インフィニット・ストラトスJ~ジューダス・レクイエム~   作:味薄紅茶

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第二話

アル=ヴァン・ランクスが駆るロボット、ラフトクランズは正騎士のみが搭乗できる特別な機体だ。

この機体は大戦後期に開発された機体で、生産出来たのは僅かに四機のみ。

星間戦争という広大な戦場で、四機のみの新兵器ではあまりにも頼りない。

頼るどころか、意味すらあるのかとさえ疑問に思える程である。

事実、あまりにも広大な戦域に対処しきれず、結局フューリーは新兵器投入も虚しく、戦争に敗北することとなる。

だが、この四機が受け持った戦域では、多大な戦果を挙げられたのも事実だった。

その機体には、究極の兵器と言える対象物の時間を止める『ラースエイレム』が搭載されており、この機体が戦場にあるだけで、戦場のフューリーは圧倒的勝利を敵から得ることが出来たのだ。

その古今無双と言える機体が、降り注ぐ太陽光に肌を煌めかせる大海の上に、二つ並んでいた。

アル・ヴァンの乗る黒いラフトクランズが目の前にいる蒼いラフトクランズに叫ぶ。

「エ=セルダ様!どうか、どうか今一度ガウ=ラ・フューリアへ御戻り下さい!今なら間に合います。私も、シャナ=ミア殿下も、貴方の帰還を望んでおるのです!!」

「……」

相対するように空中に停止する機体は何も答えない。

満身創痍と言えるそれは、火花と、緑の粒子が断続的に漏れ出ている様から察するに、もしかしたら、既に返答する気力すら残していないのかもしれない。

搭乗者を心配するように、アル=ヴァンは再び声を張った。

「エ=セルダ様!!」

「聞こえてるよ、アル=ヴァン。そうキーキー喚くな」

機体の損傷具合では想像もつかないような、軽快な声がアル=ヴァンの耳に届く。

ひとまずの安心に彼は胸を撫で下ろし、言葉を続ける。

「では戻って…」

「それは出来ん」

これに懲りて、戻ってくれる。

そんな甘い考えを彼の師が持つはずがない。

そのことを知っていながらも、その希望に縋りたいが故に出たアル=ヴァンの言葉を、師は即答を以って否定する。

「何故ですか!!貴方は大戦の英雄だ。貴方を失えば民が嘆きます!進む光を失ってしまうのです!従妹も、いえ、殿下も貴方を失えば、どれ程の悲しみにその身をやってしまうのか、貴方も御存じでしょう!?」

「ふん、そうだな」

子供の泣き声のように彼を攻め立てる弟子の声に、エ=セルダは子をあやすように優しく語りかける。

「そうだな、そうだろうよ。殿下を悲しませ、民を嘆かせ、そしてーー」

そして、親が言うには、あまりに物騒で、似つかわしくない言葉を吐き出す。

「ーーお前を殺すことになるだろうな」

「そこまで御理解していながら、何故、何故、に…、このような暴挙をなさる!?私には、貴方が御考えになることが理解できない!貴方は、この愚行の先に一体、何を見たというのですか…」

