Re:ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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ファンリビ、セルラン低かったり色々言われてるけど、自分は楽しめてます。

……あの、運営さん……もう少し無課金者に優しくできないですかねぇ(震え声)


九話

 決闘戦、決勝。

 魔術競技祭はいよいよ大詰めとなっていた。

 ここに勝利できるか否かで、この先の展開に大きく関わる。

 少なくとも、アルベルトはそう考えている。

 

『それでは大将戦――始め!』

 

 審判の宣誓が響く。

 相対する二人の選手――システィーナとハインケルが同時に左手を翳した。

 

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

「《災禍霧散せよ》――ッ!」

 

 ハインケルが最速で紡いだ呪文を、システィーナは容易く消去(バニッシュ)する。

 マナ・バイオリズムの振れ幅が比較的少ないシスティーナが、反撃に黒魔【ファイア・ウォール】を唱えた。

 放射状に爆発的に広がる炎の壁がハインケルに迫り――

 

「《守人の加護あれ》――ッ!」

「《大いなる風よ》――ッ!」

 

 咄嗟に唱えた【トライ・レジスト】が炎の熱を防ごうとする。

 しかし、なんとシスティーナは【ゲイル・ブロウ】で追撃。【ファイア・ウォール】の熱を巻き込んだ突風が、ハインケルに向かって突貫する。

 予想だにしない一手に、反応の遅れたハインケルはその攻撃をもろに受けてしまった。

 

「ぐぅ……っ。ま、まだだッ、《天秤は右舷に傾く》――ッ!」

 

 熱自体は【トライ・レジスト】を張っていたので問題はない。

 が、【ゲイル・ブロウ】の風で体が浮いたのを察したハインケルは、場外に出される前に【グラビティ・コントロール】で重力を倍増。

 浮いていた彼の身体が地に足を付ける。

 続けてシスティーナが攻撃に出た。

 

「《光あれ》――ッ!」

「くっ――ッ! ならば《紅蓮の炎陣よ》――ッ!」

 

 視界を塞ぐ【フラッシュ・ライト】の光。

 狙いを付けられないのを悟ったハインケルは無差別範囲攻撃の【ファイア・ウォール】で反撃する。

 炎の壁がハインケルを中心に広がり、彼を守る壁のように聳え立つ。

 

「《白き冬の嵐よ》――ッ!」

「なっ⁉」

 

 システィーナはここで消去(バニッシュ)ではなく迎撃を選択。

 その左手から放たれた冷気の衝撃が炎の壁に触れ、周囲に白い煙を噴き上げる。

 魔術的なものではない視覚の封殺。

 ハインケルは防戦一方である今の戦いに、歯噛みしていた。

 技量が違いすぎる。咄嗟の判断力の速さが自分とは比べ物にならない。

 今の攻防が特にそれを示している。

 三属攻性呪文(アサルト・スペル)に対しては【トライ・バニッシュ】か【トライ・レジスト】を持って対処するのが定石だ。

 だが、システィーナは防御ではなく、霧の目くらましをする為にハインケルの攻撃を利用した。

 逆にそんな展開を全く想像していなかったハインケルは狼狽え、システィーナの行動を待つしかなくなっている。

 

「くそっ、どこに行った……⁉」

「《雷精の紫電よ》――ッ!」

「――っ⁉」

 

 一喝と共に視界の端で閃く紫電。

 ハインケルは慌てて身を引くのと、システィーナの放った紫電が彼の頬を掠めるのは全くの同時だった。

 

「くっ……《吹き荒れる風よ》――ッ!」

 

 轟! ハインケルが【ゲイル・ブロウ】の即興改変を行い、地面に向けて突風を放つ。

 地面に直撃した風は四方八方に割れ、周囲の霧を吹き飛ばした。

 晴れていく視界から【エア・スクリーン】を張り風を防いでいるシスティーナが見えた。

 

(……強い)

 

 システィーナは内心ハインケルに対し舌を巻いていた。

 正直に言うと、彼女はこの戦い、容易に勝利できるものと思っていたのだ。

 それなりに長い期間グレンの教えを受け、実戦的な魔術師の戦いを習ってきた。

 無論、グレンの授業を受けているのが二組だけと言う訳ではない。ハインケルの行動も、グレンの授業あっての物だろう。

 教科書通りの魔術戦を嫌う、三流魔術師。

 学院内でのグレンの授業を端的に示す言葉だ。

 グレンの行う授業はどこまでも実戦的。習得呪文数を競う学院の風潮を真っ向から押し返すその授業は、誰の目にも新鮮なものに映った。

 誰が考えるのだろうか? 炎に冷気をぶつけ水蒸気を生み出し、目くらましを生み出すなんて。

 そもそもそんなことをしなくても、霧を生み出す魔術自体は存在している。一見すれば無駄な行為。普通なら、グレンが教えていることは、”誰もが考えたがやらないだけの物”であるはずだ。

