目の前に、通信機材。
所持者はおじさんで、ポケモンリーグの備品なのだとか。
画面付きのそれは、繋がっている相手の御尊顔が良く分かる。
その映っている相手は、ニッコリと笑みを浮かべている。
「さて、巫女殿。どういうことか説明してくれるかい?」
「お兄さんに唆されたので私悪くないです」
「ん?」
「ウ°ャッごめんなさい!!」
秒で土下座した。
だって怖すぎるんだもん。
ぴえん。
「フルーラちゃんって時々変な鳴き声だすよね」
「おっさん、アンタ少し黙った方がいいぜ」
おい元凶共。
我関せずな態度とってんなよコラ。
ワタルさんのお怒りゲージの矛先は貴方達にも向いてんだからな。
案の定。
反省の色無しな2人にワタルさんがブリザード吹き荒らしながらのお説教が始まったので、気配を消してゆっくりフェードアウト。
うんうん、そうなんです。
結構な頻度で大乱闘トキワのジムリブラザーズしてるんです。
もっと怒って下さい。
ところでワタルさん、懇切丁寧な正論で殴ってますけど、やけに詳しいですね?
あぁ、お兄さんが情報提供してたんですね。
なるほど。
…いやまって。
だったらなんで昨日あんなこと…
え?本当にやるとは思わなかった??
は?(キレ)
「お兄さんも怒られて来てください、今すぐに」
「あははー。いやまぁ言ったのは悪かったかもだけどさぁ…ほら、実際あの2人に向かってくとは思わなくて、ね?」
「ヤドキングを参考に頑張れって、言ったのお兄さんですよね」
「まぁ…うん」
「ちゃんとフォローするよって、お兄さん言いましたよね」
「あー…と、うん」
「フォローしてくれたの、ヤドキングでしたけど」
「すごく見事な制圧だったよ!」
「お兄さんは見てるだけでしたもんね」
「……あは?」
「笑ったって流されませんからね」
誤魔化されませんからね。
死なば諸共。
だから一緒にお説教受けましょうね。
1人だけ逃げるなんて、許しませんよ?
それはそうとして。
ワタルさんのお説教はヒートアップすることはなくて、ただただ反省を促すものなのが凄い。
なんというか、慣れてますね?
リーグ責任者ってお説教スキル必須だったりするのかな?それともワタルさんだけ??
というかいつもはどなたをお説教していらっしゃるの??板に付いた言い回しですね???
「…ところで、トキワのジムリーダー業務の引き継ぎは終わったのかい?」
「「…」」
「終わってないのかい?これだけ時間があったのに?まぁそうだね、君達の手合わせはどうも本気のバトル手前だったようだしね?」
「おっさんが煽るのが悪い」
「どんな相手でもジムリーダーとしてバトルするなら、冷静で居てもらわないといけないからね」
「グリーンくん、毎回同じ事を繰り返すなんて学習能力低下したかい?切れるくらいなら受け流すことを覚えようか」
「………はい、気を付けます」
「よろしい。それからヨウガンは子供みたいに執拗に煽る行動は止めて、指導すること。いつまでもジムリーダー不在にしていたくないんだ、分かるだろう?」
「理解、してます」
「本当に?グリーンくんに言った、冷静でないといけないのは貴方の方だという自覚は?」
「……そう、ですね」
ニコニコと饒舌に追い詰めてくワタルさん、怖い。
所々に棘がある言い回しになってるのも、恐い。
けどまぁ、うん。
確かに引き継ぎ、まだ終わってないのって、どうなのかと思う。
別にグリーンさん、私とバトルする時はちゃんと加減してくれてるし、アドバイスとか的確だし。
ジムバトルとは違うだろうけれど、相手に合わせることは出来なくはないと思う。
でも。
おじさん煽りに煽るから、グリーンさんプッチン切れて、いつもの全力バトルに…という流れ。
もはやこれがお約束。
一回当たりが強いのは何故かと聞いたことはあるのだけど、必要なことだから、の一言で終わらされてしまった。
真意は定かではないけれど、嘘偽りの無い言葉だったから、おじさんのやり方なのだろうと口出し等はしないでいた。
まぁ8歳児に言われたって困るだろうし。
重々しい溜め息を一つ吐いたおじさんに、突き刺さる視線。
グリーンさんも横目で凝視してる。
っていうかお兄さん、いまボソッとおじさんの名前初めて知ったって言ったな。
じめんとほのおタイプ使いのヨウガンさん、覚え易いでしょ?
「ふぅーー…うん。すみません、ワタルくん。もう大丈夫です。後一週間下さい、それでちゃんと引き継ぎます」
「うん。宜しく頼むよ」
柔らかな空気を纏って、そう宣言したおじさんに、グリーンさんは目を見開く。
通信が切られて、なんとも言えない空気の中。
口を開いたのは、おじさんだった。
「少しだけ、僕の話を聞いてくれるかい?」
苦笑にも似た顔で、どこか気が抜けたような顔で。
グリーンさんも、お兄さんも、とりあえず話を聞く体制をとって。
私も、それに習って。
そうして語られたのは、前回の引き継ぎのこと。
その後悔、懺悔の話。
ジムリーダーをしていた、過去の話。
唐突に聞かされた、兄の訃報。
当然葬儀に参列したが、問題はそこから。
家業を引き継ぐハズだった兄が亡くなったことで、自分が後継ぎになったこと。
父は病に臥せっており、存命の内に引き継がなくてはいけなかったこと。
その為に、ジムリーダーを辞めることになったこと。
けれどトキワのジムリーダーは、そう簡単に引き継げるもので無かったこと。
だから後任の採用は、とにかくバトルの強さを重視して募集したこと。
集まったのは一応リーグの人選でもあったから、その人の思想、性格、矜持、などは直接対話して確認した訳では無かったこと。
そもそも、時間が無かった。
バトルの強さ、そして事務系の仕事の処理能力。
秀でていたのがサカキだった。
そう、ロケット団のボス、サカキ。
聞けば社長業をしているそうで、人の上に立っているならジムリーダーに向いてるだろう、と。
そう安易に考え、後任へと決めた。
そして要領のよいサカキに事務業やらを一通り教え、一週間で引き継ぎを終わらせた。
終わらせて、しまった。
決して疎かにした訳ではない。
業務はちゃんと教えたと自負している。
彼を見ていなかった訳ではない。
けど、けれど。
あのような者をトキワのジムリーダー後継者として任命してしまったことを、二年前のあの日、どれだけ後悔しただろう。
トキワ周辺の、ポケモンの生態系が崩れていたことをしった。
シロガネ山のポケモンが、下りて来ている影響だった。
ジムリーダーの仕事だって、社長という立場を使いほぼ不在だったと聞いた。
リーグからの要請で、その二年前から再びトレーナーとして活動するようになって知ったトキワの現状に、どれほど絶望していたことか。
そんな自分に、また、後任への業務の引き継ぎをしてほしいと依頼があった。
これはどんな悪夢かと、思った。
次こそは、あんなことが起きないように。
だから為人を、しっかりと、確かめたかった。
バトルして、会話して、業務引き継ぎをしながらその意思をみて。
まっとうな人なのだと分かっても、どうにも信用しきれなかったから、と。
けれど。
でも。
こんな年になって説教されて、ようやく冷静になって。
今までのやり取りを思い出して、大丈夫だと、思えたのだと。
それを聞いて、思ったことは。
確かめるためとはいえあの煽りは、おじさん、やべぇな。
だった。
だってグリーンさん、完全にとばっちりじゃん…?