既に目の前の機体に乗るものは、中で泣いているのかもしれない。

そうエ=セルダは思った。

このまま自分との平行線が続けば、もう彼に残された手段は一つしかない。

それは、アル=ヴァンにとって絶対にしてはいけないことだ。

それでもここに彼が来てしまったのは、彼が愚直なまでに騎士だからだろう。

アル=ヴァンという、どうしようもない不器用な弟子の姿を見て、エ=セルダは小さく笑った。

「うん、それでいい」

「…はっ?」

「お前は、それで良いんだ。アル=ヴァン・ランクス」

「エ=セルダ様…」

「お前はフューリーの剣であり続けろ」

「…」

アル=ヴァンは沈黙する。

まだ彼の言葉の意味を理解出来ていないせいか、それとも師の言葉を聞き逃さんという心の表れか、もしくは両方か。

エ=セルダは言葉を続ける。

「俺は、俺という者は、もうフューリーの剣ではいられない。俺はこの星の、俺達の子供でもある、人類の剣になる」

「…どうしても、どうしても御戻りにはならないと、そう仰るのですね」

「くどいな、さっきからそう言ってるじゃないか。時と場合に因るが、しつこい男ってのは女に嫌われるぜ?」

「…」

「…」

決裂。

そうとしか言いようのない結果に、二人はもう言葉を発しない。

何を言っても意味がない。

平行線は、交わらないから平行線なのだ。

アル=ヴァンのラフトクランズが身の丈はあろう長大な剣を構える。

エ=セルダの機体は、もう彼の攻撃を避ける力が残されていない。

その為に可能であった今までの問答である。

アル=ヴァンの凶刃が師に降りかからんとした刹那、エ=セルダは今思い出したといった風に言葉を発する。

「ああ、そういやお前にはまだ理由を言ってなかったな」

「…」

「俺は、『未来』のために戦う」

「…」

「…まあ、お前には、苦労をかけた」

「…、--あっ」

師の、自らに懸けてくれた言葉の真意を知り、アル=ヴァンは驚愕する。

彼の師は、エ=セルダは、自分と従妹の為にこうしたのだ。

聡明な彼は、いち早く過激派の魔の手が彼らに向かっていることを知った。

フューリーが、もう一人しかいない皇族の血筋を失ってしまえば、それはもう本当に彼らの終焉となる。

それだけは絶対に回避しなければならない。

エ=セルダが、彼ら二人を、そんな大切な者を守るためには、『狂った自分』を彼らに断罪させることで、彼らをフューリーの新たな守護者として、作り立てる必要があったのだ。

ここまでしなければ、フューリーの過激派を黙らせることは出来ない。

総代騎士であるグ=ランドンを欺くことが出来ない。

この壮絶な覚悟と、師の自分たちへの愛を知ったアル=ヴァンは、堪らず剣を下げた。

「あ、ああ!」

殺せるわけがない。

(この人を、このお方を自分が殺す?馬鹿な!そんな悪行の極地をどうして自分が行えよう!出来ようものか!)

殺したくない。殺したくない。殺したくない。殺したくない。殺したくない。殺したくない。

思いが、想いが、彼の胸中にこれでもかと吹き荒れる。

アル=ヴァンは大戦の間、彼に命を救われている。

それも一度や二度ではない。

何度も何度も、自身も似たような致命傷を負っているにも関わらずに、だ。

己が弱っている時も、彼はそんなアル=ヴァンを持ち前の明るさで助けてくれた。

お前は不器用だと笑い飛ばし、中身が有るようで無い会話を織り交ぜ、悩むことの馬鹿馬鹿しさを教えてくれた。

(感謝している…、貴方がいなければ、自分は、自分でいられなかった!!)

感謝などという言葉では表しきれない程に、彼は師に深く感謝していたのだ。

その恩を返しもせず、今また自分は彼の命を以って救われようとしている。

(なら、どうすれば。--自分はどうしたら、この人の尊い願いに応えられる?どうしたら、どうしたらこの人を守ることが出来る?)

思考の蟻地獄へ陥った弟子を、エ=セルダはやれやれと溜息をつく。

(この期に及んで、まだ剣を鈍らせるかね普通。…俺もまだまだってことか)

このままでは拉致があかない。

自分を追う騎士団の後続部隊も、間も無くここへ到着する時間だ。

最後の最後まで手間のかかる弟子に、エ=セルダは優しく、その背中を押してやることにした。

「アル=ヴァン・ランクス、我が愛弟子よ。どうかシャナ=ミア殿下を、…彼女を頼む」

「………ぐっ!」

永遠にも感じられた時間に末、彼は、

(あああああっ)

師の裏切りを正当に報わせることで、

(あ゛ぁあああああぁああああああああ!!)

