水平線が夕日で橙色に染まるころ、俺たちはようやく鎮守府に帰投した。
鎮守府の埠頭では吹雪を筆頭に鎮守府で待機していたメンバーが並び、こちらに敬礼していた。
中には曳航されてきた深海棲艦たちにぎょっとする子たちもいたが、殺気を感じられなかったのか、すぐにいつもの表情に戻っていた。
俺は何とか陸上へ上がり、命令を飛ばす。
「大破艦を優先してドックを使え!高速修復材の無限使用を許可する。艤装は明石と夕張に預けろ!」
皆があわただしく移動し始めるのを確認したところに、吹雪と伊勢がやってきた。
「司令官…お疲れ様です」
吹雪が微笑みながら言った。
よく見ると吹雪の目の下にはクマが出来ていた。
「吹雪…そのクマはどうした…?」
そう聞くと、吹雪は目をそらしながら言った。
「アハハ…な、何でもないです…」
「そ、そうか…?」
「提督、私からも少しいいか?」
そう話しているところに伊勢が入ってきた。え、なに?またなんか俺やらかした?
「…俺はお前の思っているような上官になれたか?」
俺は半分笑いながら言った。が、伊勢の答えはそれとはまったくもって異なるものだった。
「すまなかった!」
何と謝罪をしてきたのだ。
「えっ?ど、どうしたんだ…?」
伊勢は静かに口を開いた。
「実は…提督がいない間吹雪と二人で執務をやっていてだな、全然進まなかったんだ。そこで気づいたよ。私たちが戦いに専念できるのはこういった事務仕事をこなしてくれる提督のおかげだ、とな。それなのに私は提督に対して思い込みできつく当たってしまった…どうか許してほしい」
なるほど…吹雪の目の下のクマはそれのせいか…
「大丈夫だ。こっちもそちらを気遣ってやれなくてすまなかったな。これからもよろしく頼むぞ」
その言葉に伊勢は微笑んで、手を差し出してきた。
俺も笑ってその手を握り返した。
こうして、鎮守府の中の現時点で最大(?)の問題が解決した。
「…それで、だ。提督」
「ん?どうした?」
提督が俺の体を指さして言った。
「私が見る限り限りなく轟沈寄りの大破状態に見えるんだが…」
「えっ?あっ…」
忘れていた。俺自身自力航行が困難だったことを。
不意に激痛が来襲した。
「ぐっ‥カハッ…」ドッ
俺は口元を押さえて膝をついた。抑えていた手を放して見てみると、血が付いていた。
(やっべぇ…息できねぇ…)
吹雪が恐怖の表情でこちらを見ている。
伊勢が叫んだ。
「衛ぇ生ぇ兵ぇぇぇッ!至急提督をドックへ運べ!沈むぞ!」
その声を遠くに聞きながら俺の意識は途切れた。
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結局あの後俺はドックに搬送され、入渠することとなった。
俺は修理が完了するまで目を覚まさなかったようで、吹雪などはたいそう心配していたそうだ。
「これからは無理しないでくださいね!」
「あ、あぁ。善処するよ…」
その吹雪は今私の横で執務の補助をしてくれている。
休んでていい、と言ったのだが、どうしても手伝いたいとの事だったので、手伝ってもらっているのだ。あとで間宮で何かおごってあげよう、そうしよう。
現在は俺たちが埠頭についてから二時間ほどたったころ。外はだんだんと暗くなり始め、晩夏の涼風が部屋の中を駆け抜けている。
「…よしっ、今日の分は終わりましたよ!それにしても涼しくなりましたねぇ~もうすっかり秋ですよ」
「昼間は真夏なんだがな」
俺が苦笑しながら相槌を打った。
吹雪の分の仕事が終わったようで、伸びをしながらあくびをしている。
だが、俺の分が終わっていない。
「吹雪、今夜は姉さんたちの歓迎会(という名の宴会)を開くって鳳翔さんたちが言ってたから、早めに行ったらどうだ?俺は後から行くからさ」
