Re:ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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ようやくモチベが戻ってきた希ガス


三話

 早朝。

 フェジテの街の十字路にて。

 一人の女性が立っていた。

 白銀の如く白い髪。雪も欺く白い肌。魔術学院の制服を着こなし、服の隙間から見える場所には、赤い紋様が刻まれている。

 セラ=シルヴァース。学院の非常勤講師として招かれた、帝国宮廷魔導士団特務分室、執行官ナンバー3、その人だ。

 そんな彼女は、()()()()()()()()()()()で、険しい顔つきで周囲を見渡していた。

 

(……おかしい)

 

 今日は、アルザーノ帝国魔術学院の教授・講師陣は、帝国総合魔術学会に出席するため、皆席を外しており、唯一授業が遅れている二年次生二組だけが授業をすることになっている。

 つまり今日は、警備や実力のある教授たちはおらず、警備が手薄なため、テロリストが襲撃するにはうってつけの日。

 その上で。

 

(この時間帯なら、仕事で一般市民も行き交うはず……なのに……!)

 

 見れば、周囲に人払いの結界が張られていた。

 セラは猛烈に嫌な予感がして、今すぐにでも学院に向かいたくなった。

 だが、《疾風脚(シュトロム)》を使って移動しようとした……その時。

 

「《ズドン》」

「――ッ⁉」

 

 一節で唱えられた【ライトニング・ピアス】が、背後から空気を裂きながらセラを突き刺さんと向かってきた。

 咄嗟に体を捻って紫電を躱し、空中に飛び上がって態勢を整える。

 

「……誰?」

「あ? 誰、だと? ……そうか、テメェ、この俺を忘れてやがったのか。そうかそうか」

 

 声は、近くの建物の屋根から聞こえた。

 セラが視線を向けると、いかにも都会のチンピラ風の男が、表情を憤怒に染めながらセラを凝視している。

 その瞳は途轍もない殺意と憎悪で染まっており、並の人間なら睨まれるだけで卒倒するだろう。

 だが、それだけの殺意を一身に受けてなお、セラは堂々と、チンピラを睨み返す。

 

「……今の高速詠唱……ジン=ガニス? だったかしら」

「ああ、そうだよ。てめぇにゃ借りがあるからな。ここでキッチリと、返礼させてもらうぞ‼」

 

 ジンが屋根から飛び降り、風を纏いながらセラに肉薄しつつ左指を向ける。

 

「《ズドドドドドドドドドドン》‼」

 

 黒魔【ライトニング・ピアス】の高速10連射。

 信じられない速度で連発される極光の閃槍が、セラを蜂の巣にしようと襲い掛かる。

 

「《疾》――!」

「なっ、クソッ……!」

 

 だが、無数の連射を、彼女はジンと同じく風を纏って躱し、路地裏に入り込み、ジンを誘う。

 ジンは彼女の後を追うが、狭く、入り組んだ路地裏では、全力で飛ぶことが出来ない。

 なのに、セラはそんなことお構いなしに、先へと進んでいく。

 技術の違いを見せつけられる。

 ジンの方が最高時速(トップスピード)では勝っている。一本道で勝負すれば、ジンがセラに追いつけないということはない。

 だが、この入り組んだ地形が。

 そして、セラの小回りの利く動きが。

 ジンに姿すら見させない。

 今彼は、セラが残す風の残滓を追っているにすぎないのだ。

 

「――っ⁉」

 

 突如、ジンは曲がり角を曲がろうとして、悪寒に襲われた。

 自分の直感に従い、咄嗟に壁を蹴って進行方向を強引に切り替えると。

 ずがぁん‼ 先程まで自分の居た場所に、暴風の戦槌が打ち付けられた。

 ジンが視線を向けると、先程まで自分の居た場所に頭上に、セラが左手を構えた状態で静止していた。

 瞬時に彼は悟った。自分が誘い込まれていたことに。

 小回りが利かないことを読み切って、ジンを先回りし、一番隙のできるタイミングで攻撃を仕掛けたのだ。

 まるで、自分の全てを見透かされているかのような立ち回り。風を極め、次の一手が読めない得体の知れなさ。

 思い出される、屈辱の記憶。以前対峙した時も、ジンは手も足も出ず、無様に逃げることしかできなかった。

 その苦い記憶が、鮮明に掘り起こされ、ジンの心をドス黒い炎が焼き焦がす。

 

「ぶっ殺す……ッ‼」

 

 呪詛を吐きながら、ジンは雷閃を無数に放つ。

 だが、そのすべてが、躱され、弾かれ、防がれる。

 敗北。

 その二文字が頭に浮かび上がり――

 

「ふ……っざっけんなぁぁぁぁぁああああああああーーッ‼」

 