今までの恩を、

「ぐぅう、う、ぅうう!」

ーー返すことにした。

「エ、セルダ、様ぁああああああああああああああああ!!」

アル=ヴァンの慟哭が、蒼い海原に落ちていった。

 

 

こうして、途方もない哀しみの果てに、彼は師を、斬った。

それは、アル=ヴァン・ランクスという存在を殺した瞬間でもあった。

生ける屍となった彼は、その後、淡々と騎士団の命令を執行して行く。

その彼が、今は人類の戦闘部隊の一員として現れたエ=セルダの息子、紫雲統夜と共に一つの目的へ進んでいる。

交わるはずのない平行線が、交わっている。

押し黙るアル=ヴァンに、統夜は言った。

「貴方にも、そうぜざるを得ない事情というものがあった。それは父さんも承知であったはずだ。なら、俺にはそれを非難することは出来ないし、父さんもそう言っている」

「統夜、お前、まさか記憶が?」

父さんも、という彼の言葉にアル=ヴァンは驚きの声を上げた。

「ここに来るまでには色々なことがあったからな。断片的だけど、思い出せたんだ」

「…そうか。確かに様々な、奇縁としか言えぬことが、我々にはあったな」

「奇縁、そう。これはまさしく奇妙な縁でした。40億年という時間の隔たりを超えたこの出会いがなければこの様な結果にはならなかったでしょう」

アル=ヴァンが嘲笑し、シャナ=ミアが灌漑深そうに言うように、彼らがこの場所に来るまでには様々な出来事が起きていた。

 

エ=セルダが連れ出した実験体たちは、ラフトクランズの前身とも言えるフューリア聖騎士団で準騎士に格付けられる兵士だけが搭乗することが出来るヴォルレントと言うロボットに乗って月から脱出していた。

そのヴォルレントの機体色は、奇しくも、自らの師が好んでいた蒼い色をしており、それとアル=ヴァンが地球での作戦実行中に遭遇した時は、なんという運命だと酷く驚いていた。

アル=ヴァン達フューリーが乗るロボットは、彼らにしか操縦できないという特殊な制限が施されている。

それをどうして地球人である実験体が操ることが出来るのか。

実験体に施された試験とは、地球人へフューリーのとある器官を移植させることだった。

その細胞とは、サイトロン受容体。

フューリーが時を操る際に使用する、サイトロンと言う時間物質を感知させる器官だ。

この器官があると、人は時間そのものに干渉する力を持つことが可能となる。

彼らの乗る機体には、全てこのサイトロンが放つエネルギーを利用している。

この物質はとても万能的で、技術の発展と共に様々なものへ転用させていた。

時間を司る物質というのは、現在から過去、未来に渡って自由に行き来することが可能な力を持っている。

これを感知する能力を強化させると、ある程度の未来予知が可能となり、優れた使い手ならば、遥か遠い未来すらも見通せたりもする。

フューリー製のロボットは、空間からオルゴンというエネルギーを抽出させることで稼働しているが、このオルゴンもサイトロンの持つ力を応用させることで抽出させることを成功させている。

また、サイトロンは万物に存在しており、それを共振・共有することで、一種のテレパシーや、サイコメトリーのような能力も手に入れることができる。

これが、ロボットを動かす鍵の役割をも果たしており、フューリー以外には起動不可能にさせていたのだ。

そういったロボットの一機であるヴォルレントを稼働させ、操縦できる実験体は、受容体移植実験の成功を示している。

(移植の弊害で、記憶の混濁、消失、感情の変動といったものが見られると以前、研究班から聞いたが…。実用段階まで調整させることができたようだな)

サイトロンを操ることができる者を複数搭乗させることで、機体操縦、サイトロンコントロールを飛躍的なものとする。

それがこの実験の目的だ。持ち帰って詳しく調べる必要がある。

アル=ヴァンはすぐにこの機体を捕縛するべくラースエイレムを起動させる。

「サイトロン・サイティング終了。オルゴン・エクストラクター出力上昇。ラースエイレム駆動開始…」

だがそれは発動しない。

「……何だと!?」

正しくは発動しないのではなく、出来なかった。

ラフトクランズのコアが、どういう訳かラースエイレムを発動させる為に必要な稼働域まで活性化しなかったのだ。

(整備不良か?いや違う!)

この現象はかつてのエ=セルダが強奪した極秘兵器、ラースエイレムを無効化させるというラースエイレムキャンセラーのものだった。

(ではあのヴォルレントに搭載されているのは、エ=セルダ様の!?)

