祭りが終わり、早一月と少し経とうとしている。
ゾロゾロと、ザワザワと、人に溢れている島の様子に、ゲンナリと気分は下がりに下がって鬱である。
オレンジ諸島の最果ての島で奉っている海神が姿を現した。
海神は7歳の巫女の前に現れ、巫女以外を気絶させたらしい。
そんな
おかげで祭りが終わったというのに未だに観光客がゾロゾロ来る。
定期便は毎回満員で、その癖帰りの船はスカスカ。
なんて目的の分かりやすい
中には優しい人もいるにはいるけど、まぁ少ない。
というかそろそろ観光客をもてなす備蓄も底をつくんじゃないだろうか。
私達の生活を脅かす存在になっているというのに、まだ長老達は対策を施行してくれない。
おこるぞ。
私と年の近い子達に声をかけて巫女の居場所を聞く輩も居る所為で、
どうしても出歩く必要のある時は大人と一緒、あるいはポケモンを同伴しなくては安心が確保されない。
はっきり言って、ストレスがマッハ。
敷地内であるハズの広場で遊んでいるときでさえ、集まる視線がキツくて全力で遊ぶ気になれない。
大人しく室内で本読んだりやれる遊びを模索してみたって、流石に一月たつともう限界がある。
イライラは伝染してちょっとしたことでも喧嘩してしまうし、いくら年が近いといっても年齢的に体格差はあるから怪我をするのはもっぱら私みたいな年下組なワケで。
本当に、ほんっとーーに!
イライラが爆発しそうな日々を過ごしてた。
けど、それも目の前にいる人物によって、吹き飛んだ。
「そんな緊張しないでくれないか、巫女殿」
「ひぇっ…えっというかなんでワタルさん?ワタルさんなんで?チャンピオン仕事して…」
オールバックの赤い髪、鋭い目つきの男前顔。
黒を基調とした上下と合わせたマントに、鍛えられた体躯。
そしてこの声は千葉○歩!!
そう!ワタルさん!!
みんな大好きなワタルさんだよ!
カイリュー!はかいこうせん!(※人に向かって)のワタルさんだよ!!
「ふふっ俺は仕事で来てるから、ちゃんと仕事してるぞ?」
「ア°ッ」
「なんて??」
失礼。
微笑ましいなと言わんばかりのお兄ちゃんみ顔に抑えきれなかったナニカが漏れた。
そしてそんな心配そうな顔やめて下さい、またナニカが漏れ出しそうです。
…ふー、落ち着け、落ち着け私。
これ以上醜態を晒すな。
なんてったってここにはワタルさんの他にも長老達と私の両親もいる。
…なんなら、ジュンサーさんも、いる。
フレンドリーな雰囲気のワタルさんの後ろに控えるジュンサーさん達をチラ見して、深呼吸。
…うん、大丈夫、落ち着いた。
多分。
「えっと、それで、私がポケモンを持つ…でしたっけ」
「そう。それが一番の解決策だと思ってる。未来を見据えてみても、ね」
「……」
「悩んでるみたいだね」
…悩んでる、のだろうか。
いや、悩んでいるで合ってるのか。
私は、ポケモンが好きだ、大好きだ。
思い出す前から、自分のポケモンは欲しいと思ってたし、今だって正直に言えば欲しい。
でも、けど。
「…ワタルさん、さっき、未来を見据えてもって、言ったよね」
「あぁ。言ったよ」
「それって、もし、私が旅に出たいと言ったとしても、ってこと?」
「フルーラ!」
「長老様、少し待って下さい」
あぁ、やっぱり、怒ってる。
ワタルさんに止められたけれど、長老のその目はいつもと違って険しい。
両親も、何も言わなかったけど、同じ目をしてる。
それは私の願いの否定であると分ってしまって、見たくなくて、でも仕方ないことだからと、怒る気にもなれない。
ぎゅっと手を握り締めて、それから力を抜く。
大丈夫、分かってたことを今更嘆いたって何にもならないんだから。
