サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
──話は少しばかり、さらに遡る。
そして時間ばかりか場所も巴里ではなく全く別の場所──遠く離れた東アジアの島国、日本の帝都へと移る。
巴里と同じく華撃団を有する──というよりも、帝都での功績があったからこその巴里での華撃団が組織された──この帝都・東京。
その華撃団は帝国華撃団と言い、本部は帝都の銀座にある大帝国劇場である。
表の顔である帝国歌劇団が所属する劇場である大帝国劇場の支配人こそ、帝国華撃団のトップである司令の
その大帝国劇場にある支配人室に、とある娘が呼び出されて、そこへ向かって歩いていた。
「……なにか、失敗しちゃったかな…………」
長めの髪を左右に分けてまとめた髪型のその娘は、沈痛そうな顔でうつむきながら、大帝国劇場の廊下を歩いていた。
彼女は帝国華撃団の育成機関である乙女組出身であり、現在、暫定的に花組の補欠になっている立場だった。
その名前を
なぜ、そのような微妙な立場になっているかと言えば──
「最近、代わる代わる先輩達が巴里に向かって旅立ったり、帰ってきたりと忙しかったものね……」
帝国華撃団は、二度の大規模霊障ともいうべき困難に立ち向かい、それに打ち勝ってきた。
その二度目である京極慶吾が起こした騒動の解決から数カ月が過ぎ、隊長である大神一郎が留学で巴里に旅立ったのである。
「大神隊長が抜けた人数的な穴の埋め合わせで補欠になったのは、まぁ分かるけど……」
あくまで一時的なもの、と司令や副司令から説明されていた。
というのも、彼女はその前の年に新型霊子甲冑だった天武の開発に携わり、その試験操縦者に選ばれていた。
その際のデータがあったために、最終決戦で敵の本拠地に乗り込んだ花組とは別に、残された霊子甲冑アイゼンクライトで帝都の防衛に就いて戦ったという経験をすることになった。
その経験を買われての抜擢だった。
しかし、その後──
「まさか、さくらさんとか花組の皆さんが、全員一度は巴里に行くことになるなんて想像できるわけ無いじゃない……」
不満げに口をとがらせるなずな。
そう。大規模霊障と戦う巴里華撃団の育成指導のために、大神のいる巴里へと入れ替わり立ち替わり、花組隊員達がむかったのである。
巴里側としてはありがたいことだろうが──残された帝都側としてはたまったものではない。
なにしろ、対降魔迎撃部隊である帝国華撃団・花組の平時の顔は帝国歌劇団・花組のスタァである。
華撃団としての活動はなくとも、歌劇団としてその舞台に穴を開けるわけにはいかない。
そのため“補欠”であるところのなずなさえも、穴埋めのために舞台に上がらなければならないほどであった。
「……補欠だから、名前の無いような役ばかりだけど…………」
少し憮然とした様子でトボトボと歩くなずな。
その彼女が支配人室に呼び出されているのだから、知らないうちになにか大きな失敗を舞台でしてしまったのではないか、と気が気ではないのだ。
そうして彼女が売店のある出入口ホールを抜けて、食堂の前へと差し掛かったとき──
「あら、なずな。どうしたの?」
食堂の出入口付近にいた、食堂給仕服を着た女性に声をかけられた。
なずなよりも短い、肩付近までの長さの髪を左右に分け、後頭部でお下げにしているその髪型は、今も昔も変わっていない彼女のトレードマークのようなものだった。
そしてその顔立ちは、なずなと似た雰囲気を持っている。
「姉さん……」
それもそのはず彼女はなずなの姉。面立ちが似ているのも当たり前だった。
白繍 せり、というのが彼女の名前である。
彼女はその背後にある大帝国劇場の食堂の副主任を務めている。
そして大帝国劇場が帝国華撃団の本部という裏の顔があるように、食堂副主任である彼女の裏の顔は──帝国華撃団が誇る霊能部隊・夢組を構成する部隊の一つ、調査班の責任者である
「なにか浮かない顔をしてるけど……なにがあったの?」
食堂の副主任とはいうものの、主任が完全に任せているせいで食堂の手綱を完全に握っているせりは、お節介なほどに世話焼き好きである。
そんな彼女が妹の心配をしないわけがなかった。