彼が師と戦った日、何故即座にラースエイレムを発動させなかったのかの理由がそこにあった。

騎士団の情報では、その兵器はエ=セルダの機体のコアに移植された、とアル=ヴァンは聞き及んでいた。

そう聞いていたから彼はラースエイレムを使わずに戦ったのだ。

(そのキャンセラーをあの機体が使用している。ならばあのお方は…)

アル=ヴァンは思案する。

(もしそうならば、私があの日、エ=セルダ様と戦い、勝利できた訳にも合点がいく)

エ=セルダが本調子であったなら、彼に勝ち目は億が一もありえない。

それほどの力の差が二人の間には存在している。

(エ=セルダ様の乗っていたラフトクランズには、彼本来の機体コアではなく、実験体が乗っている方のヴォルレントのコアが搭載されていた。そういう訳か)

ラフトクランズはその高性能さから、かなりエネルギー消費が激しい。

また、ラフトクランズは、ヴォルレントより二回り程大きな身体をしており、その巨体を動かす為にラフトクランズのコアは、他の機体よりも高機能に設計されている。

(コアの性能が落ちれば、その分機体出力も、サイトロンの恩恵も低くなる。全てにおいて、性能が落ちていた…ッ)

レース用の車に、乗用車のエンジンを積んだようなものだ。

つまり、あの日のエ=セルダは、コアの交換を行ったお陰で、機体に慢性的なエネルギー不足を引き起こしていた。

そして、これほどのハンデを背負っていながらも、アル=ヴァン程の技量を持つ男相手に、少なくとも彼は一時の間、並走させることができたのだ。

(ふふ、末恐ろしいお方だ)

新たな真実に、改めて実感する己が師の偉大さに、彼は口を小さく歪める。

(だが、そのような芸当をあの機体は出来まい)

機体出力は万全。

むしろ、彼の眼前にいる機体からは不釣り合いなほどの力が溢れ出ているのが見て取れる。

しかし、今度は搭乗者に不足があった。

見た所、蒼い機体はそれなりの戦闘経験というものを得て来たように感じる。

(実験体は…、確か三人の少女であったか)

実験体が搭乗しているヴォルレントは、複座型のコクピットを採用している。

それはその機体が、彼女たちが搭乗者の動きをサポートさせることにを特化させているからだ。

故にこの機体の真価は、実験体とフューリーの騎士が乗ることで発揮される。

いくら火器管制に優れた者が乗った所で、それを撃つパイロットがいなければ意味がない。

つまり経験を積んでも、それに見合う戦闘技術や、操縦技術といったものが、彼女たちは絶対に得ることができないのだ。

そんな者が、アル=ヴァンの剣技についてこれる道理がなかった。

60mはあろう巨大な機体が残像を残しつつヴォルレントに斬りかかる。

(我がフューリーの不始末、許されよ!!)

四肢を裂き、行動不能に貶める。

そのつもりで彼は、敵の機体に三連の斬撃を放つ。

ガギギと硬質な音と緑の火花がヴォルレントの前に生まれる。

「ば、馬鹿な…」

音の原因は、ヴォルレントが腕から展開させた剣で、攻撃を防いだ為。

「何故…」

緑色の火花は、両者のオルゴンを結晶化させて作られた剣で鍔迫り合いが生じていた為。

「何故その機体に、我らが同胞が乗っている!?」

本気ではなかったとはいえ、彼の攻撃は並みの者では視認することすら難しいものだ。

実験体程度では、見えもしない攻撃を防ぐには、あの機体には実験体以外の存在がいるからだ。

それはつまり、少なくともアル=ヴァンに迫る技量を持つ彼らと同じ騎士の存在が乗っていることを意味していた。

偶然ではない、確かな防御行動の手応えに信じられないといった声を彼は出した。

「答えよ、その者!!」

「何だ?あの機体、話しかけて来てるのか?おいお前、俺の何を知っている!?」

(男の声?)

蒼いヴォルレントに実験体と搭乗していたのは男性。

それが、エ=セルダ・シューンの息子、紫雲統夜であることを彼はまだ知らない。

 

だが、交える剣がこの男こそ自分の師の言っていた『未来』であることをアル=ヴァンに悟らせた。

アル=ヴァンは彼と刃を重ねる程に、剣とサイトロンで彼の素性を理解していった。

エ=セルダは地球人との間に、子を成していたのだ。

それを秘密裏に育てていた。

子を成すということはどういう意味があるのか。

実験のため、それともただの一時の気の迷いから生まれた一つの結果なのか?

