インフィニット・ストラトスJ~ジューダス・レクイエム~   作:味薄紅茶

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漸くインフィニット・ストラトスJのプロローグが始まります。


プロローグオブ『インフィニット・ストラトスJ』
第一話


ラフトクランズから下のフロアへ降りた統夜は、束から自分に付いて来るよう指示され、それに素直に従った。

機体が保管されてあった格納庫から、装飾も何もない、のっぺりとした廊下を歩くことしばし、彼は真っ白な部屋へと案内された。

部屋は決して広くはない。

人が4人も入れば息苦しさを感じる位にはこの部屋は狭い。

その部屋の中央に、これまた白いテーブルと背もたれのない椅子が配置されている為、部屋の圧迫感は更に増していた。

束がその部屋に入り、統夜もそれに続いて入る。

彼が部屋の中に入ると、スライドドアが見計らったように閉じた。

コンビニの自動ドアの様に、人に反応して開くタイプなのかと、統夜がドアに手をかざしてみるが反応は無い。

この部屋に閉じ込められてしまった彼は、然もありなんと息を吐いた。

「まるで尋問をするような場所だな」

「尋問をやるんだよ?薬を使わないだけありがたいと思って欲しいな~。そんじゃ、君はそっちの奥の方に座ってね」

この白い部屋の中に一カ所だけ鏡張りになっている部分を見ながら統夜は皮肉そうに言う。

己の向かって右側にある鏡もただの鏡ではなく、マジックミラーのように裏からこちらを覗けるようになっているはずだ。

間違いなく自分は彼女たちに観察されている。

それを確認するつもりで彼は束に話しかけたが、相手は当然だと言わんばかりに言葉を返しただけだった。

「わかった、座らせてもらうよ。…身体を拘束されない内にね」

「お利口で助かるわ」

束の勧められるままに統夜は部屋の奥にある椅子へ座り、束は彼が座ったのを確認してから入口に近い場所にある椅子へ座る。

この仕打ちが、いくら己に対しで仕方がないことでも、こういった対応は統夜の心に辛く重いものを感じさせた。

キツいな、と統夜は呟いてから視線を束に向ける。

「何から話せば良い?」

「まずは改めて自己紹介からお願いしようかな。私の名前は篠ノ之束。ここの責任者をやってるフューリー人って言えばいいかな?こう見えても歳は60億以上で~す」

統夜から見て、束の姿は髪の艶も、肌の潤いも、活力も20代の若い女性のそれだ。

それを彼女は自分の年齢を60億という途方もない数字で表した。

だが、それに対して彼は驚くような素振りを見せない。

フューリーには、人の時間を止めることが出来るステイシス・ベッドという機械があり、それで眠ることで彼らは寿命を半無限に維持することが出来る。

それを知っている彼にとって、彼女の年齢など今更というものであった。

「…60億以上ということは前大戦を知っているということか」

「そうだね、その頃の私はとても幼かったけど、今でもあの戦いはしっかり覚えているよ~。すごかったな、敵味方ぐっちゃぐちゃで!」

この束という女性、声も表情も統夜に対して明るく振舞っているが、大戦のことをその様に言える所を見ると、彼女の歪んだ顔の奥には、暗く冷たいものが潜んでいるということが良く分かる。

ラフトクランズの中で統夜が聞いた、束のモノクロな声。

彼に、それが彼女の本質なのだろうと思わせるには、今の言動は十分過ぎる程の説得力があった。

「ここはとある兵器を開発、及び研究する場所で、私はフュ―リーから人類を守る為にそういうことをやってるんだけど。君は私がどんな兵器を扱ってるか、知ってる?」

「フューリーから!?…いや、知らないな。隔離された所であるのは間違いなさそうだ」

さらりと重大な事実を束に述べられ、統夜は驚いたが、どうも彼女にとって重要なのはそこではないらしい。

彼は空気を読んで質問に答える。

「予想もつかない?」

「残念ながら。貴女はそれを知られないようにしてるんだろう?」

「っんふ。そう、そうなの」

「…何か?」

統夜の答えに、やりと束は口の端を歪めた。

その仕草に、妙な不安を感じた彼は彼女に質問すると、彼女は腕を組み、顔を少しだけ傾けて理由を説明する。

「え~とね、私たちが秘密にしてるのは別に兵器のことじゃなくて、この場所なんだよね。研究している兵器自体はとってもポピュラー。私を知ってもまだそれを何なのか分からない人は、山育ちのお猿さん位しかいないんじゃないかな~って思ってね」

