巫女ってガラじゃない!!   作:山乃庵

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出合いは全部覚えてる

 にこにこと嫋やかに微笑む和服姿の、大和撫子を体現したかのような、そんな見目麗しい女性。

 肩口に切り揃えられた黒髪は光の加減で深い青にも見えるものの、丁寧に手入れされた御髪は美しい天使の輪を作っている。

 彼女の名前は、エリカ。

 

 名乗られただけだけれど、紛う事なくカントーのジムリーダーである。

 

 

 日付は変わって、ついでに場所もポケセンから役所の一室に案内されたのは見計らったように朝食を食べ終えてすぐのこと。

 カラクサさんは昨日の内に帰宅しているので、ここに連れて来られたのは私とヒビキくんだけである。

 

 そして挙動不審な役所の職員さんに案内された部屋にいらっしゃったのがこのお方。

 昨日のことで何かしらの話し合いが行われると思っていたら見知らぬ女性がいた、という状況にポカンと口を開けたヒビキくんを肘でド突いて正気に戻し、失礼のないように一礼して座らせ、自己紹介を済ませたのがついさっき。

 

 エリカさんの横に控えるように立ってるジュンサーさん、徹夜したのかハッキリと隈が見える。

 一応お疲れ様ですと心の中で労るけど、職務をまっとうしただけだもんねぇー。

 

 けれどまぁ、ふぅ、と小さく息を吐く。

 慌ただしいというか落ち着きのない様子だった案内人の様子に納得したと同時に、思うこと。

 

 おい職員、説明くらいしよう?

 おこだよ??

 ホウレンソウご存知でない???

 

 キレそうだけどアタるべき相手は不在なのでここは我慢我慢…と。

 なにはどうであれ、と。

 ヒビキくんが失言しないように気を配りつつ会話を繋げる。

 

 生け花教室の講師であり、さらにタマムシ大学の講師まで勤める才女であるエリカさん。

 ちょっとまだ色々と情報が足りないので慎重にならざるをえないのでヒビキくんはどうか大人しくしていて欲しい。

 

 

 さて。

 何故タマムシシティに在住しているハズの彼女がここ、11番道路の傍にある町にいるのかというと彼女の副業が関係している。

 

 ご存知だろうか、アニメ版エリカさんのご職業を。  

 

 

 それは、香水販売店のオーナーである。

 

 

 そしてその放送回にて、香水の良さが分からず更には侮辱発言したサトシくんはエリカさんを怒らせてしまい、ジムに挑戦しようとする以前に門前払いをくらったのだ。

 そして、女装して、ジムに挑戦する、というアニポケ伝説の一幕になる。

 金髪ウィッグ…ピンクリボン…オレンジ色のワンピース…サトコちゃん…いや、ほんと公式が病気すぎるんだわ。

 

 そしてこのエリカさんなんだけど、この声、多分、氷○恭子さん…だよね??

 だからまぁ、つまり、例の如くアニメ版であってる訳で…

 

 だから頼むからヒビキくん、逆鱗に触れるなよ…?

 

 

 そんな内心を出さずに会話すること約30分。

 ジュンサーさん含めお互いに表面上は穏やかに情報交換し、事の全容が見えてきたところでやっと、やっと責任者っぽい役所の人が来た。

 

 いやおっせぇな??

 呼び出しておいて放置とか何考えてんの?

 今まで何してたん??

 

 お待たせしましたと言いながら軽く会釈するその神経すっげえな?

 

 ニッコリ笑って気にしてませんよ顔してるエリカさんが一瞬ピリついたの気付いてないんだろうなぁ…

 ヒビキくんなんてビクついたのに…

 私もにこーっと笑顔貼り付けてるけどエリカさん怖すぎて背筋ゾワッてしたもん。

 

 え?

 ジュンサーさんはまるで昨日の時みたいに頬が引き攣ってるよ??

 ふっしぎー!

 後ろに控えてるさっき案内してくれた職員さんの顔色が悪すぎて今にも倒れそうなのもウケるね!

