巫女ってガラじゃない!!   作:山乃庵

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ありゃざっくりばっさり

 「全て、お話しいたします」

 

 

 重く長い溜息を一つついた長老は、そう言って、ワタルさんからの圧など感じてないかのように口を開いた。

 

 

 語られたのは、今から60年は昔の話。

 

 長老達が現役のトレーナーだった時代の、そんな懐かしき過去の話だった。

 

 

 一人の少女がいた。

 当時の島民の中で一等ポケモンに好かれ、また好いていた少女がいた。

 野生のポケモンとも仲良くなれ、また育てるのが上手く、更にバトルをすれば負けた事がない少女だった。

 

 ポケモンのタイプ相性を理解し、相手のトレーナーが指示する技に対応し、無類の強さをみせた神童。

 

 他の地方から島に流れ着いたトレーナー相手でもその強さを発揮した時には驚きを越して恐ろしくもあった。

 なぜなら初めてみたポケモンですら彼女は理解してみせたのだから、その規格外の才能が分かるだろう。

 

 彼女はポケモンに好かれ、愛されていたのだ。

 

 彼女は巫女に選ばれた。

 笛を奏でるのも上手く、誰も反対する者はいなかった。

 

 彼女から操り人に指名された者は浮かれ、喜んだ。

 巫女に認められたことが誇らしかったのだ。

 ポケモンに愛されている巫女から選ばれたと、心から歓喜した。

 

 操り人に選ばれたトレーナーは玉を集めた。

 一日一つ、あの時代にその早さで集めることが出来たのは確かに優れたトレーナーの証だった。

 

 そうして巫女たる彼女が笛を吹き、その音が海に響き渡ったその時。

 

 

 空が一瞬で、荒れ狂った。

 

 

 喉を焼くほどの熱風が、低く鳴り響く雷轟が、絶えず降り注ぐ霰が、そこにあった。

 

 火の鳥、雷の鳥、氷の鳥。

 あの島で祀られている三鳥が、巫女の前に現れたのだ。

 

 

 あの光景を、忘れることなど出来ない。

 出来るハズがない。

 

 押し潰すような、あの天の災を。

 息が止まるような、あの存在感を。

 まるで絵画のような、あの神々しさを。

 

 ただ、見ていることしか許されなかった。

 

 威圧感も恐怖も、何も感じていないのは、巫女ただ一人だった。

 

 会話でもしているかのように顔を合わせた巫女は、まるで幼い子供のような無邪気な表情をしていた。

 母子のように見えたのだ。

 愛おしい我が子を見るような、それを当然と甘受する幼子に。

 

 

 三鳥の咆哮が響き、空へと消えた。

 

 

 祝福を受けたのだ。

 島の誰もが、そう思った。

 

 

 その後、巫女は導かれるように旅に出た。

 

 翌年、その翌年と、巫女として祭りの為に戻ってきた。

 

 巫女の強さは誰もが知っていたからこそ、旅に出ることに心配などしていなかった。

 大きな鳥ポケモンに乗って戻ってくるその姿を、楽しみにすらしていた。

 

 けれど、けれど。

 巫女が旅に出て幾年か過ぎたある年のこと。

 待てども待てども、空に影はなく。

 

 

 巫女は、帰ってこなかった。

 

 

 新しく候補としていた巫女は居たが、まだまだ幼く。

 急遽、その年の巫女は彼女の妹君がやることとなった。

 

 玉を奉納し、笛を奏でた時。

 

 

 空はあの日の再来の如く、荒れ狂った。

 

 

 三鳥は姿を現すことはなかったが、その荒れ模様は巫女との邂逅時とは比べるまでもなく甚大だった。

 一日過ぎても止む気配はなく、被害はこの島だけでなくオレンジ諸島を巻き込み、遂に本島にまで及んだ。

 

 止まない落雷によって木々は焼け焦げ。

 荒々しい熱風が吹きつけ草花は枯れ。

 視界を埋める吹雪に地表は凍りついた。

 高波で避難することも出来ない。

 

 島には未だにその爪痕が残っており、その凄まじさを物語っている。

 

 いったい何が怒りに触れたのか。

 三鳥が寵愛した巫女でない者を代理として立てたことがいけなかったのか。

 

 戦々恐々と、天災に慄く日々が続いた。

 しかしてそれは、十日間で終わった。

 

 ピタリと唐突に、朝日と共に空は晴れ渡ったのだ。

 

 

 復興に手を尽くしながらも平穏な日々が戻り、季節が巡り。

 かの巫女の妹君はあの天災に心を折られ島から出ていってしまった故に、新たに選ばれた巫女は幼いながらも懸命に務めた。

 

 そうして一年が経ち、また一年と過ぎるも、やはり巫女が帰ってくることは、なかった。

 

 

 他の地へ行く手段はほぼポケモン頼りの時代。

 

 未開の地が多く、野生ポケモンとの事故や、トレーナーがポケモンを使っての犯罪も多かった。

 リーグは設立されたばかりの頃で、森や山の深部に実力あるトレーナーが巡回するなどといったこともまだ実施されていなかった。

 

 島から旅立った何人もが、巫女を探していた。

 けれど、やはり。

 巫女の消息は掴めず、何人もが帰ってきた。

 

 いざ旅に出て、旅の過酷さを体験した者達は挫折していた。

 

 旅は危険と隣合わせだと教わったが、これほどとは思ってなかったと。

 毎年同じ時期に帰ってきていた巫女が、どれほど優れていたのか理解せざるを得なかった。

 

 だけれども、巫女ならば大丈夫だと思っていた結果が、これだ。

 

