サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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 さて、紆余曲折を経て、姉のせりと一緒に支配人室へとたどり着いたなずな。

 

 姉が扉をノックして名乗ると「おう、(へえ)んな!」と返事があり、「失礼します」と入った姉に続いてなずなも支配人室へと入った。

 小さな眼鏡を鼻の上に乗せ、白髪頭の目尻の下がった初老の男が目の前の机についていた。

 その横には肩付近で髪を切りそろえた、軍服を着た女性が立っている。

 大帝国劇場の支配人にして帝国華撃団司令・米田 一基その人と、同じく副司令の藤枝かえでである。

 

「悪ぃな、せり。忙しいのに呼んじまって」

「いいえ支配人、大丈夫です。それに……主任には少しくらい忙しい目に遭ってもらった方がいいんですから」

 

 そう返すせりに、米田とかえでは思わず苦笑を浮かべる。

 

「ま、そうは言っても、今日の主役はお前じゃなくて……そっちの、なずなだ」

 米田が視線を隣に動かし──見ていたなずなと視線が合う。

 

「あ、あたしですか!?」

 

 驚いたなずなを、せりが横目で見て、やはりジト目で睨んでくる。

 その目は「ほら見なさい。やっぱりアンタ、なにかしでかしたんじゃないの」と雄弁に語っていた。

 だが、米田はなずなの顔を見ると一度うなずき──横のかえでに目配せをした。

 

「なずな……あなたは花組のみんなが帝都を空ける間、よくがんばってくれたわ。本当に感謝してもしきれないくらいに。そしてその役目をしっかりこなしてくれた。だからこそ……私も、支配人もあなたを自信を持って推薦しようと思ったの」

「……副司令?」

 

 かえでの高評価に戸惑うなずな。

 

「これから、お前に辞令を下す。だがな、なずな……この役目はちょっとばかり特殊でな。もしもお前が、イヤだというのなら……断ってくれて全然構わん。ただ……」

 

 なずなの様子を見た米田が優しい口調で説明したが、最後はどうにも歯切れが悪かった。

 それをかえでが引き継ぐ。

 

「正直な話をするわ。今の花組は欠員がでる予定もないし、増員の余地もないの。だから……このままだとあなたの行き場所がないのよ。だから──」

 

 かえではそう前置きをして、手にした書状を読み上げる。

 

「辞令……帝国華撃団乙女組所属、白繍なずなを…………巴里華撃団・花組への出向を命じる」

「「────え?」」

 

 なずなの、そしてせりの驚いた声が支配人室に響いた。

 呆気にとられていたなずなに対し、横にいたせりが猛然と口を開く。

 

「ど、どういうことですか? 司令! それに副司令!! 巴里華撃団って……」

「どうもこうもねえ。さっきかえでが言っただろ? 今の華撃団にはなずなの行き場所がねえんだよ」

 

 米田は事情を説明する。

 現状の、帝国華撃団花組は人数的には盤石な上に、予算の都合上で霊子甲冑を増やすのも無理だという。

 

「おまけに若いヤツばかりで霊力が減衰を迎えそうなヤツもいねえ。可能性があるとしたら、あの中の誰かが大神との間に子供をこさえて動けなくなるくらいだがな……」

 

 冗談めかして茶化す米田だが──

 

「「支配人ッ!!」」

 

 さすがにセクハラと認め、かえでとせりが厳しい声が飛ばした。

 思わず首をすくめる米田だったが、言われっぱなしではなく反撃する。

 

「なんでえ、せり。お前だって同じ可能性、あるだろ? ウメとの間に──」

「なッ!?」

 

 思わず顔を真っ赤にするせり。

 

「あ、ありませんよ!! そんなこと──」

「なんだ、ねえのかい? アイツも奥手だな……」

 

 ムキになる彼女に、米田はあからさまに大きなため息を付く。

 

 かえでが「……支配人」と小声でたしなめるが、米田はそれで止まらなかった。

 

「せり、お前ももっと積極的にならねえと他のヤツに負けちまうぞ? しのぶやかずら、それにかすみにだって……」

「し・は・い・に・ん!? 今は私の話じゃなくて、妹の──なずなの話ですよね?」

 

 こめかみに青筋を立てながらせりが反撃し、話を元に戻す。

 米田は一度、コホンと咳払いをし──

 

「なずな、オメエの才能はこのまま眠らせておくのは惜しい。それくらいに優秀だ」

 

 彼女自身の霊力の強さや体術や武器を使った戦闘技術ももちろんだが、養成機関で育てられたという知識や技術、それに霊子甲冑での実戦という貴重な経験があるのも大きい。

 だが──今の、枠がない帝国華撃団にいては、それが生かせない。

 枠があく予定もないでは宝の持ち腐れになってしまう。

 

「今、巴里に行っている大神くんは留学なので、その期間が間もなく終わるのだけど……向こうの代表から、彼を残せないかという打診があったのよ」

 