どれも違う。

地球人は、野蛮な者ではない。

フューリーと同じ、血を通わせ、暖かな心を持つ者だと、こんなにも近しい存在であったことを、エ=セルダは地球に潜伏していた際に知ったのだ。

そして、多くのフューリーが死んでいく中、上に立つものとして他人には決して見せなかった己の苦しみ、悲しみを、同胞でもないただの地球人に彼は救われていた。

エ=セルダはその者を心から愛し、共に生きて行くことを誓ったのだ。

(その未来と私は剣を交えている)

アル=ヴァンは悩んだ。

彼はあの日を繰り返そうとしていた。

出来るものならそれは回避したい。

それでも、師の言葉が彼に剣を取らせる。

『お前はフューリーの剣であり続けろ』

その言葉を胸に彼は、師の息子と死闘を演じる。

紫雲統夜は強かった。

今では騎士団最強の座に君臨している彼と互角に、いや剣を交える度に驚異的に才能を開花させ、遂にはアル=ヴァンを超える程に強くなった。

敵の成長に、彼はまるで師が生き返ったかのように喜んだ。

いや、統夜の中には間違いなくエ=セルダがいたのをアル=ヴァンは感じたのだ。

己が、統夜をフューリー側に来るように勧誘した所で、彼が発した出来ない!という一蹴の仕方など、正に瓜二つ呼べるもので彼は思わず戦いの最中だというのに笑った。

(あの人は生き返ったのだ…。昔よりも何倍も強くなって。ハハハ、そうか…)

そして、アル=ヴァンは程なくして、まるで統夜に自らの未来を託すかのように敗北する。

 

統夜に敗北した彼は奇跡的に死ぬことを免れていた。

だがそんな彼を騎士団は許さず、アル=ヴァンは騎士団を追われ、幽閉されることとなった。

それでも彼にはこの仕打ちに対して思うことは何もなかった。

もう何もすることはない。

自身の出せる全てを以って戦い、アル=ヴァンは負けた。

後はこの身を時の果てへ進ませることだけが、彼に唯一残されたものだ。

その、肩の荷が下りたように静かに佇む彼の部屋の前に、外につながる廊下から一人の女性が歩いて来て止まる

この部屋に廊下との視界を隔てるような扉は存在しないが、それは人には見えないだけで、部屋の外と内の境界にはしっかりと機械的な断絶されてある。

アル=ヴァンは、それの高性能な扉のお陰で誰が来たのかすぐに理解することが出来ていた。

「シャナ=ミア、殿下?」

「お従兄様、貴方は本当に、今のままでよろしいのですか?」

「それはどういう意味なのでしょうか」

まっすぐに見つめる彼女の目は、アル=ヴァンは力なく答える。

「グ=ランドンがこのガウ=ラ・フューリアを再起動させることを決定させました。このままでは地球の生命は滅びることになるでしょう」

「…そう、ですか。無念です」

「私と、貴方の愛したエ=セルダ様の、大切な星が終わってしまいます」

「…ええ」

「それを知って、貴方は何もしないのですか?」

「…」

何をしろというのだ。

アル=ヴァンは胸の中でそうごちる。

使用にも自分はここから出られないし、何よりも彼はもう疲れ切っていたのだ。

何もしたくない、というのが今の彼の切実な願いだった。

それを感じたのだろう。

シャナ=ミアは口を一文字に結ぶ。

「貴方は変わられた。今のお従兄様には昔のような気高さも、意思も感じられません!」

「はい」

従妹の叱責に彼は素直に肯定する。

当然だ。

今までのアル=ヴァンを変質させてしまう出来ごとが、考えるのが億劫になるほどあったのだから。

最早視線すら合わせない従兄の姿に、シャナ=ミアは双眸に涙を浮かべる。

その涙を袖で拭い、彼女はここに来た目的を遂行した。

ピピピ、と電子音が牢獄に響く。

アル=ヴァンは何事かと視線を上げた。

「ここの錠は私の権限で外しました。貴方を縛るものは、もう存在しません。好きに生きなさい。」

「殿下…」

「私はこれから、地球の方々に接触します。そして、彼らをこのガウ=ラ・フューリアに招き入れ、ガウ=ラ・フューリアの起動を阻止させます。ここには貴方とのお別れを言う為に来ました」