年の近い子達は、もう、皆自分のポケモンを持ってる。
一人で出歩けなくなったから、自衛の為に親から貰ったと言っていた。
正直言って、羨ましい。
自分のポケモンという、いつか見た夢が目の前にあるのに。
いつか自分もって、思ってた。
今でも、思ってる。
でも、だけど、それは、叶わない。
「あのね、ワタルさん」
「なんだい」
「巫女はね、ポケモンを持っちゃダメなんだって」
操り人を選ぶ巫女の、決まり。
そんな
私が島の主ポケモンたるヤドキングと仲が良いことから、手持ちにしてしまうのではと心配しているのだと言われ、初めて知った。
そういえばと、映画の中でフルーラも、その先代巫女の姉も自分のポケモンを持っているような描写はなかった気がする。
それに、確かに私の前の巫女だったお姉さんも、手持ちポケモンを所持してなかった。
伝統を重んじるこの島の決まりであるなら、それは守らないといけない。
私が我儘を言ったって、変わるワケがないんだから。
だから、今、私はポケモンを所持できない。
そう、思ってたのに。
「問題ないよ」
「え」
そんなことか、と言わんばかりにニッコリ笑顔を浮かべるワタルさんに、思わず恨みがましい視線を送ってしまう。
けど、涼しい顔が崩れることはなくて、余裕綽々といった雰囲気だ。
むしろ楽しそう。
なんだ、何がしたいんだこの人。
訝しんで警戒するも、次の言葉で固まってしまう。
「巫女殿。君はこの一ヶ月、何回誘拐されかけた?」
え。
「俺が報告を受けたのは14回。1日に2回なんていう日もあったそうじゃないか」
「なっフルーラ、それは本当なの?!」
「…うん」
なんで。
どうして、知ってるの。
寝耳に水な知らせを受けて声をあげた母には悪いが、そんなことよりワタルさんの真意が気になる。
どうして、そのことを、ここで言うの。
「一ヶ月前、オレンジリーグの責任者から最年少の巫女の元に海神が現れた、という報告があったんだ。伝説のポケモンの出現となれば、天災か人災か…まぁ当事者はどうであれ、なにかしら事件は起きる可能性があるからね。ここオレンジ諸島はセキエイリーグの管理下にあるから、調査の為に人員を派遣していたんだ」
だから島の現状は把握しているよ、と笑みを深めるワタルさんから圧が、かかる。
けど、その矛先は私じゃない。
「ちなみにだけど、祭り当日にオレンジリーグのスタッフから巫女へポケモンでの脅迫したトレーナーを現行犯逮捕して連行した話も聞いてるよ」
え。
え、まって。
現行犯逮捕?連行した?
もしかしなくてもあの青年は、リーグスタッフだった??
「巫女殿が華麗に犯人を捕らえてたって聞いたものだから、既に手持ちのポケモンがいるのだと思ってたんだ。だから派遣したスタッフから誘拐未遂の報告を受けて驚いたし、
言葉を区切って、口元に貼り付けた笑みはそのままに、うっすらと開いた目が、怖い。
でも、私じゃない。
鋭い目で見られてるのは、威圧を向けられているのは、長老達だ。
話の内容はちゃんと入って来てるのに、追加で出される情報に着いていけなくてちょっと頭が回らない。
ピリピリと肌に刺さるような感覚が焦燥感を掻き立てて、集中したいのにできないから。
逸れる思考がもどかしい。
考えるペースを乱されてる。
結論が、論点が、意味が、接点が、あって、だからどういうこと…?
あぁ、いや、これは現実逃避か。
「なぜ子供達に被害が出ていることを知っているにも関わらず、観光客を…加害者になりうる可能性のあるトレーナーを呼び込んでいるんですか?」
教えていただけますか、長老様方。
その声は、とてもとても、冷たかった。