時刻は午前零時。外の気温も2度ほど下がって少し肌寒くなった。
月は先ほどと比べて高く上がり、建物の影を短くしている。
艦娘寮の明かりはほとんど消えており、静寂に包まれている。
そんな中、国内最大級の大きさを誇る(多分)工廠は水銀灯によって煌々と照らし出されており、近寄ってくる暗闇を片っ端から跳ね返している。
「よっしゃできたぁぁぁ!」
静寂を切り裂くように明石の叫び声がこだました。
「明石、うるさい」
夕張がそれをバッサリと切り捨てる。
「夕張はまだできないのか?あくまで試作案だからそこまで凝る必要はないぞ」
俺はというと、二人よりも早い段階に設計を終え、二人にお茶を出していたところだ。
「…よし、出来ました」
「お?できたか。それじゃぁ一人ずつ見せて行こうか」
「あ、じゃあ私は最後で」
明石が手を挙げて言った。
「なぜだ?」
「最後の楽しみに取っておいてください、ってことですよ」
そこまで言うのなら相当自信があるのだろう。楽しみだ。
「それじゃぁ俺から…俺が考えたのは…
雷撃機 景山-改
武装:12.7mm機銃2門
魚雷1本もしくは水跳爆弾2個
巡航速度:400㎞/h
最高速度:750㎞/h
航続距離:5000㎞(増槽あり6000㎞)
特徴:・逆ガル翼採用によるランディングギアの短縮
…こんな奴だ。武装を最低限に抑えて最高速度と航続距離に振ってみた。理論上製造可能なはずだ」
二人は”何で武装削ったのこの人”みたいな顔をしていた…速度は大事だぞ?
すると夕張が質問してきた。
「提督、たしか景山ってあの赤城さんが積んでるバケモノみたいな奴の名前じゃありませんでしたっけ?改という割にはいろいろスペックダウンしてる気がするんですけど…」
「いや、何も武装だけが飛行機の本質じゃない。現在配備中の景山は信頼性とか整備性に欠けているんだ。中翼式によるランディングギアの肥大化、これは耐久性と信頼性に欠ける。次にターボファンによる燃費の悪化、これは大問題だ。資材が溶けていくからな。しかもターボファンは整備性が悪いという面もある。そういう点を改善したのが今回の景山-改っていうわけだ。まぁ、火力不足は否めないが…」
一通り説明し終えた。二人は納得してくれたようで、「信頼性と整備性か…」とか「火力だけじゃダメか…」と言っている。おいお前ら一体どんなものを作りやがったんだ…
「次は夕張、頼めるか?」
「了解です!私のは…
雷撃機 月山
武装:20mm機関砲5門(機首二門、翼端二門、コックピット後部1門)
魚雷一本もしくは250㎏爆弾2個
巡航速度:250㎞/h
最高速度:600㎞/h
航続距離:2000㎞(増槽あり2800㎞)
特徴:・逆ガル翼によるランディングギアの短縮
・コックピット後部機銃座の設置
…こんな感じですね。航続距離を少し犠牲にして武装を強化しました。コックピット後部の銃座は結構役に立つと思います」
「航続距離の犠牲がちょっとどころじゃないんだが…零戦ですら3350㎞飛べるのに…」
まぁ、不自由はないとは思うがな。
「特筆すべきはやっぱりこの重武装!20mm5門ですよ!?」
「じゃあ夕張、弾薬の持ちはどうなのさ、それ」
明石が突っ込む。途端に夕張は言葉に詰まった。
「継続戦闘能力が低いと大変だよ~…それに、そんなに重武装にすると機体の上昇性能や旋回性能はどうなるのさ。提督のやつはその辺も従来の物より優れたものになるように計算して作られている。夕張のは、どうなの?」
夕張は目をそらしながら言った。
「そ、それはぁ…」
「ま、まあまあ、これは試作案だし、局地迎撃機兼雷撃機としてなら使えるかもしれないぞ!」
慌ててフォローに入った。明石の質問は始まったらとどまるところを知らない。強制終了する必要があるのだ。
「そ、そんなことより!」
あ、逃げたな夕張…
「明石!あなたのはどうなのよ!」
その質問を待ってましたとばかりに明石はニヤリと笑い、不敵に言い放った。
「まず私は、雷撃を前提とした機体を作っていません」
‥‥‥は?