「…情報に疎いものでね」

「そうだね~」

「…」

「…」

しばらく束は何も言わずに統夜を見つめた。

そして、何か得心がいったのか、一つ頷き、右手で今度は統夜が自己紹介するように指示する。

目の前の束の挙動、その全てを見逃さないように統夜は話始めた。

「…俺の名前は紫雲統夜。地球連邦軍所属特務分艦隊の一員だ。歳は18。一応今でも高校生のはずだ」

「高校?そう、貴方は地球に住んでいたんだ。それに18歳だなんて、その落ちつき様からもう少しいってたかと思ったよ」

「…1年も戦争の中に身を浸していれば、老けもするさ」

「へえ…、一年も戦争を。それは大変だったね」

彼が戦いに巻き込まれた時は高校2年生で、その時はまだ17歳だった。

それが、戦争の影響で高校は閉校し、その後も彼は戦い続きで、月のフューリーの母艦へ向かう時には18歳になってしまっていた。

異種族や異星人、宇宙からやって来た怪獣としか言いようのない生命たちとの戦いは、とても激しいものだった。

戦いに巻き込まれた一般人の数は、数えきれないだろう。

それを思い出した統夜は、それほど親しい訳でもなかった昔の同級生達の顔を思い出し、無事であるかどうかを心配する。

束の意味ありげな相槌をとってしても、彼が気に掛けなければいけないことは山とあるはずなのに、だ。

(今はそんなことを考える余裕すらないはずなんだがな。駄目だな、緊張してしまっているってことか。脳天気なことだ)

自分のいい加減さに統夜は薄く嘲笑った。

「…地球連邦軍に特務分艦隊ねえ。それが、あの学校に何をしに来たのかな?」

「別に何をしに来たって訳じゃない。月の爆発に巻き込まれないようにこっちは必死こいて逃げていたんだ。まあ、結局爆破に巻き込まれて今まで気絶していたけどさ。だから詳しくは知らないけど、多分その爆発に巻き込まれたせいで、俺達はその学校に墜落してしまったのだと思う。わざとじゃない」

統夜の自傷気味な返答に束は、ん、と声を漏らした。

「ねえ、その月の爆発って奴の事だけど。それってガウ=ラ・フューリアのことだよね?」

「そうだ。俺達はそこで、地球の生命を根絶やしにしようとするフューリーの、ガウ=ラ・フューリア起動を阻止する為に戦ってたんだ。地球があるってことは、それがうまくいったみたいだな。安心したよ、あんたもそう思わないか?」

安心したと言った統夜の表情は、言葉通りのものをしている。

地球に住む人ならば、彼らの計画の成功は多くの者にとって吉報になるはずだ。

称賛を得ようとして、統夜は最後の言葉を述べた訳ではない。

が、一仕事を終えた後の気持ちの共有というのを図りたかった故に、彼は何の気もなしに束へこういうことを言ったのだ。

何を考えているかよく分からない人ではあるが、地球の危機を脱したという事実を知れば、何らかのリアクションがあるはずだと統夜は予想していた。

だが、目の前の女性は何をする訳でもなく、静かに瞳を閉じるだけだった。

一度、ゆっくりと束の深呼吸する音が部屋の中に聞こえる。

肺の空気を一新させると、彼女はガラスのような瞳を以って統夜を見据えた。

見据えられた統夜は、身体が緊張するのを自覚する。

何かがこの部屋で、静かに終りを告げた。

 

部屋の空気が一瞬で、しんと静まる。

時が止まった。

そう錯覚させる程の静寂が部屋を包む中、二人は互いを見つめている。

決定的なものが今この二人の中で、確定されたのだ。

「……そう、それが聞けただけで、もう粗方君のことが分かったわ」

「……。ああ、俺もその反応で『ここ』がどういう所なのかやっと確信がついたよ」

束がテーブルに身を乗り出す。

表情はいつものに戻ってはいるが、気配には険呑としたものが混じっている。

ゆっくりとした動きで統夜に近付く束の様子は、まるで捕食者の獲物に忍び寄る姿である。

それを感じた彼は少しだけ身体を後ろに下がらせた。

「ねぇ、答え合わせをしようよ。多分私たち、敵同士ってわけじゃないと思うよ。貴方もサイトロンでそう感じない?」

「だとしても味方同士という訳でもないだろう。それと少し落ち着いてくれないか。あんた、素が漏れてるぞ」

「ごめんなさい、こんなことが本当にあるなんて思ってもいなかった。ううん、考えても方法が思いつかなかったからね。それを実証する存在が目の前にいると思うと無理もないでしょう?」