 しかし、グレンはこれに否を突きつけた。

 魔術で生み出した霧は魔術で対処される。だが自然現象で生まれた霧は、風でも吹かないと消えない。

 彼はそう言って、炎の魔術に氷の魔術を使う有用性を説いた。

 

(本当に……無茶苦茶な人だったわ)

 

 ハインケルの呪文をいなしながら、システィーナは思考する。

 彼もグレンの授業を受けたことがある以上、一筋縄ではいかない。

 だが、それでも有利なのはシスティーナだ。実際、ハインケルは防御だけに手間取られていて、ほとんど反撃が出来ていない。

 これは、実戦的な戦いをどれだけの期間突き詰めたかの違いだ。

 無論、本職の魔導師からすればたいした時間ではないだろう。だが彼女たちの勝負の命運を分けるのは、間違いなくそこだった。

 

「今――ッ!」

 

 システィーナは好機を見つけ、即座に【マジック・ロープ】の呪文を唱える。

 彼女の左腕から魔力の紐が生まれた。その紐に【サイ・テレキネシス】を使い、ハインケルの左足に巻き付ける。

 

「こ、これは……⁉」

 

 文字通り、意図が読めない。

【マジック・ロープ】はその名の通り、魔力で紐を作り出す魔術だ。主に拘束用に用いられる魔術であり、一切の攻撃力が無い。

 こんなモノを巻いたところで、ハインケルにはダメージ一つ通ることはない。

 そして当然……システィーナもそこは理解している。

 本番はここからだ。

 

「《雷精の紫電よ・縄を伝え》――ッ!」

 

 黒魔【ショック・ボルト】に一節を加えた即興改変。

 これにより、システィーナの左手から導線を伝うように紫電が流れる。

 

「――ッ⁉ しま――」

 

 システィーナの行動の真意に気づいたハインケルが慌てて紐を切ろうとするが、時すでに遅し。

【マジック・ロープ】を伝って電撃がハインケルの体に流れる。【トライ・レジスト】の効果も若干薄れてきていたのか、彼の身体が一瞬麻痺し動きが止まった。

 そして、その一瞬の隙は致命的過ぎた。

 

「これで決める! 《大いなる風よ》――ッ!」

 

 渾身の一撃と言わんばかりの暴風。

 ハンマーのように重い一撃がハインケルの体を殴りつけ。

 

「ぐ、あああああああああ――ッ⁉」

 

 痺れた体では対抗呪文(カウンター・スペル)を唱える間もなく。

 ハインケルの体は場外に吹き飛ばされるのだった。

 同時に、会場が拍手と歓声に包まれる。

 

『き、決まった――――ッ! 場外ッ! 二年次生二組の優勝が決定したぁぁああああああああああああ――ッ!」』

 

 二組の優勝。

 その実況を聴き、控えていたアルベルトとリィエルはほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二組は怒涛の快進撃を見せていた。

 若干落ちつつあった勢いも完全に取り戻し、むしろさらに強風となって会場に吹き荒れる。

 そんな生徒たちを。

 来賓席にて、アリシア七世は複雑な視線で見降ろしていた。

 

「……、」

「……すまない、アリス。私の責任だ」

「セリカ……気に病まないで、貴女は何も悪くないわ」

「はっ……第七階梯(セプテンデ)が聞いて呆れるな。……本当に――ッ」

 

 キッ、とセリカが唇を噛む。

 その様子を痛ましげに見つめるアリシアは、会場から溢れる声援に思わず目を瞑った。

 どうやら今しがた、優勝が決まったらしい。

 得点版を見るに―――優勝は、二年次生二組。

 つまり、グレン=レーダスとルミア=ティンジェルのいるクラスだ。

 

「……行きましょう」

「……ああ」

 

 アリシアが席から立ち上がり、後方の出口に向かい歩く。

 対し、セリカは同意しながらも、中々立ち上がることはしない。

 そんな二人の様子を、リックは端の席で黙って聞いていることしか出来ない。

 