吹雪に先に食堂に行くように促した。が、
「あの方々は司令官からの紹介が必須です。いくら敵意がないとはいえ姿は敵そのものなんですから。トラウマがある子だっているんです。な の で、司令官は早く執務を終わらせてください。私も手伝いますから」
吹雪にも手伝ってもらうことになってしまった。これは間宮の高級スイーツでも奢るしかあるまい。うん。
「それで、あとどのくらいなんですか?」
吹雪が手元を覗き込みながら聞いてきた。
「ん?この書類にサインすれば終わりだg
「早くしてください」(ニッコリ)
‥‥ハイ」
俺はさっさとサインをして書類を片付けた。
吹雪の顔が過去一怖かったです。ただ名前を書いていただけなのに冷や汗が出ました。怖かったです(大事なことなので二回言いました)
「それじゃ、行きましょう!」
先ほどの目が笑っていない笑いはどこへやら、打って変わって無垢な笑顔の吹雪が執務室のドアのところで手招きしている。
するとそこへ、
「提督さ~ん!」
ドアを蹴破るようにして夕立が元気よく入ってきた。
「あべしっ!?」
もちろん、ドアのすぐそばにいた吹雪は吹き飛ばされた。
「ノックくらいしような!?」
「はーい、次から気をつけまーす!」
俺は一応注意するも、効果はない。
「何すんのよ夕立ぃ!」
吹雪が頭を押さえながら起き上がって吠える。
「ごめんっぽい!」てへっ
夕立は悪びれもせずに謝った。
「こんのっ…今日という今日は許さないんだからぁ!」ダッ
吹雪が夕立をめがけて走り出す。
「わぁ~!吹雪ちゃんが怒った~!」ダッ
夕立も走り出した。
「結局夕立は何しに来たんだろうか…」
そして俺は一人取り残された。
~廊下~
仕方がないので、俺は一人で食堂へと向かっていた。
(今日はやけに廊下が長く感じられるな…)
そう考えながらとぼとぼと歩いていた時、
「防ちゃん、一人なの?」
姉さんに後ろから話しかけられた。
「あぁ、見ての通り一人だよ。それより、いつの間に後ろに…?」
殺気どころか気配すら感じ取れなかった。自称忍者の川内の気配には楽々気づくことが出来たのだが…
「フフフ、今来た所よ。それじゃ、食堂まで行きましょうか。さっき赤城さんが歓迎会があるからって呼びに来てくれたのよ。まぁ、当の本人は伝えるだけ伝えてどっか行っちゃったんだけどね」
姉さんは不敵に笑い、それから少し落ち込んだような表情を見せた。
(あぁ…これ多分赤城に警戒されてるって思って落ち込んでるんだろうなぁ…多分あいつは食堂の料理が食べた過ぎて案内せずに帰ったんだろうけど…)
そんなことを考えていると、腕がグイっと引っ張られた。
「考え込んでないで、行くわよ?」
「あ、あぁ…だが、腕を組むのはやめてもらえないだろうか…」
「ダーメ」
「あぁぁぁ…」
俺は姉さんに半ば引きずられるような形で食堂へ行くこととなった。
~食堂~
それもそのはず、そこそこ広めではあるが百数十人が入っても余裕が残るような広さはないのだから。
そんな中、俺は歓迎会を始めるべく、式台の上に立った。
全員の視線が俺に集まる。初日こそこの光景に驚いたものの、もう慣れた。
俺は咳払いをして、話し始めた。
「あー、今日集まってもらったのはほかでもない。新戦力の歓迎会だ。見た目は深海棲艦だが、心は俺たちと同じだ。では、自己紹介を…ってできるか?姉さん…あ」
やっちまった。艦娘たちの間にどよめきが走る。
姉さんの方を見ると、姉さんは腹を抱えて笑っていた。笑い事じゃ無かろうに…
「あー、いいか?今のことについてはおいおい話すから。まずは自己紹介の方を聞いてやってくれ」
とりあえず場を治め、姉さんに壇上を譲る。
壇上に姉さんが上がった。
ガチャン!
