Re:ロクでなしに憑依した   作:山羊次郎

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二巻の話ですね。
ようやく転生者複数タグが意味を成す時が来ましたよ


五話

 アルザーノ帝国。

 首都、帝都オルランドにて。

 一人の少女が、パンを片手に歩いていた。

 薄青色の鮮やかな髪に、前髪に一部混ざった赤と黄色のメッシュ。

 整った顔立ちと華奢な体躯は、彼女の幼さを醸し出し、だがしかし、身に纏う雰囲気はまるで人形のように透明で、何も感じない。

 あまりの気配の無さ。それは、彼女がここに存在しないのではと思わせるほどだった。

 事実、本来ならその思わず振り返って二度見してしまいそうな美しい容貌を、誰も気にも留めることはない。

 

「いて」

「あ?」

 

 前方不注意。

 それは、少女ではなく、少女とぶつかった男の方だ。

 男は何にぶつかったのか怪訝そうにしていたが、相手が年端も行かぬ少女と知るや否や、口元をニヤつかせて、

 

「おいおい嬢ちゃん、どこ見てんだよオイ」

「……ぶつかったのはそっち。ちゃんと前見て」

「あ? 口答えすんのかテメェ、おい。誰に向かってそんな舐めた口利いてんだァ?」

「私はあなたと違って忙しいの。昼間っから遊んでる暇なんてないの」

「……調子乗ってんじゃねえぞガキ。テメェなんぞ俺にかかりゃ――」

 

 そう凄んで、男が少女の胸ぐらを掴み上げた……その瞬間。

 

「……は?」

 

 男は、空を見て居た。

 見上げているわけではない。首は真っすぐになったままだ。

 ならば、なぜ視線の先に空があるのか。先程から感じる、背中の冷たさは何なのか。

 そこまでして、ようやく男は、自分が仰向けに転がされていることに気づいた。

 

「なっ、クソッ、あのガキは――ッ⁉」

 

 男が立ち上がり、周囲を見渡そうとする……が。

 ぐらり、と。

 体が揺れ、男は倒れこんだ。

 立てない。足に力が入らず、バランスが取れない。

 

「ど、どうなって……?」

 

 男の疑問は、ついぞ晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「リィエル、やり過ぎだ」

 

 路地裏に入っていった少女に呼びかける声があった。

 声を掛けられたのは、先ほどガラの悪い男と言い合いになっていた少女だ。

 どうやら、リィエル、というらしい。

 リィエルは声を掛けてきたものに振り向き、淡々と答える。

 

「私が何か悪いことした? アルベルト」

「……、」

 

 アルベルトと呼ばれた男は黙り込んだ。

 不思議な沈黙が続く。

 

「……任務だ」

 

 それを破るように、アルベルトがリィエルに羊皮紙を見せる。

 

「なに?」

「フェジテのアルザーノ帝国魔術学院は知っているな」

 

 ぴくっ、と。

 リィエルの肩が動いた。

 アルベルトはそれに気づかず、話を続ける。

 

「ターゲットは二人。まずはルミア=ティンジェルだ。この少女は、かつて三年前に病死したとされる、第二王女、エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノだという」

「……それは、()()()の……?」

()()()。正確には、王女に関わる者の調査。書類だけでは見えない繋がりを探せということだ」

「……情報部でやればいい」

「言い分は尤もだ。だが、近々開催される魔術競技祭があるだろう? あれには女王陛下が来賓なさる。その護衛も含めてだ」

「王室親衛隊は?」

「奴らは一枚岩ではない。だからこそ、複数の見張りが必要となるのだ」

「ふぅーん。……それで、もう一人は?」

「グレン=レーダス」

 

 アルベルトが名を口にした、その一瞬。

 普段から人形のように無表情のリィエルの顔が、険しく歪んだ。

 アルベルトは興味がないのか、それを無視して、

 

「この男は要注意ということだ」

「どうして? ただの魔術講師でしょ?」

「だから、だ。この男は、天の智慧研究会の第二団(アデプタス)地位(・オーダー)》であるレイク=フォーエンハイムを殺害している」

「じゃあ味方じゃないの?」

「断言できるのか?」

 

 リィエルは答えなかった。

 天の智慧研究会は、外道魔術師の集りである。そして、そのメンバー全員が『禁忌教典(アカシックレコード)』というものを追い求めている。

 そのための犠牲なら、何をしても許される。むしろ犠牲を積み上げるべきだ。そんなことを平気でのたまう異常者の集り。

 だったら、敵を騙す為に味方を殺害するくらいのことをするのではないか?