 

 

 そんなこんなで始まった事件の報告会。

 

 私の昨日の発言によりジュンサーさん含め警察の方々が調べた結果、付近の農業関係者と大型音響機器の購入者を洗ったところ、とある果物農家がヒット。

 そしてその農家の近隣住民に情報を募ったところ、件の詐欺トレーナーと特徴が一致する人が事件前後に出入りしていた証言を入手。

 そして早朝、事件について直接農家に話を伺いに行ったところ、農家当人でなく、その娘が両親が依頼した内容諸々の証拠をジュンサーさんに叩きつけた。

 

 曰く、自分が将来継ごうと色々と勉強していたのに犯罪なんて犯したら農家存続どころじゃないじゃんバカヤロー!らしい。

 またその農家当人曰く、果物の品種改良や無農薬等と品質向上に努め、そして自信作と胸を張れるものが出来たというのに周辺の飲食店は取引の相手にもしてくれず、理由を聞いたらネームバリューが無いからと卑下にされ…

 …自分達の商品をどうにか取引して貰おうと思った結果が、バタフリー農園の商品こと果物を狩り尽くしてしまおう、となったのだとか。

 

 そしてその計画に手を貸したのが、件の詐欺トレーナー。

 

 元より農園を荒らすつもりはなく、ただ出来上がった果物が無くなるよう…カビゴンに食べ尽くして貰おう、と。

 そのカビゴンを連れてきたのはその詐欺トレーナーで、まさか農園を荒らしたりなんやりと、ここまで大きな事件になると思っていなかった…

 

 などなどの自供をしたらしい。

 

 

 そして。

 

 役所がてんやわんやとなった理由。

 本物のリーグより依頼されたトレーナーは、なんとタマムシシティのジムトレーナーだったらしく。

 

 曰く、バタフリー農園の育てている果物の花から抽出したオイルを香水にしているので、それならばと依頼を受けたのに、どうも様子がおかしいと。

 そして、ジムトレーナーよりそんな話を聞いたジムリーダーことエリカさんが急遽来訪。

 

 役所の職員は、まさかジムリーダーが来るなどと思っておらず。

 まさかの展開にどうにか事態の収拾をと焦りに焦っていたところ。

 

 堂々と町にカビゴンを連れてきたトレーナーがいると聞いて。

 

 どうにかそのトレーナーを連れて来ようと、上から下へのパッパラパーなホウレンソウが行われた結果。

 昨日の役所の人&ジュンサーさんの来訪、となる。

 

 

 うーん。

 なんてあんまりにも残念な所業。

 

 ちなみにトレーナー(私達)を連れて来るように言ったのが鈍感力爆発してる職員さん。

 リーグに依頼したのもこの人。

 

 一応の仕事は出来るけどマニュアル通りにしか動けない人とみた!

 そして後ろに控えてる人は圧倒的に下っ端苦労人かな!

 急募:自分で考えて行動できる人間ってね!

 

 とりあえず、やっぱりとばっちりだった訳だけど誰に鬱憤晴らししてやろっかなって!

 関係ない人巻き込むのよくないよね!!

 ハーッ!ムカついちゃうね!!

 

 なんて思ったら。

 

 

 「それで、違法行為を働いたトレーナーさんは見つかったんですか?」

 

 

 鈴の転がるような声音なのに、ヒュッと息をのむ音が聞こえた。

 ジュンサーさんに職員さん、なんならヒビキくんもガチンっと固まってるし、鈍感職員さんも若干青白くなってる気がする。

 

 まぁ、うん。

 私もそれ思ってた。

 

 だって農家さんの下りは聞いたけど、結局トレーナーが見つかったとは言ってないもんね。

 

 だけどまぁ、自白した農家さんから掴んだ足取りから、数日中に見つけると言い切ったジュンサーさんを信用しますかね。

 

 犯人逮捕には至ってないものの、事件の概要は分かったのでとりあえずこれにて収束…という流れなのだけど。

 それに待ったをかけたのは、エリカさんだった。

 

 

 ニッコリと、崩れない笑顔のまま、追求するのは役所の対応。

 

 依頼を受けたトレーナー本人かの確認不足にはじまり、同行者不在、達成された依頼の確認不足、再発時の対応の遅さなどなど…

 という問題しかないこの一連。

 

 どう対策するおつもりですの?