どこかで艤装展開の音が聞こえた……まぁ、無理もない。
「只今ご紹介にあずかりました、姉さんこと、防空棲姫よ。皆さんの警戒を解くために、少し話させてもらうわよ」
そうして、姉さんは俺と青葉が地下基地で聞いた話をそっくりそのまま話した。
話も終盤に差し掛かるころには、泣き始めている艦娘もいた。
吹雪に、”あいつらめっちゃ簡単に元敵の言葉信じちゃってるけど大丈夫?”と聞いたところ、”司令官と青葉さんのお墨付きだからだと思いますよ”との事。青葉の号外の力は素晴らしい。うん。
「……以上よ。何か質問はあるかしら?」
姉さんが話し終えると、数人の手が挙がった。
「んー、それじゃ貴女」
指された艦娘が立ち上がってしゃべり始める。
「俺は天龍だ。一つ言うがな、口ではなんとでも言えるんだ。本当にあんたは元味方である深海棲艦を沈められんのか?俺がこの目で見るまでは納得できn…
「青葉、あれ流せ」
「御意」
…人の話遮るなよ!?」
俺は先ほどの撤退戦での俺の目線カメラの映像を流した。
そこには、敵旗艦に向けて懸命に応戦する八名の深海棲艦の姿がばっちり映っていた。そして敵方の深海棲艦もこちらに向けて容赦なく攻撃の刃を向けてきている。
「‥‥‥やらせじゃないみたいだな。疑ってすまなかった」
天龍が座った。
「ほら~、だから大丈夫だって言ったじゃないの~」
着席した天龍のほっぺをツンツンしながら龍田が言った。
「‥‥‥うるせぇ」
「あぁら、照れちゃってかわいい~」ツンツンツンツン
「やめろぉ!」
あいつら…何やってんだ…
「つ、次行くわよ…それじゃ、そこの貴女…たしか青葉とか言ったかしら?」
姉さんも困惑しているようだ。
「ども、恐縮です!青葉です。それでは、防空棲姫さんのステータス、それと艦種を教えていただけますか?あ、出来ればほかの皆さんのステータスもお願いしても?」
艦娘らがざわつき始めた。確かにこれは俺も気になる。
「構わないわ。だけど、その質問は私の部下の紹介が終わってからでいいかしら?」
忘れていた。こちら側に来たのは姉さんを含めて八名もいたのだった。
「分かりました。あとで教えてくださいね!」
そういって青葉は引き下がった。
「それじゃ、部下たちを紹介していくわね。ほかの皆はカタコトだから、私の口から紹介させてもらうわ」
カタコトでは伝わりにくいと判断したのだろう。姉さんは部下たちを壇上に上がらせた。
目の前に広がる光景が、少し前の洋上であったのならば、皆震えあがっていただろう。なぜなら、海域のボス級の個体が複数いたからである。
震えあがる艦娘たちを尻目に、姉さんは紹介を始めた。
「この子は駆逐棲姫。私の一番弟子と言ったところかしら」
「ヨロシクオネガイシマス」
透き通るような長い白髪をもつ駆逐棲鬼はそう言ってお辞儀をした。ちょこんとしていてかわいい。
「次に、この子は戦艦棲姫。私の二番弟子ね。高い耐久が特徴よ」
「ヨロシク頼ム」
発言と同時に紅い目がにわかに発光した。長身で見降ろされているような感じがするのでとても怖い。
「こら戦艦ちゃん、睨んでいると勘違いされるわよ」
姉さんが注意した。
「ム…スマナイ」シュン…
すると、戦艦棲姫は俯いてしまった。
あ、これ見た目に反して性格がかわいいやつだ。
「次に行くわね。この子は空母棲姫。夜間発艦が可能な優秀な子よ」
「不束者ダガ、ヨロシク頼ム」
「嫁入りかよ」
俺が思わず突っ込むが、当の本人はきょとんとしている。多分言葉の意味を間違って解釈しているのだろう。うん。
夜間発艦と聞いて空母勢がざわつき始め、手が挙がった。
「質問いいでしょうか」
凛とした声が響いた。
「えぇ、いいわよ」
「ありがとうございます」
そう言って声の主が立ち上がった。
一航戦の蒼い方、加賀だ。
「夜間発艦が可能、とおっしゃいましたが、それは特殊艦載機を積んだ時の事でしょうか、それとも、常時搭載している艦載機が夜間発艦可能という事でしょうか」
毅然とした態度ではあるが、焦りの色がみられる。加賀の望む答えは前者だろう。だが…
「この子はいつもの艦載機で夜間発艦が可能よ。これでいいかしら?」
「……はい、ありがとうございました」
加賀が着席した。その目には悔しさが宿っている。まぁ、当然のことだろう。ポッと出てきた新参者、しかも元敵である空母に性能面で負けたのだから。
姉さんが次の紹介に移ろうとしたとき、空母棲姫が口を開いた。
「私ハ、空母トシテハ建造サレタバッカリノ新参者ナノデ、戦闘デノウマイ立チ回リガ分カリマセン。ナノデ、私ノコトヲ嫌ワナイデ指導シテイタダケルト幸イデス」
そして、深々とお辞儀をした。
加賀をはじめ、空母勢に驚きの色がみられる。
しばらく固まっていたが、やがて加賀が微笑みながら言った。
「いい心構えね。ビシバシ指導してあげるから、覚悟なさい」ニコッ
「ア、アリガトウゴザイマス!」
その言葉に空母棲姫が顔を輝かせた。
