巫女ってガラじゃない!!   作:山乃庵

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君なら大丈夫!(多分)

 ポケモンには種族があり、タイプがあり、特性があり、性格がある。

 思考する頭もあれば、感じ入る心だってある。

 つまり、個性がある。

 

 あるんだけど…

 

 

 「どうすんだよコレ…」

 「んー…どうしようか…」

 

 

 目の前にいる、一体のポケモン。

 大きな恰幅の良い、ポケモン。

 

 ポヨヨンとしたお腹を無防備に晒して爆睡する、ポケモン。

 

 

 「ぐごごごご…ずぴーーー…」

 「起きる気配ねぇぞ…」

 「そだねー…」

 

 

 あーそういえばここ一応11番道路だったわー…

 

 なんて思いながら、爆睡をキメているポケモンことカビゴンを見つめる。

 つまりはまぁ、うん。

 ゲームならポケギアでラジオのチャンネル合わせたらポケモンの笛が流れて解決するアレである。

 

 ただしここは電波が悪くてラジオほとんど受信しないんだけどね!!

 だって11番道路ではあるけどほぼ森ん中だもんね!!!

 ゲームだとほとんど圏外にならないけど現実だとまぁ致し方ないよねっ!!!!

 

 そして聞いて!!このカビゴン!!

 

 

 「顔、すげぇシワクチャんなったよな…」

 「たまたまなのか、ラジオの笛の音が嫌いだったのか…」

 「いや…なんつーか、たまたまじゃねーと思う」

 「だよねぇ…」

 

 

 ほんと、どうするよコレ…

 

 

 奇跡的に受信できた僅か十秒にも満たない時間、確かに流れたポケモンの笛の音。

 

 一瞬、ほんの瞬きの合間の時間、カビゴンから殺気がブワッと出て。

 次の瞬間にはラジオは途切れていたけれど。

 でも、確かにあの時、間違いなくカビゴンは怒ったのだ。

 

 多分このカビゴン、機械音嫌いなんだと思う。

 察するに嫌悪どころか憎悪のレベルだけど。

 

 いったいこのカビゴンに何があったんだ…

 

 

 「あー…くっそ、どうやって起こせばいいんだよぉ…!」

 「うーー……ん」

 

 

 多分だけど起こせなくは、ないけどさぁ…

 でもさぁ…

 

 ここまで爆睡されると、こっちまで眠くなるよね…

 

 けどまぁ、うん。

 起こさないといけないというか、連れて行かないといけないんだよねぇ…

 

 だってこのカビゴンのいる場所、私有地なので。

 ついでにいうならこのカビゴン、害獣対象になりかけてるので。

 

 ことの始まりは昼ご飯を食べ、満腹になったことで少し微睡んでいたときのこと。

 

 道なりに行けば夕方前に小さな町に着くからそこで宿泊施設を利用しようとか、そんな話をしていた時だ。

 突然私達の目の前…まぁつまり道の脇の森から、物凄い勢いで青年が飛び出てきたのだ。

 

 ズザザザザッ!みたいな感じだったので転がり出てきた、が正しいかもしれない。

 問題はその青年の後ろ。

 ブブブブブッと、少し低い羽音を響かせ青年を追いかけていた存在がいたのだ。

 

 それ即ち、スピアーの群れ。

 

 聞き間違いじゃなければヒビキくんからぴえっと鳴き声が聞こえたけどまぁ気持ちは痛いくらいわかるからスルーした。

 だって毎年スピアーの群れに襲われてお亡くなりになるトレーナー、いるし。

 スピアーの群れに(たか)られて無惨な姿になったポケモンとか、いるし。

 というか長閑な昼下りから唐突な地獄に心の準備も何もない状態でコレは酷い。

 なくぞ。

 

 興奮状態のスピアー達に敵認定され、パッと見ただけでも30を余裕で超えている群れに対して戦う羽目になったんだからもうガチで涙目。

 だって昼ご飯の為に荷物広げてたから逃げるに逃げれないんだよ…!