 

 と。

 小首をかしげて問うその後ろに、おどろおどろしいナニカが、見えた気がした…

 

 

 おうっふぅ…

 顔面蒼白な役所の方々、お気をたしかに…

 

 いやまぁ自業自得だとは思うけど。

 というかほんと、どうしてこんな杜撰なことになってるのか疑問に思ったけど。

 

 けどさ…

 

 あの、すみません…

 

 

 「帰っていいですか?」

 「はっ」

 「え」

 「あら」

 

 

 いや役所の方々もジュンサーさんも、ましてはヒビキくんもぱちくりと目を瞬かせないでよ。

 だってさ、考えてみてよ。

 

 

 「詐欺トレーナーさんの身元は分かってて、後はもう捕まえるだけなんですよね」

 「あ、はっはい!」

 「私達は事件と関係のない存在である、とご理解いただいたんですよね」

 「そう、ですね…はい」

 「じゃあもう私達がここに居る意味無いですよね?」

 

 

 だって昨日の冤罪疑惑はもうかけられてないんでしょ?

 ならここに来た理由終わってるじゃん??

 

 役所の人達は謝罪してくれる気配全くないし!

 元より期待して無かったけどな!!

 

 役所の上役だろう鈍感ヤローから誠意が返ってくる訳ないもんな!!!

 冤罪はらす為とはいえ協力したったのになぁ!

 

 とりあえずここの職員はクソミソ!!!

 精神安定の為にこの場から退避したいなっ!!

 

 あと普通にエリカさん怖い!

 笑顔の迫力が恐ろしい!!

 ついでに言うなら長時間ここに居るともっと面倒な事になる気がひしひししてる!!

 

 エリカさんが悪いって訳じゃないけど…

 でもなんだろ…

 向いてるタイプ相性とかそういうの以前になんだろ、こう…そわそわするんだよね。

 対面した時からなんか落ち着かない。

 

 気が合わないことは、ないんだろうけど…

 

 んー…?

 なんかやだ。

 

 だから早くここから立ち去りたい、っていうのが本音。

 

 

 そんな訳で。

 こいつマジかよ…という顔をしたヒビキくんを連れてポケセンに蜻蛉返り。

 

 昼時に待ち合わせしていたけど、早く来ていたカラクサさんと合流し、そのままバタフリー農園にレッツゴー!

 

 

 カラクサさんの祖父母からも歓迎され、とりあえずやることといえば…

 

 

 「おーっ流石権兵衛さん!力持ちぃ!!そのまま肥料散いちゃおう!」

 「んびーー!」

 「椿さん、整地しちゃって!」

 「りゅりゅーっ!」

 「シミズさん、ピー助!種蒔き任せた!!」

 「ふぃー!」

 「ちょぴー!」

 「よし松ちゃん!いーカンジに水撒きよろしく!」

 「まかせときぃ」

 

 

 次の収穫の為に、お手伝いしてる。

 

 もちろんヒビキくんもポケモン達と一緒に齷齪(あくせく)働いてる。

 

 

 「あの、本当にありがとうございます」

 「いーえー!原因や元凶やらはまぁアレですけど、権兵衛さんが荒らしたのは事実ですし?それに農家さんが大変なのは知ってるつもりなので…」

 

 

 伊達にど田舎島暮らししてないんだわ…

 

 被害にあった農場を整え、種を芽吹かせ、苗を育て、花を咲かせて、実らせる。

 それがどれだけ時間のかかることか…

 

 役所の対応から、どうせコッチに手を回してないんだろうなと予想してたらその通りだった。

 

 だからまぁ、カラクサさん経由でお手伝いすることを伝えていたのだ。

 

 その報酬として休憩時間にいただいた干し果実とジャムを使った料理は大変美味だった。

 

 え?

 ジャム下さるんですか??

 ありがとうございますー!!

 

 はわーー!

 うん、これは顧客が暴徒化するのも分かる…

 

 一度知ったら忘れられないお味…

 

 

 そう。

 

 だから。

 

 

 まさか私達が去った後の役所にて。

 

 

 エリカさんが持ち込んでいた通信機で。

 リーグ関係者に通話していて。

 巻き込まれたトレーナーとして報告され。

 

 まさかのまさか。

 

 ワタルさんにまで話がいってるなど… 

 

 思う訳が無いでしょう。

 

 

 

 

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