「なっ!?」

アル=ヴァンの目が驚愕に見開く。

「殿下の成そうとしていることは自殺行為です!そのような危険を冒して、成功すると本気で御思いなのですか!?どうか御考え直しを!!」

「黙りなさいアル=ヴァン・ランクス!私はもう二度とあの日の過ちを犯したくないのです。そう、あの日、私は何をしてでもフューリーを止めるべきでした。その覚悟の至らなさが今日のフューリーの暴走を引き起こしたのです。私は、皆を導く者としての責務を果たす。さようなら御従兄様、もう会うことはないでしょう」

「シャナ=ミア、様…」

踵を返し、その場から去っていくシャナ=ミアの姿を、彼はただ見つめることしか出来ず、アル=ヴァンはがっくりと頭を落とす。

それは、いつぞやのシャナ=ミアとアル=ヴァンの立場が逆転したかのような光景であった。

(エ=セルダ様、私は一体どうしたらいいのでしょうか。フューリーとは、その剣とは一体…)

頭を抱える彼に答えを示してくれる者は、ここには誰一人いない。

 

「……!…!………!」

「なんだ?」

シャナ=ミアと別れてから二日程たっただろうか。

アルヴァンが幽閉されている部屋にまで、音が聞こえる程、何やら外が騒がしかった。

「……」

彼は外の様子を窺うように瞳を閉じ、付近のサイトロンに精神を集中させる。

本来なら、このような行為は幽閉により無効化されているはずだが、シャナ=ミアが彼を解放してくれた為、その機能は停止していた。

アル=ヴァンの脳裏に、辺りの情報が映像となって流れ始める。

映像は連続的な物ではなく、断片的だ。

それらを組み合わせ、整合させることで彼は今外で起きている事件を理解した。

「馬鹿な!!この様なことが!!??」

グ=ランドンの暴走。

彼の操るロボットがフューリーの命を吸っている。

その代償を以って、彼を仇なす者を倒さんとしている信じられない事態に、アル=ヴァンは彼を止めようと部屋の扉へ走る。

アル=ヴァンに反応し、扉が開く。

その扉を飛び出ようとした所で、彼の足がたたらを踏んだ。

(何をしようとしているのだ、私は…)

この扉を超えたら。

アル=ヴァンは、間違いなくグ=ランドンを止める為に、再び剣を握るだろう。

そして、その剣で彼を殺すことになる。

(私は、自分の師どころか、上官すらも手に掛けようとしているのか?また、この身に罪を重ねようとしているのか?)

その冷(すさ)まじさに、アル=ヴァンの肌は震えた。

出来ない、これ以上は己を壊してしまう。

そう考えた始めた所で、ふと彼は自分の意思と行動の食い違いを見つける。

「壊れてしまう、だと?」

許されざる行いをして来た、そんな者が壊れてしまうことを、自分は恐れているのか?

はっ、と乾いた笑いがアル=ヴァンの口から洩れた。

「それこそ、それこそ許されぬことではないか」

自分は、浅ましくも安らぎを求めようとしていた。

度し難い厭らしさに、笑いが止まらなくなる。

シャナ=ミアは自分に言っていた『変わってしまった』という言葉が、今になって堪らなく彼を痛めつけた。

「私は何をしているのだ」

あの日、自分は師に報いると誓ったではないか。

報いの日々がこの程度で終わって良いものか?

答えは否。

否、否、否、否、----否。

アル=ヴァンは、報いる為に戦わなければならなかった。

部屋に木霊する笑い声が唐突に止まる。

「グ=ランドン総代騎士、貴方は同胞に手を掛けた。その貴方は地球の者ではなく、同胞である私によって裁かれなければならない。そしてそれはーーーー」

アル=ヴァンの足は、部屋の境界線を越えた。

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