 眠気など吹き飛んでヒビキくんはバクフーンを、私はピー助を出してただひたすらスピアーを屠る鬼になった。

 

 奴らは野生なので普通にトレーナー(私達)を狙ってミサイルばりとか打ってくるからほんともう…阿鼻叫喚とは正しくアレのことを言うんだと思う。

 

 群れを成すポケモンを倒すに一番有効的であるのは率いるボス…司令塔を倒すことなのだけど、あまりにも数が多いし飛んでくる針を避けるのに精一杯で気付いたら殲滅してた。

 なお私の体力は赤ゲージ。

 ヒビキくんもゼェゼェ息を荒らげながらぐったりしてた。

 

 全力でハッスルできてどことなくイキイキしてるピー助はほんとオカシイ…あとエアスラッシュのひるみの確率7割超えてたよね?すごいね??

 バクフーンだって若干灰になってるのに…大丈夫?真っ白に燃え尽きてない…??

 

 荷物はちょっと荒れてるけど、まぁ、無事だから良しとする…

 する、けど、さぁ…!

 

 

 「それで、ハァッ…アンタ、ほんと、何、ゼェ…して…くれ、ハァ…ハァ…」

 「トレーナーの、ハァ…群れのトレインは…ハァ…罰せられ、ます…ハァハァ…よ」

 「ずびばじぇん"でじだぁ"!でも"お"れ"ドレ"ーナ"じゃな"い"でずぅ"!!」

 

 

 うわ鼻水飛んだ!汚っ!!

 てか顔面ナイアガラ気持ち悪っ!!!

 あと濁音すぎて聞き辛い!!

 

 

 なにはともあれ、と。

 このままここに居てスピアー達が起きてエンドレスバトルPart2なんて目も当てられないので移動する。

 荷物はパパッと集めて、ともかく移動!

 

 あぅ…シート穴空いてら…

 買ったばっかなのにぃ…

 あっ食料品無傷!良かったぁ…!

 

 

 そんな訳で涙も鼻水も唾もなんなら汗もボダボダ流すあまりにも残念な顔面にタオルを押し付け、荷物の確認しながら青年の話を聞いたところ、こんな感じだった。

 

 曰く。

 祖父母の経営する農園が荒らされてしまい収穫物がほぼ無い悲惨な状況。

 当然収益がないと生活が困難…の前に納品先が悲鳴を上げた。

 ここら辺では有名な農家さんらしく、根強い取引先はどうにかしてその犯人をつるし上げようとポケモン被害申請を役所に提出、そして役所からリーグへ依頼された。

 リーグから派遣されたトレーナーは原因がカビゴンが居着いたことであることを突き止め、そして追い払った。

 けれど。

 そのカビゴンは再び戻ってきたようで。

 

 再び育て始めた作物も、また、荒らされてしまったらしい。

 

 もう一度役所に申請しリーグに依頼してもらおうと連絡したものの、数日前から役所はてんやわんやのてんてこまい。

 どうも何かしらの事件が起きてるらしく、諸々の手続きが滞っているのだとか。

 けれど作物の被害は待ってくれる訳はなく…

 

 意気消沈している祖父母をみかねて、意を決してカビゴンに交渉しにきた。

 が。

 

 

 「カビゴンに会う前にスピアーの群れに遭遇してしまった、と」

 「はい…」

 「…いや、なんていうか」

 

 

 持ちポケいないのに森に凸るって、自殺志願者かな??

 無謀にもほどがありませんこと???

 

 

 うーん…にしても、さぁ。

 

 

 「あの…その方って本当にリーグから派遣されたトレーナー、ですか…?」

 「えっ」

 「あ?どういうこと?」

 「えぇっとですね…」

 

 

 そもそも、だ。

 

 居着いてしまった野生ポケモンが農作物に手を出した、何度も被害にあっているなら、それは味をしめた訳だ。

 ここに居れば美味しい食べ物が手に入る、と。

 で、だ。

 そんなポケモンを追い払うくらいで収まるとでも…?

