あの日、家に帰ってから、勝手に気まずい空気を感じて過ごしていたら、まぁ気付いたら祭りの日になっていた。
はっきり言って色々考えすぎてて気持ち悪いくらいである。
なお、今の気分としては一周回って、もうどうにでもなーれ★、だ。
だから、こんな無理矢理上げたテンションでなんとかやりすごし、このまま終わってくれないかなーと思ってた。
まぁそういう時に限って問題は起こるのだが。
うん、知ってた。
さて、祭りは巫女の他に操り人という役がいる。
その役を選ぶのは巫女の仕事だ。
なので祭りの日までに滞在する観光客を含めたトレーナーを歓迎、もとい観察し、候補は絞った。
まぁ私の中ではほぼ決定なのだが、まだ長老達が審議中なので発表してない。
ちなみにだが、操り人に選ばれることはステータスになる、とは言わないが操り人として三つの島を踏破したトレーナーは大成する、というジンクスみたいな逸話が昔からある。
だから観光客に混ざってあわよくば選ばれないかなーという、ちょっとした下心あるトレーナーもまぁ例年通りいるので意外と候補は多かったりする。
けど、まぁ。
観光であれなんであれ、クソなヤツは何処にでもいるらしい。
巫女に選ばれたとはいえ、人手が足りなくなるのは毎年のことなので手伝いとして貯蔵庫から果物や飲み物を運んでいたときだ。
突然腕を掴まれ、連れ出された。
結構な力で握られたので少し痛いし、歩幅の差異で躓きまくるので足先も痛い。
開けた場所に出て立ち止まったのを機に、手を振り払い距離を取る。
そうして対面した顔にあったのは気持ちの悪い笑みで、あろうことかソイツは自分を操り人に選べと言ってきたのだ。
ポケモンを、従えて。
それは紛う事なく脅迫だった。
ニヤニヤと笑うトレーナー、こちらを見定めながらトレーナーの指示を今か今かと待つポケモン。
断られることなど微塵も思ってない、この場での強者は自分だと言わんばかりのその態度に、イラっとしたが、安直に抵抗しようものならどうなるか、分からない訳ではない。
どうしようかな、と少し考えるものの、恐怖は感じなかった。
だって、巫女たる私が消えたことに気付かないほど島の皆は鈍くない。
というか巫女を脅して操り人になったとして、祭りの最中に私がバラさない訳がないだろうに短絡的すぎる。
というか、だ。
「もう候補は決まってるし、あとは長老様達に任せてるから意味ないよ」
「っはぁ?!ふざけんなよ!?」
「ふざけてないよ。そもそも候補すら決まってなかったらお手伝いしてるわけないでしょ」
「んの嘘つくんじゃねぇ!!」
何を思ったか私の言葉を否定した短気なトレーナーは、ポケモンに命令し、私に攻撃をしかけてきた。
ガッ、と響いた鈍い音。
どさっ、と何かが倒れる音。
けど、私は無傷だった。
気付いたらお姉ちゃんが目の前にいて、ポケモンの技を私の代わりに受け、吹き飛んだのをみた。
当然、ポケモンの技を受けて無傷という訳がなく。
石で切ったのか、額からポタリと流れた赤いそれを見て、一瞬、息が止まった。
ーーーブチン
なにかきれるようなおとがきこえたきがした。
思考はとてもクリアで、色々考えてたことが追いやられ、目の前の事象を処理することにのみ意識が回る。
胸が締め付けられるように痛い。
無駄に速く記憶やら諸々を引き出して簡素に纏めた結論は、行動に移るまでのラグがある。
思うように体が動くまでが遅くて苦しい。
思考と感情が別々の生き物みたいに、ぐるぐると、頭と身体を巡ってるのがわかる。
やっと行動に移すことができるころ、私の口が開いた。
「サイコキネシス」
瞬間、高出力の念力が目の前のポケモンを捉え、ぶっ飛んだ。
ポカンと口を開き、目を点にしたトレーナーは、数拍の余韻を得て正気を取り戻したらしく、新たなポケモンを出そうとボールに手を伸ばした。
でも、遅い。
その行動すべてがスローモーションのように映ってみえた。
ポケモンとトレーナーには、相性がある。
島の主ポケモンたるヤドキングから教えて貰った、この世界の摂理。
トレーナーにはそれぞれ相性の素質があり、タイプや種族によって従えられるポケモンが違うこと。
ポケモンはその素養のあるトレーナーに惹かれやすいこと。
トレーナーがポケモンを育てるとき、信頼関係を築くとき、その相性や素質が少しでも噛み合わないと上手くいかないこと。
そう、例えば、このトレーナーなら、かくとうタイプ。
お姉ちゃんを吹き飛ばしたポケモンは、かくとう単一タイプのオコリザル。
人に技を出したのに、動揺してなかったから似たようなことを何度もしているかもしれない。
「ねんりき」
私の意図を正確に汲み取ったその技は、トレーナーから全てのモンスターボールを奪い、空に浮かせた。
私は怖くなかった。
守ってくれる存在がいると、知っていたから。
私は抵抗しなかった。