 巴里華撃団司令・イザベラ=ライラック伯爵夫人。彼女もまた海千山千の欧州社交界を戦い抜いている女傑である。

 

「さすがにそれはできない、と返事をしたら、それなら代わりに誰か、有能な隊員を渡せないか、という話になって……」

「なずな、オメエに白羽の矢が立ったというわけだ」

「あたしに……ですか」

 

 再び視線がなずなに集中する。

 そんな中、せりはなずなの肩を軽くパンとたたいた。

 

「やったじゃないの、なずな。あなたの力を、司令や副司令は認めて、評価してくださっているのよ」

 

 なずなの反応がピンときていないような様子なせいもあったが、せりとしては、妹が評価されていることが純粋に嬉しかったのだ。

 しかし──かえでが、申し訳なさそうな顔になって、話を続けた。

 

「ええ。でもね、なずな。今回のあなたの場合……大神くんとは違って、こちらに戻す予定がないものなの」

「「え──?」」

 

 せりとなずなの声が再び重なる。

 

「つまり、向こうに行けばオメエは巴里華撃団の正式な所属隊員となり、除隊になるまでは帰ってこられん」

「特別な事情がない限りは、最低でも数年は向こうで暮らすことになるの。だから──それが不満なら、蹴ってもらって構わないわ」

「そ、そんなのもちろん──」

 

 せりが言い掛けたそのとき、米田が遮る。

 

「──だが、もしもこの話を断るのなら、乙女組を卒業し……実家に帰れ」

「それは…………」

 

 思わず絶句するなずな。

 

「どうしてそうなるんですか!! 今さら故郷にもどれなんて……横暴じゃないですか!!」

 

 いち早く立ち直って抗議したのは本人ではなく、姉のせりだった。

 

「さっき説明したとおり、帝国華撃団は今のところ花組に空席ができる予定はない。そして、優秀な隊員を飼い殺しにし続ける余裕もな」

「なら、夢組所属でも──」

「お前ら夢組は、いつから花組の補欠部隊になったんだ? せり、夢組幹部であるオメエがそんなことを言うだなんて、ウメのヤツが聞いたらガッカリするぞ」

 

 米田に言われて、せりはぐうの音も出ない。

 同じ霊力を重視される花組と夢組であり、霊子甲冑を動かせなくて夢組所属になった者もいるが、その要求される能力は違うのである。

 霊子甲冑を動かせない分、多様な能力が必要とされ、いわば華撃団の聞こえぬものを聞く耳や見えざるものを見る目となるのが夢組である。

 

「そして、重要なことだが……乙女組という養成機関がある以上は、今後も花組の補欠になる後輩たちが増えていくことになっちまう」

 

 その中でなずなよりも優秀な子が出てくる可能性は十分にあるし、より優秀な者の育成を目指すのは養成機関として当然の責務だろう。

 

「なずな。華撃団はあなたの実家から、せりさんとあなたという大切な娘さんを、二人も預かっているのよ。華撃団が軍隊という危険な組織に所属しているのは間違いない以上、あなたを活かすことができないようなら、あなたを御実家に返すのが義理だと──」

「それなら、私を実家に帰せばいいじゃないですか!!」

 

 なおも抵抗するせりに、米田は首を横に振った。

 

「実績のあるオメエとなずなだったら、断然オメエの方を残すぜ? 夢組随一の霊感を誇る調査班頭をクビにできるわけねえだろ。オマケにお前がいないと食堂も立ち行かん。論外だ」

 

 重要度であればせりの方が上──というよりも、現状で余っている霊子甲冑搭乗者よりも、歴戦の優秀な霊能部隊隊員の方が価値が高いと思うのは、ある意味当然である。

 

「そんなわけで、なずな……コイツはオメエのこれからの人生に大きく関わることだ。ここで即決しろとは言わん。一人で決めるのも難しいと思ったからこそ、相談相手として姉のせりも併せてこの場に呼んだんだからな」

 

 それで姉妹そろって呼ばれた理由もよくわかった。

 それにもしも受ければフランスへ実質的に移住ということになる。家族の理解は不可欠だろう。

 しかし──

 

「……一つ、お聞きしてもよろしいですか?」

 

 今まで黙っていた、当事者であるなずなが口を開いた。

 

「おう、なんだ? なずな……」

「もしあたしがこの話を断ったら……誰か別の人が巴里に行くことになるんですか?」

余所(よそ)の組織に人を出すのだから、誰でもいいというわけにはいかないわ。こちらが大丈夫と思える人には打診するけど、そういう人全員に断られたら巴里華撃団には誰も行かない、ということになるわね」

 

 そう説明したかえでは「それで関係が悪くなるということはないから、そこは気にしないでちょうだい」と念を押してきた。

 なずなは、それに関してはあまり気にしていない。

 だが──自分が行かなければ話が行くであろう人のことは、気にしていた。

 




【よもやま話】
 まだ帝都。
 もう少しだけ、帝都の話が続きます。
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