サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
「──巴里にいく話があるんだって?」
なずなが食堂で遅くなった食事をしていると、そう声をかけてくる人がいた。
そうしてなずなの正面の席に座ったのは──
「ウメ隊長!?」
帝国華撃団夢組の隊長にして、ここ食堂の主任であるその人の登場に、なずなは思わず腰を浮かせてしまう。
そんな彼女の大仰な反応に、彼は困り顔で苦笑して頬を掻いた。
「そんなに畏まらないでよ……」
「す、すみません……」
顔を赤くして俯き、謝るなずな。
彼女が過剰なまでに反応してしまったのは、目の前に突然あこがれの人が来たからである。
元々、姉のせりや親友で夢組所属の
そして、アイゼンクライトで戦ってるときに絶体絶命の危機を助けてもらい──それ以来、恋に落ちていた。
もちろん姉や親友の想い人だということは百も承知だが──
(しょうがないじゃない、好きになっちゃったんだから──)
そう心の中で言い訳する。
でも──理解していた。せりやかずらとはその人との絆は比較にならないほど弱いものであることに。
「……あの、隊長は…………どう思いますか?」
「巴里華撃団へ行くことについて、だよね」
確認になずなが頷くのを見て、彼は腕を組み「う~ん……」と考え込む。
「なずなちゃんは……乙女組に入って、今まで努力してきたのは、誰かを守りたいと思ったから、だよね?」
「はい。姉さんにない力を持ってるって言われて、それで誰かを守ることができるのなら、と思ってます」
素直に頷いたなずなの言葉に、彼は笑みを浮かべた。
「それなら、その初心を大切にするべきだと僕は思うよ」
「それは……巴里にいけってことですか?」
少し寂しげに言う彼女に、彼は苦笑を浮かべる。
「もったいない、とは思うよ。霊子甲冑を動かすことができる
花組の定員が埋まっており、これ以上の増員も望めない。帝都にいたら活躍の場がないのである。
それなら、活かせる場所に行ったら……と、霊子甲冑を動かせない夢組には、そう考える者は多いだろう。彼もまたその一人ではある。
しかし、話を聞いていた彼はため息をついた。
「でも……なにしろ巴里は遠いからね。もしも行ったら簡単には帰ってこられないし、文化もまるで違う。急にそんな場所に行けって言われたら、躊躇うのは当たり前さ。僕だって今、行けと言われたら素直に承諾はできないよ」
理由はいろいろあるのだろう。
故郷に残してきたものもあるだろうし、今の帝都での生活を捨てられないというのもあるだろう。
「今以上に家族には会えなくなるし、故郷にも帰られなくなる」
「う……」
なずなの実家は東北地方の日本海側。今だって帰省するのは容易ではない。
しかも、大神のような期間限定というわけでない。故郷を捨てる覚悟でいかなければならない。
姉妹弟が多いので、実家の心配をする必要はないが──それでも身を裂かれるような寂しさはある。
だからこそ、なずなは断る気でいたのだが──それでも迷うのは、別の姉妹のためでもあった。
なずなは乙女組の次席なので、もちろん主席がいる。
その名は野々村
(もしあたしが断れば、きっと話は野々村さんに行く。彼女が巴里行きを決断したら……)
つぼみの悲しみは大きいだろう。それはなずなが妹であるからこそ察することができる心境である。
彼女を巴里に行かせないため、つぼみの思いを守るためにも、自分が行くべきじゃないかと思い、悩んでいるのだ。
「──でも、そこに困ってる人がいるのなら、戦うのには十分な理由だと思うよ。帝都の市民の命も、巴里市民の命も、同じように大切なことに変わりはない」
「そう……でしょうか?」
なずなはおずおずと言った様子で尋ねた。
それに梅里は、なずなの考えに気が付いて苦笑を浮かべる。
「日本人とフランス人は同じように思えないかい?」
素直に頷くなずな。
だがこれは仕方のないことでもある。この国のために命を懸けることに躊躇いが無くとも、それが他の国が対象になるかといえばそれは個人次第だろう。
そう思えないなずなを責めるのは酷というものだ。
「僕も元々は水戸で魑魅魍魎と戦っていたから気持ちは分かるよ。そのときはやっぱり見知った人、近しい人を守っているという認識だった。帝都に出てきた当初は……まぁ、いろいろ事情があったからあまり守っているっていう認識はなかったけど……」
当時を思い出して苦笑を浮かべる彼。
「でも、しばらくしてから改めて考えてみて……帝都市民の命も、水戸市民の命も、どっちも大切でかけがえのないものだと思ってね」
梅里の説明に、なずなは半信半疑だった。「う~ん?」と首を傾げるなずなに、彼はそっと諭す。
「なずなちゃんは大切なことを忘れてるよ。霊障から人を助けることは万人にできるわけじゃないんだから」
「そう、ですよね……」
霊障と呼ばれる怪異や異常現象。それに対抗できるのは、“霊力”と呼ばれる力を持つ者だけだ。
誰もができるわけではない。だからこそその力を持つ者には、持たない者を守るべきだという使命感が生まれる。
「特殊な力があるからこそ守ることができる。その力を持つなずなちゃんは……助けを求める人を選ぶわけじゃないだろう?」
「それは、そうです……」
頷いたなずなの頭にポンと手を乗せた彼は、優しくその頭を撫でた。
「強制はしないけど……僕らにもできないことができるんだから、その力で多くの人を守ってほしいと、僕は思うよ」
そう言って彼が笑顔を浮かべ、それに見惚れて顔を赤くするなずな。
──その姿を、こっそり見ている人がいることに、彼女は気が付かなかった。
【よもやま話】
なずなと話しているのは私のシリーズの前作と前々作の主人公です。未読の方で興味を持たれた方は──以下略──(再度露骨な宣伝)
前話の最後に悩んでいたのは、野々村姉妹に対する気遣いからでした。