「それでも、だ。あんたに食われそうで怖いんだよ」

「坊やね」

「坊やさ。それを否定する程俺は出来てもいないし、お前程生きてもいない」

舌合戦のお陰か、統夜は自分の心が少しだけ落ち着いたのを感じる。

固まった肺を解す為に息を大きく吸い、吐く。

頭に血が巡るを感じて、彼は自分が考えるこの世界のことを話す準備をする。

それがもし本当なら、自分が受ける混乱の大きさを彼は全く予想出来なかったからだ。

お互いが敵同士でないことは、二人ともサイトロンで既に理解している。

ただこの後がどうなるのかまでは、統夜にはまるで巨大な運命の分かれ道に立っているかのようで先が見えなかった。

(…分の悪い賭け。やらなきゃ、いけないんだろうけどさ……)

これから起ころうとする事態と、それによってもたらされる未来に立ち向かおうという心の表れか。

統夜は太ももの間で遊ばせていた両手をテーブルの上に乗せる。

「答え合わせと言ったな。良いだろう、やろうじゃないか」

「それじゃあ、私から見た貴方の正体を述べようか?」

「そうしてくれ」

「じゃあ言うよ」

手前に手を重ね、それに顎を乗せた束は統夜を覗きこむように言った。

「異世界人。もしくはパラレルな世界か、それに準ずるような場所から来たのが貴方の正体。違う?」

「…いや正しいと思う。そして、俺から見たら貴女が異世界人だ」

「……あはっ」

少し沈黙した後、統夜も同じ考えであることを束に述べると、彼女は宝物でも見つけたように、より一層顔の笑みを深めたのだった。

異なる世界というのを、統夜は詳しく理解していない。

だが、言葉通りの意味で考えるならば、正に束が言った通りの存在が彼であり、彼女であった。

シャナ=ミアのことを知らない。

それどころか、地球の一番大きな軍や、月の出来ごとすら知りそうにないフューリー。

それだけでもおかしなことであったが、何よりもエ=セルダ以外のフューリーが地球に降りて来て、更に拠点を持って活動しているような者など統夜は聞いたことがなく、父の記憶にもなかった。

「異世界か。そういうのは、もっとファンタジーな物をイメージしていたんだがな。いや、出来事だけを見れば十分そうなんだろうけど」

束と会話する統夜は思ったより混乱しておらず、落ちついた目を彼女に向けている。

こうなることは、統夜自身この部屋に連れて来られる間に予想しており、覚悟していたことであった。

その覚悟が、この場ではうまく機能した。

ただ、それは今だけの話で、彼の内心に渦巻くものがいつ表にでるかは予断を許さない。

そして、それは束も感じていた。

不安を見せまいとする目の前の男の健気さに、束は優しく微笑んだ。

「うん、そうだね。…ちなみに私には貴方の説明の半分も分からなかったわ。連邦軍なんてものはこの世界には存在してないし、地球を一まとめにしてまで対抗するべき相手も、今の所は地球の表面上にはいない。それに、月の内部で爆発とか。こっちは研究所の立場的にも随時あっちのことは監視してたけど、そんなものは一切なし」

束が統夜からの話で気になった事柄を、左手の指を右手で折りながら説明する。

そして、丸まった左手から人差し指を一本だけ伸ばして、彼に向けた。

「それでも、貴方が嘘を言ってる訳でもないのは良~く感じるよ。それはこのロボットを見てもよく分かる」

彼女の人差し指が机の右端の表面をなぞる。

机一杯に二次元映像が現れ、そこに映っていたのは、統夜が乗っていた蒼いラフトクランズだった。

統夜がラフトクランズから出た時は、詳しく機体のことを調べることが出来なかった。

その為、彼は机の映像をまじまじと見つめる。

詳細に映し出されたラフトクランズは無残な姿をしていた。

爆発に巻き込まれる前は、左腕と左足が欠如している状態だったが、今表示されている機体は、右足も欠如しおり、全体の装甲も一度融けてから固まったかのような様相をしている。

