魔改造提督の鎮守府ライフ   作:Jeep53

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「う…うぅ…」

痛い。首が折れそうだ。

俺は目を開けた。薄暗い部屋で、天井には多数のシミがあった。

蛍光灯が一本天井に直付けされており、小刻みに明滅を繰り返していた。

(ここは…?俺は…何をして…)

「気ガ付イタカ」

そう言って誰かは壁についている無骨なボタンを押しながら喋った。

「ボス、目ヲ覚マシマシタ」

「!?」

深海棲艦特有のカタコトが聞こえた。どこかへ連絡したようだ。

「了解、すぐ行くわ」

スピーカーの向こうからは深海棲艦のそれとは違う、流暢な声が聞こえた。

(人間もいるのか…?)

そう考えつつ俺は警戒体制を取る。

「ソンナニ警戒スルナ、私ラハ、オ前ラニ危害ヲ加エルツモリハナイ」

信じられるはずがない。コイツらは敵だ。それに…

「青葉はどこだ?」

一緒に戦っていたはずの青葉がいない。

「アァ、アイツナラ…サッキ起キテボスノ所ニ質問ニ行ッテルゾ」

「へ?」

青葉…あいつ死ぬつもりか?

「ダカラ…警戒スルナッテ…我々ハ交渉スルタメニココへ連行シタンダ」

「…それは誰の命令だ…?」

深海棲艦はめんどくさそうに答えた。

「防空棲姫ダ。モウスグ来ルゾ」

「エッ来ンノ!?」

同じ部屋にいた別の深海棲艦が声を上げた。

その反応を見て俺は察した。

(あぁ…会社のめんどくさい上司と同じ扱いか…)

と。

 

数分後、“ボス”と呼ばれた深海棲艦であろう人物(?)が鉄製のドアを軋ませて部屋に入ってきた。

「久しぶりね、覚えているかしら?」

そいつは深海棲艦と特有のカタコトではなく、俺たち人間と同じように流暢に話していた。

(深海棲艦にも流暢に喋ることの出来る個体がいたのか…!? それに久しぶりって何の事だ…?)

俺は警戒をやめない。だが、次の瞬間に俺の脳内にある記憶が流れ込んできた。

 

 

~~~

時は約10年前、突如出現した深海棲艦に唯一対抗できる手段として艦娘が出てき始めたばかりの頃。

徐々にではあるがシーレーンが確保され始め、内陸へと追いやられていた人類は再び沿岸地域へと進出することが出来ていた。

そこは沿岸の小さな漁村。三方を山に囲まれ、正面は海という閉鎖的な村だった。

その時はちょうど午後5時を回った頃だった。

その村の一角の家に、俺たちは住んでいた。

「防、そろそろご飯よ〜?」

「OK、姉さん、すぐ行くよ」

自分と姉さんとは血が繋がっていない。お互い親もいなく、俺は物心ついた頃から姉さんに育てられてきた。

いつも姉さんに作ってもらっていた料理がとても美味しかったことは記憶に残っている。

姉さんは美人だった。白く真珠のような肌、紅い(あかい)目、綺麗な白髪で黒髪黒目の俺とは全然違っていた。いやまぁ、家族じゃなかったから違っていたのは当たり前だったのだが。

そんな穏やかな日がそのまま続けばいいと思っていた。しかし、ある日突然姉さんはいなくなった。前触れも書き置きもなく忽然とその姿を消したのだ。

俺は何日も姉さんを捜し回った。その村の中はもちろん、最寄りの町や過去に出かけたことのあった場所、思い当たる場所は全て探したが姉さんは見つからなかった。

俺は捜索を諦め、一人で放浪の旅をすることになった。

~~~

 

 

俺は恐る恐る口を開き、かすれそうな声で問いを投げかけた。

「姉さん…姉さんなのか…?」

(嘘だと言ってくれ。姉さんが深海棲艦だったなんて信じたくない!)

