さて、私が操り人の候補に上げた人は2人いた。
一人はコミュ力高の見るからに元気ハツラツな正義感溢れる好青年。
そして残ったもう一人は観光で親戚と共に他地方から来ていたイケオジだ。
しかし青年は候補になっていたと知ってたら残っていたかもしれないが、例のクズ野郎が暴れた場合の戦力として自ら立候補して届けに行ってしまった。
行動が速くてすでに漁師のおっちゃんを伴って出港してたので後の祭りだ。
…祭りだけにって?
なお、長老達が審議した理由は青年が連れていたポケモンのクセが強かったから。
イケオジは年齢的に操り人にしていいものか、という感じ。
まぁ結局候補が一人になってしまったので、イケオジにお願いすることになったんだけど。
会話すると少し気が強いというか荒れてるようではあったけど、他トレーナーが起こした事件について知ってたようで、私が祭りを早く終わらせたいという気持ちをそれとなく伝えたら了承してくれた。
まぁ直感でもあったけど根は善良なのだと分かったし、島にいたトレーナーの中では多分一番強いと感じたし、何より上着を着ていても分かる鍛えられた肉体を信用した。
だって筋肉はすごく重要なんだよ?
冷静に考えてみ?島を回るんだよ?
三つの島の自然山道を登るんだよ?
体力必須なこの祭り舐めてんの??
という理由が比重をしめてるが、これがこの祭りの真理なので。
優れた操り人は、ポケモンと共にいる為に鍛えているものだ。
まぁ大半のトレーナーは旅することで自然と体力や筋力があるのだが。
そんな訳で今年の操り人のおじさまは頑張って下さい。
そうして怒涛の勢いで玉を集めて奉納してくれたおじさまは、素直にすごいと尊敬した。
だって今までの操り人の中でも一日で全て集めたのって少ないから、本当に。
どうして燻っているのか分からない。
とりあえず全力で感謝を伝えて、祭壇に向かった。
三つの島、広大な海。
見下ろしながら、笛を吹く。
今の時は既に夜だ。
暗いけど、月明かりが海に反射して、見渡せる。
とても綺麗な景色を眺めながら、海の神に捧げる曲を紡ぐ。
自分で吹いておきながら、やっぱりとてもキレイな曲だと思う。
そうして吹き終わった、その瞬間。
海が、割れた。
姿を現したのは白銀の巨大。
滑らかなフォルムに、目元を彩る鮮やかな青。
両腕の翼を広げ、ぶわりと強い風が吹く。
ルギア。
突然のことにびっくりして、混乱して、固まる。
見られてる。
観察されてる訳じゃ、ない。
その目は、優しい。
どうしてかは分からない。
けど、それは慈愛の眼差しだと分かった。
好かれてる。
なんでかは分からないけど。
それに安心して、とても嬉しくて、思わず笑ってしまった。
ーーーギャァアアァァス!
音に記すなら、そんな鳴き声。
一声響かせ、再び海へ飛び込んで行った。
挨拶された気が、した。
また会おうと、そういう声だった気がした。
大丈夫だ、とそんな声な気もした。
夢見心地。
ふわふわとした感情のまま、家に帰った。
そうしていいと、言われた気がしたから。
道すがら長老達が気絶してたり泡吹いてたりしてた気がしなくもないけど、まぁ海の神が姿現したから仕方ないよね、とスルーしておく。
演奏は間違えてないし、まぁサプライズあったけど滞りなく終わったのだと自己完結。
そうして家に帰ったらお姉ちゃんがたくさん褒めてくれた。
伝統衣装と化粧とでいつもよりとてもかわいいと、頭を撫でてくれた。
綺麗な音色で聞き惚れたと、格好良かったわと、いっぱいいっぱい、褒めてくれた。
怪我で痛いハズなのに、笑顔でいっぱい撫でてくれた。
優しくて、面倒見の良い、自慢のお姉ちゃん。
あの日、自分が巫女になれなかったのは悔しかったけど、でも、それ以上に私の演奏に感動し、涙が出てきてしまったことを、教えてくれた。
心配するようなことも、不安になることもないのだと心の底から理解して、ホッとして。
涙が出た。
嫌われたと思った。
でもそれは思い違いで、私はとても愛されていると分かって、嬉しくて。
ルギアから、安心しろと言われたような気がしたから。
本当に、その通りだったのが、嬉しくて。
私はこの世界が、やっぱり、大好きだ。