この世界に来られたのが本当に紙一重だったのだと理解する統夜。

冷たい震えが彼の背中を襲った。

「この機体の名前は何て言うのかな?」

「ラフトクランズだ」

「ふう…ん。救助艇、ねぇ。…面白い名前。そうか、ラフトクランズかあ」

唇から顎にかけて人差し指でなぞる束は、そう艶めかしく呟いた。

その姿は獲物の前に舌舐めずりする獣の姿を連想して止まない。

顎から指を話した彼女は画面を操り、ラフトクランズのデータを表示させる。

「貴方が起きるまで、出来る限りのことをしてこの機体のことを調べさせてもらったの。そしたらさ、どういう訳か中身を調べることは出来なかったんだ~。悔しいから何とかして外側だけを調べてみたんだけど驚いたよ。最初は何となくフューリーの技術が使われている位にしか分からなかったんだけど。調べていったらもう凄いのなんのって!」

にこやかな表情の癖に、目だけが何日も眠っていないような危険な鋭さを束は携えていた。

マッドな科学者然とした彼女の様子は、見る者全てに自身の危うさを感じさせる凄みがあり、非常に恐ろしい。

そういう目を血走らせて声を露わにする束を落ち着かせる為に、統夜は彼女に質問する。

質問をする彼の顔は、痙攣でも起こしたようにぎこちない笑顔だった。

「へ、へぇ、どういう風に?」

「技術の違いが全然違うのよ!」

「おい、言葉がおかしくなっているぞ」

どうやら彼がしたことは藪蛇だったようだ。

統夜がこめかみを押さえながら溜息をつく程に、束が突然おかしくなったのも当然であった。

科学者というのは、他者に説明してなんぼの世界に住んでいるのだ。

そんな束に、今の彼女に説明を求めるのは、余計に火をつけることに等しい行為だった。

彼女は椅子から立ち上がり、説明を求めた彼に教鞭を振るった。

「こんなに堅い装甲なんて見た事がないし、その装甲を走るオルゴン・ラインも大胆かつ緻密、芸術よ。技術屋として尊敬の念を覚えるよりも先に嫉妬してしまうほどにね。しかもあの状態でも機体の機能が生きていて、僅かながら装甲の再生を行っている。予備回路に接続とかの一時的な回復ではなくて、失った部分の再構築をしている。つまり質量が増えている。量子次元から質量補填をしている訳でもないのに。まさか原子の再構成を実行している?だとしたらその元の粒子は何?まさかサイトロン?そんなことが出来るなんて信じられない。ありえない。ふふふ、私はフューリーの技術に多少なりとも誇りを持っていた。でも、この機体に搭載されている技術は私たちのそれを遥かに上回っている。うははは、倫理観というものが壊された気分よ」

「そ、そうか。つまり、この世界と、俺の世界のフューリーには、技術的な差が大きくある、ということなんだな?」

楽しそうに、でも顔は無表情という奇怪な状態の束を止める為に、統夜はゆっくりと、かつ、しっかりとした口調で話した。

その統夜の様子に、束はようやく今の自分に気付いたようで、彼女は表情をいつものへ戻し、こほん、と一つ咳をついてから椅子に座った。

「そうだよ。でもこれはあくまで表面的に調べて分かった結果なだけ。だから貴方があの機体を調べさせてくれるとしたら、もっと違いが分かるでしょうね~」

彼女は少し距離の空いた統夜との間を埋めるように自身の顔を近づけ、話しを続けた。

先ほどは、彼女のそういった態度に思わず統夜は距離を取ってしまったが、今度の彼は微動だにしない。

近付く束を、統夜は正面から睨みつける。

「技術の違いを調べるのがお前の目的か?なら理由が貧弱だな。敵でも味方でもないこっちに、お前が何を求めているのかはっきりと俺に言ってくれないか」

今までは、見かけ通りの年若い男であった統夜の雰囲気が一変した。

今の彼から出される気配は、まるで何億年も生きて来たかのような老獪さを醸し出している。

その気配に、流石の束も息を飲み込む。

この時の統夜は、戦争に巻き込まれて戦ってきた紫雲統夜ではなく、大戦を生き抜き英雄と称えられた父の記憶を継いだ統夜=セルダ・シューンとして彼女の前に相対していたのだ。

