「な、何なんだお前は⁉」
王室親衛隊ベテラン騎士、クロス=ファールスは今にも泣きだしそうな顔で叫んだ。
彼がゼーロスより受けた勅命、とある少女を抹殺しろと言う任務。
後味の悪さを感じながらも必死に成し遂げようとしては、共にいる魔術講師に邪魔をされる。
そんなワンパターンな流れを断ち切り、ついに魔術講師を追い詰めた……そう、思っていたのに……!
「貴様らに名乗る名はない。……向こうも接触を終えたようだ。下がっていろ」
「は、はい……」
鷹のように鋭い双眸の男に従い、ルミアが壁際に立つ。
そんな彼女を守るように、男、アルベルト=フレイザーは人差し指を眼前の敵に向ける。
「警告する。それ以上近づけば、命の保証はできんぞ」
「くっ、王室親衛隊を舐めるなァ――! 行くぞお前た――」
ヒュン、という風を切る音と共に、クロスの頬を二つの雷槍が突き抜ける。
(……馬鹿な、呪文を唱える気配はなかった……まさか、
あまりにも常識を逸する隔絶した魔術技巧に、クロスは戦慄を覚えた。
同時に、目の前で棒立ちの男が、得体の知れない化け物にしか見えなかった。
クロスは無意識に、撤退の二文字を思い浮かべ……すぐさま払拭する。
誰とも知れない魔術師相手に逃げ帰るなど、王室親衛隊の名折れだ。
「い、行くぞォ――ッ!」
クロスは味方を鼓舞しながら、勝機の見えない敵との戦いに挑んだ。
「き、さま……たかが魔術講師の分際で、自分が何を言っているのか分かっているのか⁉」
「あっれ~? おっかしいなぁ~? 俺はただネックレスを外してくれって言っただけなんだけどなぁ~? そこまで不敬ではないはずなんだけどなぁ~?」
「ぐっ……! 陛下、あのような輩の戯言、決して受け入れないでくだされ!」
俺の煽りに青筋を立てながらも、あくまでアリシア女王の身を心配するゼーロス。
やっぱり忠義心半端ねえな。下手な挑発も通じねえし、これはマジでメンドクセェことになっかもな。
俺はいつでも愚者のアルカナを引き抜ける体制を取りつつ、
「(どうだ、行けそうか……?)」
「(ん。ギリギリだけど、隙を作ってくれれば)」
「オッケー。んじゃ、行くぜ!」
作戦は既に決まっている、後は確認だけだ。
そして、それを終えた俺たちは同時に、左右に分かれて動き出した。セリカとアリシアは俺たちの行動に理解が追い付いていないのか、動こうとしない。
だが、唯一女王を守る為に奮起するゼーロスは、一瞬どちらを狙うべきか迷ったようだが、俺を殺すよりもルミアの殺害を優先した。
この男の忠節は本当に尊敬する。ルミアを狙えば、俺に殺される可能性もあるのに、それでも女王を守り抜こうとしているのだ。
けど、そうはさせない。
俺は左手を突き出し、
「《原初の力よ――」
「遅いぞ魔術講師! そして……これですべて終わらせる‼」
ゼーロスの持つ二刀の
ここからでは【ライトニング・ピアス】であろうとゼーロスは止められない。
……けど、
「ふっ――」
「なに⁉」
カンッ! という甲高い金属音と共に、ゼーロスの右の
ゼーロスはルミア……の
「馬鹿な⁉ 刀だと……⁉ 貴殿はルミア嬢ではないのか‼」
「違う」
と、そう言った次の瞬間。
ルミアの姿がぐにゃりと歪み、そこから青い長髪に赤と黄色のメッシュを入れた、人形のように無表情の娘が姿を現した。
リィエル=レイフォード。
帝国宮廷魔導師団が一翼、執行官ナンバー07・『戦車』の名を持つ少女だ。
元々、リィエルは最初から変身などしていない。
これが俺の作戦だ。
「《――均衡保ちて・零に帰す光・剣に》――ッ!」
「――ッ⁉ しま――」
【ディスペル・フォース】の即興改変。
あらゆる魔術を無効化する魔術を
「待てグレン! そんなものを使えば――」
「黙って見てなッ!」
セリカの叫びを、俺は一蹴する。
俺は懐から愚者のアルカナを取り出し、【愚者の世界】を発動。
この瞬間、あらゆる魔術の起動が停滞する。
元々、女王を苦しめているのはネックレスに掛けられた条件起動式の
原作では魔術起動を封殺することで、条件起動しないまま呪いのネックレスを外して難を乗り越えていた。
だが、今の俺に完全版【愚者の世界】はない。だが、不完全版ならある。あらゆる魔術起動を一定時間停滞させる魔術がな。
これにより、
けれど、こうして【ディスペル・フォース】を使い、
「させるかぁああああああああああ――ッ!」
「させてもらう」
俺を射殺さんほどの殺気を放つゼーロスが、一足で俺に接近するも、それに追い縋ったリィエルが、ゼーロスの斬撃を受け流す。
「頼むぜェええええええええ――ッ‼」
正直術式を把握しているわけではないから賭けだ。
死んだらすまん、女王陛下。
内心で謝罪を送りながら、俺は
結論から言うと。
事態は見事に収束した。俺の推測は見事に的中し、女王陛下のネックレスは完璧に
ちなみに、【ディスペル・フォース】をわざわざ剣に
なので、予め発動し、【愚者の世界】の効果範囲内でも使えるようにしておく必要があったのだ。
リィエルの剣は錬金術でできているため【ディスペル・フォース】は施術できない。必然的に、ゼーロスの武器を使うしかなかったのだ。
あと、セリカには三発ぐらい殴られた。ちゃんと説明しろとか、本気で焦ったとか。いや、お前結界貼る以外何もしてないじゃん。頼んだの俺だけど。
とまあそんな感じで、魔術競技祭は無事終了。あとは原作通りの流れだ。
あ、勲章授与とかはナシだ。仕方ないとはいえ、女王陛下に刃を振るったからな。しかも確率の低い賭けで。
命を救ったってことでお咎めなしだ。まあ、それくらいが俺にはちょうどいい。
「さて、次は三巻か」
「大変ね、貴方も」
「まったくだ。つか、お前裏切んなよ?」
「善処する。まあそもそも、私が護衛に選ばれなければ成り立たない」
「……頼むぞマジで」
リィエルは片手を振って、俺の言葉に応える。
うーむ、大丈夫かこれ?
「……ま、なるようになるか」
そう呟き、俺は二組が開催する打ち上げ会場へと向かった。
ちょっと短い気がする……なんでだろう