 実際、この手の手段で組織の人間が軍に入り込んでいたケースも過去にあった。

 

「……グレン=レーダスの調査と、確実な情報の入手。それが、俺達の任務だ」

「……分かった」

 

 確認を終えた二人が、路地裏の先へと向かう。

 一寸先の闇を見据えながら、リィエルは思案する。

 

(グレン=レーダス。とうとう尻尾を見せた)

 

 リィエル=レイフォードは、ずっとグレン=レーダスを探していた。

 それは、彼女の特殊な事情が関係している。

 確かめなければならなかった。

 どうして、あの男は軍にいなかったのか。どうして、その道を進まなかったのか。

 ()()()()()()彼女にしか分からない疑問。

 その答えが、もうすぐわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、つぅわけで本日もやってきましたよ魔術競技祭。ほんっとなんで毎年こんな馬鹿なことするんですかねうちの学院は」

「ちょっと先生! 魔術競技祭は、学院に通う生徒の成果と――」

「はいはい長ったらしいご高説は省略省略。さっさとメンバー決めるぞー。去年はメンバー決めにクソほど手間取ってたからな」

 

 毎年思うが、なんでこんなに面倒臭いんだろうな。

 基本的に、この学院の魔術競技祭は成績上位者だけ出場させるという定石がある。

 俺はぶっちゃけどうでもいいので、今まではクラスのメンバー決めは生徒たちに一任していた。それである程度優秀な成績を残せてたからそん時はどうにかなったが。

 だが、今回の競技祭はそうはいかねえ。何しろ、掛かっているのは女王陛下の命だ。本気で勝ちに行き、助けなくては。

 正直、俺がやらなくていいなら無視したいが、今回の事件は【愚者の世界】が―――

 

「……………………あ」

「? どうかしましたか、先生?」

「え、あ、いや、なんでもねえ。じゃあ、さっさと決めてくぞー」

 

 俺はメンバーを選別していきながら、とんでもない失態を犯していることに気が付いてしまった。

 俺の【愚者の世界】の効果は、自分を中心とした一定領域内にいる者の、魔術起動の低速化を引き起こす能力。

 故に、遅れてくる魔術と言ったトリッキーな戦いが出来るが、魔術を完璧に止められないという欠点がある。

 つまり、今回の本命である女王陛下の首に掛けられるネックレス型の呪殺具を止められない。

 仮に【愚者の世界】を起動しても、一定時間経った後に呪殺具が呪いを発動して終いだ。

 つまり、これから俺は、【愚者の世界】を完成させなければならないのだが……。

 

(そうなると、魔術競技祭が疎かになっちまう。それはまずい。そこを逃したら本末転倒だ。前回の結果から、他のクラスも出場のさせ方に変化がみられる。そんな大きく変わることはねえだろうが、ハードディスク先輩とかは俺の事嫌いだし、どんな指導させるか分かったもんじゃねえ。だから、指導には力を入れないといけないんだ)

 

 となると。

 俺は魔術競技祭からは目を離せない。

 けど、【愚者の世界】は完成させないといけない。

 ……詰みでは?

 

(軍の協力が得られないかもしれないってのも尾を引いてるな。クソッ、いらんとこで弊害が出やがる……!)

 

 アルベルト=フレイザーとリィエル=レイフォード。

 この二人が競技祭で協力してくれない可能性。これは、非常に大きい。しかも、リィエルに関しては、もしかしたら存在すらしていない可能性がある。

 原作ではグレンが救出することで事なきを得ていたが、俺は軍に入っていないため誰が助けたか分からないし、もしかしたら誰も助けてなくてホルマリン漬けにでもされているかもしれない。

 なにしろ、彼女は『Project:Revive Life』の成功例。被検体として欲しがる研究所などごまんとある。

 クソッ、なんで軍に行かなかったんだよ過去の俺ェ‼

 

「はぁ……仕方ねえ、まずはアイツ等の指導だな」

 

 放課後。

 胃に穴が開きそうな思いで、俺は生徒たちの居る場所へと向かった。

 その後、ハーモニー先輩とひと悶着ありつつも、何とかこれを退け、マジで頑張って、ハローワーク先輩のクラスにも負けないくらいに指導した。

 その間に、【愚者の世界】を完成させられるか頑張ったが、余りにも時間がなかった。そんなことをするより、生徒たちの特訓メニューを考えるのが優先だ。

 なので、ついぞ【愚者の世界】は完成しなかった。泣きたい。

 最悪の展開が近づきつつあるが、まだ希望はある。

 それは、呪殺具が効果を発揮する前に破壊することだ。勿論、呪殺具の破壊も条件起動の対象だろうが、それを認識させる前に木っ端みじんにして、術式を破壊すればギリ間に合う……はずだ。

 

「……さぁーて、頑張りますかね、魔術競技祭」

 

 




転生者一号、リィエル。
赤メッシュと黄メッシュは兄と姉、創造主の名残から。
一号というが、二号三号がでるかは分からない
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