だが、そんな俺の期待を裏切り、目の前の深海棲艦はゆっくりと頷いた。

俺の頭の中が真っ白になっていくのが感じられた。

そして、ゆっくりと口を開き、話し始めた。

「私は防空棲姫。あなたと過ごしていた日々も、私はずっと深海棲艦だった。私は人間の言葉を正確にしゃべれる数少ない個体として本部から地上での諜報員として内地へ派遣されていたの」

ゆっくりとした口調とは裏腹に言葉には重みがあり、その場にいる全員が沈黙して姉さんの話に耳を傾けた。

「それで…どうして俺と過ごすことになったんだ?」

俺はその威圧に抗い、話を促した。

姉さんは頷き、再度、話し始めた。

「ある時、陸軍の秘密実験場であろう施設を私は発見したの。その施設について何とか調べようとしたんだけれども、ガードが堅くて手を出せずにいたわ。どうやって調べようか思案していた所、施設の側面のダストシュートから何かが転がり落ちてきたのよ」

どうやらこの話は他の深海棲艦にも話してなかったようだ。奴らの顔にも動揺の色が見える。

「それで…それは何だったんだ?」

俺はその時、何か不要になった機材などを捨てたのかと思った。だが、現実はそれの斜め上を行く物だった。

「貴方よ。防。幼い貴方がダストシュートから出てきたの。さすがの私もこれには驚いたわ。人間の子どもがゴミのように出てくるなんてね」

俺の思考は停止した。震える声で俺は姉さんに質問を投げかける。

「じゃあ…俺は誰なんだ?俺は何なんだ!?俺は…俺は…人間なのか!?」

俺の剣幕に周りの深海棲艦達がざわつく。

姉さんは俺をたしなめるような動作をした後、話を再開した。

「私は貴方を保護して、その施設で何が行われていたのかを探ろうとして、貴方の体を調べさせてもらったわ。そしたら驚くべき事が分かったの」

その場にいる全員、途中からちゃっかり混ざって話を聞いていた青葉も息をのんだ。

「その施設は人間を艦娘のように対深海棲艦兵器として改造するための施設だったの。貴方の体には当初カメラやマイクが埋め込まれていたであろう痕跡が多数確認できたわ。さらに、脳にはマイクロコンピュータが仕込まれていた痕跡もあった。それと、貴方は知らないかもしれないけれど、貴方の左肩の後ろには”01”の文字が印字されていたわ」

俺は思わず左肩に手を置いた。

「その…マイクやコンピュータは今も俺の中にあるのか?」

俺は震えながら質問した。

「いいえ、そういった機器類は最初から取り外されていたわ。貴方に残されていたのは艤装展開能力だけ。ただ…艤装展開用の回路は残されているはずだからハッキングされないように気をつける必要があるわ。まぁ、それが成功する確率は極めて低いだろうけどね。私がハッキングできなかったんだもの」

おそらく、諜報員ならばかなり高水準の技術は持ち合わせていたのだろう。それを持ってしてもハッキングできない、とのことを聞いて俺はほっと胸をなで下ろした。

姉さんは話を続けた。

「その後、私は貴方を放置するわけにも行かず、諜報活動を続けつつも貴方のことを育ててきた。お互い身寄りのない子どもとして、ね……貴方の名前は私の名前である防空棲姫からとって付けさせてもらったわ。本当はある程度育てたら私はもう消えるつもりだった。深海棲艦である私が、人間と深く関わることは許されてはいなかったから…だけど、貴方と過ごしている内に情が湧いてしまって…引き際を逃してしまったの。ずっと騙しながら貴方と過ごしている時間は、楽しかったけれど、苦しかった……本当に、ごめんなさい」

しばしの沈黙が訪れた。俺は口をゆっくりと開いた。

「いや…いいんだ。姉さんが悪いわけじゃない…ただ…どうして急にいなくなったのか、それと、今後俺たちをどうする気なのかを教えてくれ」

姉さんは数秒間考え、しゃべり出した。

「私が急にいなくなったのは、本部からの帰還命令が出たからよ。陸軍の施設についての報告が認められて諜報員から一艦隊の司令官として任命されたの。急にいなくなるような形になっちゃって、ごめんなさいね。それと…今後あなたたちとは同盟を結びたいと考えているわ」

「えっ?」

俺は思わず聞き返した。姉さんが急にいなくなった理由は分かったが、同盟だと!?どういうつもりなんだ…?