 怒声とともに、放った一閃。

 その一撃が、セラの頭部を捉えた。

 ()った! ジンがそう思った……その瞬間。

 セラの体が、まるで蜃気楼のように()()()。初めから、そこには何もなかったと言わんばかりに。

 

「終わりよ」

「――ッ⁉」

 

 声は、ジンの背後から聞こえた。

 直後に、彼は悟った。

 

「……俺が、今まで追っていたのは……【イリュージョン・イメージ】の虚像……だってのか⁉」

「もう少し冷静さが残っていたら、見抜けたかもしれないよ」

 

 背後を取られた。

 それは、敗北を決定づけるサインとしては、十分すぎた。

 

「貴方、天の智慧研究会の人間ね? 一体、何が目的なの……って、聞きたいけど、みんなが心配だし、貴方は気絶させて軍で拘束するわ」

「……へっ」

「?」

 

 突如、ジンがニヤついた笑みを浮かべる。

 

「残念だったな。てめぇが愛しの生徒ちゃんたちのとこに行くことはできねえ!」

「……どういう意味?」

 

 すると、ジンは懐から札のようなものを取り出し、それを強引に破き去った。

 不審な行動に、セラが眉をひそめる。

 

「何をしたの?」

「知りたいか? じゃあ教えてやる。この札はなぁ、今の学院の入るための鍵なんだよ!」

「……は?」

「既に学院の結界はこっち(なかま)が改変してる。てめぇにゃあの学院の結界を破壊することはできねぇ! ぎゃははははは!」

「何を……言ってるの⁉ 答えなさい!」

 

 下卑た笑みを浮かべるジンに、セラが強い口調で問い詰める。

 明確に焦りを抱いているその姿を見たジンは、ようやく一矢報いたことに歓喜した。

 

「残念だったなァ……!」

「くっ――!」

 

 これ以上話すつもりはないらしい。

 セラはジンを気絶させ、念入りに【スリープ・サウンド】を掛けて眠りを深くし、【マジック・ロープ】で拘束。【スペル・シール】で魔術を封じる。

 そして、《疾風脚(シュトロム)》を起動し、学院へと急いだ。

 

(……みんな、無事でいて……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院の出入り口で。

 二人の男が対峙していた。

 

「……何者だ、貴様?」

「グレン=レーダス、ただの魔術講師だ」

 

 グレンは講師用のローブをがっちりと着こなしている。

 対面するのは、ダークコートを着た、アタッシュケースを持った男。

 明らかにグレンを警戒し、敵視している。

 

「……馬鹿な、一介の魔術講師に、キャレルが破れるはずがない」

「じゃあ、こいつが大したことなかったんじゃねえの? 知らねえけど」

 

 キャレルと呼ばれる男は、既にグレンによって倒され、学院の外で眠らされている。

 それを確認したからこその、レイクの警戒。

 グレンはレイクに対し左手を向け、不敵な笑みを浮かべる。

 

「勝負、しようか?」

「……いいだろう」

 

 ダークコートの男がアタッシュケースを開く。

 中からは、五本の剣が収納されている。

 

「《目覚めよ刃―――」

「隙ありぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい―――――ッッッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 俺はレイクが呪文を唱えようとした瞬間、懐から()()()()()()()を抜き取り、その魔術式を読み取りながら()()()()()()

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ》‼」

 

 呪文を唱えながら、俺はレイクに掌底を放つ。

 ギョッとしながらも、レイクは冷静に対抗呪文(カウンター・スペル)を唱えようとするが、そんなものは無駄だ。

 

「何……⁉」

 

 レイクの呪文は発動しない。正確には、()()()()()()()()()()

 隙を見せたレイクの顎に、俺の掌底が直撃した。

 その瞬間。

 俺の掌で、発動が遅れていた【ショック・ボルト】が発動し、レイクに直撃する。

 

「がぁああああああーーッ⁉」

 

 顔面で、一切の魔術防御を取らずに受けたせいか。

 レイクは学生用の初等魔術で大ダメージを受けている(ように見える。というかそうであってほしい)。

 俺は人を殺せない。原作のように、軍用魔術を人に向けて撃つとか不可能だ。

 だから、こうやってトリッキーな方法で、学生用の術を使うしかない。

 

「……ぐっ、おのれぇ……! 《炎獅子》‼」

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】の一節詠唱。

 普通ならこれで俺は黒焦げだろう。

 だが、術は発動しない。魔方陣がレイクの掌に展開されたまま、一向に効果を発揮しないでいる。

 立ち往生するレイクに対し、俺が蹴りを放つ。

 それを躱して、レイクは冷徹に見解を口にした。

 

「……なるほど。()()()()()()()()()()。それが、貴様の固有魔術(オリジナル)といったところか」

「あ、もう分かった?」

 

