Re:ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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四話

 

「……あ?」

「あ、グレンさん起きました?」

「……セラ。ここは……?」

 

 頭が痛い。体が怠い。マジで体起こすのもシンドイ。

 周りを見渡すと、白一色の部屋。恐らく、医務室だろう。

 

「……えっと、俺は……」

「大丈夫ですか? 一応、傷は完璧に治癒しました」

「……ああ、そっか……助かった」

 

 そうだ。

 俺はあの時、レイクを……。

 

「……アイツは、どうなった?」

「そ、それは……」

「いや、その反応で十分だ」

「……あの、大丈夫ですか?」

「何がだ? 相手はテロリストだ。三流の俺に、手加減の余地はねえよ」

「いや、そうじゃなくて……」

「悪ぃ、少し外すわ」

「え、いや、でも……!」

 

 セラの反対を押し切り、俺は無理やり医務室を出る。

 懐から取り出した懐中時計を見る限り、俺が気絶してから三時間ほど経過している。

 セラの様子や、学校の雰囲気から、テロリストの存在は生徒たちには知られてないと思う。

 だとすれば、セラはまず俺を医務室に連れて行き、そこから生徒たちのもとへ向かったことになる。

 この学院の結界は今、内部から外部への脱出は不可能になっているから、生徒たちが家に帰ったという展開はない。

 だとすると、あの男もいるはずだ、あの場所に。

 

「……うっ」

 

 込み上げてきた吐き気に、思わず口元を抑える。

 人を殺した。

 相手がいずれ復活する人間だとしても。

 相手が何人も人を殺してきた殺人鬼だとしても。

 相手が世界を脅かすテロ組織の人間だとしても。

 人を殺した。

 その事実は、俺の肩に重くのしかかった。

 ……だが、耐えなければ。

 これからも、俺は戦わなければならないのだ。

 もっとたくさんの外道たちと。もっとたくさんの死線を。

 だから、こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ。

 

(……進め、止まるん、じゃねえ……!)

 

 魔術師である以上、こういう闇と、血みどろの現実は常に隣りあわせだ。

 だから、俺が止まるわけにはいかない。

 俺は、教師だから……!

 

「……転送塔、警備用のゴーレムがいねえな。準備できてねえのか? まあ、そっちのほうが好都合だけどよ」

 

 遠慮なく通らせてもらおう。

 俺はずかずかと螺旋階段を上っていき、

 

「……よぉ」

「来ましたか」

 

 いた。

 全ての元凶、ヒューイ=ルイセン。

 俺……いや、セラの前任の教師にして、学院を吹っ飛ばす人間爆弾。

 

「……やはり、貴方は分かっていたのですね」

「あ?」

「……覚えていますか?」

 

 ヒューイが語ったのは、俺が教師になって間もない時の頃の話だ。

 イマイチ教師というものが分からなくて苦戦していた俺に、何度も助言をくれて助けてくれた。

 彼の授業は、授業内容こそ詰め込み教育ではあったが、それでも生徒に分かりやすく教えたいという気概は伝わってくるものだから、俺もそこは尊敬していたし、学ばせてもらっていた。

 だが、それがどうした。

 

「あの時、私がかけた問いを、覚えていますか?」

「……問い?」

 

 何かあったか?

 必死に記憶を巡らせ……辿り着いた。

 あれは、三年前くらいの話だ。

 

『……グレン君』

『ん? あ、ヒューイパイセン。ちっす』

『どうです? 教師としての生活には慣れましたか?』

『そりゃまあ、お陰様で』

『それはよかった』

 

 その時だ。

 この人はいきなり、俺に聞いてきたんだ。

 

『君は……どうして教師になったのですか?』

『えっ?』

 

 窓から天空城を眺めるヒューイが、俺を見ることなく問いを掛けたんだ。

 

『正直、この学院に来た時の君からは、熱意を欠片も感じませんでした。そんな人物が、本当に講師としてやって行けるのか、僕は不安でした。それでも、君は苦言を漏らすことなくやり遂げた』

 

 ヒューイがこちらに視線を戻す。

 

『何故です?』

 

 とても、真剣な目をしてると思った。

 だから俺は、偽りなく、自分の想いを語った。

 

『俺は……逃げてきた。受け入れるべきである運命から』

『……、』

『ソイツを受け入れるってのは、状況に流されてるだけなんじゃないかって、そう思った……いや、違うな。怖かったんだ。だから逃げた』

『……後悔は、ないのですか?』

『……ない、と言えばウソになるけど……でも、自分で選んだんだしな。でも、逃げるにせよ、結局は自分で進むべき道を選ぶことは間違ってないと思う。その結果がどうなろうとも……いや。自分で選んだ道なら、後悔する事だって許される気がするんだ』

