Re:ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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お久しぶりです


二話

 セラ=シルヴァース。

 帝国宮廷魔導士特務分室・執行官ナンバー3《女帝》の名を冠する女性だ。

 通称『風使い』とも呼ばれるほど風の魔術への適性が高く、帝国軍随一と評されるほど。

 そんな彼女は今、アルザーノ帝国魔術学院の門の前に立っていた。

 

「……よし!」

 

 意気揚々と門をくぐる。

 今の彼女は、この魔術学院の非常勤講師という立ち位置にある。彼女の前任の講師が突如失踪したことで急な替えを用意できず、非常勤を募集する形になったのだ。

 だが、軍にとってはこれはむしろ僥倖だった。実は、軍にアルザーノ帝国魔術学院襲撃の予告状が届いたのだ。

 なので、社交性のあるセラを非常勤講師として埋め込めば、怪しまれることなく潜入捜査ができる……。

 ……そういう思惑があったのだが――。

 

「先生、そこの部分間違ってません?」

「えっ、嘘⁉ ど、どこどこ⁉」

 

 セラは講師という職に就くのは……というよりそもそも、人に魔術を教えるという経験がなかった。

 おかげで彼女は自己紹介で舌を噛み、授業はガチガチに緊張して上手く進行できずにいる。

 しかし、まだ一日目。非常勤講師としての活動期間は一ヶ月もあるのだ。

 頑張らなければ! と。そう、セラは意気込む。実際、授業を重ねるたびに段々慣れてきたのか、細かなミスや緊張は最初の頃に比べなくなっており、ある程度スムーズになっていた。

 

「先生、ここの部分がちょっと分からないんですが……」

「ん? どれどれ……?」

 

 セラが担当する二組の生徒、システィーナが質問に来た。

 彼女は何故かセラと瓜二つの容姿をしている。血縁関係も何もないのに、だ。いっそセラの生き別れの妹と言われても信じられるほどにはクリソツであった。

 初見の時は大変驚かれたし、驚いたのは記憶に新しい。

 

「よっ、頑張ってんな」

「あ、グレンさん!」

 

 職員室へと向かうセラへと話しかけたのは、セラの前に臨時の担任をしていたグレン=レーダスという青年だ。

 かつて受け持っていたということで、彼はセラの事情を知っている。しかし、それとは関係なくセラは彼に親しみを抱いていた。

 彼への第一印象は、自堕落そうな人だなという感想があった。

 面接の時点で面倒臭いという思いを隠そうともしない表情で、セラもあまりいい思いはしていなかった。

 だが、学院に赴任して分かったのは、彼が意外と生徒想いな人間だったということだ。

 態度こそ不真面目だが、生徒の質問には丁寧に答え、授業のほうも、帝国宮廷魔導士団として戦うセラですら、学ぶことが多いと思えるほどレベルの高いモノだった。

 一体、どうしてそこまでして魔術を学ぼうとしたのだろうか。

 丁度いい機会に、セラはその問いをグレンへと投げかけた。

 

「ん? なんで魔術を学ぼうとしたのか?」

「うん。グレンさんは、ここの講師になりたくて魔術を学んだの?」

「別に。セリカ……まあ、俺の育て親が魔術師でな。それで、魔術スゲー! って感じで、まあそう言う訳だ」

 

 グレンは昔を懐かしむようにそう言った。

 もしかしたら、もっと他に理由があるかもしれない。何故か分からないが、セラの頭にそういう考えが浮かんだ。

 だが、それを聞くのは憚られた。きっと、そこから先は安易に踏み込んではいけない場所だ。

 グレンに一礼し、セラは職員室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ビビった。まさか魔術を学ぼうとしたきっかけなんて聞かれるなんてな。

 そんなもん原作へ対抗するために決まってんじゃん。言っても分からんと思うけど、結構大変だったんだよ俺? 割とやばたにえんだったからね?

 まあ、セラが原作グレンの代わりを務めてる感じっぽいし、俺の役目は殆どないだろうけどさ。

 というか、なんでセラが生きてんだろ。ジャティスに殺されなかったのか?

 じゃあ五巻とかどうなるんだ? いや、俺別にジャティスと知り合いでも何でもないし、突っかかれることはないだろ。つまり安心ってわけだな!