技術、化学の発展は、科学者の性というものだろう。

だが、束という科学者が行う発展の先には、血生臭いものでしかないことを統夜は見抜く。

彼が常々彼女から感じていた危機感が、形を成した瞬間であった。

束は多くの血を流そうとしている。

その悲しい予感が、彼を地球で育った紫雲統夜ではなく、人類の剣である統夜=セルダ・シューンをこの場に出現させたのだ。

圧倒的な雰囲気を放つ統夜に、今度は束が後ろに下がる番であった。

「んもぅ、男女の駆け引きってのを分かってないな~。まあいいや。単刀直入に言ってあげる」

降参だと言わんばかりに、両手を上げる束は溜息を吐いた。

「貴方の機体に使われている技術をこちらに提供して欲しいんだよ」

続けろと、統夜は束に顎をしゃくった。

傲慢な態度であったが、彼女はそれを気にもせずに話を続ける。

「理由は、そうだな~。これを見た方が、言葉よりも簡単に本質が伝わると思うよ。こっちの抱える問題ってやつがさ」

「これは…、機体のコア?」

束が右手を統夜の前に差し伸べる、掌から黒い球体が現れる。

その球体はラフトクランズに搭載されている機体のコアの様に彼には見えた。

「そう、こっちの世界のフューリー機体のコア。サイトロンで読み込んでみるといいよ」

「ああ、そうだな」

統夜は特に警戒することもなく両手でその黒い球体を掴み、精神を集中させた。

程なくして、その球体から莫大な情報が流れて来る。

 

この世界。

統夜達の世界と違い、巨大な戦闘兵器や、異種族が多く暮らすことはない。

その為に統夜がいた世界とは歴史が大きく異なっている。

フューリー。

統夜達の世界と同じく、過去の大戦に敗れこの地球にやって来た知的生命体。

地球の人類を滅ぼそうとしている。

篠ノ之束。

フューリーの人間。

地球人を滅ぼそうとする仲間の考えに反対して、地球側に味方した。

インフィニット・ストラトス。

この世界の新たな兵器で、束がフューリーの技術で作成した対フューリー兵器。

 

他にも情報は多く流れて来ているが、要約すると統夜の中ではそのようになっていた。

「成程、インフィニット・ストラトスか。聞いたこともないな。これがあんたの研究している対フューリー兵器」

「どう?技術的な違いとか感じられた?」

「ああ、サイトロン機構の甘さが目立つな。これだと常時高出力で駆動出来ないだろう」

「へ~、結構詳しいのね」

「そういうのが詳しい人の記憶を持っているからな」

「…記憶の継承。そういう使い方もあるのね、サイトロンには」

自分には、別の者の知識がある。

統夜がそのことを束に伝えると、彼女はすぐにそれを理解した。

 

一々説明しなくても理解してもらえるのは、サイトロンのお陰でもあるが、やはり、ずば抜けた理解力のある彼女だからであろう。

今の右も左も分からない統夜には、彼女のそういう部分が余計なことを言わなくてもいい理由にもなるので、彼にはとても有り難かった。

「まあ、そういう訳で空間から自動的にオルゴンエネルギー供給が出来ないから、燃料が切れたら補給させないといけないのよ。長時間稼働が出来ないのは兵器としては致命的じゃない?」

「そして、貴女はそれを人類の為に強化させたいと?」

うんうんと嬉しそうに束は頷いた。

「昔の兵器にはそんなことは無かったんだけどね。大戦でみんな壊れちゃったんだ~。そのせいでそのオリジナルコアの製造がロストテクノロジー化しちゃったの。そんで、攻撃力が著しく墜ちたフューリーが、私に次の兵器を開発するように依頼してね」

「ああ、大体の事情がわかったよ」

なぜそうなったかは、もう統夜には予想出来た。

それが、地球を侵攻する為の力として必要だったからだ。

そして、開発した束はそのコアを持ちだして地球に身を移したという訳だ。

「そう。何で今さら?って思ったら地球を侵攻する為って聞いた時は呆れたよ~。こいつらはいつまでも過去に生きているつもりなのかな~ってさ。進歩がないのよね、あいつら。それがどうしても我慢できなくて私は地球側についた訳なのよ。そしてフューリーに比べて貧弱な地球人を守る為に私はこのISを作ったの。有限の過去は無限の未来に因って是正される、だからインフィニット・ストラトスなのよ」

