リィエルとの邂逅を終え。
俺はようやく会場へと向かっていた。途中の事後処理が大変で、結構時間を喰ってしまったが、アイツ等大丈夫か?
「おっ、『精神防御』って、もうそんなトコまでやってんのか」
「あ、先生! 今までどこ行ってたんですか⁉」
「悪ぃ悪ぃ、昔の知り合いとちょっとな。今どういう状況?」
「えっと、ルミアが『精神防御』で……【マインド・ブレイク】を耐えているところです」
会場に視線を向けると、若干息切れ気味のルミアと、仁王立ちで構えるヤの付く職業みたいな雰囲気の男が一騎打ちをしていた。
いや、どう考えてもアイツ学生じゃないよね。ナニモンなの? 未だに分かんないんだけど。
「っていうか、ルミアってこんなにすごかったんですね」
心底驚いたように、システィーナが言う。
ああ、そういや、事件にこいつら関わらせなかったから、気づいてないのか。
「まあ、アイツは妙に肝が据わってるからなぁ。正直、どんな波乱万丈な人生送りゃあ、あんな精神力が身に付くのか……下手すりゃ俺より上かも」
「そんなに……。……あの、もしかして、あの事と何か……?」
システィーナが心配気にそんなことを聞いてくる。
あの事……王族関係か? まあ、関係ないわけではないだろうな。つか、ルミアって結局誰が助けたんだ? リィエルか?
「……まっ、変なこと気にしてもしょうがねえだろ。今はアイツを信じて待つだけだ」
「……はい!」
その後。
『精神防御』担当のツェスト男爵の精神攻撃の余波で、ジャイルが倒れたのを切っ掛けに、ルミアが既に勝負に勝っていたことが判明した。
……気絶して立ってるのってちょっとセコイな。
「……大丈夫かルミア?」
「……先生……はい。私、やりましたよ……!」
「ああ。よくやった」
「ルミア、辛くなったら我慢しなくてもいいのよ? でも、おめでとう!」
「……うん! ありがとうシスティ!」
よし、大体順調順調。この調子なら、多分問題なく優勝できそうだ。
だから、やばいのはこの後だ。俺が王室親衛隊を相手に逃げ切れるかどうか。
結局のところ、そこにすべてが掛かっている。
(頼むから妙な事にはならないでくれよ……)
先刻のリィエルとの邂逅を思い出し。
俺は切にそう願った。
リィエル=レイフォードは、腕を組んだ状態で瞑想していた。
周囲に人はおらず、静かな空間で石像のように停止している。
そんな彼女に、話しかける者が一人。
「何をしている?」
アルベルト=フレイザー。
リィエルの同僚であり、セラとともに彼女を匿った人間の一人だ。
呼びかけられたリィエルは瞼を半分だけ開き、鬱陶しそうな声色で応対する。
「何の用?」
「王室親衛隊の方で動きがあった。女王を拘束し、廃棄王女を殺害しようと目論んでいるようだ」
「……グレン=レーダスは?」
「王女を連れて逃亡を始めた。若干手際がいいように感じるから、疑念は晴れん」
「そう」
一言だけ言ったリィエルが、その場を去ろうとする。
それにアルベルトが待ったをかけた。
「待て。どこへ行く?」
「グレン=レーダスのところ」
「また殺す気か?」
どうやら、先刻のグレン=レーダスとの邂逅についてはバレているらしい。
リィエルは感情を感じさせない声色で、淡々と答える。
「違う」
「そうか。では、何をするつもりだ?」
「多分、今事態の中心にいるのはあの男。だから、そこへ向かうのが合理的」
「なるほど、確かに。……いいだろう」
アルベルトは顎に手を当て、僅かに思案したあと、リィエルの提案に乗った。
王室親衛隊を振り切って、街の路地裏へとやってきた。
というか。
「やってらんねえよ、まったくよぉ」
「ど、どうして私を庇ったりしたんですか⁉」
ルミアが珍しく目くじらを立てて怒鳴りたてるが、俺はそれらを全てスルーする。
さて。こっからどうするか。一応セリカに連絡は入れるとして、問題は宮廷魔導士団の協力を得られるかどうかってとこなんだよな。
そもそも、解決の手段が半分賭けになってる時点で色々まずいんだよなぁ。
「ちょっと、聞いてます先生⁉」
