伝説のポケモンを狙う組織が動いている。
それを聞いて真っ先に思い浮かんだのがロケット団なのは、あまり情報の入ってこない離島暮らしだからという訳でなく、前の影響を多大に受けているからだと自覚がある。
だって、だって。
ロケット団は去年、とある少年によって解体された。
そう聞いて頭が一瞬で真っ白になるくらいには、私は衝撃を受けたから。
それは私にとって色々と予想外のことで。
今起こっている現状を頭から吹っ飛ばすくらいには、驚いた。
アニメだったら、
ロケット団が解体されるのは、ゲームの中のストーリー。
でも、私はフルーラで、
ゲームだと、
ヤドキングも、ワタルさんも、私の知ってる声だったから、そうなのだと思ってて。
だから
サトシ君が居ないポケモン世界って、ヤバイな?
と。
考えてみて欲しい。
映画の舞台である場所があって、登場人物である私がいて、でも、
初っ端から物語が破綻してる。
でも、だからと言って爆誕が起きないという未来は確定されてない。
誰があのオーバーテクノロジー空挺持ちコレクターからルギアを守るんですか??
え?
他力本願だなって?
いや冷静に考えてくれない??
そして他の映画の内容を思い返してくれ。
もし、もしも、だ。
願い星とか、3VSとか、創世神のやつとか起きたとして。
私は、この世界の終わりを想像した。
「どうしようか…」
思わず呟いた言葉に返ってきた声に、ふと意識が現実に戻る。
「なんだ、やっと自分の状況が分かったのか巫女さんよ」
「ハハッ!まぁどうしようもねーだろ?」
「だな。しばらく嬢ちゃんは大人しくしてくれや、痛い思いはしたくねーだろ?」
ギャハハハと、下卑た笑い声を撒き散らす揃いの服を着た、そんな下っ端臭漂う三人組が去るのを金属柵越しに見る。
ガチャン、と重たい扉が閉まる音を聞いて、溜息を一つ。
冷たい床に座って思考に耽っていたけど、それは一旦止めて現状把握しようか。
縄で体と腕を一纏めにされ、足に枷はないけど檻の中。
ぱっと見て監視カメラとかは無し、と。
まぁ端的に、拐われた。
ちなみに、多分だけど潜水艦のなか。
海が突然盛り上がって、盛大な水飛沫と共にポケモンを繰り出され、リーグスタッフさんが対応しようとするも煙幕を撒かれて視界不良、流れるように拘束されて、担がれて運ばれて、気付いたら檻の中。
一方的に喋ってきた内容を流し聞いていたら、予想外の衝撃を受けたところ。
なんというか、まぁ、手慣れてる。
でも一言コメントするなら、ご愁傷様、だ。
きっと綿密な計画を立てたのだろう。
そして満を持して実行したのだろう。
でも、だけど。
あんまりにもタイミングが、場所が、悪すぎる。
知らなかったのだろうか。
知ろうとしなかっただけか。
カチリ、とボタンを押す。
手の平の中で大きくなったソレを、転がす。
パァンと、軽快な音を立てて赤色の閃光が形を作る。
「なんやえらいことになったなぁ」
「ほんとにねー」
相も変わらず、こんなことになっているのに恐怖はない。
むしろさっき考えたことの方が怖いくらいだ。
肝が据わっているとか、そういう問題ではなく、信用と信頼の問題だ。
あと、自惚れというか、なんというか、なんとなく。
さて。
「松ちゃん、コレ切れる?」
「まかせときぃ」
ブチリ、と。
いとも容易く縄が噛み千切られたのを見て、やっぱポケモンが居るだけですごい楽だなと関心。
一応試しに力んでみたりしたけれど、所詮7歳女児の腕力なんて高が知れてるのでね。
むしろ擦れてちょっと自滅した感ある。
それにしても、だ。
「ロケット団が無くなった事でこれ幸いにと勢力拡大を狙っての犯行らしいけど…それで私の誘拐って頭悪いと思わない?」
「せやなぁ」
「目的がズレてる…と言うより、あの人達は知らされていない、が正解かな」
「せやなぁ」
「…海神の領域で潜水艦使うって勇気あるよね」
「せやなぁ」
「さては松ちゃんの口癖それだな」
「せやな」
「をい」
真剣に考えようとしてるってのに、お前ェ…
すっとぼける様に態とらしく顔を背けるんじゃないよ、かわいいな!