「か、加賀さん…目、目が笑ってないよ!」
瑞鶴が小声で言う。が、
「あなたは黙ってなさい五航戦」ギロッ
「ヒッ」
静かに一喝されて終わった。
「ここの鎮守府は仲良しでいいわねぇ~…さぁ、次の子よ。次の子はボス級ではないけど、強さはボスに引けを取らないわよ~」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら発した姉さんの言葉に食堂がまたざわついた。これ絶対姉さんはこの反応を楽しんで喋ってるに違いない。
「この子は空母ヲ級改flagship(以下ヲ級改)。通称ブルーアイズ、よ。この子も新造だから、空母の皆さんは指導、お願いね~」
「オネガイシマス!」
金と蒼のオッドアイであるヲ級改は元気よく敬礼した。その目は座っており、これから起こるであろう出来事を見通しているかのようだった。
「さて、次の子よ。この子は…
「オレハ戦艦レ級flagshipダ!ヨロシクナ!」(以下レ級F)
‥‥だそうよ。この子は世界にたった一人の個体よ。レ級のflagshipはこの子以外存在しないわ」
小柄で華奢な見た目に反して、高い攻撃能力を持つことで恐れられる戦艦レ級。巷ではeliteまでしか個体が確認されておらず、flagshipはいないものとされていた。目の前のレ級はflagship特有の黄色いオーラを纏いながら自信満々で突っ立っていた。これが本当に、敵に回らなくてよかったと俺は思っている。
このレ級の紹介で、ただでさえざわついていた食堂内は騒然となった。
「レ級ってあの砲撃、雷撃、爆撃全部してくる奴だよな!?それのflagship!?」
「あの子が敵に回らなくてよかったわ…」
「そうねぇ…」
といった内容の会話があちこちで聞こえてきた。
先ほどまでのボス級よりもざわめきが大きいのは、エンカウント率によるものだろう。ボス級はまずめったに遭遇しない。というか、ここの鎮守府に在籍している者でボス級と一戦交えたことがある者はいなかったはず。だが、レ級と交戦したことがある者は結構な数いるはずだ。だからだろう、ここまで騒ぎが大きくなったのは。
「静粛に。着席しろ」
俺はマイクを取って呼びかけた。その言葉に従って、騒ぎは収まった。
「それじゃ、次はこの子ね。この子は戦艦ル級改flagship(以下ル級改)。ヲ級改と一緒のオッドアイね」
「アノ…防空…コノ子ッテイウノハヤメテ…ア、ヨロシクオネガイシマス」
威圧感たっぷりな見た目に反して、ずいぶんと大人しい性格のようだ。
「やーよ、私にとっては全員家族みたいなものだし。ね?ル級ちゃん?」
「ウ…分カッタワヨ…」
(かわいい)
俺は心の中でそう思っていた。
「それじゃ、次の子、この子が最後ね。この子は北方棲姫。ほら、自己紹介をして?」
(あれ…?自分が紹介するんじゃないのか…?)
(この子においては、自分が紹介するより、本人が言った方が分かりやすいと思うわ)
(こいつ…直接脳内に…!?)
北方棲姫が一歩前に出て高らかに発言した。
「私ハ北方棲姫!陸上施設型ノ深海棲艦ヨ!ホッポチャンッテ呼ンデネ!!」フンスッ
北方棲姫は深海棲艦の幼体といった感じの容姿をしており、どこか言葉遣いも幼げである。が、戦闘能力はピカイチだ。
「何あの生き物、かわいいわね」
「駆逐艦の子たちと仲良くなれそうだな」
皆の反応からするに、ほっぽちゃんの第一印象はいいようだ。
「これで全員よ。まだ抵抗がある子もいるかもしれないけど、よろしく頼むわね」(防空棲姫)
「ヨロシク」(駆逐棲姫)
「ヨ、ヨロシク…」(戦艦棲姫)
「ヨロシク頼ム」(空母棲姫)
「ヨロシクオネガイシマス!」(ヲ級改)
「ヨロシクナ!」(レ級F)
「コ、コレカラ…ヨロシク…」(ル級改)
「ヨッロシク―!!」(ほっぽちゃん)
食堂のあちこちで拍手が起こる。それに伴い”よろしくねー!”といった声も聞こえてきた。これなら大丈夫だ、やっていけそうだ。
姉さんが降壇した。表情が”あー疲れた”と語っている。
姉さんらが食堂で席に着くのを見計らって俺は登壇し、そして手を挙げた。
すると、普段は工廠で働いてくれている妖精さんが料理を運んできた。
間宮、伊良湖、鳳翔さんの豪勢な料理に艦娘らから感激の声、感嘆の声が漏れる。
俺はビールが入ったグラスを掲げて言った。
「歓迎会、開始ッ!カンパーイ!!!」
「カンパ――イ!!」×多数
こうして、宴会(歓迎会)が始まった。
本当は宴会の内容まで書きたかった。だけど疲れてしまった。
次回に持ち越し。そうしよう。
~~~~一応説明~~~~
・深海棲艦の性能については、次、またはその次の話で言及するつもり
・eliteは通常個体の上位互換、flagshipはさらにその上。改flagshipはまたさらにその上。
・ほっぽちゃんは陸上施設。そのため海での自立戦闘は不可能(だが浮き砲台としては活動可能)