「え?」
俺らの動揺を気にせず、明石は続けた。
「雷撃機に随伴する戦闘機って感じの物ですかね。最初は雷撃機作ろうとしていたんですが…どこをどう間違えたのか、全く別物が出来てしまいました」
明石は悪びれるそぶりもなく、からからと笑っていた。
「まぁ、提出するのは景山-改もしくは月山にするとして…どんなのを作ったんだ?」
「あ、それ聞いちゃいます?それ聞いちゃいます?」
むちゃくちゃウザい。赤の他人だったら殴り飛ばしていただろうな。
「早く見せてよ、明石」
夕張がぶっきらぼうに催促した。
「ちぇ…つれないの…私のは…これです!
局地戦闘機 焔雷
武装:40mm機関砲2門
30mm8連装ロケットガンポッド二基
60mm試製誘導弾4発
もしくは
40mm機関砲2門
魚雷2本or250㎏爆弾2個
巡航速度:600㎞/h
最高速度:1200km/h
航続距離:1500㎞
特徴:・動力にターボファンではなくジェットエンジンを採用。それにより従来の戦闘機よりかなり高速化している。
・全翼機となっており、高速時の負荷に耐えられるようになっている。
…というやつです!」
明石は自慢げに説明を終えた。
「いやもうこれ飛ばす気ないよね!?」
夕張が叫んだ。
「いくら何でもジェット機をあの短い甲板から飛ばすのには無理が…」
俺がそういった瞬間、明石の目が光った。
「ジェットエンジンは胴体の後部についており、翼下装備ではないので短い距離での発艦が可能ですよ!まぁ、ギリギリですが…さらに、甲板を改装すれば安定して飛ばせることも可能ですよ!」
明石が興奮して言う。
「ねぇ、提督…私とてつもなく嫌な予感がするんですけれど…」
「奇遇だな、俺もだ」
そしてその予感は的中する。
「飛行甲板を
「分かった分かった!ちょっと黙れ!」
俺は明石の話を中断させる。とんでもないことを言い出しやがった…
「何で止めるんですかぁ…」
明石は不満げに言った。
「まず、お前の案は提出はできない。それはわかるな?」
「…まぁ、それは分かります」
しぶしぶといった感じで明石が頷く。
「そしてこれは生産できない。なぜなら、コストが馬鹿みたいに高いからだ。それに整備性にも難があるように見受けられる。そして空母の甲板に特殊改装を施さないと安定して運用できないっていう点も問題点だ」
「うっ…おっしゃる通りです…」
明石はうなだれた。
「とりあえず大本営には景山-改と月山を提出する…だが、試作機くらいなら焔雷も作っていいぞ。だがほかの鎮守府には見せるな」
「えぇ!?提督、製造を許可するんですか!?なんで!?」
夕張が驚きの声を上げた。
「だって…強そうじゃん?」
「…は?」
夕張が睨んでくる。
「やっぱり提督もこっち側の人でしたか!」
明石がニコニコ笑って言った。
俺はそれに笑い返し、そして急に姿勢を正した。明石と夕張もそれにつられる。
俺はまじめな口調でこう告げた。
「提督として、工作艦明石及び軽巡洋艦夕張に任務を与える!」
「「はっ!」」
「夕張は大本営からの許可が下り次第、新型機の製造を始めるように」
「了解です!」
「明石は
「了解でs…って、え?提督本気で言ってます?」
さすがに
「本気だ。鎮守府外の幹線道路から飛び立てるように
「提督、それは何のために?」
夕張が聞いてきた。
「最後の要望以外は緊急脱出用だ。もしここだけでは抑えきれない戦力が襲来した場合、街の人たちを逃がすためだ。一般人を巻き込むわけにはいかない」
「なるほど…!了解です!」
ここの鎮守府の近くにはそこそこ大きめの街が一つある。街を壊滅させるわけにはいかないのだ。
現在は午前一時。業務が終了した。
工廠の灯を落とした。闇が一気に内部へと進出してくる。
「それじゃ、ゆっくり休めよ」
「提督も、おやすみなさい」
「おやすみなさ~い」
明石があくびをしながら言った。
「おう、おやすみ」
こうして俺の永い一日は終わった。
次話から、ストーリーを進める予定です。