まぁ、それはともかく。
「この檻、壊せそう?」
「んー。壊すより開ける方がええんちゃうか?」
「…アレ?」
「アレやな」
「アレかぁ…」
ドーンと、これ見よがしに置かれた存在感ある機械。
ここがポケモンの世界だとしても、こんな分かり易くそういう機械を置くのかと疑問に思う。
…いや、確かにゲームでもアニメでもそんな感じだけどさ。
実際に目の前にあると、罠じゃないかって疑うのが普通じゃない?
けどまぁ、とりあえず。
松ちゃんをボールに戻し、もう一度出す。
檻の外に放たれた光線は再び松ちゃんとなった。
「松ちゃん任せた!」
「まぁ、そうなるわなぁ」
だってその機械、檻の外にあるんだもん!
松ちゃん頑張って!
てちてちと機械に近づき、掴み立ちしながら機械を操作する松ちゃんを見守る。
あー二足立ちかわいい眼福ありがとうございます。
ポチッと何かしらのスイッチを押した音を聞くと、ギギギッと柵が上がったので脱出。
「なんか…意外とお金かかってそうなギミックだね」
「せやなぁ」
ふと、ラブリーでチャーミーなあの二人と一匹が色々と手作りしていたことを思い出す。
落とし穴に関しては最早プロと言っても差し支えはないし、自分達でロボットやらなんやら作っては毎度破壊されて星になるあの一連のお約束が、楽しかったのを覚えてる。
…何が言いたいかっていうと、まぁ、うん。
コイキング型の人力潜水艦、地味に好きだったんだよね。
今いる潜水艦は比べるまでもないほど大きいし、当然人力な訳がないのだけど。
「部屋の外、誰かいそう?」
「んー。いやおらんと思うで」
「おっけ」
思ったより重い扉を開いて、いざ出陣。
通路は大人三人が横歩き出来そうな幅はあるし、部屋数もある。
照明もキッチリ点いて明るいので、不意に襲われるようなことは多分無い。
駆動音はないけど、動いてるような感覚はある。
目的地はボス、あるいはリーダーの部屋。
見つからないように出来るだけ素早く移動したいけど、安全の為に松ちゃんは出したままで行く。
足音は立てないように、入りはしないけど他の部屋の様子を見つつ、進む。
重要な場所だったり、偉い人の部屋というモノは大抵奥まった所にあると予想して。
当たった。
松ちゃんに準備はいいか、とアイコンタクト。
大丈夫。
問題ない。
もうすぐだ。
ゆっくりと、扉を開ける。
「これはこれは巫女殿、よくこの部屋まで来ましたね」
「いや道中誰とも会わなかったし真っ直ぐ進んだだけなんだけど」
「…そうですか」
待ち受けるように鎮座していた男の人は、一瞬だけ眉を寄せたものの、余裕綽々といった表情をしていた。
けど、それはきっと長く続かない。
「貴方の目的はなに?」
「ふふ、気になりますか」
「だって下っ端さんが言ってた勢力拡大ってのは嘘でしょ?」
「おや…何故そう思ったのでしょうか?」
何故って、そんなの、
「私を誘拐したって海神を捕まえたり操れる訳じゃないもの。それにもし私が死んだりしたら、天災に見舞われるみたいだし…」
「んふふ、ふふふ」
「、は」
「分ってるじゃないですか!」
猟奇的な、狂気的な、満面の笑み。
ニンマリと上がった口角に、逃さないとばかりに目を向けられて、頬が引きつる。
うわきもちわるっ!