 大人達は、同年代の者達は後悔した。

 巫女を旅に出さなければ、と。

 

 

 そうして幾年と経った、ある日。

 遠く、遠く離れた地方より来た旅人から、巫女の訃報を届けられた。

 伝え聞いた巫女の亡くなった日は、祭りと同じ日で。

 

 あの天災は、三鳥の慟哭であったのだと知ってしまった。

 そう、だからこそ。

 あの災厄が再び起こることがないように、と。

 

 そうして、当時の長老達が、新たに(きまり)を作ったのだ。

 

 

 巫女に選ばれた者は、巫女である期間においてポケモンを所持してはならない、と。

 

 

 「巫女に選ばれるのは10歳前後の娘です。ちょうど旅に出る年頃の、子供です」

 

 

 どの子供も旅に出るならば、その旅路の危うさに差異はないと分っている。

 けれども個人という、才能の差異というものが、どうしても違うということが、身に沁みている。

 

 もしまた巫女が亡くなった時、それがこの地でない時、どうなるのか。

 なにより此度の巫女は、フルーラは、三鳥からでなく、信仰している海神からの祝福を受けた。

 

 それが、どれほど恐ろしいことか。

 

 

 ポケモンを持たない限り、一人で旅に出ることはない。

 

 けれど今は、ポケモンを持たないだけで旅に出れない時代では無くなった。

 

 

 フルーラはポケモンに好かれ、好いている。

 まるであの巫女のようだと、ポケモンと戯れるその姿に何度思ったことか。

 

 あの天災の恐怖が、何度も何度も思い出されるほどに、似ているから。

 

 だから、どうしても。

 フルーラに島外に出て欲しくなかった。

 

 例えそれで島民に被害が出ようと。

 あの天災に比べればそんなものと捨て置いて。

 

 

 噂が広まったのは、長老達があの日居た観光客達に口止めをしなかったから。

 来訪する観光客を止めないのは、ポケモンを持たない巫女が返り討ちにしている事実を更に広めるため。

 

 予想以上に誘拐されかけていると知って驚いたけれど、それでも無事であることに、やはりこの子は特別なのだと沈黙を貫いて。

 もし怪我をしたのならば、それを理由にこの島から出ないようにと言い聞かせることが出来るから、と。

 

 

 「それが()()()()()という対応だった、という訳ですか」

 「…その通りです」

 

 

 申し訳ないとは思っているのか、いつもより小さく見える長老達。

 はっきり言ってしまえば、腹が立った。

 

 何も言われずに、知らされずにいたことに。

 

 長老達は軽く見ているようだけれど、何度も誘拐されかけて、何度も軽症は負っている。

 もっと大きな怪我をする危険性はあったし、回避出来たのは助けがあったから、来てくれる人がいたからだ。

 

 そして私は、気付いた。

 思い当たったことが、ある。

 

 

 「お言葉ですが、巫女殿は派遣したリーグスタッフが居なければ実際に誘拐されていたでしょう」

 「っ!」

 「えっ」

 

 

 驚いた様子の長老達と両親に、何とも言えない気持ちになった。

 

 

 「伝説と言われるポケモンを狙う組織が、複数動いてます。ただの噂程度であったならここまで事態が動くことはなかったでしょうが、この島の…いえ、かの巫女の話は一部で有名ですから」

 

 

 それもあって狙われているようですが、知っていましたか?

 そう言って疑問を投げかけるも、答えは分かりきってる。

 

 知ってるわけないのだ。

 だって、知る気がない。

 知ろうとしてない。

 

 

 長老達は、私が怪我を負ってないから大丈夫だと思っていた。

 誘拐されかけただけで、無事でいるから問題ないと思っていた。

 

 …それって、その、例の巫女様の時と、何が違うのだろうか。

 

 対応していないとはつまり、現状で問題ないと言っているのだから。

 

 

 「このまま巫女殿がこの島に居るとして、守りきれますか」

 

 

 それは無理だろう。

 だって、私は何度も誘拐されかけてる。

 守ってくれていたのは、ポケモン達と、派遣されて来てくれていたリーグスタッフ。

 

 はっきり言ってしまうと、この島で私以上にポケモンを扱える人は、いない。

 

 

 「巫女殿をこちらで保護することもできます。もちろん年に一度、祭りの時期にこちらへ届けましょう。ですが、そうしたくないのであれば」

 

 

 巫女殿がポケモンを持つということが、一番の解決方法です。

 

 

 提案、ではない。

 

 リーグスタッフをいつまでもこの島に派遣してくれるほど、人員に余裕があるとはいえない。

 リーグの人員不足はこの島にも伝わるくらいには有名な話だし、何より実力あるトレーナーをこの島にいつまでも居させる訳にはいかない。

 

 けど、私がポケモンを持てば、解決する。

 長老達が巫女を島外に出したくないのならば、それしか方法はないぞ、と。

 そうワタルさんは言っている。

 

 脅してはない。

 事実だからこそ、とても利く。

 

 

 「巫女殿はトレーナーとしての才能がある。それこそ自分のポケモンを持って育てたのなら、さぞかし戦い甲斐のあるバトルが出来るだろうと、楽しみだと思えるくらいに」

 

 

 ワタルさんが、チャンピオンが言うのだ。

 その言葉は、事実として長老達に染み渡る。

 

 

 「改めて言います。巫女殿にポケモンを持たせること、それが一番の解決方法です」

 

 

 そうして、しばらくの沈黙があって。

 

 

 「フルーラに、ポケモンを持つことを、許可します」

 

 

 消え入りそうな声で、長老が答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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