守ってくれる存在がいると、慢心していたから。
巫女という役を背負うことが、どういうことか理解してるつもりだった。
守られる存在であることを、正しく認識できていなかった。
だから、だから。
これは八つ当たりだ。
「かなしばり」
ボールを取ろうと空へ腕を伸ばしたその状態で、ガチリと動けなくなったトレーナー。
あぁ、ほんと、相性って大事なんだな、なんて思考を逸らして。
ズキズキと痛むのは、頭なのか胸なのか。
いっそ気の所為なら楽なのになんて、息を吐き出して、思考を切り替える。
何が起こったの、と不思議そうに目を瞬かせるお姉ちゃんに駆け寄って、傷口をハンカチで押さえる。
流れた血で焦ったが、思ったより深くはないみたいだ。
「お姉ちゃん、大丈夫?痛い?」
「あ、うん。大丈夫よ。フルーラは?何かされてない?」
「ん、何もされてないよ」
「そう…」
よかった、と強張っていた体から力が抜けるのを見て、罪悪感が湧く。
心配かけたのだと、わかるから。
「ありがとう、ヤドキング」
「ほんまになぁ…」
壁のような、崖の上。
そこに佇む見慣れた存在。
私が巫女として初めて迎える祭りだから、とわざわざこの島まで来てくれていた、水・エスパー複合タイプのポケモン。
かくとうタイプは、エスパータイプに弱い。
ゲームで言うならダメージ2倍、効果抜群というやつだ。
サイコキネシス一発で瀕死となったオコリザルを見るに、レベル差があったか、もしくは急所に入ったのかもしれない。
まぁ、そんなこと、どうでもいいんだけど。
「な、なんで…いまのヤドキングの速さじゃないだろ!?」
「相性の問題だよ」
「は?」
ポケモンとトレーナーには、相性がある。
それは、エスパータイプだと特に分かりやすい。
だって、そうでしょ?
「ヤドキングはね、私の思考を読んで、動いてくれたんだよ」
だから、技の指示と技の発動にタイムラグがない。
思考、思念、感情、そういったモノを読み取ることに長けたエスパータイプは、だからこそ、相性が良いトレーナーが少ない。
それらを読み取られるトレーナー側が、もたないから。
だけど私は、エスパータイプと、とても相性が良いらしい。
思考を読み取られる負担はほぼ無いに等しいし、逆に何を考えて感じているのかも、なんとなく分かるくらいだ。
これはとても珍しく、ものすごく相性が良いことなのだと教えて貰った。
そして、ヤドキングは言っていた。
「どんなポケモンでも、トレーナーと相性が噛み合えば声に出さなくたって指示できるんだって」
「、はぁ?んなわけ」
「おい」
トレーナーの後ろに立った、ガタイの良いおっちゃん。
お姉ちゃんの手当てに駆け寄ってくれるおばちゃん達。
他にも私達を囲む形で、島のトレーナー達がいる。
「な、なんで…」
震える声。
多くの島民に、観光に来ていたトレーナー達にも囲まれ、それでもなお動けない姿は情けないが、慈悲をかける理由がないのでかなしばりは継続。
だってこの島にはジュンサーさんが居ないから、おっちゃん達に縄で拘束されるまではそのままなのだざまぁみろ。
「何でこんなに人が集まってるのか知りたい?簡単なことだよ。あなたに手を掴まれた時に、ヤドキングにヘルプコールしたの」
当然、声は出してない。
でも今日はヤドキング自身が私を守ると言ってくれたから、すぐ近くにいることを知っていた。
治安が悪い訳でもないのに、多少の未来予知も出来るヤドキングが、わざわざ私の為にここに居る。
つまりそれは何かが起きるということだ。
歴代最年少の、7歳の巫女。
自分のポケモンを持ってない、子供。
狙われるなら私だと、予想はついた。
起こるだろうこと考えて、対策を考えて、考えて考えて。
そうして起こった事に対応するのは当然のこと。
連れ出されることも、ポケモンで脅されることも、攻撃される可能性も、全部全部、想定の範囲内だったのに。
なんならもっと悪質で下劣な出来事も予想していたのに。
こんなヤツの所為で、お姉ちゃんが、傷付いた。
ゆるさない、ゆるさない。
自分以外に被害がいく可能性を、考えてなかった訳じゃないのに。
ゆるせない、ゆるせない。
喚き散らしながら連れてかれるトレーナー。
私なんかを脅す為にポケモンまで使ったから、前科持ちになることは確定だ。
証人も多くいるから、きっとオレンジ諸島のジュンサーさん預かりになるだろう。
治療の為と島唯一の診療所に行くお姉ちゃん。
私なんかを庇ったから、怪我をさせてしまった。
きっと今から始まる祭りには、間に合わない。
「わたしのせいだ…」
お姉ちゃんは今年から巫女として役目をつとめるハズだったのに、私が奪ってしまったから。
お姉ちゃんが巫女としていたら、こんなこと起きなかっただろうに。
でも、それでも、時間は戻らないし、起こったことは覆らない。
あぁ、もう、祭りが始まる。