人と結婚したポケモンがいた。
ポケモンと結婚した人がいた。
昔は人もポケモンもおなじだったから普通の事だった。
シンオウ神話、その一節。
覚えているとも。
楽しく優しい世界に唐突に打ち込めれたダーティーな設定、時代背景。
なんならあの頃は結婚するならイケメンなルカリオ一択!とか言ってたけど…
今の自分にとってはコレ、史実なんだよね。
つまりポケモンと結婚するの合法だった訳で…
「つまり古代系ポケモンほど気をつけないといけない…?」
「古代系いう前に普通に気をつけぇや」
「確かにネイティオは古代系っていうより不思議系だし?」
「いい加減にせぇよ」
「ごめんなさい」
べしんっ、と。
床に強く叩きつけられた尻尾から察するにとても苛立ってる松ちゃんに、流石に真面目になるべきかと背を伸ばす。
いやでもさ、だってさ、そんなこと言われたってさ…
「こんな貧相な身体に発情するもなにも無いと思うんだけど…」
「それこそ個体の趣味やろ。知らんけど」
「まぁ趣味趣向は人それぞれだし、ポケモンにも好みはあって然りか…え、需要あるの?」
「わしに聞くなや」
「ちなみに松ちゃんの好みは?」
「尻尾の肉付きのええコやな」
「それは王道なの…?しかも当然のように同種の好み…」
「わしは異種族に欲情せぇへんし、そもそもそーいうんは稀やしほぼおらん。おらんけど…」
「居ない訳じゃないってことね」
「せやで」
うーん。
でもやっぱそこまで気にする必要性あるのか…?
そもそも気をつけろと言われても、一目惚れ()されてしまうなら最早回避不可能だと思うの…
「…あのさ」
「ん?なにヒビキくん」
「なんや」
「なんでそんなに冷静なんだ…?」
ポケモンセンター、宿泊部屋の一室にて。
日付は変わっての早朝、どこか様子のおかしいヒビキくんが松ちゃんに頼み込んで行われた二者面談V2。
そして砕けてきぃや、と松ちゃんに背を押された若干メンタルブレイクしていたネイティオから愛の告白()を受け、やっと昨日の事態を把握した。
いやまぁ普通にお断りしましたけどね?
あまりにも私が普通に断ったのでヒビキくんが驚かないのかと聞いてきたので、ちょっと歴史のお勉強。
カントーやジョウトでなく、シンオウ神話なのはまぁそういう訳で。
松ちゃんからはそういう事をちゃんと知ってんならもっと警戒せんかいこんアホォ…と半目で睨まれながら伝わってくる思念の圧が強い。
なんかごめん…
性癖開示させちゃったのもなんかごめん…
そしてなんで冷静なのかって言われても、それはまぁ…
「じゃあヒビキくん」
「ん?」
「私の椿さんに『スキ!結婚して!』って言われたらどうする?」
「いや断るけど」
「なんで?」
「は?」
「なんで断るの?」
「いや、だって、ポケモン、だし…?」
「うんうん、そうだね」
まぁそこはいいんだよ。
多分普通の感性もってる人なら断るのはわかってることだから。
けどさ、
「さてヒビキくん」
「おう」
「椿さんはドラゴンタイプです」
「ん?おう、知ってる」
「で、ヒビキくんはドラゴンタイプに一目惚れされるし発情される存在です」
「、」
「どうよ?」
サッと顔色が悪くなったヒビキくん。
うんうん、少しは察しが良くなったみたいで嬉しいよ。
「…おれ、しぬんじゃね…?」
「まぁ、普通ならそうなると思うよ」
そもそもドラゴンタイプは愛情深く、気に入った存在に対して保護欲が強い。
種族としてバトルに強く強靭な身体を持ち、頭の良い個体も多いし、縄張り争いの苛烈さは自然災害級。
好きになったら一途で、諦めるという言葉がないのでは、と思うくらいには、まぁ、すごいのだ。
だからまぁ…
「ドラゴンタイプに比べたら、まぁ、大丈夫かなぁ…って」
いやポケモンに好かれるのは嬉しいことなんだけど、それでも種族ってほんと重要なんだよ…
もしドラゴンタイプな伝説の方々から、目をかけられでもしたらさ…
…どうなっちゃうんだろうね??
それにさ、
「まぁ私には松ちゃんもシミズさんもいるから、野生ポケモンから襲撃されてオモチカエリされることもないだろうし…」
「…そう、だな」
「だからまぁ、冷静ってより、信用してるだけなんだよ」
だって松ちゃんもシミズさんも察知の良さは未来予知レベルだし。
いつも守ってくれてるのを知ってるからこその信頼でもある。
…あ、松ちゃん照れてる?
照れてる!
やだかわいい!
私の松ちゃんがこんなにも可愛い!!
べしっ
「あいたっ」
照れ隠しの尻尾アタックもドMじゃないけど愛おしいよ…!
