いつだってポケットにいた君達
ずっとずっと、違和感があった。
家族に、生活に、風習に、隣人に。
自然豊かな島で生まれ、年の離れた姉に優しく面倒を見られつつ、島の伝統を守る両親や祖父母に暖かく見守られ、島民の皆からも世話を焼かれながらすくすくと育った。
とてもとても、良い島だと思う。
島の皆のことは好きだし、勿論家族も大好きだ。
でも、でも。
どうしてか、馴染めない存在が、あった。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
私達人間にとって隣人で、家族で、相棒で、時に脅威をもたらす身近な生きもの。
それが分かってしまったから、つい、こうして逃げてしまった。
「困ったなぁ」
「いやそれ私のセリフだからな」
ぽやんとした表情にピンク色の、王冠を被った彼がのほほんと返してくる。
「ねぇ、どうしたらいいかな」
「さてなぁ」
「もう少し真剣に聞いてくれてもいいと思うんだけどな」
「それはそれだなぁ」
「ちくしょうこの浜ちゃんボイスめ…」
「はっはっはっ」
1年に一度行われる祭り。
その巫女として選ばれたのが、つい一時間前くらい。
それと同時に、思い出したのだ。
私は、この世界
ゲームはもちろん、アニメも見ていた。
年齢を重ねる毎にゲームは楽しむだけでなく、やり込む要素が増えてのめり込んだ。
アニメは時間帯と生活習慣が合わなくなって、見る機会が減ったけど…それでも時折見てたし、映画はちびっこに混ざってゲーム機片手に見に行っていた。
ただ、この世界に生まれただけならこんなに考えなかったと思う。
けど、楽観的に受け入れるには、私の立場は微妙すぎた。
ここは、島だ。
カントー地方に属する、オレンジ諸島のその果ての島。
アーシア島。
1年に一度行われる、伝統の祭事。
祭りの内容は3つの島…火の島、雷の島、氷の島に置かれている玉を集め、本島に持っていき奉納し、海神に笛の音を捧げること。
はい、どう考えても爆誕です、ありがとうございません。
しかし悲しきかな、私はまだ7歳。
あの映画でサトシと同い年だったとしても、最短3年は先の出来事である。
というかあの積極的な無茶振り巫女が自分とか、無理です。
なによりも、だ。
「お姉ちゃん、いっぱい練習してたのに…」
海の笛で奏でる、楽譜のない音。
でもそれは、何度も、聞いていた。
ハッキリとした音で聞いたことがあった。
思い出す前だったのに、覚えていたのかもしれない。
私は笛を渡されて、音階を確かめた後、吹いてしまった。
吹けて、しまった。
「…どうしよっか」
皆が皆、驚いて。
今年、巫女になるハズだったお姉ちゃんを差し置いて、あれよこれよと私が巫女だと決まってしまった。
皆のことは、嫌いじゃない。
違和感はあったけれど、それでも、ポケモン達も、嫌いじゃない。
家族だって、嫌いじゃない。
大好きだ。
皆のことは、好きなのに。
「…お姉ちゃん、泣いてた」
もしかしたら、嫌われたかもしれない。
だって、だって…
「お姉ちゃん、巫女として笛を吹くんだって、はりきってたのに…」
それを知っていたから、逃げてしまったのだ。
映画の事件は、まだ時間がある。
でも、巫女に関しては、もう、どうしようもない。
そもそも、この巫女の役目は毎年変わる訳ではなく、先代が引退することによる代替え式だ。
それ故に、お姉ちゃんに巫女の役目が回ることは、もう、ないのだ。
「ねぇヤドキング、どうしたらいいのかなぁ」
今まで違和感しか抱かなかった存在に、同じことを聞く。
「さてなぁ」
のんびりとした、気の抜ける返事だ。
それでも、突き放す言葉を吐かれないから、少しだけ息がしやすい。
遠くから、声が聞こえる。
私の名前だ。
「…帰りたくないなぁ」
「それは、困ったなぁ」
「ここで寝ちゃ、だめ?」
「それも、困ったなぁ」
「じゃぁ見つかるまでここに居させてね」
「仕方ないなぁ」
オレンジ色の夕焼けが眩しい。
帰るのは、憂鬱。
だけど、でも。
今まで違和感を抱いていた存在は、優しくて、身近な存在なんだと、背中の温もりが教えてくれた。