦笑する迫水。

 

「モテる男の言葉は違うねぇ」

 

 グラン・マは「クックック……」と笑いながら、隣の部屋へと向かった。

 

 




【よもやま話】
 どこで知ったか忘れた話なのですが、「メルとシーは巴里花組の予備隊員」みたいな設定を見た気がしたので、今回のメルを霊子甲冑に乗せようとする、という話を思いつきました。
 ……ところが、どこで聞いたのかわからないその話の裏付けが、まったく見つけられませんでした。
 さすがに原作が20年近く前のゲームなので、ネットで調べても真偽が分からないどころか、メルやシーの情報さえほとんど基本的なことしか出てこないんです。
 そういったわけで、とりあえずはローラの大掛かりな嘘、ということで話をつけたのですが……やっぱり気になった設定だったので、含みを待たせることとしました。
 メルが動かせるかどうかは、闇の中、ですが。
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