まるで井戸端会議をするかのように話す束を、見定めるように統夜は目を細めた。

「お前は、フューリーを倒そうとしているのか?」

「うん、地球の人たちの為にね。だから貴方も地球の為にどうか私たちに力を貸してくれないかな?」

「…地球、ね」

統夜が月のガウ=ラ・フューリアの起動を止める為に戦ったことを聞いて、束は彼が自分と同じ存在だと考えたようだ。

だから束は地球の人類の為に助けてくれと統夜に懇願しているようだが、彼女の本気が一体何に向けられてなのかが彼には掴み損ねていた。

まさか真面目一辺倒に、地球人類を守る為だとはこの女が言うはずがない。

彼女の考える真の目的の為に、今はこうやっているだけに過ぎないだけだ。

そう統夜は思わずにはいられなかった。

その目的を見るまでは、ラフトクランズを提供することを、彼が頷くことは出来ない。

お前の目的は何だと聞いた所で、彼女は今言った通りだと返すだけだろう。

統夜は少しでも束の考えに近付く為に、彼女を揺さぶってみる。

「フューリーはお前の同胞だろう。お前のやろうとしていることはそれを殺すことなんだぞ」

「でもそれって私の敵でもある訳だしね~」

あっけらかんとした物言いで束は統夜の問いに答えた。

この程度の質問では、彼女を動揺させるには力が足りなかったようだ。

つまり、束には同胞を殺してでも構わないような、深い何かが存在している。

それだけは、今の統夜にも理解することが出来た。

鎌をかけた統夜に、仕返しをするように、今度は束が彼に挑戦するように言葉を返す。

「貴方もああいうのに乗ってたってことは、そこらへん理解しているんじゃないの?」

「理解しているが、納得はしていない」

フューリーと人類を守る為にと、統夜は戦った。

その行為は間違いなく偽善であり、矛盾した行為だった。

それでも、己の中に折り合いをつけねば、膠着した統夜の世界の現状から、先に進むことが出来なかったのも確かだった。

ラフトクランズとは、フューリーという一族のいかだを意味する。

束が救助艇と言った通りだ。

その救助艇には、仲間を助ける揺り籠ではなく、敵を撃ち滅ぼす強大な力を孕んでいる。

彼女が面白い名前だと言うのも無理はなかった。

そういった混濁した物に乗る統夜は、その最たる存在でもある。

純粋な地球人でもなく、フューリー人でもない。

曖昧な者。

故に彼は、地球だけの視点でもなく、フューリーだけの視点でもない物の見方で今まで戦っていた。

彼だけが持てる視点は、両者の変えがたい生への執着というのを、戦いの中で如実に捉えさせる。

それは、生きる者の運命と言っても過言ではない。

二つの種族の願いを知る統夜だからこそ、起きてしまった衝突が仕方ないものだとは理解していた。

生き残る為に、相手を滅ぼす。

それはとても残酷なことでもあったが、自然の前にはごく当たり前の掟だった。

だが、動物ではなく1個の知性をもつ統夜には、それをはいそうですかと認める訳にはいかなかった。

知性を持つならば、その知性を以って別の道を探せるはずだったのを統夜は知っている。

彼自身がその証拠だったからだ。

異なる種族が、間違いでも必要に迫れらる訳でもない。

お互いの幸せの記憶の結晶として、紫雲統夜をこの世に生誕させた。

そんな自分という紛れもない真実がある限り、統夜は戦いの正当性を認めることは出来なかったのだ。

ふと見せる彼の歳相応の青さを束は感じる。

自分と張り合える程の胆力を持っているかと思えば、今みたいに普通の凡人めいた表情を見せる異世界から来た不思議な少年。

知識も、思考も素晴らしいものだが、それはどこか張りぼてのようにも感じさせた。

(酷く脆い、まるで彼女みたいね)

頭の中に浮かび上がった女性を、統夜に重ねてしまった束は、嗤った。

「くす、坊やね」

「坊や、さ」

嗤う彼女に統夜は、老人のように疲れた笑みを浮かべていた。

 

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