あっいやそうじゃない。
え、なに。
つまり、こいつの目的は…
「海神ポケモンルギアは、羽ばたくだけで嵐が起こるのだとか…えぇ、えぇ!ではそのルギアが荒れ狂ったのなら、一体どれほどの被害が出るのでしょう!荒れ地に更地と、自然環境は大きく変わるという前例があります」
天地変動。
でも、目的がそれだというなら、なぜ私を捕らえるだけだったのか。
「あぁ、別にこの星が滅べばいいなどと言う野蛮な思想ではありませんのでご安心を。ですが、ほら、治安維持の為にポケモンリーグは奔走するでしょう。警察機関も、医療機関も!襲いくる災害に疲弊し、手が回らなくなるでしょう!その時こそ!私達が世界を支配する!!」
…いや想像力豊かやな。
アクア団、マグマ団のが、まだマシな思想…いやどっちもどっちか。
最終目的は世界征服…ってそれにしては戦力が明らかに足りてないだろうに。
…あ。
だから災害起こして戦力を削ごうとしてるのね。
いやでもさ、その作戦ってさ…
「天災の被害に合わない場所、確保してるんですか?」
「えぇ、当然です」
「そう…でも、無駄になっちゃったね」
「おや、抵抗なさるんですか」
「当然」
あまりにも甘い考えに、呆れを通り越して哀れだと思う。
天災の被害に合わない場所。
そんな所、存在しないのに。
あるとするなら、宇宙か、別次元の世界か。
巡り巡っているこの世界で、天災を引き起こそうだなんて、なんて馬鹿な人なんだろう。
そもそもこの私の前で、よくそんな事を言えたと思う。
巫女を前にして、海神を、荒神にさせる発言なんて。
そんなこと、させる訳ないだろ。
優しい存在だ。
私を好いてくれて、とても慈愛に満ちた、強い存在。
見守ってくれてる。
この安心感は、信用できる。
大好きな存在だから、信頼してる。
それを、そんな下らないことに、利用されてたまるか。
「松ちゃん」
相対し、構える。
勝負は一瞬だ。
タイミングを間違えたら終わり。
ヤドンは素早さが低いから、慎重に。
おやおや物騒ですね、なんて言いながら出されたポケモンは、エレブー。
電気タイプの、ヤドンと比べると素早さが高く、相性は宜しくないポケモン。
きっとこの人は、私がポケモンを捕まえたことを、知っていた。
だって松ちゃんがいることに少しも驚いてなかったし、ピンポイントで弱点タイプのポケモンを出してきた。
でも、問題はない。
はじめから、出す指示は決まってるから。
意識を研ぎ澄ませ、集中する。
見るのでなく、全身で感じとるように。
パチパチと、エレブーから闘志からか漏れる電気が耳に響くのが、邪魔だ。
圧迫感、存在感、威圧感。
高まるソレを、
今だ!
「ずつき!」
ーーードンッ!
大きな衝撃が、立てないほどの振動が、襲う。
鈍く、けれど大きな音が、響いて。
『ボス!水が!穴が!!機関室が破壊されました!!何かいます!何か、いや、コイツはーーザザッ』
無線か通話機か、叫ぶような音声が途切れるのと同じタイミングでまた床が大きく揺れた。
これは、結構ヤバい?
いや、問題ないか。
松ちゃんの側に寄り、男の奥へ吹っ飛んだエレブーを一瞥する。
揺れた床に動揺し、その浮いた体めがけての渾身のずつき。
運良く一発で倒れてくれたようで、一安心。
さぁ、覚悟しろ。
「ここは海神の住処だって、分ってるよね?」
ニッコリと、笑い返す。
大丈夫、怖いことはない。
だって、ここは海の中だから。