~陸軍地下実験室~
じめじめとした地下空間。コンクリートで固められた壁。天井には裸電球がぶら下がっており、消えかかっては点いてを繰り返している。
その部屋の中では今、医者が一人、多数の資料を見ながら手術を行っている。
ふいに、軋んだ音を立ててドアが開き、軍服に身を包んだ男が入ってきた。
「首尾はどうかね?ドクター」
ドクターと呼ばれた男は目もくれずに返事をした。
「正直、うまくいくかどうかは五分五分だ…海軍の資料は難しい。失敗しても文句を言わないでくれよ?」
男は半笑いでこう返した。
「なぁに、失敗しても廃棄してまた次の被験体で試せばいいだけさ。資料も本物か怪しいしな。それにそいつはNo.01だ。失敗しても誰も文句は言わんよ」
「…そうか」
ドクターはそれっきり返答せず、黙々と作業を続けている。
「よいしょっ…」
男は部屋の隅に置かれた粗末な椅子に腰かけ、タバコをふかし始めた。
「手術はいつごろ終るかね?」
「今最後の縫合に入っているところだ。待ってくれ」
タバコの紫煙が薄暗い地下室を覆い、視界に靄をかける。
ガチャン!
荒々しく金属トレーに縫合針とピンセットを放り投げ、ドクターは男に向き直った。
「終わりだ。間もなく目を覚ますだろう」
その知らせに男は喜色を現しながら言った。
「おぉ、終わったか…血が大量にしみついてるぞ。まるで人を殺した後みたいだな」
「…実質殺したようなものだ…ほら、動くぞ」
手術台に乗っていた”被験体”がごく自然な動作で起き上がる。
「…普通の人間を見ているように見えるな…」
「外見だけでは普通の人間と大差なく見えるようにしたんだ。目と耳にはカメラとマイクを仕込んである。それに、望み通りの機能もつけてやったぞ。…まぁ、脳に埋め込んだマイクロコンピュータによってこちらの指示なしでは動かせないがな」
ドクターが得意げに説明している時、異変は起きた。
「ッ…!?グ…ガァ…」
突如”被験体“が頭を押さえて苦しみだし、動かなくなった。
「な、なんだ!?ドクター、どういうことだ?」
「チッ!…失敗だ。どうもマイクロコンピュータが合わなかったようだな。…こいつはもう使えない」
「廃棄か」
「そうだな…カメラと指示部を外してから廃棄だな」
そう言ってドクターはカメラと小型のユニットを外した。
「どうして外すのかね?そのまま廃棄すればいいものを…」
「予算の関係だ。察してくれ」
男は納得といった感じで頷いた。
「…眼球が片方ないと怖いな…取り外せたかね?」
「あぁ、早く廃棄してきてくれ。次のやつに取り掛かる」
「わかった」
男は被験体を袋に入れ、部屋を出て行った。
部屋に一人残ったドクターは資料を見ながら計算を始めた。
「…なぜ失敗したんだ……ん?あぁ…ここの構成と数値が違ってたのか……もしあのまま動いていたらバケモノだったな。よし、じゃあ次はここを…」ブツブツ
独り言をつぶやきながら計算し続けるドクターの顔は、無表情のように見えたが、些か悲しそうだった。
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