「聞いてます聞いてますー。あれだろ? システィーナの小説が文才ゼロだって話だろ?」
「誰もそんな話してませんよ⁉ っていうか、なんで先生がそんなこと知ってるん……って、そうじゃなくて!」
「忙しい奴だなお前も。もっと俺を見習って、堂々としてろよ」
「……先生、足が震えてますよ?」
「あれま」
見れば、俺の足が生まれたての小鹿のようにブルブルと震えていた。
やべぇ、止めようと思っても止めらんねえわ。
「……おい、どこ行くんだ?」
すると、ルミアがどこかへ行こうと歩き出した。
彼女はこちらを振り返るとことなく、静かに告げる。
「私が死ねばいいんです。先生まで同じ罪を背負う必要はありません」
「何がだよ。罪って何の話だ?」
「……私は、もとより存在することを許されていい人間じゃなかったんです。今までがおかしかった。私が死ぬのは正しい事なんです」
「なんだよ存在することが許されないって。そんなモンが罪になるなら、俺たちゃみんな犯罪者だ」
「――ッ! そういう、話じゃ……!」
ルミアの声は震えていた。
それは、間違いなく怒りによるものだろう。
俺の態度が気に入らないのか、それとも別に理由があるのか。
彼女が俺に対しこういう態度を取る理由も何となく分かっている。きっと、俺が魔導士じゃなかったから。要は、俺に対する信頼度の問題だろう。俺がどうにかしてやれると、欠片も信じていない。
だから、早々に自分を犠牲にしようとする。
「あのなぁ、もう全部遅いんだって。どっちにしろ、お前に手を貸した時点で、お前の命一つでどうこうできる問題じゃなくなってんの」
「――っ! じゃあ、どうしろって言うんですか⁉」
「だーかーらー。それを今考えてんの」
「……もういいです」
これ以上は無駄と判断したのか、ルミアは俺を無視して先へ行こうとし、
「止まって」
突如、ルミアの行く道を、一人の少女が塞いだ。
その手に握られているのは刀。その刀身がルミアの首筋に添えられ、一歩でも動けば彼女の首を落とさんと振るわれるだろう。
俺は思わず声を荒げ止めようとし、下手人を見て、絶句した。
それに対し、ルミアは一切の抵抗をせず、むしろ目をつぶって、覚悟を決めたように佇むだけだった。
「……どうぞ。私の首でよければ、いくらでも。その代わり、先生だけは――」
「それは出来ない」
「――ッ⁉ そんな、どうし……て……」
ルミアは少女に抗議しようと目を開け、徐々に言葉尻がしぼんでいく。
「貴女の首なんて、興味ないし、元から殺す気もない。ただ、貴女の覚悟が見たかった。うん、それだけ」
「そんな、貴女は……」
ルミアが心底驚いたような声を上げる。
まさか、リィエルと知り合いなのか、アイツ? でも、なんで……。
「おい、何をしているんだお前は」
「心配しないで。ちょっと揶揄っただけ」
後方からリィエルを呼ぶ声が響く。
それを聞いた彼女は錬成していた刀を崩して答えた。
路地裏の陰から現れたのは、長髪の、鋭い鷹のような目をした男だった。
「初めましてだ。俺はアルベルト=フレイザー。帝国軍の者だ」
「グレン=レーダス。……で? その帝国軍サマがどんな御用で?」
「事態は急を要する。お前たちが一番状況を把握していそうだと判断し、向かってきた次第だ」
「つっても、俺も全部分かってるワケじゃねえが……つか、国側だと信用は微妙なんだが、そこんとこ分かってる?」
「大丈夫です、先生」
意外なことに、二人を擁護したのは、二人自身ではなく、ルミアだった。
「この人たちは、信用できます」
「根拠は……って聞きたいが、
「先生……」
まあ、こいつらが味方であるのは分かってるけどな。
つっても、例外があったらマジで困る。アルベルトは原作通りみたいだけど、リィエルがマジで危険だ。何をしでかすか分からん。
けど、こいつらの力を借りないとやばいのも事実。あれ? なんでこんな綱渡りなんだ俺?
「……とりあえず、セリカに連絡させてくれ。話はそれからだ」
まったく。
俺は疲れたようにため息をつきながら、通信用魔道具に手を伸ばした。