 レイクの言葉通り、これが俺の【愚者の世界】。

 本来なら起動を停止するはずのそれを、俺は敢えて完成させずにそのままにした。

 だって、俺普通に殴り合うとか無理だもん。魔術使えるようにしとかないと怖いもん。

 

「ふん。だが、遅れると分かっているなら、それに対応するだけのこと」

 

 レイクが足元の剣を拾い上げ、こちらに向ける。

 ……そういやこいつって、こいつ自身の剣技も冴えわたってるんだっけ? なんかそんな感じの設定あったような……。

 

「はっ――!」

「うおっ⁉」

 

 振り下ろされる斬撃を、咄嗟に飛び退いて躱す。

 危ない。とんでもない速さだったぞ、今の。これ、本当にヤバいんじゃないか? さっきの一撃で決められなかったのってもしかして相当まずいんじゃないのか?

 一応身体能力強化の魔術は服に付与(エンチャント)してるけど、それでも向こうのほうが早いし。

 

「あぐっ⁉」

 

 そうこうしていると、俺の脇腹を剣が掠める。

 掠めただけ。たったそれだけで、脇腹に、熱した鉄パイプを押し付けたかのような熱さが発生した。

 余りの激痛に悶えそうになるが、必死に堪える。

 これが、痛み。

 傷つけられる痛み。

 ――辛い。

 

「ぐっ……!」

 

 だが、敵は休む暇を与えてはくれない。

 レイクは座り込んだ俺に、容赦なく斬撃を浴びせる。

 次々に体から血飛沫が舞い、全身から力が抜けていくのを感じた。

 同時に。

 

「……む? どうやら、貴様の固有魔術(オリジナル)の効果時間が消えたようだぞ?」

「――ッ!」

 

 見れば、レイクは呪文を唱え、剣を浮遊させていた。

 

「存外、楽しめた。だが、貴様には経験が、技術が、圧倒的に足りていない」

 

 それだけ残し、レイクはこちらに左手を向ける。

 既に立つことも出来ず寝そべる俺の目の前に来て、わざわざ魔術で殺そうってか。

 

(……くそっ、こうなったら……!)

 

 最後の悪足掻きだ。

 唱え切れるとは思わない。撃つ前に消されるのがオチだ。

 だが、何かしなくては。このまま終わりたくない。死にたくない。抵抗しなければ。早く。早く。早く!

 

「《我は神を残獲(ざんかく)せし者・我は始原の祖と(つい)を知る者・()は摂理の円環へと帰還せよ・―――」

 

 懐から《虚量石(ホローツ)》を取り出し、呪文を唱える。

 もう、他に出来ることが思いつかねえ。生半可な魔術じゃアイツに負けちまう。出血のせいか、思考が纏まらないせいで作戦が立てられない。

 

「……まさか、黒魔改【イクスティンクション・レイ】か……? そんな術まで使えるとは……些か、貴様を見くびっていたようだ」

「《五素より成りし物は五素に・(しょう)と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は(すべか)らく此処に散滅(さんめつ)せよ―――」

「させん。ここで貴様は終わりだ。《雷帝よ》――ッ!」

「《霧散せよ》――ッ!」

 

 レイクが俺に向かって【ブレイズ・バースト】を唱えようとした……その瞬間。

 外部から放たれた【トライ・バニッシュ】が、レイクの呪文を打ち消した。

 突然の第三者の迎撃に、レイクが驚きながら、下手人へと視線を向ける。

 

「なっ、貴様は……!」

 

 レイクの視線の先には、講師用のローブに袖を通す女性。

 セラ=シルヴァースが、そこにいた。

 

「なぜ、貴様がここに……お前はジンが……ッ!」

「外の人が同じ符を持っていてくれて助かったわ。……それより、こっちを見ていて大丈夫なの?」

「――ッ⁉ しま――」

 

 レイクの目の前に展開される、三つの魔方陣。

 それらを見たレイクが、顔を青ざめさせ、左手をかざす。どうやら、浮遊剣を使って迎撃しようとしたのだろう。

 だが、【ブレイズ・バースト】を使った影響で、今の奴のマナバイオリズムはカオス状態。ロウ状態に戻さなければ、剣を動かすことはできない。

 つまり今この瞬間、レイクは無防備なのだ。

 

「《遥かな虚無の果てに》―――ッ‼」

 

 文字通り、全身全霊。

 降って湧いた奇跡。絶好のチャンス。――逃すわけにはいかない!

 全開の魔力を以て、俺は【イクスティンクション・レイ】を発動。

 魔方陣を貫くように発射される超特大の光の柱。その衝撃が、ほぼゼロ距離でレイクを飲み込み……。

 寝そべったまま発動したからだろうか。衝撃波が空に向かって突き抜けて行き、その反動で俺は意識を失った。

 

 

 

 

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