 

「……うん、大丈夫だ……大丈夫」

 

 自分に言い聞かせるように、俺は言葉を繰り返し口にする。

 いや、実際に言い聞かせたいのだろう。

 自分の軽率な行動が最悪な結果を招いてしまった……そんな展開が来ないことを恐れているのだ。

 だったらしっかり原作の道を辿ればよかったのに、そんな度胸もないからこうして魔術学院で平和を享受している。

 欲張りで浅ましい自分に嫌気がさしてくる。

 結局、全部都合のいい言い訳だ。自分が死ぬのが嫌だから。……ただ、それだけ。

 原作のシスティーナは、そんな己の恐怖を乗り越えて成長していた。グレンも、恐怖を糧に戦い続けていた。

 けど、俺は違う。ただ、逃げてるだけ。戦うことなど一切していない。

 俺は、対抗なんてしていない。

 

「……やめよ」

 

 考えても嫌な気分になるだけだ。

 俺は頭を振って思考を無理やり切り替える。

 自分のことを考えても仕方がないのだ。ならば、考えるべきなのは自分以外……生徒たちのことだ。

 ルミアやシスティーナたちに危害を及ぼさせずに、天の智慧研究会を追い払う方法。

 まずは、ヒューイ先生を探すべきだろう。どこの階層にいるかは分からないが、学院の地下迷宮にいることは確かのはず……。

 いや、地下迷宮は許可取らないと入れないんだっけ? 普段使わないから忘れてるな……あとで確認するか。

 

「おうおう、どうしたどうした、珍しく難しい顔しちゃって」

 

 軽快な声とともに、背後から抱き着かれた。

 背中に押し当てられた弾力から、間違いなく女性であることを悟る……というか。

 

「おいバカ、やめろっての!」

「おっと……まったく、つれないじゃないかグレン。そんなんじゃ私、寂しくて泣いちゃうぞ?」

「うっせ、ほぼ毎日顔合わせてんだから問題ねーだろーが、セリカ」

 

 輝く黄金のような長髪に、血のように鮮やかな赤を見せる瞳。黒いドレス。

 セリカ=アルフォネア。俺の育ての親にして、公式チート。第七階梯(セプテンデ)に至った大陸屈指の魔術師が、ニヤついた笑みを浮かべて腕を組んで佇んでいた。

 

「ったく、相変わらず毎日楽しそうだなお前は」

 

 俺が頭を掻きながら悪態をつくと、セリカはやはり笑いながら、

 

「……ああ、楽しいさ」

 

 ……。

 焦りか、はたまた自己嫌悪からか。

 つい、心にもない事を口走ってしまったが、セリカは何も言わない。

 彼女の人生が楽しいなんてこと、あるはずがない。セリカは常に、『内なる声』に苛まれている。

 セリカに定められた使命を果たす為に、その声は収まるところを知らない。

 

「……そういや、あのセラってやつとはどうなんだ、グレン?」

「どうって……」

「お前にしちゃ珍しく気に掛けてるじゃないか。……惚れたか?」

「ば――ッ⁉ ンなわけねぇだろ⁉ つか、お前は事情知ってんじゃねえのかよ?」

「それにしたって、だ。お前は気づいてないかもだが、お前がガキの頃に気に掛けてた女の子くら――」

「お前なんでそれ知ってんの? 人の苦い青春思い出させないでくれない?」

 

 多分、ニーナのことを言っているのだろう。

 アイツのおかげで、今の俺があるからな。てか、セリカに知られてるとは思わなかったんですけど⁉

 

「俺も半分忘れてたのに……」

「はははっ……にしても、明日からだな」

「……ああ」

「気を付けろよ? お前に万が一のことがあったら……」

「……心配いらねーよ。どうせ悪戯だ。何もねーよ」

 

 俺は努めて不安を見せないようにして、そう言う。

 悪戯なんかではないことは、俺が一番わかっている。

 怖い。

 相手は本職のテロリストだ。その能力を知っていても、対面すればその殺意に、俺は耐えられるかどうか。

 でも……。

 

「あ、ちゃんと俺の分の飯作り置きしておけよ? 俺料理とか出来ないからな? 厨房吹っ飛ばすぞ?」

「厚かましいんだよお前は、もういい大人なんだから自分で料理くらいやれっての……はぁ」

 

 セリカは呆れたようにため息をつく。

 こんな、危機なんて一つもない、当たり前の日常。

 それがどれほどの価値があるのかは、きっと、それがない世界の人間にしか分からない。

 だから俺は明日、知るだろう。

 この、なんてことのない平和の、真の価値を。

 

 

 




セラがグレンをさん呼びするのは、彼が一応講師としては先輩に当たるからです
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