 

 聞いた限りそのトレーナー、山を超えた場所まで追いやったならまだしも、私有地から追い出したくらいで済ませたらしいじゃないか。

 そんなの戻って来るに決まってるだろ、と。

 

 

 「リーグから依頼されたトレーナーなら、そこら辺の事も知ってるハズなんですよね…」

 

 

 というか、リーグから派遣されるトレーナーはそれなりの研修とか受けてるから知っていない訳がないのだ。

 そう、だから。

 

 

 「そのトレーナーは派遣された方じゃないんだと思います。で、役所が大忙しなのは多分ですけど依頼された本物のトレーナーが来たかとかで、それが発覚して…で、詐欺行為を働いたトレーナーをリーグに報告やらしてる所為なのかな…と」

 

 

 そうじゃなきゃこの現状おかしいもん…

 リーグの人ってキッチリ仕事することが生き甲斐みたいな社畜魂染み付いた人が多いって聞いてるので…

 

 

 と、まぁそんな訳で。

 

 

 「とりあえず、農園荒らしてるカビゴンに会いに行きますか」

 「えっ」

 「だって役所がまともに稼働する前になんとかしないと、被害は増えるばかりですし…」

 「まぁ…そうだけど…」

 「それに、ヒビキくん」

 「なんだよ」

 「バタフリー農園の果物、凄い美味しいって本当に有名なんだよ?食べたくない??」

 「…マジ?お前が言うくらいなの?」

 「高級料理店に卸すレベルだよ。察して」

 「お礼はいっぱいさせていただきます!お願いします!!」

 

 

 いや、あの…キラキラした目を向けてくれるのはいいんだけど、本音は別でして…

 このままだとカビゴン、害獣申請されて、その…処分、されちゃうかもしれないので…

 

 なんか、いやだなぁ…って、ね。

 

 ヒビキくんもまぁ美味しい果物に釣られたのか行く気になってくれた。

 えっいやチョロ…有り難いけど。

 

 

 と、まぁ。

 そんな感じでカビゴンを目の前にしている訳ですが…

 

 うーん。

 ポケギアで起こすのは諦めよっか…

 身の危険は避けるに限るよね…

 

 という訳で。

 

 

 「じゃーん」

 「んだそれ?」

 「オカリナっていう笛だよ」

 「…笛?」

 「そ、笛だよ。指慣らしの為に持ってるの」

 

 

 旅にでてる間の練習用の笛ですよ!

 これでも巫女の役目の為にちゃんと練習してるんだからね!!

 

 ちなみにポケモンの笛で奏でるあの曲は()の時に履修済みなので!

 

 

 「へぇ…や、でも、ポケモンの笛じゃなくても起きるのか?」

 「それはやってみないとなんとも…とりあえず吹いてみようかなぁ…と」

 

 

 機械音がダメなら生音で挑戦してみよう、的なね。

 吹くのはポケモンの笛じゃなくて、祭事に使う笛を模したオカリナだけど。

 

 そんな訳で、レッツトライ!

 

 

 ミファソー♪ラソドー♪レドソラファソー♪

 (※脳内で再生して下さい)

 

 ってね!

 どうだ、と顔を上げたらあらビックリ。

 

 

 眼前に、カビゴン。

 

 

 「ぴぇっ!」

 

 

 思わず口から笛を離して後退ろうとした。

 が。

 物凄い上機嫌なカビゴンは、とても可愛い笑顔を浮かべ、そして、私を掲げ上げた。

 

 

 「くぁwせdrftgyふじこlp」

 「おいっ!大丈夫か!!?」

 

 

 いや高い高い高い!!

 大丈夫な訳ないじゃん!!!

 でも敵意が全く無いんだよ!!!!

 

 助けて松ちゃーーーん!!!

 

 

 なんて、心の中で大絶叫をかましたけれど。

 

 

 なぜかよくわからないけれど。

 

 オカリナの音をとても気に入ったらしいこのカビゴン。

 

 

 仲間になりました。

 

 

 なんでぇ?????

 

 

 

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