「セリカ。いざという時、貴女にお願いがあります」

「……ああ」

 

 二人は互いの顔を見合わせることなく。

 

「……どうか、私のことは放っておいて、あの子だけでも……ッ!」

 

 アリシアは己の願いを口にし、

 

「……、」

 

 セリカは、何も答えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――魔術競技祭閉会式は滞りなく進んだ。そこにある工程を機械的に消化していく。

 そんな中一つだけ、生徒たちが動揺と困惑に包まれた場面があった。

 それが今現在行われている、女王陛下による勲章授与式だ。

 本来それを承る栄誉を得られるのは、担任講師であるグレン=レーダスと、彼が受け持つクラスの代表者だけだ。

 だが。

 表彰台に上がった人物は、そのどちらでもなかった。

 

「……貴方達は……アルベルトとリィエル……?」

「……何故来たんだ」

 

 戸惑うアリシアを他所に、セリカが苦しげにそんなことを漏らす。

 そんな二人の様子を訝しんだ、付き添いの王室親衛隊隊長、ゼーロスがアリシアに耳打ちする。

 

「(陛下……その男が、二組の担当講師グレン=レーダスとやらなのですか?)」

「いえ、違います……けど」

 

 違うということは分かる。

 アリシアはアルベルトとリィエルに面識があるのだ。目の前の長髪の男が『グレン=レーダス』でないことは確定している。

 すると、アルベルトが厳めしい面構えに似合わない砕けた口調で言葉を発した。

 

「初めましてだ女王陛下。私……いや、俺はこのクラスの担任を任されている――」

「(《刮目せよ・我が幻想の戯曲・演者は我なり・我は彼の者の声で歌わん》)」

 

 アルベルトとリィエルの姿が、一瞬光が屈折したかのように歪み――

 そこから、まったく知らない別人と、見知った姿が現れたことに、アリシアは驚きを禁じ得なかった――

 

「グレン=レーダス。魔術講師だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な⁉ ルミア殿、貴女は今、魔術講師と共に街中にいるはず――!」

 

 ゼーロスが狼狽しながら言う。

 まあ、分かんねえだろうな。【セルフ・イリュ―ジョン】って実際目で見て見分けるのって難しいからな。

 しかもこの様子だと……ゼーロスさん、ここにいるルミアが()()()()()()ことに気づいてないのか?

 半分くらい負け確定の賭けだったが、ギリギリで勝ったか。ここでルミア()変身したことに気づいているのがセリカだけであること。

 それが俺の作戦の第一段階だ。

 

「俺の仲間と途中で入れ替わったのさ、ゼーロスサマ。【セルフ・イリュージョン】だ。今頃アンタが差し向けた追っ手も泡食ってるだろうぜ」

「くっ! 親衛隊、何をしているッ⁉ 賊共を捉えろッ!」

「やっべ」

 

 考えてなかったわこれ。

 そういや、セリカが必ず助けてくれる保障ってないんだよなぁ……一か八か頼んでみるか?

 

「セリカ、頼む――ッ!」

「ちっ、《この・馬鹿野郎が》ッ!」

 

 俺への罵倒を呪文に即興改変しながら、セリカが俺達五人を閉じ込めるように断絶結界を形成する。

 外に弾かれた親衛隊たちが何事かを叫んでいるが、音声も遮断されているからか何も聞こえない。

 これなら内側の会話も聞かれないだろう。しかも、ダメ押しとばかりに中の様子が見えないようにまでしてくれている。

 よしっ! 第二段階も突破だ! しかも考え得る限り最高の結果だぜ!

 あとは最後の難関……!

 

「くっ、セリカ殿……この期に及んで裏切るのか⁉」

「セリカ……」

 

 ゼーロスと陛下。二人の視線を浴びても、セリカは無言で腕を組み、俺を見据えている。

 その瞳が雄弁に語っていた。『何かあるんだろう?』『お前を信じるぞ』と。

 まったく、俺みたいなニセモンを簡単に信じやがって……でも、ありがとな、セリカ。今度酒でも奢るよ。

 

「さてさてさーて。脇役に舞台を降りてもらったところで、いきなりだが本題に入らせてもらうぜ」

 

 俺は一歩前に踏み出し、女王陛下を真っすぐ見据えながら言った。

 

「そのネックレス。外して貰うぜ、女王陛下」

 

 




次回、魔術競技祭編最終回!

ふむ、縄で相手を縛って攻撃……波紋かな?
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