『!』

『……って、何言ってんだろ、俺。はははっ、忘れてください』

 

 照れくさくなって、俺はいそいそとその場を離れた。

 

「……私は、君から教わった」

 

 現実のヒューイが俺に声を掛ける。

 

「……俺から? 何を?」

「一番大事なのは、運命を受け入れる事でも、流されて思考停止することでもない。例え間違った結果になろうとも、まずは自分の意志で道を選ぶべきなのだとね」

「そんな御大層なご高説垂れた覚えはねえんだがな」

「私が勝手に、そう解釈しただけです。お気になさらず」

「……送られてきた予告状も、アンタが?」

「ええ。僕はやはり、自分がどうこうよりも、生徒を守りたかった。例えそれで、教師を続けられなくなっても、僕は後悔はなかった」

「すげぇな、アンタ」

 

 俺は偽りのない賞賛を述べた。

 自分で選んだ道に後悔の無い人間なんてそうそういない。

 でもこの人の言葉に、嘘はなかった。本気で、自分が教師を続けられなくなってもいいと思えているんだ。

 この人は敵だ。天の智慧研究会の送り込んだ爆弾。

 それでも、俺の教師としての師は、この人だ。

 

「だが、決心するのが遅すぎた。僕が決意した時には、既に組織は僕を使ったテロを実行する一歩手前まで来ていた。僕個人の力ではどうにもできない」

「だから帝国軍に頼った。普通に事情を話すんじゃ信用を得られないとでも思った、ってとこか」

「ええ。実際、脅迫文と僕の不自然な失踪のおかげで、都合よく軍は人材を派遣してくれた」

「全部アンタの思惑通りってわけだ。……こりゃ、完敗だな」

「そうでもありませんよ」

 

 ? 俺が首を傾げると、ヒューイはクスリと笑って言う。

 

「君がここに来ることは、僕にも予想できなかった」

「……、」

「……これは僕の勝手な思い込みなので、聞き流してくれて構いませんが」

 

 なんだ、と聞き返す前に、ヒューイは言葉を紡ぐ。

 

 

「君はもう、逃げることなく、運命に立ち向かっているのではないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 ヒューイを拘束し、事件は無事解決した。

 幸い、生徒たちにテロリストの存在を知られないまま被害を抑えたので、隠蔽は容易だった。

 敵の死亡者は一名。俺が殺した、レイク=フォーエンハイムのみ。勿論、相手が天の智慧研究会で、しかもテロを行っており、明確な目的があって襲撃を図った以上、俺の殺害は正当防衛とされている。

 そして、ヒューイの口から語られた彼らの目的。

 ルミア=ティンジェルの誘拐。

 恐らくだが、ヒューイは自分が知り得る限りのことを話しているだろう。ルミアの異能のこと。組織がアイツを狙っていること。

 だからこそ、今回の事件の功労者たる俺と、ルミアの同居人であるシスティーナに、彼女の秘密が明かされた。

 

「……よっ」

「あ、グレンさん」

「呼び捨てでいいよ。俺の方が年下だしな」

「……じゃあお言葉に甘えて。グレン君、見送り?」

 

 グレン君……まあいいや。

 

「そんなとこだ。お別れ会、随分と派手だったじゃねえか」

「はははっ、ちょっと照れくさいな。ああいうの、あんまり慣れてなくて」

「そっか」

「……グレン君、大丈夫?」

 

 多分、この大丈夫の意味は……。

 

「心配すんな。魔術師やってるなら、いつかは向き合わなきゃなんねえ現実だ」

「……、」

「俺は教師だ。そこは変わんねえし、逃げもしねえよ。だから、心配すんな」

「……うん、でも、辛かったら我慢しなくていいんだよ?」

「心配性だなお前も。気にすんな。……じゃあな」

「うん!」

 

 目一杯の笑顔とともに、彼女は校門を抜ける。

 その姿を見送りながら、俺は空高く聳える天空城を眺め、

 

「あ、先生! なにしてるんですか、もうすぐ授業が始まりますよ⁉」

「……ったく、面倒臭ぇな、教師ってのは」

 

 再び担任となったクラスの喧しい優等生の叫び声を聞きながら。

 うんざりしたように、でも、どこか楽しそうに。

 俺は、自分の居場所へと足を運んだ。

 

 

 




第一章っ、完ッ‼
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