「うん。米田支配人に呼ばれてて……なんか大事な話があるって…………」
「……なにかやらかしたの? あなた」
せりが急にジト目になってなずなを見る。
「そ、そんなことない! そりゃあ、急に舞台に立つようになったからミスも多いけど、あたしだって一生懸命やってるし……」
「あのねぇ、なずな。一生懸命やるなんて、当たり前のことよ」
厳しい言葉をかけるのは、せりがなずなを気遣うからである。
「それはわかってるわよ……でも、さくらさんみたいに舞台セットを壊滅させるなんていう伝説的な失敗はやらかしてないし」
さくらが帝国歌劇団に入って間もないころ、本番中に足を滑らせた彼女のドジのせいで舞台セットが破壊されたというのは有名な話である。
それに触れたなずなの言葉だったが──
「……なずなちゃん、あたしがどうかしましたか?」
後ろから聞こえた声にギクッとなる。
ぎこちない動きで彼女が振り返ると──ニッコリ笑った真宮寺さくらの顔があった。
「さ、さくらさん……」
同じくぎこちない笑み──こちらは苦笑──をなずなが返すと、その首根っこを押さえられた。
「さぁ、なずなちゃんはまだまだ元気が有り余っているようなので、これからしっかりみっちり稽古しましょうね」
「ちょ、ちょっと待って、さくらさん! あ、あたし米田支配人に呼ばれてて──」
慌ててジタバタと暴れるなずな。
しかしさくらはそれを意に介せず、引っ張っていこうとしたが──それをせりが制した。
「待って、さくら。なずなが支配人に呼ばれてるのは本当なのよ」
「……そうなんですか?」
半信半疑で尋ねてくるさくらに、せりは頷いた。
一方で、なずなはなぜ姉がそれを信じているのだろうと疑問に持つ。たしかになずなは彼女に「米田支配人に呼ばれている」とは言ったが……
「実は私も併せて呼ばれてるの。なずなと一緒に来てほしいって」
「──え?」
今度はさすがに驚いて声がでていた。
「なんで姉さんも?」
「知らないわよ。だから、私が一緒に行かなければならないほど、アンタがとんでもない大失態をやらかしたのかと思ったんだけど……」
そう言ってせりは再びジト目になってなずなを見つめる──というか睨みつける。
「い、一応……心当たりは、無い……と、思うけど…………」
思わず目をそらしてしまうなずな。
実の姉であるせりだが、なずなは彼女に頭が上がらない。
そんななずなに、せりは大きなため息をついた。
「まったく……本当に、こっちは不安しかないわよ。そういうのはこれ以上はもう結構なんだからね。貴方以外で十分間に合ってるんだから、こっちは!」
「それってウメ隊長のこ──」
最後まで言わせずにせりがなずなにデコピンをして止めた。
「痛ッ! なんでよ!!」
「なずな!! 養成機関の所属者でしかない貴方が、仮にも華撃団の誇る五組の隊長の一人を、そんな風に呼んで良いと思ってるの!?」
せりが突然に憤然としたのは、なずなが帝国華撃団の霊能部隊・夢組の隊長をニックネームで呼んだからである。
確かに夢組内では広まっているものではあったが、正式な隊員にもなっていない者が呼べばそれは反感を買うだろう。そうならないためにせりは妹を思って注意したのだが──
「あら、姉さんってば、ヤキモチ?」
「──ッ!! な~ず~な~!!」
顔を真っ赤にして掴みかかってくるせりを、なずなは養成機関で鍛えた体術を無駄に使って器用に避けた。
それにムキになるせりと、対抗するなずな。
そんな二人を見て──
「あの……米田支配人を待たせると怒られるだけだと思いますよ?」
少し呆れた様子で苦笑するさくらがつぶやいた。
【よもやま話】
そしてヒロイン・なずな登場。
うん。完全に『ゆめまぼろしのごとくなり』を書いてる感覚です。姉も出てきますし。
もし、未読の方で興味を持たれた方は『ゆめまぼろしのごとくなり』も読んでみてください。『~2』もありますので。(露骨な宣伝)
3の時って帝都ヒロインが代わる代わる巴里にいってた時期あるけど、それって帝都は大変だよね、と気がついて“補欠”という発想が出ました。
それにしても時間軸があちこち飛んで分かりにくくなってすみません。
これは改善しないといけないと思いながらも妙案が思いつかなかったので……本当に申し訳ありません。