部屋の隅の方で黙々とメモを取っていた青葉も目を丸くしている。

「私の率いる部隊は、人間と戦うことを望まない穏健派の集まりなの。だけど…最近貴方の鎮守府付近では深海棲艦の攻撃がすごいでしょ?攻撃派が最近勢力を拡大してきて…私らの部隊もそろそろ取り潰されそうなの。だから…そうなる前に私の部隊だけでもそちらと同盟を組んでおきたいと思ったのよ」

なるほど…深海棲艦の中にも派閥があるんだな…

「俺はその意見には前向きだが…果たして今鎮守府に残してきた奴らが受け入れるかどうか…それと、たとえこちら側に来たとして、同じ深海棲艦に対して攻撃をすることはできるのか?」

俺の問いかけに対し、姉さんは静かに答えた。

「この前、私直属の部下が暗殺された。犯人は本部の掃討部隊。さらに、最近上層部が我々の生体実験に手を出した。何の罪もない部下や知り合いが何人も連れ去られ、帰ってきたものはいない。…もう奴らにかける慈悲はない」

姉さんの口調が変わった。眼光が鋭くなり、紅い目がぼんやりと発光した。

「攻撃派は、私たちが始末する。ここに残っているも者はその覚悟ができている者だけだ」

姉さんや周りの深海棲艦達から俺らに向けてではない明確な殺意が感じ取れた。

姉さんの覚悟を受けて、俺は表情を変えずに答えた。

「分かった。とりあえず鎮守府に帰還しよう。それで……ここはどこら辺なんだ?」

その問いに姉さんは軽く答えた。

「貴方の鎮守府から少し離れた所に無人島があるでしょう?あそこの地下よ、ここは」

「予想以上に近いな…じゃあ、行くか」

かなりの近場に敵(?)の基地があったことに驚きつつも、俺らは出航の準備を進めることにした。

 

 

カツ…カツ…

コンクリートで固められた無機質な階段に靴に音が響く。

地上へのドアは開け放たれており、光が差し込んできている。

地上に近づくにつれて光がどんどん強くなる。最後の一段を登り終えた時、暗闇に慣れていた目の前が真っ白になり、数秒後に外の景色が明確に見えてきた。

人工物と認められるのは小高い丘の頂上にある施設への小さな入り口一つであり、それ以外は自然そのものだった。明るい緑の草類が島の地表を覆い、木々は少ない。白っぽい土の細い道が海岸へと曲がりくねりながら続いている。青く澄み渡った空と、草木をざわめかせる心地の良い海風に清々しい雰囲気を感じながら、俺は今日判明した情報を振り返っていた。

 

俺は、陸軍の実験によって生まれた改造人間であり、育ての親とも呼べる姉さんは深海棲艦だったこと。

そして何よりも、陸軍が約20年前から人体実験を行っていたことだ。これはかなり大きな情報であるが、何の根拠もなしに上層部へ具申を申し入れても軽くあしらわれるだけだろう。この情報についてはもう少し調査が必要だ。

 

「司令官ー!出航の準備が整いましたよー!」

遠くから青葉の元気のいい声が響いてきた。浜辺の方をみると、青葉がこちらに向かって手を振っていた。深海棲艦も出航の準備は整ったようで、こちらをみている物が多数だ。

「防、行こう」

姉さんが後から声をかけてきた。

「あぁ、行こうか」

爽やかな風に背中を押され、俺たち一行は鎮守府へと航行を開始した。

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