っと、そうだった。
「ところでヒビキくん」
「なんだ」
「あのネイティオ、捕まえる時何かあったでしょ?」
「なんで知ってんだ?!」
「えっと…いや、うん」
「なんだよその反応は!?」
ヒビキくんって大人になっても腹芸出来ないそうだなぁ…って。
まぁ、なんでって言われても、ボールだよって言ったらそれこそ変な顔しそうだよね。
そう、ボール。
モンスターボール。
ポケモンを捕まえる為のボール。
モンスターボールより捕まえ易いスーパーボール、スーパーボールより捕まえ易いハイパーボール。
ランクが上がるに連れてボールの居心地も上がる、という感じ。
なのだけど。
この世界においてはもう一つ、ボールに重要な性能が付いている。
レベルの高いポケモンを抑えれる強度。
という機能だ。
これはトレーナーに育てられたポケモンが、幼い頃から過ごしていたボール内でジャレていたらボールを破壊してしまった、という事故をうけての改良。
そして副次的にとある役立つ機能にもなった。
それが、
「高レベルポケモンが暴れていた場合、その対処として一時的に捕獲することを推奨。
その時に使われるボールはリーグにより支給されているハイパーボールであり、コレがポケモンが落ち着くまでの“檻”となる。
で、ポケモントレーナーでこれを買うことの出来るのはバッヂを5個所持している必要があり、またそれと同等の実力を持つと認定された人のみ。
これは安易に捕獲でき、強度を上げたことによるポケモンの乱獲を防ぐ為の措置である…だったかな」
ここら辺の規定とか、ポケモン保護条例とか、リーグのアレソレとか、おじさんから教わったから覚えたんだよ。
だからまぁつまり。
「ネイティ、ネイティオの生息地はアルフの遺跡周辺。ヒビキくんはワカバタウン出身で、順当に行って持ってるバッヂはキキョウシティの1個。エンジュシティまで回ってから捕まえに行ったとしても4個だからハイパーボールは買えない。
でもネイティオはハイパーボールに入ってた。ネイティからネイティオに進化したのを切欠にボールを変えたにしてはボールに傷が多すぎるし、劣化もそれなりにみれた。
あと、ネイティオ自身があまりにもこう…自由すぎるから」
バッヂ取得数は推測どころじゃないけど、後付けの理由としてはこんなもんかな。
さて、どんな理由があるのだろう。
とヒビキくんを見やるとあら不思議。
めっちゃドン引いてる顔してる。
なんでぇ??
「…お前さ」
「うん」
「ボールだけでそこまで考えるとか、なんつーか、キモイ」
「あ"?」
喧嘩売ってる?高値で買うぞ??
反射的にニコッと笑ったハズなのにガタッと椅子を鳴らしたのなーんで??
「いやだって俺ボールに種類あることトレーナーになってから知ったし、買える制限あんのもショップ行ってから知ったし…後、その、性能?とか、初めて知った…し、や、だから…」
「…つまりヒビキくんにはコッチ系の知識も教えないといけないってことね!安心していいよ!知識だけならいっぱい教わってるからね!!」
「あ」
墓穴掘ってあちゃー!みたいな顔するのやめよっか??
そもそもトレーナーやってたら知ってるべき知識なんだからね!
日々勉強あるのみだよヒビキくん!!
だから頑張ってチャンピオンになってね!!(圧)
とまあそんなこんなでヒビキくんから聞き出したネイティオの事情。
初のジムバトルに勝利し意気揚々と次の街へ行こうとしたら、ボロボロな考古学研究者達と対面&通行規制入っていて足止めされた。
どうもアルフの遺跡周辺を縄張りとしているネイティオ達の派閥争い…もとい、群れの
事情を聞いたジムリーダーのハヤトと何故か一緒に向かうことになり、捕まえる事優先、ということでそこではじめて手にしたのがハイパーボール。
敗れたとはいえ主の候補だったネイティオはとても強く、手持ち全てをボロボロにされつつもなんとかハイパーボールにて捕まえた。
が。
まぁ言うことを聞いてくれない。
ので。
博士の元に送って、様子見をお願いした。
元々依頼されて捕獲した個体なので、当ポケの意思は関係なく危険度が下がるまで接触禁止だったのも相まって。
そんなに交流できなかったんだよなぁ…
と、自分が捕まえたからには責任もって育てたいという意思はあるらしいヒビキくん。
博士曰く、ある日を堺に大人しくなったので、なにかしらの未来を見たのでは…とのこと。
うーん。
まさかその見た未来が私との出合いとかじゃなかろうかと思わなくもなくもないこの背筋のゾワゾワ感。
これは深く考えない方が吉。
うぅーん…
でもまぁ、うん、なるほど??
「見た感じレベル60ちょいでしょ?一年前で主候補だったなら40は超えてるだろうし、そりゃバッヂ1個の新米トレーナーの言うこと聞かないと思う」
この世界においてはバッヂ何個もってたらおや違いのポケモンも言うこと聞く…なんて効果はないので。
ただトレーナーの力量をポケモンが見抜いてくるというシビアな現実があるのみなので。
なんなら相性の宜しくないポケモンだと産まれて間もないベビちゃんでも言うこと聞いてくれないので…
まぁ逆に相性さえ良ければバッヂゼロでもレベル50超えてても言うこと聞いてくれたりするんだよ…
ね、松ちゃん。
「それでヒビキくんはこのネイティオをどうするの?」
「へ」
「私は別に手持ちとして連れてっても良いよ。」
「えっ」
「何かしらしようとしたら松ちゃんがシバくだろうし」
「あー」
「まぁヒビキくんも連帯責任でド突かれるだろうけど」
「え"」
「え?」
青褪めるヒビキくんや、なに当然のことにビビってるんだい??
「手持ちポケモンのやらかしは、トレーナーの指導力不足だもんね?」
にっこり。
経緯はわかったけど、まぁそれはそれとして言い訳は聞かないよ?
やくると…